未来に賭けるsideシャンクス
いつものように気楽に船を動かして、見覚えのない島に上陸したのは興味本位だった。東の海では珍しく、獰猛な動物や毒草の生茂る島に、俺達は面白くなっていたし、船医も毒草とは薬草だとか言って集めている。
それを横目に猛獣の中でも食べられそうな奴を仕留めて船に帰ろうとした時、ベックが何かに気付いたようで全員が動きを止める。足音が軽い。
船員の1人が見てくると合図を出すので任せてみたが、どうやら子供のようだ。迷い無く森へと入って行く子供に俺達は顔を見合わせて様子を見る。
服装等から先住民とは思えず、さりとて遭難者ならば海岸から動かないだろうと思って見ていれば、子供は何やらメモを取りながら奥へ奥へと進んで行く。悪魔の実の能力者とか、失われた筈の考古学者なのかと考えていたが、答えは出ない。
船医が薬にもなるが基本的には毒だなと笑った草を重点的に拾っていく子供は、猛毒の草を目の前に小さく舌打ちしている。植物学者か何かなのだろうか。
確か試験さえ通れば子供でも学者になれると聞いた事はある。だが、そうなるとここの猛獣は危険過ぎる。
そう思った所で、先程様子を見に行くと合図して来た船員が驚愕の眼差しを子供に向けて、呟きを落とした。
「……子供か?」
その声に反応した速度は、普通の子供では有り得ない。腰にしていた短い棒は多節棍だったようで、瞬時にそれを構えた子供は怯える事無く対峙する。
その様子に船員も興味深そうに子供を見るとふぅむと言いながら突然攻撃を仕掛けた。子供は慌てた様子もなく無表情にそれに対応していく。
それを見ればどうやらうちの船員の方が負けそうだと分かる。力押しで急所を狙うなら勝ち目もあるだろうが、情報を聞く為に致命傷を与えないつもりなら勝ち目は無いだろう。
そもそも子供だからと随分甘く見ているようだ。アレでもしなにかの能力者なら、負けるではなく殺されかねない。
子供で、しかも女の子相手だからと油断しているようではまだまだだ。東の海の人間は侮られやすいが、船長だって東の海の出身だった。
子供の動きが少し変わった。どうやら子供の方も本来戦う意思は無かった様子で、逃げ道を探しているのがわかる。
その様子を見学していたら、武器で攻撃されるよりも、手を伸ばして捕まえようとした時の方が嫌そうにかわしている。捕まえられると思っているのだとしたら、何か自分に価値がある事を理解していると考えるべきか。
木の根に足を取られた子供がバランスを崩し、それに小さくホッとした様子を見せつつ子供に歩み寄る船員を見て、大半のメンバーがこれで話を聴けると思った。だがその瞬間、子供は船員に容赦無く土を投げて目潰しして木に飛び乗った。
追い詰められても諦めず闘志も失わない子供の担力と、その身軽さから思わず拍手をすれば木の上から子供は瞬時に俺達に囲まれている事を悟った様子だ。
薄く瞳を眇める子供は戦う事に慣れた戦士のようで、その強さに驚愕する。これは育てがいがありそうだと内心で笑いながら近付くと子供の表情に変化が見て取れた。
どうやら俺を知っているらしい子供は、俺を認識すると肩から力を抜いたのが分かった。勝てないと見切りをつけたのか、それとも子供相手に無体はないと判断したのかは知らないが、その表情は先程より微かに柔和なものになっている。
「子供とは思えない強さだな。何かの能力者か?」
俺の問い掛けに子供は木の上から答える。声変わりもしてない子供の声は高く、いったい何歳なのかと思う。
「いや、単なる行商人だよ。突然襲われたから、反撃しただけで争う意思はない」
「それは、うちのが悪かったな」
軽く肩を竦めた子供の発言は、大人びていて可愛げが無い。その子供を真後ろに回り込んでいたベックに囚われる。
子供はベックを認識すると体から力を抜いたので、戦闘を放棄したようだと分かる。勝てないと判断したのが懸賞金故か、それとも強さを見切ったのかは知らないが、子供と侮っていい相手とは思えない。
