※この作品はR-18です。

オバロ外伝:安穏無事に過ごしたい   作:ウキヨライフ

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第13話:依頼、領民、ときどき読書

 レエブン侯の依頼を請け負ってから半月後の夕刻、無事に依頼を終えたところに侯爵様本人が俺と鍛冶師ジーウを労いに武器庫を訪ねてきた。符呪(エンチャント)が施された武具を見にきたついでかもしれないが、確認や支払いを部下任せにしないあたり彼には好感が持てる。

 

 俺は受け取った報酬をアエラに背負わせた鞄に詰め込む。実際にはアイテムボックスへと放り込んでいるのだが、鞄の容量を上回る収納力を見せても、レエブン侯もジーウもその不自然さに言及するつもりはないようだった。

 報酬の内訳はクラーナの要望で、交易共通白金貨、王国金貨、銀貨、交易共通小切手に分けてもらっている。

 

 懐から異相協会(いそうきょうかい)の印が入った上質な紙を取り出す。

「領収書です」

「確かに受領した。これで領地の守りもより強固になるだろう。――この後の予定は?」

「本日は大役を果たした祝いにカルム殿の家で食事に誘われています」

 この半月の間、ジーウ・カルムとは親睦を深めた。何度か夕食に招かれ、今では腹を割って話せる仲だと思っている。

 そんな彼はレエブン侯の手前、武器庫の隅で大人しく取引を見守っていた。雇い主であろうと貴い身分の相手が苦手なようだ。

 

 レエブン侯はひとつ頷いて続ける。

「そうか、実は護符の購入を検討している。エ・ランテルで話題になっているらしいぞ」

「話題、ですか?」

「先の不死者(アンデッド)事変で無傷だった店があるとね。レッテンマイア卿が神殿連中を宥めるのに苦労したそうだ」

 

 身に覚えのある話だ。確かにグニラの店には俺から購入した護符があった。そのおかげで不死者(アンデッド)の襲撃を免れたのも事実。しかし、彼女らと行動を別にしてからは連絡がない。つまり困った状況にはないはずだが――。

 

「いったい何が神殿を?」

「不死者(アンデッド)が都市に溢れた時、少なからず神殿へも押し寄せたそうだ。神官や信者が撃退して被害は無いようだがね。だがその後、ある噂が連中を刺激した」

 レエブン侯は一呼吸間を置いて続ける。

「生者を憎む不死者(アンデッド)が見向きもしなかった娼館がある、とね。邪悪な儀式で不死者(アンデッド)を操ったのではと騒いだらしい。まあ、レッテンマイア卿のもとに店主の異議申し立てが届いて事なきを得たみたいだがな。それに冒険者組合からも力添えがあったそうだ」

 

 俺はグニラが真っ先にクラーナを頼らなかったことを評価する。冒険者組合の意図は分からないが、おそらくは冒険者モモンの活躍が関係しているのだろう。不死者(アンデッド)の発生源を含め、冒険者組合はあの事件に関して神殿よりは詳しいはずだ。

 

「なるほど、そのような事があったのですか」

「神殿を唸らせるほどの実績があるなら是非とも欲しい。そちらの都合のいい日でかまわない、屋敷に持ってきてくれ」

「そういうことでしたら、明日にでも伺いますよ」

 

 俺は新たな依頼を快諾し、ジーウと共に通い詰めた武器庫を後にした。

 

 

* * *

 

 

「少し寄る所がある」

 ジーウが向かった先は食糧品店。

 この転移世界には24時間営業のコンビニエンスストアは無い。その日に消費する食品は市場で仕入れ、長期間保存が利く食品や保存食などは定期的に大量購入するのが一般的だ。

 彼のような都市に住み家庭を持つ者なら、3ヶ月から半年分の食糧を常に貯蓄しているのだとか。それができないと甲斐性なしと蔑まれるらしい。

 

 庶民はもっぱら既存の製法で作られた安価な保存食を買う。食品の鮮度を保つ魔法〈保存〉(プリザベイション)が付与された食品はやや値が張り、祭日などの安売り時を狙って買い溜める。

