リ・エスティーゼ王国は封建制度により統治される人間の国家である。多くの人間種国家が他種族の脅威に晒されているなか、リ・エスティーゼ王国は大きな侵略もないまま長く安定した歴史を持つ。アゼルリシア山脈の西に位置し、山脈から流れる水が隣接する大森林の腐葉土を通ることで肥沃な土地にも恵まれていた。
しかし、その豊かさゆえに王侯貴族は堕落した。支配者たちは派閥争いに明け暮れ、領民たちは重税と徴兵により疲弊した。
そして悪いことに、犯罪組織の蔓延をも許していたのだった。
王国を蝕む犯罪組織「八本指」は、王国社会を裏から牛耳る犯罪組織だ。麻薬、奴隷売買、警備、密輸、暗殺、窃盗、金融、賭博の八つの部門からなり、その影響力は王国に存在する大小様々な組織に通ずると噂される。
そんな強い影響力を持つ八本指の各部門ではあるが、彼らは決して一枚岩ではなかった。
表立っての対立や抗争はないものの、各部門が独立した犯罪組織だった過去を持つことから、隙を見せれば互いに足をすくう関係でもあった。
八本指の麻薬部門は金回りがいい。性質上どの身分階級にも影響力を持つ部門でもある。
主力商品は植物性違法薬物、ライラの粉末。通称
黒粉は売る側に都合の良すぎる薬物であり、八本指の重要な資金源であった。
満月の夜、王国の冒険者3人が雑木林を探索していた。
ひとりは仮面を付けた小柄な人物で、ふたりは目元以外を黒装束で覆った女だ。
3人は王都の冒険者組合に所属する5人組のアダマンタイト級冒険者チーム「蒼の薔薇」のメンバー。魔法詠唱者のイビルアイと、ローグのティアとティナだ。
彼女たちの目的は黒粉の栽培地を見つけること。
八本指と繋がりのある地方を治める領主の噂を聞きつけ、遥々王都から遠征してきたのだ。
雑木林を進む3人が不意に足を止める。
木々の切れ目、満月が照らす空き地に馬車を見つけたのだ。
街道から外れた雑木林に4頭立ての馬車。
その光景に3人は違和感を覚えた。
月明かりに照らされた馬車は、見ようによっては魔女の家にも見えた。
3人は月光に照らされないよう木陰に潜む。
黒装束のふたり、ティアとティナが馬車を窺う。
「例の畑とは無関係そう」
「調べる?」
「待て」
イビルアイがふたりを制す。
「
「
「それも違う。張りぼてでないとしたら、おそらく
「全部?」
「ああ」
短い肯定に沈黙が降りる。
言葉を失うのも無理はない。
「
「法国?」
「依頼の範疇外だ。ここで悩んでも仕方がない」
逸れ始めた思考をイビルアイが一旦区切る。
「手掛かりになるか分からないが御者台に旗がある。それだけ調べて仕事に戻るぞ」
「なら、ティナと見てくる。イビルアイは周囲を警戒してて」
3人とも夜目は利く。
とはいえ、風もなく垂れさがった旗を確認するには近づくしかない。
イビルアイを残し、黒装束のふたりが馬車に向かう。
ティアとティナは前後に組んで素早く行動する。
前を進むティアが御者台にたどり着くと、背中に手を回して指を複雑に動かす。
――待機、すぐ戻る。
暗殺者が使う手話だ。
振りむくことなく、発話を介さず意思を伝えることができる技能だ。
ティアが御者台を調べ、ティナは不測の事態に備えて下で待つ。
ティナがティアを視界に入れながら周囲を警戒していると、不意に後方で待機しているイビルアイが息を飲む。何事かと視線をイビルアイへ向けたやさき、今度は馬車が大きく軋み「ボトリ」と小さな落下音がした。
ティナは反射的に視線を戻す。
共に厳しい訓練を積んだティアが任務中に体勢を崩し、そのうえ何かを取り落とした。そんな「らしくない」失態に内心驚きつつ御者台を見上げ、思考が止まる。
ティアから視線を逸らしていた時間は僅かだったはず。
