取り敢えず人のいる島を目指して船を進めさせながら、俺は麦藁帽子を直していた。その様子を幼子がソワソワして見ているのが、気にならないといえば嘘になる。
「もう少しだから、大人しく待てよ」
少しはゾロの無関心を見習えとは、流石に俺も言えずにチクチクと直していく。どこかで麦藁が手に入ったら少し保管して、縫うだけでは直しきれなくなった時に使おうかと思うくらいには、ズタボロにされてる麦藁帽子。
糸を玉留めして、糸を切ったら終了。直った瞬間にルフィを見れば、何も言う前に麦藁帽子を手に取り、はしゃぎ回る。
「なおったー!」
何だろう。本気で可愛く見えてきた。
そんな時、ルフィとゾロが島を見付けてアレはなんだと説明を求めてくる。俺は面倒だと全身で表現しつつ、無人島だから行く必要は無いと冷たく言い放った。
しかし、次の瞬間。ルフィとゾロは全力でその島に船を進めていた。
こら待てと言っても無駄で、話を聞かない2人に好きにしろと言って俺は説得を諦めた。それにしてもこんな島に行く話あったかなと記憶を探るけど、思い出せない。
自分の記憶が曖昧なのがこんな時に許せない。だが、アニメオリジナルストーリーや映画は見てなかったから、その辺なのかも知れないと考え直す。
しかし、島につくと怪我が治りきっていないゾロがそのまま力尽きたので、仕方無くルフィに付き合って降りる事にした。本来ならば、ゾロと船にいたかったのだが、ルフィ1人にするのが何となく心配だったのだ。
降りてみると、見た事もない不思議な生物が沢山いて、それを見て俺はああ、この島かと思い出す。何年も前に来た時、1度制圧している。
確かここには宝箱に入ってるオヤジがいたなと思いつつ、ルフィ1人でも大丈夫そうだと思ったら引き返したくなってきた。
「ルフィ、この島なら問題無いだろうから俺は船に帰るよ」
「嫌だ!ナミゾウも1緒に行くぞ!」
ルフィの言葉に俺は諦めの溜息をついた。到着した森で我儘なルフィへ抱き着いて体重をかけてみると、ルフィが小さく身じろいだ。
ルフィはそんな状態からくるりと体の向きを変えるから、体重を掛けた事に意味が無かったのだと痛感した。
「ナミゾウ、頼むからここで少し大人しくしていてくれ。すぐに迎えに来る」
身動きが取りにくくて困っていたと気付いた俺は、素直に頷くと、気を付けて行けよと笑いかける。冒険に1人で行くのは不安でも、邪魔されるのも嫌なんだなと認識したからだ。
それなのにルフィは俺の顔を見て1瞬固まると、直後に顔を赤くするから体調が悪いのかと心配になる。ルフィを心配して手を伸ばそうとした時、森に銃声が響いた。
その瞬間、銃声に合わせてルフィはその銃弾が放たれた方へと飛び込んでいく。その後すぐに聞こえた情けない声に、俺は肩を落とした。
ルフィと珍獣オッサンが話しているのを聞き、俺もそこに加わる。前は無駄だからと協力を断ったが、今はルフィが興味を持っているから。
それに2人は折角持っている地図を理解出来ていないと気付いてしまったのだ。仕方無いかと俺が説明すると、宝箱オヤジとルフィは同じような反応をして見せる。
こいつら、親子とかじゃない筈なのに良く似てる。妙な脱力感に座りたいような衝動にかられた。
気を取り直して話を聞くと、ルフィは宝箱オヤジの為に宝箱を探しに行くと言い出す。カラなのは分かりきってるから、何となく気乗りしない。
確かあの日もそう思って放置したと思い出すと、宝箱オヤジも俺を思い出した様子で、騒ぎ始める。だから俺は今回はコイツの付き添いだとルフィを示して言えば、宝箱オヤジは漸く落ち着いた。
ルフィは俺と宝箱オヤジを見比べて、知り合いだったのかなんて言うから、笑って頷いておいた。ルフィはそんな俺を見て、何故かすぐさま視線を森に向け直した。
作り笑顔では無いから、変な顔にはなってない筈なんだけどな。作った笑顔は冷たいとか、嘲笑してるようだとか言われるから、不愉快にさせたのかもと思うんだが。
