俺達が食事をしていると、カヤちゃんが姿を見せたので俺はカヤちゃんに話しかける。やはり可愛い女の子には優しくするものだろう、それが例えウソップしか見えてないウソップの彼女だとしても。
微笑みを浮かべて手招きすれば、少しオズオズとした様子を見せながらカヤちゃんは近付いてくる。だから、その瞳を覗き込むようにして、俺は尋ねる。
「体はもう大丈夫か?昨日は無理させただろう。だから……心配でさ」
そんな俺の言葉に何故か吹き出すルフィとゾロをチラリと見た直後、カヤちゃんが大丈夫である事を語ってくれる。それによって視線をカヤちゃんに戻す。
穏やかな声音と表情で語る彼女は、正直ウソップには勿体無い。逃げ回ってそげキングとかで指名手配されてないで、正式な顔と名前で手配されないと、釣り合わないだろう。
いや待て、そうなったら今度は2人で平和に生きられないのか?……そうなると悩ましいな、逃亡生活はカヤちゃんに似つかわしくない。
カヤちゃんを見ながらつい、アレコレと考えてしまう。その後羊とカヤちゃんに誘われるままに海岸へ行けばメリーが待っていた。
メリーはじめまして、これから宜しく。とか言えたら良いけど、流石にそんな訳にはいかないからメリーにと言うよりもキャラヴェルに喜んでるようにはしゃげば首を傾げる男共。
待てや……海賊名乗ってるのにキャラヴェルが分からないとかないよな?無いよな?!
ついつい使いやすくて人気のある船はツータイプあって、その内の片方がキャラヴェルだと熱く語ってしまった。そう、こんな感じで。あ、興味なかったら読み飛ばしてくれ。
「そんな……まさか分からないのか?海賊を名乗っておきながら!良いか、今の時代を代表する船種が、キャラヴェル船と、キャラック船なんだよ。かの有名なコロンブスが乗船していた事で有名なサンタ・マリア号がキャラック船。大型で安定性の高さが持ち味のキャラック船だけど、その大きさ故に小回りが効きづらく、航行できる地形も限られてるんだ。何よりも問題なのが、船を動かすのにも大人数の人出が必要だって事にある。1方、小型なキャラヴェル船は、速度、操舵性の高さが持ち味であり、浅瀬や河川等の地形も航行できるその汎用性の高さから、冒険家に愛用されてるって訳だ。わかったか?」
そう訪ねれば男どもは何故か更に首を傾げる。明らかに分かってなさそうだ。
こいつらの頭って。
「とりあえずいい船なんだろう!」
とルフィはニカッと笑って言うから、もうそれで良いかと思ったけど次に続いたゾロの言葉にビシリと固まる事となった。
「かの有名なコロンブスのサンタマリア号って、何の話だ?初めて聞いたが」
「それは……金持ちとして有名な男で俺が狙ってる相手だよ」
咄嗟に出た自分の言葉に絶望する。
嫌だよコロンブスの船を狙うとか、勝てる気がしない。だいたいこの世界にいないし、無いし、熱くなったからって何を言ってるんだよ、俺は。
でも男達はそれで納得したのか、追求される事は無かった。
そして俺達3人がメリーに乗り込むと大荷物を抱えたウソップが姿を見せた。その姿にカヤちゃんはウソップが旅立つと気付き声をかける。その会話が聞こえて来て、本当に女心の分からない親子だよなとヤソップを思い出しながら眺める。
そしてウソップがその勢いのままに別れの挨拶なんかするから、ルフィは変な顔で首を傾げる。ゾロもちゃんとウソップを仲間と認めて、楽しそうに笑ってるってのにさ。
ほら、早く来いよ。お前は嘘偽りも制限も無く、この船に乗り込めるのだから。
そうして俺達4人はカヤちゃんが積み込んでいてくれた酒をそれぞれが持ち、乾杯すると同時に新たな仲間に乗り、次の島を目指して進み始めた。
「ところでさ、ナミゾウ。なんか宝が増えてる気がしてるんだけどよ?」
「おお!よく気付いたな。クロネコから貰っといたんだよ。……ルフィも、俺が欲しいならそれなりに貢げよ」
