船は順調に航海を続ける。偉大なる航路に入った当初に起きた、突然の気候変動はまるで存在し無かったかのように安定している。
そんな時はそれぞれがのんびりと釣りをしたり、遊んだり、料理したり、遊んだり、修行したり、遊んだりして過ごしている。俺はルフィの麦藁帽子を預かって紐を直したり弱った部分の補強をしたりした後、それを返していた。
そんなそれぞれの過ごし方をしている中で、航海日誌をつけながらビビに視線を向ければ、この賑やかすぎる光景にイラついたりしている様子だ。けれどいつの間にか、ビビ本人もその風景に馴染んでいるのだから相当なものだろう。
それに先程手にした新聞に書いてあった事を鑑みれば、気にする事はないなんて俺には言えない。俺は書き終えた日誌を部屋に置いて、代わりに首掛けの図面台とそのセットを手に蜜柑を収穫しに向かうと、そこへ姿を見せたサンジを呼び止めて蜜柑を数個渡す。
「これで、ビビに何か飲み物作ってやってくれ。この暑さであまり汗かいてないみたいだから、あまり良くない感じなんだよな」
「ナミゾウは良いのか?」
言われてから少し考えて更に何個か良さそうなのを採ると、それも渡す。皮はいつもの様に隅に置いといてくれるとわかっているから、安心だ。
「俺の分はサンジに任せる。俺は暫くここに居るから、多分ルフィとビビもそのうちここに来るだろう」
サンジはそれを受け取るとどこか楽しそうな足取りで船内へと入って行き、俺は蜜柑の木に寄り掛かるとそのまま海図を描いて行く。流石にここで小説を書けば、作家だとバレかねないから書けない。
それでも船はそこまで進んだ訳では無いので、すぐに海図を描き終えてしまうから、図面台を片付けて貰ったばかりの琴を手に蜜柑の元へ戻る。
俺はこの世界の曲をそれ程多くは知らない。だからこそ、ルフィが喜ぶと分かっているビンクスの酒で先日は誤魔化したが、この先はどうするか。
作詞作曲出来るような脳ミソの持ち合わせはない。あまり長くない曲で、穏やかな今の気候に合いそうなものを何か演奏して気晴らしにしたいと思う。
だが元々はドラム担当だった為か、主旋律を奏でるのは少し戸惑う所もあったりする。風に乗って蜜柑の香りが俺を包む。
「蜜柑、海、船……よしっ」
俺は脳内で蜜柑の花が咲いていると歌いながら、爪を装着して調律する。それから少し音を出して、メモに簡単な楽譜を書いてからそれを見て演奏を始める。
その音は船にいる全員に聞こえているのか、表にいる人にのみ聞こえているのかは分からない。けれど、ルフィは音楽が好きだから俺の演奏を喜ぶだろうし、今の所嫌がる人も特にいないから気兼ねなく演奏出来る。
短いその曲が終わるとビビが近付いてきた。音楽を船で奏でるのは初めてでも、いつもの様子だとルフィが最初だと思っていたから、なんだか不思議な気持ちで何を言うのか待ってみる。
「その曲に歌詞はあるの?」
「ん、1応な」
そう言ってまた、蜜柑の花が咲いているの所を演奏しながら小さく歌う。妙に懐かれたのは自覚しているが、ビビが俺に特別な感情を持ってないのはわかるので、単純に可愛がれるのは助かる。
「今の所がサビ。長くないから興味があるなら楽譜書いて渡すぞ?」
短い曲だからすべて覚えてるいので、楽譜にする事自体は苦にはならない。なのでそう聞いてみたけれど、ビビはどちらとも返事をしないで琴を見つめている。
「それ……最初から全部、歌ってみてもらえたりしない?」
……素面で、突然歌えと?