考え事をしつつ食べられる木の実や草を採取していたら、目的地に到着した。だが、結局中身はカラで、ルフィは嘆くオヤジに1緒に来ないかと誘う。
泣くオヤジについ、安物とはいえハンカチを渡してしまったのは、俺の甘さなのだろう。それを受け取った宝箱オヤジはルフィの誘いを断った。
断られても珍しく食い下がらないルフィに、少し大人になったのかななんて思った俺は、森の中で見付けた食べられる物を後で配ろうかななんて思いながら、船へと帰って行く。この島では何ひとつ金銭的な収穫は無くて、完全な無駄足だった。
それでも思う。もう暫くは、ルフィと1緒に要られると。
もう、暫くは……この笑顔を見ていられる。過去の記憶に縋るようにルフィと行動している自分が情けないと思いながらも、この居心地の良い場所を離れたくないと思ってしまう。
そうして今度こそ人の住む島を求めて船を進める。そんなに離れてはいないので、すぐにつくのは分かっていた。それでもやはり食料や水の事を考えれば気がせいてしまう。
俺は頭を悩ませる。この船では料理も満足にできないし、船室も1つだけ。
武器もあまり無い。バギーから奪った船だが、あまり大きくても舵取りが面倒だと思って小型のにしたが、この設備は頂けない。
大きくて設備のある物にするならば、人が足りない。それを切々と懇切丁寧にルフィに言えば、確かにもっと仲間が欲しいと言い出した。
それ自体には同意するが、コック、狙撃手はわかるとして、何故音楽家?そして船医や操舵手が必要だとなぜ思わない?
船大工もいないと、何かあった時船を直せないだろうと、ついキツイ口調で言ってしまったが、あまり気にしていないらしい。そもそも俺もそんなに長くは共に居られないというのに。
深い深ぁい溜息をついてみても、ルフィには通じなかった。
先にバギー海賊団から1人で奪ってた船と、ルフィ達が乗っていた小さな船をバギー海賊団から新たに奪った船に連結しているが、寝る時に部屋と言うより見張りと寝る組で船をわけられる他は何も良い事がないのも現実。俺は思考の波に埋もれながら、人のいる島に船をつけた。
船を降りると何やら視線を感じて俺は眉間に皺を寄せる。するとゾロが俺の眉間に指を押し付けてグリグリとしてくる。
「痛いだろ!何すんだよ!」
「湿気た顔すんな。こっちまで陰気臭くなる」
ゾロの発言に抗議しようとしたその時、聞きなれた、けれども初めて聞く声が上から降ってきた。
「俺の名は、キャプテーンウソップ!」
ああ、ここはウソップとその恋人の島かと、俺は1人納得して頷いて満足していたが、ルフィはそれに乗せられ、ゾロはそれをおちょくり、カオスな状態に。しかもどうやらウソップがヤソップの息子だと気付けば、ルフィはウソップとすぐさま打ち解ける。
そんな様子を微笑ましく眺めていたけど、ルフィが不思議そうにこちらを見て手招くから、混ざれと言いたいたらしいとわかる。ハイハイと近付くとウソップがうわ美形とか言うから、気怠げな視線を送っておちょくってみる。
「……すっげえ色気だな。女の子食い放題?」
「おう、何もしなくても寄ってくるぞ」
ウソップに答えればルフィが何もわかってないくせに頷くから、その額を指で弾く。それからルフィに笑いかけるとルフィとウソップが固まった。
「……なぁ、ルフィっつったよな。いつもコイツはこんな感じか?」
「ああ、いつもこうだ。むしろ幼少期からこんなだ」
2人は顔を見合わせて頷き合う。仲良しで良い事だ。
「ルフィ、身がもたねぇだろ。大丈夫か?」
「……大丈夫だと、思うか?」
ルフィとウソップは熱く手を握り合うから、俺はそんな2人を微笑ましく眺めてから視線をゾロに向ける。ゾロは呑気な顔で立っているから手招いてみる。
それにゾロが素直に応じるから、野生動物を手懐けた気持ちになって少し嬉しくなる。
