シャンクスと仲良くなり、いつものように船に乗せろと言っていたその日、俺は運命の出逢いを果たした。初めて見た時、ナミゾウの事を俺は女の子だと思っていた。
穏やかで優しい声が後ろから聞こえて、その声に驚いて振り向いたのが出逢いだった。
「シャンクスさん、遅くなりました。ご指導、宜しくお願いします」
「お、本当に1人で来たかナミゾウ」
少し難しい言葉を話すその子はシャンクスにナミゾウと呼ばれていて、シャンクスの知り合いだと分かった。他の奴らに視線を向けても、知り合いらしいと分かるから、ナミゾウも俺みたいにシャンクスの船に乗せてもらおうとしているのだろうと思っていた。
その時ナミゾウが俺に話し掛けてくるので、何か答えないとと思うのに、何を言えば良いのか分からない。ナミゾウは穏やかに微笑み、優しく声を掛けてくるから、マキノみたいだと少し思った。
「……はじめまして、ルフィくん。僕はナミゾウ」
「ナミゾウ?お前、シャンクスの仲間なのか?」
俺と同じ位の歳に見えるのに、ナミゾウは大人びていてつい聞いてしまったけど、ナミゾウはその言葉に首を横に振る。どうしてか俺を見る時、懐かしそうにその綺麗な瞳を細めるから、なんとなく気恥しくて声も出せずにいたら、シャンクスに笑われた。
「僕はシャンクスに武術を習ってるんだ。まだまだ追い付けないけどさ」
「……追いつくつもりなのか、ナミゾウは」
ナミゾウの言葉にルウが笑いながらそんな事を言うと、ナミゾウはそれに微笑んだ。それが少し挑発的にも見えて、胸がドキッと言ったのが分かった。
「追い抜くつもりですよ。そうしないと守れないですから」
決意を含むその言葉に、俺は何処か遠い所にいるような気がした。守りたいものなんて、この時の俺には無かったし、こんな強い決意なんて持ってなかった。
シャンクスに視線を向ければ、シャンクスは分かってると言うようにナミゾウに笑いかけるから、何だかとてつもなく悔しく思えた。
それからナミゾウは当然のように俺のいるこの島に住み着いた。1人で森に入って獣を捕まえて来て、それをマキノに渡す事で宿代にしているのだと聞いた時には驚いて、アイツに出来るならと着いて行ったりもした。
ついて行けばすぐに気付かれて、優しく手招かれたので強い所を見せようと突っ走って危険に陥る事も多かった。それなのにナミゾウは嫌そうな顔1つしないで、俺の前に立つと簡単に俺を庇いながら獣を倒す。
「怪我は、しなかったか?」
俺が怖くて泣いているとナミゾウはいつもそう言って頭を撫でてくれた。だからずっとナミゾウは女なんだと思っていたんだけど……あの日、俺はナミゾウが男だと知った。
「風呂が壊れた!?」
「そうなんです。ごめんなさい、今修理できる人も居なくて……」
客とマキノがそんな話をしていた時に、ナミゾウは獣を持って酒場に顔を出した。そしてマキノに当然のように風呂を見せて欲しいと言った。
マキノは不思議そうにしながらもナミゾウを風呂に案内していて、それに面白そうだからとついて行けばナミゾウはふーんと言って立ち上がる。
「これくらいなら多分シャンクスの船大工が直せますよ。話すだけ話してみたらどうですか?」
「……でも、ご迷惑じゃ」
「迷惑なら、シャンクスが断ると思いますから、話すだけ話してみたらいいと思います。僕はいつも通り奥に行ってくるんで」
「気を付けてね、ありがとう」
会話の内容は多分半分位しかわからなかったけど、俺はとりあえずナミゾウに着いて行った。そうしたらナミゾウは湖の畔で突然着てるもの全てを脱いで飛び込んだ。
ナミゾウが女の子だと思っていた俺が慌てていたら、ナミゾウは水の中から顔を出して不思議そうにした。