ルフィの言葉にニンマリと笑いながら言えば、他の男達は怯えたような表情を見せた。
後で数えてみないと分からないが、恐らくはこれで全額揃う。1度何処かで換金すれば、村を買い戻せるだろう。
すんなりといけばいいんだが、何故かすんなりとは行かない気がしてならない。念の為に計算しながらジンベエに手紙を書くかと思ったら、ルフィが背後から飛び付いてきた。
「どうした?」
「ナミゾウは仲間じゃなくて……傭兵にしか、ならねェって事なのか?」
耳に直接向けられた言葉に、俺は首を横に振る。残念ながら少し違う。
ルフィの頭をグリグリと撫でながら、どう答えたものかと考える。その様子を見ているウソップが、何故か顔を赤らめているから、熱中症か酒に酔ったかだろうと判断して、後で冷たいものでも飲ませる必要がありそうだと思考の片隅で思う。
「ルフィ……俺には俺の目的がある。それが終わるまでは、誰の仲間にもならねェし、金を貰えるならプライド必要も無い。ただし、それが終われば俺は旅立てるから……ルフィの仲間になら、なってもいい」
「……ナミゾウ、仲間になってくれるのか?」
俺は頷く。こんなに可愛い弟分をレッドラインに激突したって理由で失いたくは無い。
「……なぁ、ナミゾウ。それは、金を貰えるなら男相手でもやるって事か?」
ゾロからの問い掛けに疑問符は付いていても、それは疑問になんて思っていないと伝わってくる問い掛けで、お子様2人が居る事を思えば、とりあえず頷く事で答えるしか出来ない。それを確認したゾロは俺を手招きするから、ルフィの肩を軽く叩いて離れさせるとゾロに歩み寄る。
「……いくらだ?」
ゾロの問い掛けに全くコイツはと肩をすくめる。
「時価だが……いくら出せる?その金額に応じた事、してやるってのも可能だが……本当は望んでないだろ、お前」
「……何故、そう思う?」
面白そうにゾロは笑うから、俺は呆れを隠さずに言う。
「瞳を見れば、欲情してるのを抑えてるのか、確認してるだけか位わかるさ。抑えても奥にその光が見えるからな」
「なら、ルフィは?」
「兄貴に懐く弟だろう」
「……成程、欲望には気付けても恋情には鈍いのか」
俺は、は?と言ってゾロを見るが、ゾロはそれ以上何も答えようとはしなかった。だから俺はからかうように笑って囁く。
「仲間になったら、無闇に触らせねェよ。仲間になる時には、既に俺の目的は達してるから、売る必要も無くなるんでな」
誰が好きこのんで男に体を好きにさせるものか。早くこの薬から解放されなければ、旅立つ事も難しい。
恐らく飲まされているこれは媚薬の1種で、極端に体力を奪う。その代わりに処置しなくてもいつでも繋がれるように調整されているのだろう。
奴隷や娼婦になりきれない奴らへの調教用の薬だろうと当たりは付けてるが、最近の体調を考えるにそればかりでは無いのかも知れない。何か知らない効果もあるのならば、それが命に関わるのだとしたら……困るな。
感情が大きく揺れると起きる発作とその副作用を考えただけでも、単なる媚薬入の毒とは考えにくい。アーロンが何をしたいのか全く理解出来ない。
村の解放が終わるまでは、少なくとも生きていたい。それが叶わないなら、アーロンの前で死ぬしかないだろう。
その場合、ルフィとは旅立てないから、悪いなと思う。航海士なんてそう簡単に見つかりはしないから。
「……ルフィ、ゴメンな」
遠くでウソップと遊んでいるのを確認して、俺は呟きを落とす。それを聞いていたらしいゾロが視線を向けてくるのを、少しばかり困って誤魔化すように笑うと腕を掴まれた。
それによりバランスを崩してゾロに倒れ込むと、そのまま唇を奪われてしまう。
「んぅ!?……ん……」
何がしたいのかは分からないが、とりあえず受け入れて様子を見る。下手ではないが少し乱暴なそれに唇が離れた瞬間に注意する。