「自己紹介な。まずコイツはゾロ。戦闘員の剣士だ」
「おう、宜しくな」
ゾロがウソップにそう言うと、ウソップは強そうだなんて呑気な感想を言う。ついでルフィに視線を向けると、俺はルフィ、海賊だと笑う。
その自己紹介がシャンクスの真似だと分かるから、俺はつい笑ってしまう。そして俺の方にウソップが視線を向けてきたので、小さく笑う。
「名乗ってもいなかったな。俺はナミゾウ。今は1時的にルフィと行動してる。ルフィとはシャンクス……赤髪海賊団を経由して知り合ったんだ。その赤髪の所にヤソップがいて……随分世話になったよ。息子自慢が止まらなくて困った時、ルフィに出逢った。助かったよ本当に、ありがとなルフィ」
「まさか、俺にヤソップ押し付けてたのか!?」
俺は素直に頷き、仕方なかったと言う。時間が足りなかったのだと。
俺は見聞色の覇気は苦手だが、武装色の覇気は武器に流すという意味では天才的らしい。なので武器さえあればなんとでもなる。
問題はアーロン達の数が多過ぎるのと、俺の体力不足だ。鍛えているが、俺は覇気を使うと体力を消耗し過ぎる。
勿論ルフィ達に覇気については話してないが、ルフィは何か気付いているのかよく俺に何か言いたげに視線を向けてくる。ルフィには、早くちゃんとした仲間が必要だろう。
それから少し話をして、船を調達するのは難しいだろうと言う事になり、3人は仕方ないと諦めの溜息をつく。船が無いならば、この島は出るかと話せば、ルフィはもう少し見て回りたいと言うので、任せる事にした。
ウソップはその言葉に喜ぶので、食事できそうなところや、物資の調達をできそうなところを聞いて見る事にした。留まるならば、この先を考えてやれる事をやるしか無い。
ウソップに連れられて入った食堂で、久しぶりにまともな食事をしながら今後仲間を探さないといけないと話していたら、ウソップがこれまた冗談のように、俺が船長になってやってもいいなんて言い出す。それに2人がごめんなさいと言えばウソップも分かってたようで笑っている。
ルフィも同じ歳頃の人間と話をするのが楽しいらしく、大喜びで会話しているから、食事を進めながらそれを眺める。その時視線を感じてゾロを見れば、ゾロが笑った。
「ナミゾウはルフィのお袋かって位、甘いな」
「幼い時のイメージが抜けないもんでな。ゾロにはルフィは随分信頼できる相手みたいだな」
俺が返すとゾロはああと言って穏やかに笑うから、やはり生きてるのと描かれているのとでは違うなと思う。俺は外を見ながらゾロに言う。
「俺はそう長くは1緒に居られない。早めに航海士か操舵手を見つけるんだな」
「……ルフィはナミゾウを手放す気は無いと思うぞ」
ゾロの言葉に振り向くが、言葉が出ない。確かに手放す気は無いだろうが、巻き込みたくはない。
後少しで金も貯まる。それでも解決しなければジンベエに手紙を届ける為に、白ひげに手紙を出せばいいと思っている。
ジンベエは定期的に白ひげの元へ向かっているのだから、そこで情報を入手出来るだろう。そうなれば、アーロンをジンベエが止めてくれるだろうから、俺はその他の魚人を倒してしまえばいい。
巻き込んで、下手したら死ぬかもなんて状態に追い込めないし、万が一にもルフィ達が負ければ村人が全員殺される。そんなリスクは犯せない。
気がついた時には、ウソップはそのまま愛しい彼女について語り始めていた。これがリア充って奴かと少し疲れた気持ちで話を聞けば、突然ウソップが時間だとか言って居なくなったので、俺達は食事を再開する。
そろそろ満腹かなと思ったところで、お野菜の名前をもつ3人の子供達が姿を見せる。どうやら3人はウソップを心配しているらしい。
ウソップは何だかんだと言いながらも、子供達から信頼が厚いのだと知っていたから微笑ましく見ていたが、ゾロがウソップを食べたなんて言うから大騒ぎになる。