 肉や魚なら干物・燻製・塩漬け・酢漬け、農産物なら漬物・寒干、果物ならジャムなどが一般的な保存食。それらを〈保存〉(プリザベイション)を付与した木箱や瓶に詰めれば保存期間を延ばすことができ、さらに規模が大きくなると倉庫そのものに〈保存〉(プリザベイション)を付与してしまうらしい。

 なお最も値が張るのは未加工の食材に直接〈保存〉(プリザベイション)が付与されたものになる。

 

 俺たちの世界で一般家庭に冷蔵庫が普及したのは20世紀初頭だ。対して缶詰の発明が無いまま生鮮食品を長期保存できるこの転移世界。食糧の安定供給は人口増加に必須だが、繁殖力の高い人外がこれらの技術を獲得したなら果たして人類に居場所は残るだろうか。

 

 視線の先でジーウが小麦や干し肉、乳製品を自宅に届けるよう店主に注文している。大量に購入する際は少しの手間賃で後日店の奉公人が配達してくれるらしい。このような宅配サービスは都市ならではだろう。

 

「待たせた。さあ、行こう」

 ジーウの手持ちは大きな鳥二羽。首を落とし、血抜きと羽毛処理が済んだ鶏肉だ。

 仕事納めに奮発したらしい。

 

 

 

 

 

 ジーウ・カルムの家は、俺が現実(リアル)で住んでいた“あばら家”とは比較にならないほど立派だ。通りに面した仕事場があり、その奥に続く居住空間を持つ。三階建てで地下室を持つ住宅だ。

 そんなカルム家がある区画は製造職が多く、通りからは細く縦長の店舗が密集しているように見え、都市の景観にある種の統一感を作っていた。

 

 俺にとっての「家」は、粉塵と酸性雨(あめ)を凌ぐだけのものだった。一方、カルム家は人の生活を支える様々な機能を有していた。居住者はジーウを含めた家族8人、3人の職人、2人の見習い、2人の女中、計15人。それは住居であり、育児の場であり、作業場であり、店であり、倉庫だ。

 これはリ・エスティーゼ王国で家庭と職を持ち、弟子や雇い人を抱える者の平均的な環境だ。そして住む者が変われば、家は塾となり、病院となり、祈りの場となるのだ。

 

 

 

 

 

 招待された夕食は毎回賑やかだった。居住者全員、15人が一堂に会すのだ。初めて夕食に招かれた時は歓迎会かとも思ったが、この「大勢での食事風景」が彼らの日常だと知ったときは衝撃を受けた。ただその驚きも、老若男女交えた会食が一種の「教育の場」であることに気づき納得に変わった。

 リ・エスティーゼ王国で安定した教育を継続して受けられるのは、貴族や裕福な商人の跡取りくらいだと聞く。であればカルム家の食卓で交わされる会話は、たとえそれが生活や仕事に即した技術や知識に偏ったものだとしても、経験の浅い若者たちへの貴重な学習機会と言えるだろう。

 

 そんな賑やかな夕食の後、ジーウからふたりで話したいと誘われた。

 3階の一室に案内され、勧められるまま椅子に腰を下ろす。

 

「改まって話とはなんだ?」

「ウルリカをお前さんとこのサッチャー殿に弟子入りさせてほしい」

 酒は入っているものの冷静で、そして真面目な口調だ。

 ウルリカは彼の長女、サッチャーはクラーナが考案したマーシャの名字だ。

 

 何度か鍛冶場で働くウルリカを見た。娼婦のリタと同じ20代半ばで、容姿は王国で一般的な金髪碧眼。日ごろから槌(ハンマー)を振るっているので娼婦らよりは筋肉が付いていた。鍛冶場での手際は素人目に見ても堂に入っているものだったと記憶している。

 

 ここ半月の間、俺の仕事とは別に、異相協会も広場での商いを続けていた。その商品をジーウが手にし、制作者であるマーシャの技能について何度か触れた。その時に包み隠さず――とは当然いかなかったが、彼がマーシャのことを知っているのはそんな経緯からだ。