ベックに抱えられて木から下ろされると、子供をメンバーが物珍しそうに取り囲む。何だかんだと言いながら、子供好きが多いのだ。
「……僕に何か恨みでも?それとも行商禁止の島だったのか?」
子供がベックマンの腕に抱えられた状態で問い掛けるから、俺は楽しくなって笑った。それを見た子供が微かに驚きをその表情に浮かべたから、あまり表情の変わらない奴なのだろうと認識できた。
「いや、悪かった。行商人の子供か。何を売ってるんだ?」
「洗剤だよ。買うつもりがあるなら商品見せるから下ろしてくれる?」
子供の言葉にベックと俺は瞳で意見を交わしあう。それにより俺が頷いた瞬間にベックは子供を地面に下ろした。
その瞬間子供は背中から荷物を下ろして、当然のように中身を漁り始める。そして突然瓶に入った液体をベックに差し出した。
「それが1つ目。ボディーソープ、体を洗うのに使う洗剤だよ。肌を傷めずにすむし、蜜柑の香りがするから女性に人気なんだ。肌も艶々になるから、お姉さん達にいいんだよ」
子供の言葉にベックは試してみてもいいかと問いかけている。珍しく興味を持ったようだ。
子供はサンプルだから良いよと答えるので、ベックは即座に近くにいた船員の腕で試す為に使い始めた。森の中である事を考えると違和感はあるが、興味深いのも事実。
それが泡立ち蜜柑の香りが漂えば、俺とベックは驚き顔で子供に視線を向ける。その腕や手についた泡達を他の仲間から貰った水で洗い流して見れば、本当に綺麗になった事で歓声が上がった。
むさ苦しい男から蜜柑の香りがして、爽やかな人に思えたのだから女が求めるのも分かる。子供からも微かに蜜柑の香りがしたのは、これの為かと納得する。
「……これは確かに凄いな。これを売ってたのか」
「それも売ってる。他にも、シャンプーとか洗濯洗剤、食器洗いの洗剤も扱ってる。香りは全て蜜柑だから、蜜柑洗剤って事で、最近人気が出始めてる所だよ。買う?」
子供の言葉に俺達は顔を見合わせてから、困ったように笑った。それらが騒ぐのを制してから、俺は子供の視線に合わせるようにしゃがんで、ゆっくりと口を開いた。
「突然攻撃して悪かったな。ただ、言い訳させて貰えると助かる」
子供は俺の言葉に頷く事で答える。だから俺はそれを受けて話し始める。
この島は猛獣や毒草が多い島で人が住んでいないから、子供が1人で歩いているのが気になって声を掛けた。けれどもその子供が当然のように武器を構えたので少しからかうつもりで攻撃を仕掛けてしまったのだと。
途中で止めれば良かったなと言えば、子供は溜息を落としてから微かにその表情を緩ませた。そして、困ったように言う。
「人攫いかと思って、攻撃してゴメン。僕、見ての通り美少年だから狙われたのかと思って」
「……男の子、だったのか」
子供の発言に驚くが、子供は慣れてるのかそれには深く触れずに小さく頷く事で答えた。その対応に、およそ子供らしくないから、成長の遅い大人かと思って対応をどうするか考えていれば、子供は小さく首を傾げた。
「よく、間違えられる。……それで、相互理解ができたところで聞きたいんだけどさ、貴方達はそんな島で何してるんだ?」
商人の子供なら敬語だろうと考えれば、商人でもないのだろう。戦えてこれだけ賢い、少女にしか見えない少年。
確かに人攫いに狙われる事もあるのだろうと思えば、戦闘能力については納得するしかない。それでも賢すぎる。
「ん?俺達は見た事の無い島だったから上陸していただけだ。これからこの島を出る。坊主はどうする?」
「僕は……」
子供は言葉に詰まる。何を考えているのかは、ベックの考えがわからないのと同じように、分かりそうにない。
表情は変わらないが、何やら色々考えているのは分かるので、とりあえず子供であると仮定してその頭を撫でてみる。すると驚きを全面に押し出したような顔で俺を見てくるから、子供で間違いなさそうだと笑ってしまう。