それからウソップは時間だからと言って消えたと話せば、子供達からもウソップの彼女について熱く語られる。それを聞いていると、まるで冒険物のRPGみたいだなぁと思う。
次のイベントに関係ある話しか街の人がしなくなって、そこに行くとイベントが起きるのだから。そうなると俺は正式な仲間が手に入るまでの案内人系キャラか。
画面には1緒にいるのに戦ってくれない奴。そう考えると、何とも面白い。
そして、その主人公に該当するルフィは船を貰いに行くと言って飛び出してしまう。ああ、何たる馬鹿。
仕方ないと俺とゾロは支払いをしてからルフィの後を追う。それが疲れるだけの作業だとわかっていても。
お屋敷に到着したと思った次の瞬間には追い出されるという悲しい現実と向き合いながら、俺達は姿の見えないウソップとルフィを探す事になった。
けれども俺は忘れていたのだ。ここで変な奴に会う事を。
俺は変な奴に遭遇してから、これが敵だったと思い出して、つい眠ってるそいつを多節棍で殴りつけてボコボコにした上で縛り上げてしまう。ハッと気づいた時には、ゾロは得体の知れない物を見る眼差しだったし、3人の子供はまだ寝ていた。
ゾロが少し距離をおいて、不思議そうに聞いてくる。
「どうしたんだ?知り合いなのか?」
「こんなのと知り合いたくもないが、そうだな。表現法にもよるが知り合いと言えなくもないか。これも海賊……賞金首だぞ」
咄嗟に言った俺の言葉にゾロは獰猛な笑みを浮かべて、ゆっくりと近付いてくる。それに肩が勝手にビクリと揺れる。
「ルフィが主張してなきゃ、欲しいところなのにな。今はまだ、呑気にしてるといい」
ゾロの言葉の意味が分からずにいると、ゾロは突然その唇を俺の唇に重ねて来た。獰猛な猛獣に襲われているようなそれに、俺は驚きはするもののつい反応して返してしまうから、無駄にキスが長くなる。
漸く離れた唇に、俺はホッと息を吐く。そんな俺にゾロは少し何か考えるような顔で見下ろしてくる。
「ナミゾウ、お前……随分慣れてないか?」
「……想像に任せるよ」
笑いながら答えれば、ゾロは小さく舌打ちした。恐らくゾロは俺の事で何かに気付いただろう。
もしも叶うなら、それをルフィに知られる事だけは避けたい。同情されるのも、蔑まれるのも、嫌だと思うけど、そうだな……もしルフィが俺を諦めるのに必要ならば知られてもいいかも知れない。
あの太陽のようなルフィの笑顔に、陰りなんて似合わない。……知ればルフィは俺を助けようとする可能性があるから、知られたくないのかも知れない。
それは困るんだ。ルフィのそばに行くには、自力ですべてを解決してからと決めている。
ずっと仲間にならないなんてつもりは無い。ナミちゃんがルフィといたように、俺もルフィの為に航海士をしたい。
だけど、それはすべて……大切な人達の安全が確保されてからの話だ。それが叶わないなら、仲間になれなくても構わない。
今の所は目下、船の入手が最優先。メリー号はルフィ達に必要な船だ。
優先順位の1位にルフィを持っては来られないが、ルフィも大切なんだから仕方無い。少しでもルフィに良いようにしてやりたい。
そんな事を考えながら俺は笑顔でゾロの行動を無かった事にした。
ジャンゴを縛り上げた事で運命は恐らく予想だにしなかった形で変化するだろう。それでも、それなりに強いヤツは先に1人ずつ葬りたいと思ってしまったのだから仕方ない。
海賊団の名前は可愛いのに、どうしてメンバーに可愛いやつがいないのか。そう思いながらルフィを探し回った。
その途中てウソップが駆け抜ける姿を目撃したゾロ達はウソップの後を追う事にしたのだが、俺としては、この流れが変わらない事でどうやらジャンゴはもうクロと話した後だったのだと気付き、崩れ落ちそうになる。
あれ?でも、原作だと出会うのは行きの時じゃなかったっけ?