 

 だからこそ疑問だ。確かにマーシャは鍛冶師(ブラックスミス)、刀匠(ソードスミス)、銃工(ガンスミス)の特殊技能(スキル)を持つ。特に前者ふたつはこの世界でも最高水準だろう。しかし、ジーウも領主に雇われるほどの鍛冶師で腕は確かだ。いかに親睦を深め、そして異相協会の技術が素晴らしくとも、娘を根無し草に預けようとする意図がわからない。

 仮に異相協会の技術がほしいだけならジーウ本人がマーシャから学べばいい話だ。

 

「なぜだ。あんたは親方(マスター)だろう? 自分で教えてやればいいじゃないか」

「もちろん技術は教えられるしそうしてきた。だが組合(ギルド)の規則で遍歴経験のない者は見習い以上にはなれんのだ。どんなに腕が立とうともな」

 

 続くジーウの説明によると、どうやら多くの製造職組合は遍歴修行を必須としているとのことだった。職人業は代々技術を親から子へ、あるいは師から弟子へ継いでいくものではあるものの、“組合員の質”を保つため、特に見習い期間中は親族以外への師事が不可欠らしい。これは未熟なまま身内贔屓で「一人前」を名乗らせないためで、さしもの親方(マスター)であるジーウも従わざるをえないと言う。

 ただこの「組合員の質を保つため」というのも建て前で、本来は先達の職人たちが都市内の限りある食い扶持を奪われないために若手を追い出すのが目的らしい。ジーウ自身も弟子を抱える身だ。組合の事情は理解しつつも、やはり娘を放浪させる事には抵抗があるのだろう。

 

 ジーウは深いため息をつく。

「本来ならこの道を認めた時点で強引にでも他所に預けるべきだったんだが、気づけばあれも行き遅れてしまった。弟子に嫁がせることも考えたが、困ったことに本人にその気がない。このままだと工房も持てない半端者だ」

 娘可愛さに先延ばしにしてきた親の責任だとジーウは自嘲する。

 

 親心とやらは分からないが、男だらけの界隈に娘を放り出すと考えれば想像はつく。漠然と心の奥底で焦りを抱えていたところへ、マーシャという腕の立つ女鍛冶師の存在を知った。その伝手である俺がレエブン侯の仕事を終えた今、せっかくの機会を逃すまいと意を決して提案してきたのだ。

 

 ジーウは軽く頭を振ると声の調子を戻す。

「弟子入りの話は無理にとは言わん。だが街を出る時に同伴を頼みたい。王都へ行くんだろ? 王都の組合(ギルド)でならあぶれずに食っていけるはずだ。片道だけでいい、娘の独り立ちに協力してくれ」

「事情は分かった。だが彼女の主は別でね、弟子入りの話は一旦持ち帰って検討させてもらう。もし駄目でも同伴に関しては俺の裁量で連れていけるからそこは安心してくれ」

「そうか、恩に着る」

 

 俺の言葉にジーウは心底安堵した表情を見せたのだった。

 

 

* * *

 

 

 深夜、アエラと共に帰路につく。

 この世界の夜は、暗い。その暗さは俺が知る現実(リアル)のそれとは異なり、大気を覆う粉塵が無い分、広く開けた場所なら月明かりだけで歩けるほどに闇が澄んでいた。

 逆に「路地裏」は危険だ。都市構造体、つまり密集した建造物の隙間には月明かりは届かず、街灯が少ないことも相まって深い闇が生まれるのだ。

 

 大通りに人影は無い。燃料が貴重なこの世界の消灯時間は総じて早い。そんな誰もが寝静まる中、暗闇に紛れて出歩く者がいるとしたら、それは目的をもって行動している奴だ。

 

『――ヴィクトル様』

『ああ、見(・)え(・)て(・)い(・)る(・)』

 アエラの警告に応える。

 

 広場に戻ると、馬車に一番近い建物の屋根に“透明化した大きな何か”を種族能力〈生命感知(ディテクト・ライフ)〉が捉えた。見張りのジルに目配せすると、彼女は「大丈夫」とひとつ頷き返した。