俺はどう断ろうかと考えていたが、そこにルフィが参戦してくる。
「ナミゾウ歌うのか!聞いてみたい!」
歌うなんて言ってない!と返したらまたビビは気落ちするのだろうかとか考えて、溜息をつく。そもそも俺がルフィに勝てる筈等無いんだと分かっているが、精一杯の抵抗を込めて笑う。
「俺は、あまり歌は得意じゃないんだよ。だから、ごめんな」
1番無難な断り方を俺はした筈だった。確かに、した、筈。
「そうか!歌ってくれるのか!」
「ありがとうナミゾウさん!」
こら待てお前らと、本気で思ったけどそこは言わずに抑えた。誰か褒めてくれ。
そして2人の盛り上がりにおされて渋々歌い始める。けれども途中で歌うのを辞めて演奏だけにしていたら、ルフィが俺に抱き着いて離れなくなった。
「俺はナミゾウの歌が聞きたい!」
なんだそのワガママは。俺はそう思うのに拒み切れずに、仕方無く演奏しながら歌う。
「ーーー」
どうしても思い出せないのは題名だ。だけど、曲も歌詞も覚えているのだから不思議なものだと思う。
「ーーー」
自分の心情的にはこの歌よりも、アイネクライネ辺りなんだが、今ビビの気分を落ち込ませるような物は演奏出来ない。ビビが少しでも穏やかな気持ちで過ごせる事が大切だ。
「ーーー」
ルフィも喜びそうな歌詞だし良いかなと思うのは、俺がルフィに甘いからか。ルフィは俺が歌うと機嫌が良くなるのは、シャンクスにも演奏を聞かせた事がないと言ったのが大きかったのだろうと推測している。
ルフィの中では、俺はまだシャンクスのものなんじゃないかって思う時がある。それくらいルフィは、俺を大切にしてくれている。
「ーーー」
嵐が来る気配もない。誰かが誰かを暗殺しようとしているのでもない。
そんな穏やかな時間が俺に訪れるなんて、考えてもみなかった。
「ーーー」
この歌は、母さんでは無くてもしも兄さんなら、ルフィの為にあると思えたのかもしれない。もしくは、原作のままに話が進んでいたなら、俺だったかも知れない。
「ーーー」
俺は母さんを助けられた。でも、ゲンさんは大怪我をおい、姉さんも撃たれた。それもすべてルフィのおかげで解決したのだから、後は楽しんで進むのが大切だろう。
穏やかな気候の中で、船は順調に進む。懐かしい曲は、優しく海上に響く。
ルフィは笑い、ビビも笑う。なんとなくお似合いだなァとか思いながら演奏して、緩やかな時を楽しむ。なんで2人がお似合いに見えたのか考えて、ルフィは弟のようで、ビビは妹のように思える言動が多いからだと気付く。
歌い終えた俺は、再び琴で適当に演奏をしていたがルフィが何処かつまらなそうな顔をしたので、つい甘やかすようにワンピースの主題歌を演奏するという暴挙を行い、力尽きた。
和楽器で演奏するなら、先に譜面に起こしておく必要があったと痛感する。そもそもドラマーには難し過ぎた。
それでもルフィはそれを気に入ったようで、何度も求められるが、コレは難しくてツライと言って俺はルフィから逃げ出すように自室に戻ると、小説を執筆する。
自作ではない童話を2つ書き上げてから部屋を出ると、サンジが飲み物とデザートを持って立っていた。
「外と中のどっちで休む?」
「そうだな……外にしようか」
サンジの優しい気遣いに心が和む。俺が答えるとすぐさま外にあるテーブルに飲み物とデザートが用意された。
先にそのテーブルに座っていたビビの分も用意されており、ビビは嬉しそうにそれを頬張っている。俺は女じゃないと知っていて、それでも何故かサンジは俺に丁寧な対応をするから少し調子が狂う。
「俺もナミゾウの演奏を聞きたかったな」
サンジが突然そんな事を言うので、料理していて聞こえなかったのだと気付いた。何だかんだ言いながら、サンジはお育ちがいいんだもんなと思う。
「何か聴きたい曲はあるか?」