「唇はもう少し薄く開ける程度にしていい。双方の舌が同時に通れる隙間が必要になるのは、双方合意の時だけだ。1方的に攻めるつもりなら、自分の舌が通れる程度しか開けない方が良い。それと……自分の欲望しか伝わらない仕方だと女に嫌がられるぞ」
「……この状況で、何を言ってやがる」
ゾロの呆れたような声に俺が呆れる。
「なんだ、まさかアレか?『他の奴らに気付かれたくなかったら、大人しくしてろ』とか言って犯す予定だったか?だとしたら言っとくが……プロを舐めんな」
それからゾロの腕を抜け出して手を差し出す。ゾロも本気でどうにかしたいと思ってる様子ではないので、今回は許してやろう。
「初回特別割引で、簡単な講義付きだったのを加味して5千ベリーでいいぞ」
「……高ェ」
「割引きしてるぞ。1晩好きにしたら50万ベリーじゃきかねぇからな?」
「……分かった。払うさ」
その言葉の後で小さく、今回はなと付いたのが少し気になったが、細かい事をそれ以上気にしてもしょうがないと諦める。可愛いメリーも手に入り、楽しい時間が始まる。
ルフィとその仲間達が楽しそうで本当に何よりだ。
そろそろ食事をねだられるだろうと、俺は厨房に向い簡単に食事を作り始める。食いしん坊の多いこの船で、これから仲間になる筈のサンジを思うと少し泣けてくるのは、俺が大変だと思っているからだろう。
匂いにつられて集まるルフィ達の足音を聞きながら、盛り付けを始めた俺はこの穏やかな時間に終わりが近づいている事に、あえて目を逸らしていた。
船の上は平和だ。とりあえず、今の所。
折角ついている設備も使えなければ意味が無いと、大砲の練習をする彼等を眺めながら、積み込まれていた果物と水で果実水を作って飲んでいれば、穏やかな海を眺める余裕が出来る。
そう言えばサッチは助かったんだろうか?
助かったならば、エースも飛び出さないだろうし、そうなればあの頂上戦争も起きない。あ、もしかして上手くティーチを討ち取ってくれてたりするだろうか。
あんな強敵無駄に増やさなくてもいいと思うんだよな。ルフィが笑っていられる世界なら、それが恐らくは1番正しい。
「平和だな」
大砲の音に掻き消されて無かった事になったナミゾウの言葉は、これから起きる珍事をすっかり忘れている事を物語っている。
つい先程まで壊滅的に下手なルフィの絵を馬鹿にしていたと思ったら、それをウソップが直して、気付けば海賊船のゴーイング・メリー号になっていた。
その勢いのまま探検して、そして……大砲を打っ放す男達。本当に平和だ。
いつの間にかウソップは狙撃手とルフィに認められている。あれ、ウソップって戦闘員枠でいいのか?
なんて、呑気に考えながら俺はルフィとウソップが的にしていた岩に視線を向けて、はたと思い出す。確かここに……。
何か果物探してこないと。俺が立ち上がり船内に入るとほぼ同時に、表は1気に騒がしくなる。
俺が果物片手に甲板に戻ると、既に襲撃されたのをルフィが取り押さえたところだったようで、ゾロの反応から間違いないと判断出来た。
「壊血病だよ」
話の区切りがついたところでそう言えば全員の視線が集まる。とりあえず口に果物を押し込んでから、簡単に説明する。
この世界でも既に過去のものとなっている壊血病は、前の世界ではこの大航海時代に大流行した。そこで生まれたのがピクルスやザワークラウトだ。腐らずに持ち運べる野菜だからと、産み出された。
本来酒をよく飲むのもそれが理由だ。水は腐るけどアルコールは腐らないから、水分を得る為に酒を運び込んでいたのだ。
この世界では船にも水道はシャワーがついているし、冷蔵庫もあるからそんな心配いらないんだけどさ。そうして果物を食べさせたところ、流石はこの世界の住人としか言えない速度で回復し、自己紹介をはじめる。
1気に増えた人口にふと、早くロビン仲間にならないかなぁとか考える。食料の事を考えればサンジは必要だけど、男が多すぎる。
彩りが足りない。むさ苦しい。
そんな事を思っても、俺ももう殆ど時間は残されていないだから、考えるだけ無駄なのは理解している。この体はいつまで持つのか。