 察するにアインズ・ウール・ゴウンの関係者だろう。

 

 

 

 

 

 クラーナの部屋に顔を出すと、応接間のソファーに小さなお客様が座っていた。

 アインズ・ウール・ゴウンの主要NPCのひとり、闇妖精(ダークエルフ)のアウラ何某。「お邪魔しています」と会釈してくれた彼女は、コーラを飲みながらクラーナの作業を待っているようだ。

 

「いいところに来たわ。これに目を通して」

「――回覧板?」

 俺はリリが用意してくれた椅子に座り、クラーナから回覧板を受け取る。

 状況からアウラが持ってきた物だろう。

 

「回覧板だなんて彼も古風よね」

「外だと割と現役だったぞ」

「本当に? 再生紙で?」

「いや、端末の回し読みだ」

 

 度重なる震災でボロボロになった外界の通信網は、外に住む技術屋が細々と延命していた。お世辞にも設備の状態は良いとは言えず、完全環境都市(アーコロジー)内と比べると通信状況も不安定だった。旧時代のITインフラに限界が迫っていたのも確かだが、最大の要因は大気を覆う粉塵が作りだす静電気。電子機器の信頼度が天候に大きく左右されてしまうのだ。

 無線による通信に信頼が置けなくなって採られた手段が、有線で記録した端末を一次ソースとして関係者間で回し読みすること。それを指して外の連中は「回覧板」と呼んでいた。

 

「この話は後にしよう」

 アウラが興味深そうに聞き入っていたので話を切り、回覧板の内容を確認する。

 

 アインズ扮するモモンがアダマンタイト級冒険者になったこと。現地の万能薬を手に入れたこと。リザードマンとの戦争を控えていること。偽ナザリックを建築中であること。牧場経営を始めたこと。王都にNPCを派遣したこと。等々、ここ最近の出来事がまとめられていた。

 またそれとは別にトブの大森林の地理情報もあった。

 

「資料と地図はもらっていいのかな?」

 俺はなるべく優しい声音でアウラに話しかける。

 他所様の子供に話しかけるのはいつ以来だろう。

「はい、御二方のサインだけ頂ければ大丈夫です」

 アウラの溌剌とした返事に頷き、俺は資料を抜き取る。

 

「ヴィクトル、彼に伝えたいことがあるなら一緒に書いちゃうけど?」

「ああ、そうだな」

 クラーナの言葉に甘える。

 

 モモンの昇級祝いなど社交辞令はクラーナが済ませているようなので、俺は少し実のある要求をしようと考える。

 まずは「現地の万能薬」とやらの株分け。錬金術師(アルケミスト)として無視はできない。

 次いで研究用に生きたリザードマン。クレマンティーヌで人間と人狼(ワーウルフ)に対する薬効は試せた。あと1~2種族くらいを相手に実験し、ユグドラシルとの違いに慣れておきたい。

 最後に、王都リ・エスティーゼに先行しているナザリックのNPCとの接触を希望する。アインズを通じた情報の共有も有用だが、王都入りの際に現場でしか得られないものもあるはずだ。

 これらの対価は要相談と付け加えておく。

 

「――よし。書けたわ」

 記入し終えたクラーナが羽ペンを置き、彼女の紋章が刻まれた印璽環(シグネットリング)で手紙に封をする。羽ペンを走らせている姿もだが、楽しそうに垂らした蝋に印を押しあてている。

 

「じゃあ、これをよろしくね、アウラちゃん」

「お預かりします。――それでは、本日は夜分の訪問にもかかわらずお時間頂きありがとうございました。そろそろおいとましようと思います」

「今度は弟さんと遊びに来てちょうだい。リリ、お見送りを」

 

 

 

 

 

 アウラが退室すると、俺とクラーナは一息つく。

「可愛かったわね」

「手を出すなよ」

「馬鹿ね、私をもっと信用なさい」

 普段の行いを思うと不安しかない。

 