「……焦らなくて良いから、話してみろ。別に何かあって急いでるって訳でもねェんだ」
「僕は、見知らぬ島を見付けたらそこで行商しつつその島を調べてたんだ。だから、これからこの島を探索しようと思ってて……でも、それよりも今は、貴方達に頼みがある」
俺はそれに首を傾げると、子供は勢いよく言葉を口にした。
「僕は戦う力が欲しい。だから修行を付けてください!」
「……どうして、俺達に?」
子供の戯れ言として聞き流す事も本来なら出来た筈だ。だが、これは普通の子供じゃない。
何よりも、確かに俺も育てたら楽しそうだとは思ったんだ。話を聞くくらい良いだろう。
「赤髪海賊団の人達が強い事は分かってるから。お願いします、シャンクスさん!」
「……俺を、知っているのか」
「手配書でも見たか?」
俺が驚いたように聞けば、続いてベックが問い掛けた。それに子供は1瞬言葉を躊躇い、ベックに視線を向けた。
少し不安そうなその表情を見れば、どうやら船長をベックと勘違いしているか、力関係を正確に把握しているのだろう。益々面白い。
「新聞でも騒がれてたよね。鷹の目との剣豪対決。強いんだよね!僕は今すぐ戦える力が必要なんだ。守らないといけない人達がいる。お願いします、もう余り時間が無いんだ」
「……ベック、どうだろう?」
「あんたの中じゃ決まってるんだろう。好きにしたらいい」
突然子どもっぽく話したのは何かの作戦なのか、多少気になったがベックに問いかけてみると、ベックは呆れたように笑った。それが答えだ。
だから俺は子供の頭に手を置いて、頷く。
「……俺は、優しくないぞ」
「ありがとうございます!」
そう言って先程こちらに渡したままになってたサンプルを見て、子供は言った。
「修行つけてもらう代金は、そのサンプルの残りをあげるって言うのでどうかな?今手持ちはあまり多く無いんだ」
その対価を払おうとする子供らしくない言動に、俺とベックは顔を見合わせて笑ってから、両親はどこだと確認する。それに対して子供は居ないよと答える。
……この島に居ないのかと聞けば、特に感情の乱れもなく子供は自分が孤児なんだと言う事を話して、里親は他の島にいると言い出した。幼い子供に里親は行商させているのかと殺気立つが、子供はよく分かってない様子だ。
それを見て、とりあえず子供に確認する事にした。勘違いとかであれば良いが、場合によっては見習いとして引き取るつもりで。
「なら、この島には1人で来たのか?」
「うん、心配していつも止められるけど、島でじっとしてはいられないから。強くならないと守れないから、飛び出してきてるんだ」
クルーの1人が問い掛けると子供は頷いた。そんな子供にヤソップがまさかと小さく呟く。
それに首を傾げる子供は、海を子供が1人で渡る事を看過できないと考えているのだろう。ヤソップは子供の肩を掴むが、子供は事情を理解出来てない様子で痛みに顔を微かに歪ませる。
ヤソップを見れば、子供のそれに気付けないでいるのか、真剣な表情で聞いている。
「坊主、1人で海を渡ってきたのか。お前、今幾つだ」
「うん、お……僕は1人で海を渡ってきた。今、6歳だよ」
子供のその言葉に周りはざわめく。6歳で航海術と操舵技術を持ち合わせる賢い子供。
ヤソップの子供と1歳しか違わない筈のそれに、俺達は強くなりたいと言う必死さの理由がわかった気がして、頷いた。
それから始まった修行に、子供は泣き言1つ言わずに付いてくる。厳しい事を言っても、何をしても泣かない子供の瞳には焦燥感がある。
厳しくしているのに暇を見付けては島を巡り、それを紙に書いているのを不思議に思って聞けば、測量してるんだと笑われた。試しにそれを描かせてみれば、現役の測量士に勝るとも劣らない島の地図と近海の海図を書かれて息を飲んだ。
これは狙われる。これならば、あの警戒心の高さも頷けると俺達は納得した。
海図に地図を描けて、文字の読書も問題無く、薬草や毒草の知識も船医程ではないが十分に持ち合わせている。1人で船を動かせるだけの操舵技術と航海術を持ち合わせていて、美しい容姿の子供。