「ルフィ、お前は能力者だから入れないだろう?どうしてここに?」
「ナミゾウについてきた!」
素直に答えるとナミゾウはおかしそうに笑ってから、湖から何も着てない状態で出て来た。その姿は綺麗で……そして、下には俺と同じ物が付いているのが見えた。
驚いて固まった俺にナミゾウは深々と溜息を落としてから、いつものように頭を撫でてくれる。
「ルフィも女だと勘違いしてたのか。ま、僕は美少年だから仕方ないかもな。それで……水浴び、して行くか?」
優しく笑うナミゾウを見ていたら、何だか体が熱いような気がして、俺は頷いた。そうしたらいつもの鞄から小さなオケを取り出して俺に差し出して来た。
「入れないなら、これで浴びたらいい。お……僕も水浴びが終わったら使うから、壊したり失くしたりするなよ」
俺はそれに頷いて服を脱いですぐに水を浴びようとしたけど、ナミゾウに服をナミゾウの服と重ねてからにしろと言われて素直に従った。
その場で浴びたら脱いだ意味もなく服が濡れると思って注意してくれたのだと分かるから、俺は少し恥ずかしくなったけど、目の前で優雅に泳いでるナミゾウは人魚みたいで綺麗だと思った。ずっと見ていたらナミゾウが俺に視線を向けて、困ったように笑う。
「そうだよな、ルフィも泳ぎたいよな。ゴメンな、浮輪とか作れたらいいんだけど……ビニールとかペットボトルなんて無いからなぁ」
そう言ってからナミゾウは荷物を漁って中から何か瓶を取り出した。その瓶を持って俺に近付いた後でじっとしてろなんて言いながら、勝手に俺の頭を洗い始める。
その手つきが優しくて、つい眼を閉じていたらナミゾウが後ろからいい子だななんて笑う。俺の頭なのに、何だかナミゾウの匂いがして不思議な気がした。
優しく頭を洗ってくれたナミゾウがその泡を綺麗に流してから、体は自分で洗えるかなんて聞くから、当然だと答えたのに、なんでか、なら背中だけななんて言ってそのまま洗い始めた。それが何だか心地よくて、少しボーッとしていたらタオルを差し出されて正気に返った。
「前は自分で洗えよ。水は汲んで来てやるから。終わったら教えろ」
そう言いながら近くで自分の頭を洗い始めるナミゾウを俺はボーッと眺めてたけど、頭を洗い終わった時に俺が前を洗ってなかったらきっとナミゾウに洗われると気付いて慌てて磨き始めた。流石にそれは恥ずかしいと思ったんだ。
頭の泡を落としているナミゾウが上を向いてるのが、何だか妙にドキドキさせられて、変だなと思っていたら、洗い終わったナミゾウが俺を見て小さく首を傾げる。それが何だか可愛いなと思っていたら、納得したように1人で俺を見て頷いてる。
「ルフィは早熟だな。コレの対処法知ってるか?」
突然言われた言葉の意味が分からないでいたら、ナミゾウが俺の股間にあるやつの対処法を教えてくれる事になって、その手つきがまた……。それでなんか、俺は1つ大人になったと思う。
「あのままほっとくと痛くなったりする事もあるから、他に人がいない所でちゃんと自分でやるんだぞ」
なんて言われても、これまでなった事も無い状態だったから少し怖かったと言えばナミゾウは少し何か考え始めた。それから、流石にまだ早すぎるしなぁと言って困ったように笑ってから、シャンクスに相談してやるから少し待てよなんて言われた。
意味がわからなかったけど、次の日シャンクスに会ったらもう少し大人になるまでは怖くても自分でどうにかして、慣れとけと笑われた。だから、必要な事なんだと知ったんだ。
こんな感じで、俺を驚かせた強いナミゾウがシャンクスと浜辺にいる時は、ナイフみたいになるのも知ってた。そのナイフみたいなナミゾウが全然勝てないシャンクスは、本当は強いんだって事を俺は漸く知る事が出来た。