そう俺が思っても、考えても、ウソップが走り抜けているのならば、それは話し終えた後だという事だ。ルフィを回収しなくてはと、俺は気合を入れ直してゾロの後を追う事にした。
ゾロは思っていた程足が早くなくて、すぐに追い付けたので少しホッとしていたら、ゾロに何故か睨まれてしまい少し嫌な汗をかく。やはり俺について色々と気づかれているのだろう。
それからどうにかウソップを捕まえると、ウソップはルフィが死んだのだと嘆き始めた。それはありえないので適当に聞き流す。
俺から見たら、原作とは時間軸にズレがあるのではないかという事の方が重要で、ウソップの話どころではない。時間軸の通りに話が描かれていたという証拠はないと気づいた時、俺は自らの力の無さに絶望しそうになる。
「ルフィがそんな簡単にくたばるか。……安心しろナミゾウ」
ゾロにそう声を掛けられて、何故そんな事を言われたのかと首を傾げれば、ゾロは俺が何も言っていないのに俺の頭を軽く撫でる。
「死人みてぇな顔して、自覚無しか。これでルフィより強かったって言われてもな……」
なんて軽口を言われて、漸く顔に感情が出ていたのだと気付き、深呼吸して気持ちを切り替えた。
そうだ、落ち込んでいる場合じゃない。既に命令をジャンゴが受けた後だったならば、カヤちゃんが追い詰められる確率が少し下がったと言う事なのだから。
前を見ろ、未来を見据えて、走れ、俺。メリー号を手にして、ウソップの大切な村を守るには、前を見るしかない。
ふと視線を向ければ、ウソップが怪我をしているのに気付いたので俺は応急セットで簡単にウソップを治療しながら、ルフィの到着を待つ。すると、想定していた通りにルフィが現れ、どうやらここから流れが元に戻るのだと1安心すると、つい浜辺に座り込んでしまう。
そんな俺を咄嗟に支えたのはルフィで、少し心配そうに顔を覗き込んでくる。
「ナミゾウ大丈夫か?」
「大丈夫だよ。でもそうだな、少しばかり疲れた。座らせてくれるか」
ルフィを見上げてそう言えば、ルフィは勿論ゾロまでもが不自然な行動をしてから、わかったと呟くように返してきた。
俺はこれからウソップが決意を新たに宣言する事と、それにより2人が協力するという事を知っていた。だから、待つしかない。
折角の罠を無駄にしない為には、どうしたらいいだろうか。未来を知ってる事も、アーロンの事も、俺の過去も、転生の事も、俺は何ひとつ伝えるつもりは無い。
3人の話が終わるのを待って、俺は口を開く。
「俺も協力するが……ウソップ。港はここしかない訳じゃないよな。何故こちらだと断言出来る?」
3人は射抜くような眼差しで俺を見るが、その眼力に負けている場合ではない。
「もしも逆だった場合、俺達の使うべき船も駄目になるリスクがある。それならば、確証が欲しい。無いのならば、俺は俺の船がある側に向かうぞ」
俺の言葉にゾロは成程なと小さく呟き、ウソップは確かにと言う。ルフィはよく分かってない様子だ。
「船には宝が積んである。それを取られるわけにはいかないから、必要なら2手に分かれるしかないだろう。その船側には少なくとも俺が向かう。他は3人で話し合ってくれ。朝になっても海賊が姿を見せなければ……逆の浜辺へ移動する。それでどうだろうか。それとゾロは見ていたが、賞金首をさっき1人縛り上げておいた」
そう言って様子を見れば、ウソップは惚けたような顔をしているし、ゾロは納得してますと言うような顔をしている。しかしルフィは少し違う。
どこか少し黒く見えるような笑みを浮かべて、俺をにこやかに見ている。
「どうした?」
「ナミゾウは宝の話をするか、時間が無いとか、そんな話ばかりで俺の仲間にはならないと言うよな」
ルフィの探るような眼差しに俺は言葉を返す。