外に置き去りにしていた琴に手を伸ばしつつ聞けば、サンジは嬉しそうに蜜柑がどうとか聞いたのでそれをなんて言われたので、俺はその場で1回演奏する事にする。歌ってくれと言われなければ、穏やかなテンポの曲なら演奏可能なのだが歌うとなると、意外と難しい。
その後デザートを食べ終えたビビを見て、顔色を見れば落ち着いてるとわかりホッとする。やっぱり早くチョッパーに仲間になって欲しいと思う。
この船にはコックであるサンジの他は、戦闘員しかいない。だからサンジが仲間になる前は俺が戦い以外のすべてを担っていたのだが、今は料理から解放され俺が作るのより断然美味しいものが提供されるようになった。
その事に俺がどれだけ感謝しているか、サンジは恐らく知らないだろう。サンジに消耗品で必要な物があれば、連絡くれと言うだけで協力してもらえるし、ウソップもそういう意味では必要だ。
メリーを修理するのに必要な道具や材料は、流石に俺も判断出来ない。その辺の事を食後に相談してそれを俺が記述して、夜計算しておく。
海図も地図も今は描く物が終わっているし、航海日誌も今日の分は終わった。備品の点検や消耗品についてはサンジとウソップが協力してくれたし、食事は仕込みから後片付けまでサンジがやってくれる。
ウソップが船大工もどきをしてくれていて、小説もあと少しで書き上がる。この小説を朝1で取りにこさせれば、収入も多少どうにかなるだろう。
そこまで終えて、漸く風呂に入れた俺は夜中までかけて小説を書き上げると、ビビの隣の寝ているベッドの隣に置かれているソファで眠る事にした。明け方、誰かが部屋の中を歩き回る気配を感じて枕を投げ付ける。
するとそれは、夜目があまり良くないビビがトイレからベッドに戻れなくなっていただけのようだったが、寝惚けている俺には、そんな事はどうでも良かった。睡眠時間は貴重なのだ。
翌朝になり、蜜柑の様子を見に行きその場で書き上げた小説を鳥に託してから朝食を食べに行く。朝食を終えた俺は、その足でウソップの元を訪れる。
「ウソップ、俺新しい武器が欲しいんだ。協力してくれ」
俺の注文を聞いたウソップが難しいと断るので、その場で落ち込んでしまう。しかしその直後に慌てて協力すると言ってくれたので、抱き着いてお礼を言った後足早に部屋を出る。
制作の邪魔をする訳には行かないからだ。何より、少しでも早く作ってもらって使い慣れておかないと、命のかかってる戦いで花束出しても意味がない。
不憫としか言いようの無い自分の未来を思って、少しだけ涙が溢れそうになったのはご愛嬌だろう。そんな風に動き回っている俺を、ルフィもゾロも、サンジまでもが観察しているとは思いもしなかった。
そしてその日の昼間、甲板にいるとルフィが雪降らないかなとソワソワしだした。それ対して、ビビが説明していたが、すぐに他に気を取られてルフィが騒ぎ出すのを見てビビが叫ぶ。
途中でサンジが持って来てくれていた飲み物を飲みながら、1つをビビに差し出す。
「はいこれ、ビビの分」
「ありがとう」
背負うものが多すぎるビビが、今この瞬間だけでも肩の力を抜けたらいいと思いつつ、海を眺める。俺は250人程度だったが、確かビビが抱えているのは数万の命だった筈だ。
海にはイルカがいて、可愛いなぁなんて思っていたら、それは驚く程に巨大で、ルフィが笑いながら逃げろと指示するのを皆も笑いながらそれに従う。イルカから逃げ切り落ち着いた頃、目的地にあたる次の島が見えてきた。
そう、リトルガーデンである。ロビンのお母さん達が命をかけて守った本に書かれていた、読んだばかりのリトルガーデンに、俺達は到着してしまったのだった。
眼前に迫り来るような広大な山々と、密林としか呼べないような木々が生い茂る平地。それがリトルガーデンを表す言葉ではないだろうか。
それぞれが喜んだり驚いたりしている中でも、サンジの言葉はある意味深刻なものだ。先の島では食料の補給が2度連続で出来なかったから、食料の補給をしなくてはならない。
色々な本や図鑑を見てきた筈の俺ですら初めて見る植物達。それはまさに原種。