「ヴィクトル、まずはお疲れ様。ゲームと違って気苦労もあったでしょ」

「まあな、これが報酬だ。それとレエブン侯から追加依頼だ。明日また商談に行く」

 俺はアイテムボックスから報酬を取り出し、クラーナの机に積む。交易共通白金貨10枚、王国金貨900枚、銀貨1000枚、金貨100枚と書かれた交易共通小切手が4枚だ。

 そしてレエブン侯から聞かされたグニラの一件を伝える。

 

「依頼に関しては了解よ。グニラたちの件もね。でも、組織の長(ギルドマスター)としては事後報告をしてほしかったわ。先方にお礼の手紙も書かないとだし、知らないところで借りを作るのは嫌よ。――それよりも」

 クラーナが会話を区切り、机の上の金貨に手を伸ばす。

 

「これでツケを払えるわ」

「また娼館に行っていたのか?」

 ここ半月の間、クラーナは淫欲に溺れていた。売る側から買う側になった反動か、娼婦や男娼を馬車に連れ込むこともあれば娼館を丸ごと貸切ることもあり、ずいぶんと派手な生活を送っていた。

 異相協会の稼ぎがあるものの、娼館への支払いを宝石などの現物や、時にはツケにして店を後にする有様だったのだ。

 

 だがここで注目すべきは、クラーナがツケにできるだけの社会的信用をこの短い期間で構築できたことだ。異相協会が扱う商品はどれも品質が良い。しかし、だからといってただ売るだけでは信用は得られない。彼女が有力者と顔を合わせて接待や商談をまとめた成果といえるだろう。

 ただし、商談の際に「異相協会の女会長は色を好む」との噂が広がり、その色欲に付け込もうと高級娼婦を同伴する“分かりやすい輩”が増えたのは言うまでもない。

 

「それなんだけど、複数の娼館から接触があったの」

「ツケを払えって?」

「違うわよ! いや、それもあるけれど、パトロンにならないかって」

「こっちは住所不定なのにか? よく誑(たら)し込めたな」

 俺の言いようにクラーナは苦笑する。

「言い方。――まあ、いい金蔓だと思われているのは確かね」

「背後関係が気になるな」

 

 売春業は地域密着型の生業だ。冒険者組合や豪商が地域をまたいで足並みを揃えているのに対し、売春業は組合らしい組合も無く、街や国を越えての連携はない。その根底には、性従事者とは“所有された持たざる者”という実情があるのだ。

 封建社会では大概の事柄に王侯貴族や聖職者が絡んでいる。性従事者の直接の所有者が誰であれ、金が行きつく先はどちらかだ。

 エ・ランテルの衛兵隊長の忠告通り、何者かの暗躍を警戒する必要がある。

 

「私が調べておくわ。問題がなさそうならグニラの店みたいに取り込むつもりよ」

「管理はどうする?」

 大事にならなかったとはいえエ・ランテルの神殿と対立しそうになった事実は無視できない。

「ひとまずグニラとマリーに任せるわ。満点ではないけれど行動で示してくれたんだもの。無理が生じたら人員を増やせばいいわ。あと、レエブン侯に色々と掛け合ってみるつもり」

「――レエブン侯か」

 

 以前クラーナが娼館組合を作ろうとした時はこの世界に転移したてで右も左も分からなかった。だが今は現地人と交流を持ち、アインズとも接触した。多少はこの世界に関して理解を深めたといえるだろう。

 前回は国王直轄領(エ・ランテル)だったので娼館組合の件は白紙としたが、今回はレエブン侯が治める領地。彼を味方にできれば組合の件も実現できるかもしれない。

 

 

 

 

 

 娼館の件はクラーナに任せるとし、俺はジーウの願いをクラーナに伝えた。

 俺がジーウの世話になったことはクラーナも知っている。その娘をマーシャの弟子にと頼まれれば彼女も無下にはできないだろう。

「弟子入りねえ、……迷うわね」

 クラーナが肘をつき、顎に手を添える。

 その手には先ほどアウラが持ってきた資料がある。

「決めた、弟子入りを認めましょう」

 