「当然だろう。俺にはやる事がある。それには金が必要で、それが終わるまでは仲間とか言ってる場合じゃねェんだ。今回は……付き合ってやるから、早く信頼できる仲間を増やせ」
言葉はそれ以上何も出てこない。ここでしっかり突き放しておかなければ、ルフィが関わってこようとするのは目に見えている。
それもだが、俺にはルフィにこんな夜闇のような笑い方が出来るなんて、その事の方が気になっている。アニメでも漫画でも、幼少期に出会った時も、明るい太陽のような笑顔しか笑顔は見た事が無かったから。
だからといって失望したとかではない。ただ、ルフィに何があったのかと思うと怖い。
兄を1人亡くした事による弊害か。それでもそれはアニメや漫画でも同じだった。だとしたら俺が関わったが故の弊害なのか。
「それならナミゾウの言う通りに向かう海岸を分けよう」
そう言って笑ったルフィは、いつもと同じ太陽のような笑顔で、私は先程のは夢か幻だったのではないかと思えてきた。
「そうだな、行こう。被害は少ない方がいい。で、誰が船側に移動する?」
ウソップが大怪我をしたりする他は、特に失う者も無かった筈だけど、出来るなら怪我だって少ないほうがいい。ここは漫画の世界ではなく、皆が生きている世界なのだから。
それに、全員が後から到着するのではどうしても後手後手になる。ならば、半数でも現地にいれば違うだろう。
3人はウソップと俺の組み合わせで行くように言うので、足早に目的地の海岸へ向かった。この場合2人が迷わずに来られるのかが心配ではあるが、ゼロよりはいい。
到着した時4人が揃っている奇跡は期待していなかった。それでも、ウソップの考えたちょございな罠と、地味な嫌がらせの撒菱(マキビシ)で取り敢えずウソップが戦いやすい環境を整える。
そんな準備を終えてすぐに、海賊が姿を見せれば俺も武器を構える。ルフィ達を頼る必要は無い、来ないならば来ないで俺だけで最悪始末してやる。
方向音痴のゾロと、本能で動くルフィが来る頃には、戦いを終えておくつもりで襲い来る敵を沈める決意を込めて、ニンマリと笑う。ここなら覇気を使う必要も無いから、体力不足で倒れる事も無いだろう。
姿を現した海賊達を俺は静かに見据えて、ウソップに声を掛ける。
「ウソップ、ここを守るか打って出るかどちらが良い?ちなみにだが、敵のボスは後から来る。ここに残る場合、ルフィ達の到着までそれの相手を任せる事になる」
その声は異様に冷たく、ウソップはゾクリとしながらも軍師ナミゾウとしか思えない姿に逆らうまいと決めた。
そしてウソップが残って援護射撃すると言うので、俺は任せたぞと言い残して、足を1歩前に踏み出す。その瞬間、ウソップがあの人数相手に戦えるのかなんて阿呆な事を聞いてくる。
最悪1人で倒すつもりだった雑魚相手に遅れを取るわけ無いだろうと思いつつ、息を吐き出す。
「ウソップが援護射撃してくれるなら、問題は何も無い。……大切なモノは自分で守れよ」
俺はそう言って油に自ら足を置いて滑り降りる。もう、ウソップの護衛には戻れない。
「任せとけ」
俺はウソップにそう言葉を残して1人で雑魚達を沈めながら、油の前に陣取る。俺を抜けて行く敵がいても、油に足を取られるし、そこをウソップが攻撃するから登る事が不可能な状態になっている。
魚人達の雑魚より、さらに雑魚なコイツらなら幹部でも何とか戦えそうだとホッとする。その時、ニャーマンブラザーズと名乗る2人が姿を見せたので、それと戦おうとした。
けれど月が頭上に輝いた時、ルフィとゾロが姿を見せて俺が力負けしそうになっている大きい方をゾロが請け負ってくれた。それにより思ったより楽に倒せたと思った直後に、ルフィとウソップの方に親猫が姿を見せた。
ルフィも居るからと、そちらは完全に任せてさっさと倒そうと思った時、恐怖に震える2匹が全力で攻撃して来た。この後ルフィが手こずるリスクを考えると、今はまだ覇気を使いたくない。