そうして俺が思考の海に沈んでいる間に、ルフィの中で次は料理人が欲しいと定まった。ルフィがそう望むならと俺は船の向かう先を定める。
とりあえずそれならば、やはり人のいる所へと思い船を進めると、海の上に浮かぶ魚の形をした船を見付けてしまう。ルフィを含めてほぼ全員が歓喜に震える中、俺だけはもう別れの時が近いのかと心が沈んでいくのを感じる。
漫画のナミちゃんは、彼等を倒せないだろだろうと、皆を巻き込まない為に離れる。けれど俺は、漫画のナミちゃんではないから、助けられる謂れはない。
だから、その時が来たら逃げ出そう。誰も傷付けたくはないし、助けられる必要なんかない。
もう少し、俺が我慢すれば……漫画のナミちゃんと違って宝の地図がある訳じゃないし、金もこれで貯まった。もしも裏切られても、暫く耐えればジンベエが来るだろう。
そんな事を考えている間に、壊血病の2人が誰かと争い怪我をしている姿が見える。薬とか包帯もタダじゃないんだからもう少し考えて欲しいところだ。
とりあえず俺は包帯とかを取りに行き、戻った時にはルフィがレストランに砲弾を落とした後であった。
「言ってから行けば良かった」
思わず呟いた言葉は、大騒ぎしているその声に掻き消されて、自分でも聞き取れないほどだった。面倒な事になったと頭を抱えながら、俺は2人の治療をはじめる事で、気を紛らわせた。
俺が気がついた時にはルフィは犯人として連行されていた。何だか情けないなぁと思いながらも、それがルフィかとも思えるのだから不思議なものである。
ルフィがいなくなって暫くは全員大人しくしていたものの、食事時になれば船にあるものを食べるよりプロの料理を食べたいとの話になり、バラティエに向かう。バラティエの内装は思いのほかオシャレで、俺はここが戦場になるのは惜しいなと少し思う。
出会い頭にサンジから女と間違われてサービスして貰ったのをいい事に、訂正せずに俺はラッキーとばかりに色々注文して食べ貯めておく。……もう、行かなくちゃな。
食事を終えた俺はまたなとルフィに言って先にメリーに戻るが、ゾロの後輩だという2人もまたついて戻ってきてしまう。これでは困ると思った俺は、暫く2人の様子を見学する。
2人は次に狙う賞金首を探しており、手配書を広げている。それの中にアーロンの手配書を見付けてしまい、俺は時が来たと気付いてしまう。これ以上の引き伸ばしは出来ない。
2人をメリー号に残して、バギーから奪ってあった小船に宝を積み込んで行く。それに気付いたらしい2人に視線を向けて微笑む。
「ルフィ達に宜しく言っといてくれ。俺は手を組んでただけだ、そしてもう、時は来たと」
ルフィ、暖かく迎えてくれてありがとう。航海術については弱くてもこの2人がいれば最低限の事はどうにかなるだろう。
だから、どうか楽しく先へ進んでほしい。俺の事は忘れてくれ。
小船を出してメリー号を残せば、ウソップが追い掛けてくる理由も無い。ゾロは初めから仲間ではないと理解していたし、女ではないからサンジが俺を追い掛ける理由も無い。
メリー号の影が微かに見える程度になった時、俺は1人で波間の向こうを見つめる。溢れそうになる涙をこらえて、震える体を抱き締めて呟く。
「でもさ、母さん、姉さん……少し、もう少しだけ、皆と1緒にいたかったよ……」
俺は気持ちを切り替えると、まず先に宝を金に変える為に、宝を換金出来る人里のある島へ向かう。それにより航路から目的地を探し出す事も出来なくなるだろう。
島に入る時バギーの旗を外しておいたから、船で判断する事も出来なくなるだろう。そう思うと少し気楽になれた。
誰もいない操舵室で、ナミゾウは溢れ出る感情を持て余し遠い所で幽閉されている家族と、250人を超える村人を想う。これからが正念場、立つんだナミゾウ。
自分に言い聞かせるようにして、俺は意識を切り替える。俺は裏切りのナミゾウ。