時折物思いに耽るその姿は、どう考えても6歳の子供が持つべき雰囲気では無い。これは確かに危険だと思うが、何度誘っても子供は船に乗る事を拒む。
守りたい人達がいて、その為には力が足りないのだと、そばにいなければ全て喪ってしまうのだと言う子供に、俺達は強く誘う事も出来ない。その歳でいったい何を背負っているのか。
知らない事は何も無いとでも言うように、無表情に前を見据える子供に俺達がやきもきする。けれども付き合いが数ヶ月になった頃には、時折愉しそうに美しい笑顔を見せるようになり、警戒心が解けてきたのだと分かった。
良く見れば、家族の話をする時だけは穏やかで優しい笑顔を見せるし、俺達といる時も楽しそうに笑うようになっていた。血の繋がらない姉と母がいると言って、血も繋がらないし、本当は何の関係もないけど、父親や祖父のように思える人も居るのだと微笑むその表情は、美しくて儚い。
恐らくナミゾウが守りたいのは、その4人なのだろう。その4人を守れるのならば、何を……いや、自分を犠牲にするのも厭わないだろうと分かる微笑みに、俺達は危機感が強くなる。
半年帰らずに修行を付けた後、食料等が心配になってきたのもあり俺達は人のいる島へと移動するとナミゾウに話した。それを受けてナミゾウは1度帰ると答えたので少し慌てた。
「ナミゾウはもう修行しなくていいのか」
ベックのその質問にナミゾウは首を横に振る。俺も同じ事を気にしていたので助かった。
「母さんと姉さんに顔を見せたら追い掛けます。なので目的地を教えてください」
ナミゾウはこの半年で敬語で話すようになっていた。嫌がってみたが、ベックに言われては仕方無い。
ベックが言うにはナミゾウの言い分が正しく、大人としてそれは受け入れろとの事だった。友達ではなく、師匠なんだろうと言われれば、それ以上は言えない。
僅か半年、ナミゾウは7歳。それなのに武装色の覇気を身に付けて、剃ると月歩を使いこなす。
これを仲間に出来たら心強いだろうとルウも笑っていたけど、恐らくは難しい。守りたいものがあると言う相手を引っ張り出すのは、不可能に近い。
それから俺達は目的地を確認して1度村へと帰るナミゾウを見送った。無事に到着できるかと心配するクルー達は既にナミゾウを仲間として見ているようだ。
酒場を起点に行動していたら、子供らしい子供、ルフィに出逢った。その言動にヤソップは息子を思い出したのか懐いていたし、ナミゾウでは有り得ない子供らしい言動に、そうだよ、これが子供だよと笑うクルー。
簡単に懐き、無邪気に笑い、それでいて何処か船長を思い起こさせるような言動をする少年。そんなルフィを到着したナミゾウは見た瞬間に硬直した。
これまで近くに子供が居なかったのかと、まるで別次元の生き物を見たかのように硬直するナミゾウは、けれども直後にその表情をまるで大切な家族の話をしている時のように緩めた。ナミゾウはルフィを微笑ましく眺めて、それから俺に話し掛ける。
「シャンクスさん、遅くなりました。ご指導、宜しくお願いします」
「お、本当に1人で来たかナミゾウ」
俺はそんなナミゾウに苦笑いだ。ルフィはだとするならば覇王色を持ち合わせているだろう。
そうでなければナミゾウがこうも簡単に心を開くとは思えない。ナミゾウは俺達から視線を外してルフィに話し掛ける。
「……はじめまして、ルフィくん。僕はナミゾウ」
「ナミゾウ?お前、シャンクスの仲間なのか?」
ナミゾウはその言葉に首を横に振る。そして、優しくルフィの相手をするその姿はまるで母親のようで、心が和みそうになる。
それにしても頑なに仲間になろうとしないなと俺達が話していたら、ルフィにナミゾウがとんでもない事を言った。
「僕はシャンクスに武術を習ってるんだ。まだまだ追い付けないけどさ」
「……追いつくつもりなのか、ナミゾウは」