ナミゾウは俺とシャンクスが話してるとき、基本的に近付いてこない。理由を聞いたら邪魔するつもりは無いんだって優しく笑って頭を撫でられた。ナミゾウは俺の頭を撫でるのが癖なのか、良く撫でてくる。
それが嫌だとは思わないけど、何だか少し恥ずかしい。それをシャンクスに話したら、ナミゾウは色気があり過ぎるからなぁなんて笑われた。
それでもその話をシャンクスにしてからは、ナミゾウが俺の頭を撫でる回数が減って、それもまたなんか嫌だった。それをマキノに言ったら、寂しくなったのねなんて笑われた。
そんな楽しい日は、突然終わった。俺が山賊に捕まって、シャンクスが俺のせいで左腕を失くしたから。きっとナミゾウもシャンクスと1緒にいなくなると分かってた。
シャンクスがいなくなるとわかった時、連れてけなんて言わねェと言ったけど、本当は寂しくて辛かった。そんな俺にシャンクスは宝物を預けてくれたから、シャンクスを見送る事が出来たんだ。
シャンクスの船が見えなくなって、人が港から姿を消していく中で挨拶も出来なかったと思ってた相手が声を掛けてきた。ナミゾウは少し寂しそうに笑ってから、いつものように頭を撫でてくる。
その撫で方で、何となく別れなんだと分かって、行かないでと言いそうになる。何度も話した、ずっと1緒にここに住もうって。
でも、ナミゾウは軽く笑って本気にしてくれなくて、その内に俺の言葉が本気だと分かったらゴメンなって言われた。大切な人を守りたいから、それは出来ないって。
いつか来ると分かってた別れなのに、それが辛かった。ついて行きたいと言ったら、ナミゾウはいいよって言ってくれるのかなと思って試しに言ってみたら、ルフィだけは連れて行けないと言われた。
大切だから、危険な所には連れて行けないって。だから……俺はその日だけナミゾウの顔が見られなくて、泣いて帰ったんだと思い出す。
「ルフィ、別れを言いに来た」
「ナミゾウ!?お前はシャンクスと行ったんだと……思ってた」
強がって見ても、本当は聞きたくなかった。驚いたのもホントだけど、聞きたくなかった事を言われて俺は泣きそうになる。
それに気付かないのか、ナミゾウはいつもと同じように頭を撫でる。その手が相変わらず優しいから、離れて欲しくないと思った。
「馬鹿だな。俺もお前と同じだ。子供を連れて行く筈ないだろう。……それより、俺、助けに行けなくてゴメンな。気付かなかったんだ」
本当に辛そうにナミゾウが言うから、その顔を見ると、何だか泣きそうな顔に見えて、俺は勝手に危険な目に遭ったのにナミゾウが悲しんでるのが、俺をまた辛くする。
「ナミゾウは、俺と1個しか違わねェんだよな」
「そうだよ。どうした?」
思わず聞いてみればナミゾウは不思議そうにしてる。表情がそんなに大きく変わるわけじゃないけど、どんな顔してても綺麗だなってずっと思ってた。
俺はその時ナミゾウならアイツに捕まったのかななんて思って、捕まってる姿が想像出来なかった。
「……ナミゾウなら、山賊に捕まらなかったよな」
俺の言葉を聞いてナミゾウは真剣な顔で俺を見た。年下だからって、子供だからって誤魔化さないでくれるナミゾウの事が、俺は大好きなんだ。
「ルフィ、俺も大人相手に勝てたとは思わない。それでも、俺もルフィとは仲良くしてたんだから、助けに行きたかった」
「あれ?」
その時ナミゾウがいつもと少し違ってた。それで驚いたらナミゾウも驚いたような顔をした。
「ナミゾウ、自分の事俺って言ってる。あれ?」
「元々はそっちだからな。シャンクス達には世話になってたからいい子にしてただけだ。さてルフィ、俺も行くよ。もしいつかまた会えたら、仲良くしてくれよな」