「クェー!」
聞いた事もない声を聞いて俺が悲鳴を飲み込むと、ルフィが当然のように俺に抱き着いてきて、その状態で楽しそうに周りを見る。サンジだけは何処か冷静に周りを観察していて、何処と無く人を拒絶している雰囲気がある。
辺りを見れば、鳥と呼ぶ事が許されないようなものが飛んでいたりして、内心泣きそうな俺にルフィが囁く。
「ナミゾウ、怖いならそばに居てやるぞ?」
ルフィのその言葉に縋りそうになった時、今度は下の方から低い唸り声が聞こえて視線を向ければ、血塗れで倒れる虎。それを見て半泣きでルフィに視線を向ければ、ルフィが息を飲んだのが分かった。
ここは危険だ。俺の本能がそう告げる。
ここについての知識は俺には本のみである。原作知識なんて戻ってないし、こんな島の事は記憶にない。
いつの間にかそばを離れたルフィは、ワクワクしながら肉だけの弁当を頼むと、それに着いて行くと言うビビ。それに巻き込まれる形になったカルーは驚愕に震えている。
今はカルーの気持ちが良くわかる。流石に恐竜と戦うとか嫌だ。
そうしている内に狩り勝負を始めるサンジとゾロ。残されたのは戦う事の出来ないウソップと、そのウソップに武器を作ってくれと頼んでる俺。
俺は落ち込むウソップに言う。できるだけ穏やかに。
「この島の事は本で読んだんだよ、つい最近」
「なんて、書いてあったんだ?」
ウソップは緊張した様子で聞いてくる。なので俺は本にあった1節を声に出した。
「<あの住人達>にとって……まるでこの島は〝小さな庭〟のようだ。<巨人島〝リトルガーデン〟>この土地をそう呼ぶ事にしよう」
その瞬間ウソップは固まり、俺はそそくさと船内に逃げ込んだのは言うまでもない。島の地図も描きたいから、結局降りるんだけどな。
心を落ち着けようと俺が海図を描いていたその時、表からウソップの情けない悲鳴が聞こえて外に顔を出すとそこで、ウソップが巨人相手に腰を抜かしていた。けれど、俺に気付くと現実逃避をしたかったのか、待望のクリマタクトを手渡してくれた。
いつの間に作ったのかと驚きつつもウソップにお礼を言って、巨人の為にお酒を用意して、ウソップと共にその巨人にもてなされる事になった。俺は差し出された巨大な肉を前に、どう手を付けたものか考えて、とりあえず腰に差していたナイフで切りながら食事にありつく。
けれどウソップを見れば食欲がわかないらしいく、涙を流している。今後の事を考えたら、食べておいた方が良いと思うんだがな。
巨人の話を聞いて、ウソップは巨人になりたいとか言い出したので、変わってるなと言いながら眺めていたら、何故か怒られた。複雑怪奇な言動が多いウソップは厄介なものだ。
巨人が戦う姿を見て感動するウソップの姿を眺めながら、俺は呑気に肉を頬張った。……うん。意外と美味しいものだな。
戦いが区切りを迎えた時、図鑑で見た事のある植物を見付けて俺が1人ジャングルへと姿を消すと、暫くしてからウソップの悲鳴が聞こえてきたが、何とかなるだろうと放置した。今は食料が意外と豊富なここで可能な限り入手しておくのが、大切だろうとの判断でもある。
食料と種を調達してから戻ると、巨人も含めて誰もいない事に気付いて俺は嫌な予感に苛まれる。知識を思い出さなくても、明らかに怪しいこの島でウソップを放置したのは問題だっただろうか。
今はBWとの戦いの最中である事を考えたら、命を狙われるのは人相書を作られたルフィとゾロ。そして初めから狙われているビビ。
もし、その現場にウソップがいたならば先程の悲鳴もよく分かる。だが、ウソップとサンジは狙われる予定は無い筈だ。
俺は大きな音が聞こえる方へ足を向けて、ジャングルの中を突き進む。取り敢えず騒ぎが起きている所を目指すのが大切だろう。
その途中で説明書を読みながら、とりあえずクリマタクトの操作を覚えようとして……挫折しかけた。花が出て、鳩が出て、水が出て虹を見れた!って、嬉しくねェよ!