ナミゾウ後から呆れを含んだ笑い声がした。ナミゾウは振り向きルウに明るく笑いかける。
「追い抜くつもりですよ。そうしないと守れないですから」
その時気付いた。ナミゾウは必要に応じて言葉も使い分けられるのだと。
完敗だ。こんな子供が、全力で守ろうとする家族から離れる事は生涯ないだろう。
それからナミゾウは俺に視線を向ける。それだけで伝わる決意の強さに、俺は頷く事で応える。
急いでいる筈のナミゾウは、ルフィとの時間を邪魔したり減らせと言う事は無かった。空いている時間に修行をつけるだけで、文句の1つも言わない。
ルフィはルフィで同じ年頃のナミゾウが気になるのか、時折ナミゾウの後を付け回している。実はナミゾウに見聞色の覇気について修行させてみたが、それが何とも卑猥な感じになり、断念したのだ。
目隠しをしたナミゾウが傷だらけで倒れるその姿は、誘拐された美少女をいたぶる変質者以外の何者にも見えなかったのだ。時々妙に色気のある視線や行動を取る子供だからど言うのもあるだろうが、これはヤバいと諦めてしまった。
それから1年程たち、俺がルフィに未来を託して旅立つ事を決めた為に、修行は唐突に終わった。それなのにナミゾウはそれを責める事はなく、それどころか何故俺達がすぐにこの島を離れる事を決めたのか分かってるかのように微笑む。
叶うならこの少年が、穏やかな微笑みを浮かべていられる日が長く続く事を。いつかナミゾウが世帯を持ったと穏やかに微笑む姿を見たいものだと願う。
「鍛えてくれてありがとうございました。これからは自力でどうにかしますので、心配しないでください。僕は1人で大丈夫です」
「ナミゾウは、頼る事を覚えろ。それと……途中なのに、すまない」
ナミゾウは俺の言葉に首を横に振る。慣れない相手に無表情になるのは警戒心の現れで、慣れた時に見せる優しい笑顔が、手放したくないと思わせる。
「大丈夫、理由は分かってますし、僕こそ申し訳ありませんでした。あれだけの騒ぎの中、気が付かなくて……。心配もかけてしまったそうですね」
「……早熟過ぎるのも、問題だな。なぁナミゾウ、お前俺達と来るか?」
ナミゾウは静かにそれを拒否する。恐らくはこのやり取りも最後だろう。
「お誘いありがとうございます。けれど僕には守らなければいけない人達がいますから。旅の無事を祈って……あ、ルフィが」
遠くから走ってくるルフィが見えると、ナミゾウは俺達に短く挨拶してその場を離れる。俺がそんなナミゾウにいつかまた会おうと言ってみれば、ハイと笑顔で答えて群衆の中に溶け込む。
俺が帽子をルフィに託すのを見ているナミゾウは、嫉妬とかの感情を持ち合わせていないかのように、穏やかに微笑んでいる。それが時折切なそうに瞳を揺らしているが、恐らくは俺の気持ちを感じているのだろう。
泣きながら見送るルフィは可愛い。いつか海賊になったルフィとの再会を楽しみにしている。
それでも、早熟過ぎて生き急いでいるようにしか思えないナミゾウが少し心配になる。
静かに俺達を見送り、恐らくはルフィを慰めるだろうナミゾウを思えば、何かを渡してやれば良かったかなんて思ったのも事実。
子供たちは可愛かったと笑うクルーに、俺は少しおどけて見せる。
「ナミゾウの方がお前達より大人だったけどな!」
「それ、お頭にだけは言われたくないッスよ!」
笑い声が谺響する。片腕になった事でこれからは苦労もあるだろうが、それでも良いと未来に賭けた。
あの時覇気を使えば失わなくて済んだんじゃないかとベックに言われたが、それをしたらルフィも持たなかった。死んでいるのか、気絶しているのか、どうなっているのか分からなくなるリスクを考えれば、腕の1本位安いと思えた。
ベックはそんな俺に困った人だと笑うが、それでも側に居てくれると言うのだから、俺は仲間に恵まれている。
ナミゾウ、ルフィ、いつかまた会いたいものだ。
まさか後にルフィと共にナミゾウの手配書が出回る事になるとは、この時はベックマンでさえ、想像していなかった。