そう言ってナミゾウは笑う。その悪戯っ子みたいな顔を見たら、何でか体が熱くなった。
そんな俺の頭をひと撫でして、ナミゾウは船にひらりと飛び乗ると、それから手を振って別れる。
慌ててナミゾウを追い掛けたけど、船をまるで手足みたいに動かして進んで行くから、必死で叫ぶ。
「ナミゾウは俺のだからな!必ず、1緒に海賊になるんだぞ!約束だからなー!」
振り返る事なくナミゾウは姿を消して、それから10年俺達は会う事が無かった。俺が海賊になって、ゾロを仲間にして、その直後に再会したのは、本当に奇跡だとしか思えなかった。
もう女の子には見えなかったけど、氷みたいな表情だったその顔が俺を見た瞬間に驚きに変わるのを見た。変わらない蜜柑の香りがして、ナミゾウだとそれだけで分かる。
それから思い知らされる。ああ、俺筈っとナミゾウに恋をしていたんだって。
「ナミゾウ……?」
声を掛ければナミゾウは追われてる筈なのにそれを忘れたように俺にその意識を集中してるのが分かって、少し恥ずかしくなる。だって相変わらず優しく微笑むから、どうしても期待してしまう。
「ルフィか。久しぶりだな」
「ナミゾウ、追われてんのか?」
呑気に会話をしていたら、ナミゾウの後から襲い掛かる男達。それをナミゾウは見もしないでひょいと交わしつつまぁなと答える。
邪魔な奴らは俺が倒すと決めて、強くなったところを見せたくて任せろと言えばナミゾウは穏やかに笑った。それに心臓がドクリと音を立てる。
ああ、やっぱり離したくないな。ナミゾウは、俺のもんだ。
戦いが終わった所でナミゾウは軽口を言うから少しそれにイラッとしたけど、よく見ると様子がおかしい。ただ走っただけにしては息切れしてるし、汗もかいてる。
「強くなったな。もう、今戦えば負けるのは俺だろうな……」
「ふざけるなよ。ナミゾウがあの時の強さのままでも危険だってのに、何言って……」
それでもその軽口を聞き流せそうも無い。俺の中ではナミゾウは誰よりも強い。
エースやサボも強かったけど、強さの種類が違うんだ。エースやサボは追い掛けるべき強さで、背中なのに……ナミゾウの事は俺が守りたくなるんだ。
強いのは分かってるんだけど、ほっといたら消えちまう気がして、いつも抱きしめてないとどこかにとけて消える気がする。
「あの頃少しも戦えなかった俺に、ナミゾウが手加減してくれてたのを知ってる。今はもう、あの時みたいに手加減するとか許さねェ」
挑みかかった時、ただの1度だって俺に怪我させる事なく戦いを終えてて、それでもダメだと気絶させてきた。それでも俺が諦めないとわざと負けて見せて、自分が怪我するのは全然気にしなかったナミゾウが、言えば素直に謝ってくれた。
「悪かった。……当時はルフィが悲しむ所を見たくなくて、わざとだったが、今は冗談抜きで勝てるか怪しいと思ってる」
俺はナミゾウの言葉を聞いて、やはり妙な違和感を感じた。真っ直ぐに見詰めたらナミゾウは困ったように笑うから、その読めない感じにイラッとして思わず小さく舌打ちした。
そもそも俺は知ってたんだ。ナミゾウは子供だから誘われてないなんて嘘ついてたけど、ナミゾウはシャンクスに誘われてて、それを断ってたんだって。
「ナミゾウは、やっぱりズリぃよ。シャンクスにも誘われてたし、いつも余裕あるし……で、ナミゾウはまだ島巡って放浪してるのか?」
「まぁな。今回は島の探索じゃなくてお宝狙いだが……どうだ、手を組むか?」
その言葉に俺は迷わずに頷いた。ここで手放せば絶対に手に入らない。
俺はこれから先、絶対にナミゾウを手放すつもりなんて無いんだ。だってナミゾウは俺のモノだから。