気を取り直して俺はクリマタクトを操作しつつ軽い殺意をウソップに抱く。良くもまァあの戦闘の最中にこれを扱いきれたものだと、知識としてあるナミちゃんの戦闘シーンを思い出す。
説明書を読みながら、俺は3本をそれぞれ使ってみる。
『戦闘における〝タクト〟の組立てその1。まず3本のタクトの属性を知る事。それぞれのタクトは振ったり吹いたりする事で〝気泡〟を飛ばす事ができる』
フムフムと俺は1人で納得する。そして縦笛宜しく吹いて見る事にする。
『1本は<熱気>。1本は<冷気>。1本は<電気>他、回転が止まると互いの気泡がぶつかり合い気流を生む事でブーメランとして遊べます』
遊んでどうする。武器を頼んだだろうが、武器を!
とは思うけど、上手く使えば最高の武器となるのは間違いない。俺が取り敢えずの扱いを理解した後で、戦っている面々を発見した。
しかし、暗示とやらにかかっているルフィを見て、とりあえずルフィで試してみる事にした。何せ相手はゴム。雷落としても問題は無いからだ。
練習兼ねて作り出した雨雲は本当に小さくて、でも数作れば何とかなりそうだと俺はほっと息を吐き出す。そして、和まされているルフィに雷を落として見ると、洋服が焼けてルフィが戦えるようになった。
「「ナミゾウ!」」
何人かの声が重なって聞こえた。それにより蝋にならずに生きていてくれているとホッとしたのは、秘密だ。
「待たせたか、皆!」
そしてウソップが油の染み込ませてあるロープを張ろうとするのを邪魔する女から、カルーが逃げ回りウソップが戦う。ルフィがキャンドルと戦っている間に俺は爆発人間を足止めする。
ミラージュテンポの練習台になってもらっているとも言えるけれどな。ミラージュテンポの合間に覇気をどこまでなら使っても体力を消耗しないか確認しつつ殴るという、地味でかつ有効な攻撃を繰り返して時間を稼いでいる間に、ルフィとウソップ、カルーの協力により何とか2人を助ける事に成功した。
それに気を取られていた俺は爆発をモロに食らってしまい、後方に吹き飛ばされるが、その爆発男はゾロが倒した。ウソップにかかりきりだった女はビビが倒して、事なきを得た。
軽く咳き込みながら俺が立ち上がると、ビビもゾロも、そして自分も衣服が燃えて悲しい姿になっているのが分かる。けれど、全員が生きている。
「後はルフィを待つだけか」
ルフィは残りの2人を追い詰めるように、ジャングルへと入っていった後だった。待っている間にウソップは巨人と話をしており、いつの間にか仲良くなったらしいゾロもそれに加わっていた。
カルーがルフィと共に奥に向かったので、俺とビビはただ心配しつつ、森を見つめる。こうしてこの島での戦いは終息を迎えようとしていた。
ルフィが帰ってくるのを待ちながら、ふと気になった事を聞いてみる事にした。
「ゾロ、狩りは上手くいったのか?」
「ああ、勿論だ」
自信満々に言うゾロを見て俺は少し考える。そうとりあえずはルフィに食事をさせなくてはと。
「ルフィが帰ってきたら皆で焼肉でもして、何かお腹に入れようか。腹が空いてる時は、ろくな考えが浮かばないものだ」
俺が言えばゾロとビビは驚いたような顔になり、巨人もまた、言葉を失ったようだった。でも、そうしないとルフィが騒ぐからな。
戦った後のルフィの食欲は、我慢させないで小出しにした方がいい。それに、飢えると何故か俺の首筋に噛み付いてくる事があるんだよ、俺肉に見えるのかな。
それから間もなくしてルフィがカルーと共に帰ってくると、巨人が大声で泣き始めてしまい、対応に困る。けれど、その直後にもう1人の巨人が起き上がり、感動の再会を果たしていた。