 クラーナの承認にひとつ疑問を投げる。

「こっちの人間にユグドラシルの技能(スキル)を習得できると思うか?」

「それを調べるのよ。アインズも死の騎士(デス・ナイト)が武技を覚えられるか実験しているみたいだし、逆を試すの」

 

 その言い分に納得する。可能なら俺もクレマンティーヌで実験をしたいところだが、生憎と異相協会には戦士職を教授できる人員がいない。ジーウの娘でかなうなら試す価値はある。

 

「俺からジーウに伝えておく。具体的な話は追々だな」

「ええ、よろしく。じゃあ、今日はお開きね。――ふふ」

「なんだ?」

 察してはいるが、クラーナの含みのある笑みに眉をひそめてみせる。

「最近お盛んみたいじゃない? アエラちゃんが可愛いのも分かるけど、たまには大部屋にも顔を出して?」

 

 何の事はない、“あっち”のお誘いだ。

「敢えて否定はしないが、俺は男娼になったつもりはないぞ」

「ヴィクトルに貢ぎたくて給金を貯めてる娘もいるんだから、ご指名に応えてあげなさいな」

「ホストでもない。――というか、金の使い方は他にもあるだろう」

 クラーナの言葉に呆れてしまう。

 彼女たちもギルド内割引で異相協会の物を買えるというのに。

「あら、何事にも“対価を”と言ったのは貴方よ?」

「あれは異相協会としての話だ」

「分かってるわ。でも、これでいいのよ。食事、衣装、娯楽、なんでもいいわ。自分へのご褒美は生き甲斐になるもの」

 

「左様でございますか。まあ、気が向いたら行くさ」

「ふふ、お願いね」

 仰々しく返事をし、結局折れてしまう。

 俺はここまで押しに弱かっただろうか。

 

 俺は仕事以外の人間関係が希薄だった。

 プライベートの時間を誰かと過ごすことがなかったので調子が狂う。

 

 俺は妖しく微笑むクラーナを尻目に、彼女の部屋を後にした。

 

 

* * *

 

 

 自室に戻って最初に向かう先は寝室と書斎を兼ねた最奥だ。

 外行きの上着を脱ぎ棄てて独り掛け用の革張りソファに座る。

 そして読みかけの魔導書を手に取る。

 

 クラーナが大部屋に誘うほどに俺が自室に篭っている理由は、読書。暇を見つけては娼館通いをしていたクラーナとは違い、俺はユグドラシル由来の書籍を読み漁っていた。

 

 夜は暇だ。睡眠とは無縁の種族。この世界の何かを観察しようにも、都市全体が寝静まるのでそれもかなわない。

 睡眠代わりにバスタブに収まることもあったが、それも連日となると「落ち着きたい」を通り越して「時間が勿体ない」と感じるようになってしまった。

 

 結果、俺が取得している職業(クラス)や技能(スキル)、位階魔法に関する本を読むことにしたのだった。

 そして、俺がクラーナの言った「お盛ん」を否定しなかったのもまた、ある意味では事実だからだ。

 

「ヴィクトル様、ご奉仕させていただきます」

 黒ナース服のアエラが、ソファに座る俺の前に屈みこむ。

 成すがままズボンのチャックを下ろされ男根(ペニス)を露わにされる。

 

 アエラが愛おしそうに亀頭に口付けをし、そのまま躊躇いも無く根元まで一気に咥えこむ。

「じゅるる、じゅるるぅぅぅ」

 そして男根(ペニス)を咥えたまま、慣れた所作で頭の往復運動を始める。

 

 エ・レエブル滞在から少し経った頃、アエラは周囲に感化されて俺を求めるようになった。

 求めるとはいっても、もっぱら彼女による口戯(フェラ)や、自慰を補助する陰核(クリトリス)への愛撫と可愛いものだ。

 以前アエラへは狼として侍ってほしいと伝えたが、同時に我儘も許すと宣言した手前、ペットをあやすつもりで相手をしている。

 

 しかし、あやすつもりで始めたものの、少しばかり心情の変化があった。

 