「ゾロ、デカいの任せて平気か?」
「ああ、ナミゾウこそ平気なのか」
俺はゾロの言葉に頷き少し真面目に戦い始めると、ルフィから感嘆の声が漏れたのが聞こえた。ルフィが何に感嘆の声を出してるかはともかくとして、俺は細い方を倒し終えると雑魚に視線を向ける。
それから武器を片手ににっこりと笑うと、どうする?と尋ねる。それを受けて逃げようとした雑魚達を親猫は許さず、暴れだした。
「面倒だな。制御出来ない力なら使うなよ」
俺はそう言って迫る親猫の攻撃を防いで隙をついて切り飛ばす。それでも敵の武器が厄介なのはその通りで、思ったより強い力に俺が少し弾き飛ばされると、ルフィが親猫に怒りをぶつけるように戦い始めた。
武芸十八九、武器を何でも扱えるとは言わないが、1通り扱えるのは事実だ。だが、体力がそれに見合わない為、ルフィの介入は正直助かった。
俺は残りの雑魚を追い払いつつ宝を守る為にルフィ達に背を向けて進む。雑魚を打ち倒して、船から宝を貰い受けてから浜辺に戻ると、何をどうしたのかカヤちゃんがいて、親猫と会話をしている。
カヤちゃんを守るようにウソップが親猫の前に立ちはだかるが、意にも介されていない。
「そう、君には殴られたのだから、お礼をたっぷりしてあげなくてはね」
その言葉が俺にはウソップへの死刑宣告に聞こえて、咄嗟に月歩でウソップの元へと移動すると間に割って入った。だが、ここまでで体力は限界に近く、弾き飛ばされた俺は崖に背中を打ち付けて呻く。
「ナミゾウ!」
ルフィの声が聞こえた。それからルフィが親猫と戦い、親猫を倒した頃、ウソップは部下3人とカヤを必死に庇うようにしていた。
俺は打ち付けた場所が悪かったのか、呼吸をするのも大変で、自分が情けなくなる。使える技は多くても、このままじゃアーロン達に勝てねェ。
「ナミゾウ大丈夫か?」
ゾロが顔を覗き込むようにして言うから、俺は軽く笑って見せる。だが、明らかに軽くない怪我をしているお前にだけは、言われたくない。
そう言おうとした時、カヤちゃんの悲鳴が聞こえて俺は顔を上げた。敵はルフィが押さえていた筈なのにどうして……。
様子を見てみれば、どうやらあの時縛り上げたジャンゴを町の人達が解放してしまったらしいと知り、ゾロにウソップを頼むと言って任せる事にした。このままでは、ウソップもカヤちゃんも、3人の子分も、皆助からない。
ゾロが駆け出したのを見て、体から力が抜けるのを感じる。体力が少ないのは、定期的に飲まされている薬のせいもあるのは分かっている。
それでも、この薬を飲まなければ、帰った時それがバレて村の皆に被害が出る。それならば、体力を減らされると分かっていても、この薬を飲むくらいいくらでもしよう。
毒に限りなく近い物だとは知っているが、構わない。ただ、逃げたと思われないように、死ぬならばアーロンの目の前で死にたいと思うだけだ。
ふと視線を上げれば、ちょうど戦いが終わったところのようで、俺は倒れようとするルフィを支える為に近付く。倒れて来たルフィは思いの他軽くて、少し心配になる。
「ルフィ、お疲れさま」
声をかければアイツ嫌いだと悔しそうにルフィは言うが、そんなルフィだから皆はお前が好きなんだよと内心で返す。
戦いが終わり、落ち着いた時には宝も無事で、みんな満身創痍の中でルフィだけは楽しそうにしていたのが少し憎らしく思えた。でも、ルフィだって確実に疲れてる。
後はゾロ達が帰るのを待つだけだと思ったら、膝から力が抜けて、ルフィを地面に付けないように抱き締めて後ろ向きに倒れた所で、俺の意識は途絶えた。
次に目覚めた時、全員がある程度の回復を見せていたものの、ルフィのお腹が盛大に空腹を訴えた為に俺達はこの戦いが無事に終わった事を祝して、食堂へ腹ごしらえしに向かう事にしたのだった。