野菜を摘んでいた俺にはイマイチ状況が掴めていなかったけど、何かあったらしい事は理解出来た。そしてそれからサンジが現れて、1年待たなくても出発出来る事となり、ビビがサンジに抱きついてるのを見て笑った後、サンジとゾロの狩り勝負について話が盛り上がった。
船の所へつくと巨大な肉が2ついるとルフィが喜び、2人の喧嘩はますます加熱したけれど、解体して肉に直されたそれを積めるだけ積み込んでから、残りと野菜で簡単な食事を始める。お世話になった巨人達に対するお礼も兼ねていて、肉を食べられるだけ食べたルフィもこれで暫くは大人しいだろうとサンジと安心して顔を見合わせた。
巨人2人に言われるままに、船は何があろうと真っ直ぐ進ませるとルフィが言い切っているのを耳にしながら、船はアラバスタを目指して前へと進み始めた。そして現れたのは巨大な魚。
舵をきるように言ってもウソップは聞かず、ルフィも笑って前へ進もうとする。ウソップのこれは珍しいが、ルフィは船長で皆の命預かってんだろうと思うと多少イラッとする。
それでも極力冷静に説得しようとする俺に、ゾロが肩を叩きながら声を掛ける。振り向けば迷いのない顔があって、サムライはこれだからと思う。
「ナミゾウ、諦めろ」
俺を慰めるように、ルフィが煎餅をくれたけど最早それはどうでも良い。悲しみに沈みながら煎餅をパリっと食べれば、それがまたいい感じに美味しい。
……どこで買ったんだろう。
そして魚に食べられ、絶望の中にいた時ルフィが聞いてきた。
「ナミゾウは不安か?」
その言葉に俺はルフィに笑いかける事で応える。それにルフィはニシシと笑った。
「なら、問題ねぇよ」
その言葉にゾロは成程なと言って、俺は1人首を傾げる。それを見てゾロが言う。
「ナミゾウは勘が良い。そのナミゾウが不安に思ってないなら、問題は起きねェって事だろ」
その言葉に驚いてルフィとウソップを見れば、2人もそれを肯定するように笑う。サンジを見れば納得したように頷いて、平然とタバコに火を付けた。
っとに、この船の奴らはこれだからと思いはするが、この船の奴らと共に居たいと望んだのは俺だから受け入れるしかない。ルフィが行きたいと言ったら、何処へでも連れて行く、それが俺の役目だ。
それから数秒後、船は外へと飛び出して、海に不時着した。その時の揺れが原因なのか、1瞬だけ目の前が歪んだ気がしたが、それ以上何も無いので気にせずに前を見据える。
ルフィとウソップは感動して、ゾロとサンジは平常運行に戻る。それを確認したら、妙に疲れた気がして俺は柱に寄りかかりながらズルズルと甲板に座り込んだ。
何だか、急にだるい。
それを見て心配そうに近付いてくるビビを見て、俺は笑う。優しすぎるんだよな、ビビは。
「今ので少し疲れたみたいだ。指針見ててくれるか?」
反応を何もしないビビに、とりあえず気落ちさせないようにと笑いかける。気持ちが焦っているのは、よくわかる。
俺は時間制限が無かったのに対して、ビビは時間制限がある。その時間制限は刻一刻と迫っているのだから、焦るなというのが無理な話だ。
「これでやっと、アラバスタに帰れるな。お兄ちゃんは嬉しいよ」
俺の軽口にビビは小さく頷くと、真剣な顔で言う。
「生きて、アラバスタへ」
その瞬間スッとビビの前に皿を差し出してきたサンジが、場を和ませようとしてくれる。こういう所、上手いなぁなんて思いながらも、先程食事をしたばかりだからと俺は断り、ビビに声をかける。
「ごめん、少し部屋に行って、休んで来ても良いか?」
「ええ、指針なら私が見ておくから部屋で休んで来て」