「じゅるる、じゅるる――、ぐっ!?」

 アエラが根本まで咥えたタイミングを狙い、自分の右脚を彼女の首に絡めて固定する。プロレス技で例えるなら「首四の字固め」だが、背後からではなく正面から固めている点で異なる。

 

 俺は気ままに脚を緩めたり、逆に強く締めてアエラの反応を楽しむ。

 こうした意地悪をなんの宣言も無く、一方的にしたくなるのだ。

 

 粘体(スライム)になって希薄になった性欲だが、代わりに食欲と征服欲、それに嗜虐心を加えて、俺は「女を抱く楽しみ」を得たのだった。

 

「お゛ごぉ、じゅる、おえ゛ぇっ」

 喉に突き刺さる異物を追い出そうとアエラがえずく。

 

 咽頭反射で不随意に跳ねるアエラの身体を楽しみつつ、読書を続ける。俺にしてみれば口で飴を転がしながら本を読んだり、音楽を聞く感覚に近い。

 アエラも俺が楽しんでいることを理解している。無理に逃れようとはせず、その乱暴な行為に身を委ねていた。

 

 普通であればイラマチオは危険な行為だ。強制される側は耐え難い苦痛を感じるだけでなく窒息の危険もある。反射による顎の痙攣が起これば強制する側も嚙み千切られることもある。

 だが都合のよい事に、この粘体(スライム)の身体に物理的損傷の心配は無い。アエラも普通の人間ではないので無茶ができてしまうのだ。

 

 アエラは両目に涙を湛えたまま、しかしそんな状況でも彼女の股間からは早くも雌の匂いが漂いはじめていた。

 

 俺は不意にクレマンティーヌのことを思い出し、本を置く。

 アエラの喉を楽しむ傍ら、書斎の隅で縮こまっていたクレマンティーヌを呼びつける。

「クレマンティーヌ、今日の成果をみせろ」

「は、はい」

 相変わらず床に敷いた毛皮が彼女の寝床だ。

 

 目の前まで来たクレマンティーヌは裸だ。飾り付けしたピアス以外はなにも身につけていない。恥丘の下、陰裂の隙間からは、拡張されて肥大化した陰核(クリトリス)が顔をのぞかせている。

 客人がいない限り、この部屋にいる間は、これが彼女の正装だ。

 

 俺は自分の左脚をトントンと叩いて示すと、その太腿を跨ぐようにしてクレマンティーヌは自らの股間を押し付ける。するとプリッとした陰核(クリトリス)が押し出され、拡張具合が先ほどよりも露わになる。

 

「ご確認ください゛ひぃっ!?」

 

 クレマンティーヌの言葉を待たず、ズボンの生地が愛液を吸って小陰唇(ラビア)が張り付いていたのをお構いなしに、俺は彼女の腰を引いた。

 ズボンの生地は上等とはいえ摩擦が無いわけではない。そこを赤剥けて繊細になった実が擦ったのだ。

 

 俺の太腿はナメクジが這った跡のようにぬらぬらとランタンの光を返す。

「ずいぶんと大きくなったな。そろそろか」

「ひぃ゛っ」

 陰核(クリトリス)を摘まむ。

 根元の径が15ミリ、長さは30ミリほどだ。

 

 クラーナの見積もりよりも成長が早い。クレマンティーヌの努力を誉めるべきか、「遊び」を延々と強要し続けたクラーナに呆れるべきか、迷うところだ。

 

「クレマンティーヌ、自慰を許す。いつも通り手を使わず、俺の膝を使え」

「か、畏まりました」

 クレマンティーヌが覚悟を決めた表情で両手を頭の後ろで組む。

 そしておずおずと後ずさると、中腰のまま、腰を巧みに操り、俺の膝で秘裂を擦り始める。

 

 クレマンティーヌはゆっくりと、小陰唇(ラビア)で快感を味わうかのように、緩やかに腰を動かす。彼女は学んだ。俺やクラーナの「許す」がある種の命令であると。自慰は許されたが、休むことは許されていないと。