やはり、女の子が1人いると違うななんて思いながら俺は立ち上がろうとして、視界が真っ白になるのを感じた。そのまま倒れて、意識が暗くなる直前に、ビビの悲鳴が聞こえた気がした。
大丈夫……俺は大丈夫だから、心配しないで先に進め、ビビ。必ず、国へ連れて行ってやるから……。
それから意識が浮上した時には、何人かの叫び声や泣き声が聞こえてきて、相変わらず騒がしいなと思って聞き流していた。けれど、途中で医者を探すなんて言葉が聞こえてきて、脳が1気に覚醒する。
「ダメだ」
重だるい体でも、自分の体。腕の力で体を何とか起こすと、額に乗せられていたタオルが落ちた。
それを拾いながら声を掛ける。俺の事なんか見棄てるくらいの事が出来なくて、どうやって国民を守るつもりなのか。
何も失わずに守れるものなんて、そんなに多くはない。その証拠に、歴代の武将達も軍師達も、勝利と引き換えに多くを喪っている。
「俺の机の引き出しに新聞がある。それを見てくれ」
本当は見せたくなかった。それでも、このままではビビの目的が果たせなくなる。
ビビが言われるままに机から新聞を取り出したのを見て、ホッとする。これで真っ直ぐアラバスタに向かうだろうと信じて。
動揺するビビを見ながら俺は説得を続ける。まだ、進路を変えないとは言われていない。
「これでアラバスタの暴動は本格化する。その新聞は3日前の物。ビビに見せても船の速度は変わらないから、不安にさせない為に隠していたんだ」
そこまで言ってから、最終的な判断を下す可能性の高いもう1人に視線を向ける。と言うか、本来の決定権はお前にあるんだぞと無言の圧力をかけてみる。
「わかったか?ルフィ」
「大変そうな印象を受けた!」
思った以上に理解されていて良かった。ウソップが心配して声を掛けてくれるけど、だからこそ元気にして見せなければならない。
「その体温計が壊れてるんだろ。熱中症とかその辺りだよ。大丈夫。予定通りアラバスタを目指すぞ」
そう言って立ち上がってから、心配そうな視線を向ける皆に笑いかける。心配掛けてたら、アラバスタにつくのが遅くなる。
「心配してくれて、ありがとう」
外に出たついでにゾロのところへ行くと船は直角に進んでいた。時間的に大きなロスだ。
何をしていたのかと聞いて少しもめた後、ゾロは反省した様子を見せないので少し頭が痛くなった。何故、指針を見ておく事も出来ないのか。
その時、肌に感じた空気が変わった。
「空気が変わった」
「は?ずっと変わらねぇ晴天だぞ」
「いいから……皆を呼んできてくれ」
ここで押し問答してる場合じゃない。背筋を冷たいものが走る。
「おい、てめぇら出て来い!仕事だ!」
そう言ってゾロが指揮をとり、船を動かしてくれる。騒いでみても最後には俺の言葉を疑わないでくれるから、助かる。
「ナミゾウ、何事だ?波も静かでいい天気だぞ」
「風だよ。真正面から大きな風が来る。……たぶん」
そう言って前を見据える私の額にルフィが触れた。そして熱いと騒ぐからこれが平熱だと言いきっておく。
それに続いて皆が声を掛けてくるけど、とりあえず今は船を動かしてもらわないと。でも、1体なんだろう。
嵐とは違うみたいだけど。正体が分からないのは、体調が悪いからなのか。
そうして海を気にしているとビビが船室から出てきて、硬い声で言った。
「最高速度でアラバスタへ」
それは当然の言葉で、俺は笑顔でそれを肯定したが、他からは何も声が聞こえない。心配かけてるせいだと、自分を戒めるが、続いた言葉に力が抜ける。
「ナミゾウさんを治すのが最高速度よ!」
それに俺がなんと答えたのか。答えられたのかも定かではなく、その場で崩れ落ちた。