 絶頂を迎えても休めない。彼女は甘美な快楽の先にある苦痛を知っている。緩慢な動きは必ず訪れる苦痛を可能な限り先延ばしにしたい心理の表れだ。

 

 アエラの嗚咽とクレマンティーヌの湿った音を環境音に、俺は読書を再開する。

 

 

 

 

 

「い゛っ、いぎます!」

 クレマンティーヌの何度目かの自己申告に、俺は読書の海から意識を浮上させる。

 彼女は足腰に限界がきたのか、床に崩れ落ちそうになるのを踏ん張ると、腰をぐいっと突き出して俺の太腿に座り込む。

 休憩は許していない。股間を膝から離すことも許していない。仮に床の潮溜まりへ崩れ落ちていたなら“お仕置き”が待っていた。それを踏まえると俺の太腿に留まれただけで及第点だろう。

 

 クレマンティーヌは弱々しく腰をくねらせる。

 休んではいないとのアピールだが、はたから見ても限界だと分かる。

 

 アエラはアエラで顔を涙と涎まみれにしながら酸欠で朦朧としていた。

 始めは四つん這いのままきちんと奉仕しようと動かしていた頭も、いまは両手を床に投げ出し、俺が脚に込める力の強弱に任せたままだ。

 長時間のイラマチオに喉が慣れたのか、喉奥まで犯しているにもかかわらず嘔吐反射が弱まっていた。

 

「起きろ、アエラ」

「ん゛ぐぅ!?」

 気付け代わりに喉を一突きすると、焦点の定まっていなかったアエラが覚醒する。

 

 俺が男根(ペニス)を一旦引き抜くと、次の行動を察したアエラが大きく口を開けて舌を出す。

 

「分かっているな? “待て”だ。――出すぞ」

 

 俺はそう宣言し、アエラの口に射精する。

 クラーナをして「多すぎ」と言わしめた精液(ザーメン)が瞬く間にアエラの口を満たすと、そのまま涙と涎で塗れていた顔に上塗りするかのようにぶっかける。

 溢すなとは命じていないが、アエラは健気にも顔から溢れ落ちる精液(ザーメン)を両手で受けていた。

 

「ふたりで分け合え」

 口に精液(ザーメン)を湛えたままのアエラにクレマンティーヌを差し向ける。

 自慰の強制から解放されたクレマンティーヌが秘裂から糸を引きながら立ち上がると、動けないアエラに顔を重ね、口付けをする。

 

「じゅるるっ、ちゅるる、じゅるるるぅ」

「ちゅっち゛ゅっ、んじゅっ、れろぉ」

 

 ふたりの女が俺の精液(ザーメン)で顔を濡らしている。

 俺が吐き出したそれを、まるで愛おしいもののように分け合い、飲み下していく。

 

 片や無条件に従順な女、片や力で屈服させた女。

 どちらも歪な出会いだが、それでも初めはモノのように扱うことに罪悪感を覚えていた。

 しかし回数を重ねるごとにその罪悪感は薄れていき、今では征服欲が増した。

 

 もっと執拗に犯したい。

 あるいは、いっそのこと畜生にまで堕としてしまいたいとさえ思い始めていた。

 

 そんな自身の変質を意識しながら、俺は懐から〈清潔(クリーン)〉の巻物(スクロール)を取り出すのだった。

 

 




独自設定
・交易共通小切手。交易共通白金貨と同じように他国の銀行などでも通用するもの。
・ジーウの住宅事情。16世紀あたりの都市市民の住まいを参考にしています。住まいと仕事場が補完的な関係にあった中世時代に鑑みると、リモートワークで仕事場が身近になった昨今の状況も味わい深いものです。
・家の役割に倉庫を個別に記したのは「商品の在庫を保管する場」も含むが、どちらかといえば「食糧庫」の意味合いが強い。祭や市のときに大量購入し、現代のように頻繁に買い足すことはない。数ヶ月から1年を通じて持つように小麦や肉を貯蔵している。
・アウラが広場まで連れてきた魔獣はイツァムナー。他にも何匹か周囲に潜んでいる。
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