御者台に上っていたティアが、消えていた。
それだけではない。
ティナは直前に聞いた落下音を目で追う。
足元に見慣れた手が、手首から先が、落ちていた。
それがティアのものだと認識すると同時に、襟元を強く引かれる。
「走れ! 振り返るな!」
イビルアイに急かされるまま走る。
ティアとティナは暗殺者として育てられた過去を持つ。
任務中、仲間の損耗に心が動かないよう訓練を受けた。
仲間の死に心動かされることはない、と思っていた。
「っ!?」
ティナの足がもつれるがすぐに立て直す。
厳しい訓練が転ぶことを許さなかった。
だが、ティアの消失に僅かな動揺を自覚する。
「しっかりしろ! クソッ、あんな規格外、あれは無理だ!」
並走するイビルアイが吐き捨てる。
「よし、飛ぶぞ!」
エ・レエブルを出て数日後の深夜。
王都を目指す異相協会の馬車は雑木林に停車していた。
疲労とは無縁の
もっとも、それは雇った人間たちへの配慮であって、俺やクラーナ、NPCたちにはただの自由時間でしかない。
しかし、夜を自由時間と定めたものの、この世界の人間にとって夜は寝る時間だ。カーリンらも夜に何かをする習慣はなく、それこそクラーナから夜伽を申しつけられない限り就寝する。プレイヤーの影響を受けたであろうこの世界であっても、灯りが無ければ「夕食」という概念すら危うくなるのかと驚いたものだ。
そんな周囲が寝静まった異相協会の工房で、俺はクレマンティーヌを相手に魔導具をとっかえひっかえ試着させていた。
「こいつはどうだ?」
「グゥ、ナントカ、保テマス」
「もっとランクが必要か」
今夜は満月。
クレマンティーヌが
彼女は今、満月の影響で人狼化中だ。その姿は狼の頭を持つ獣人。アエラの種族「古狼の血脈」とは違い、クレマンティーヌの口は裂けてはいない。ただ口蓋や喉の形が変わったことで発声がややぎこちなく、流暢に喋るには慣れが必要そうだった。
そしてやはりと言うべきか、人狼化の発現と同時に理性を失ったのだ。
今は暴走に対処すべく魔導具で精神力を補おうとアレコレと試している最中だ。
インベントリから漆黒の石が留められた指輪を取り出す。
「これはどうだ?」
「落チ着キマシタ。意識モ、ハッキリ、シテマス」
「ならこれで決まりだな」
俺は側で控えていたマーシャとウルリカに指示を出す。
「マーシャはこれを10個試作してくれ」
「畏まりました」
「ウルリカもやってみろ。素の技量で無理なら“ゴヴニュの槌”の使用も許す」
「はい、鋭意努力します」
俺は鍛冶師ジーウの願いを受け、異相協会は彼の娘を預かった。ウルリカはマーシャに弟子入りし、ユグドラシルのアイテムを作れるか、または
彼女も人間なので本来ならカーリンらと同じように就寝してもおかしくないのだが、実験を効率的なものにしようと貸し与えた
ゴヴニュの槌はそんなウルリカの技量を大きく上昇させるアイテムだ。“ダグザの大釜”と同じ分類のアイテムで、ステータス補正の高い
ユグドラシルではもっぱら「採掘場で掘れば安く済むが金貨で解決できるならそれでいい」といったスタンスの製造職に重宝されていた。
マーシャとウルリカの作業を眺めていると、アエラが工房にやってきた。
ひと目で「何かやらかした」と察する。
アエラは黒装束の女を抱えていた。それも片手がない。鋭利な刃物で切り落とされたかのような傷口だ。呼吸も荒い。吐く息に血の香りが混ざっている。外見からは分からないが、肺に損傷を受けるほどの衝撃を受けたのだろう。
「あのぅ、ヴィクトル様」
「急を要する時ほど簡潔に、だぞ」
「はい。――実は」
要約すればこうだ。
満月の夜、人狼化して夜の散歩を楽しんだ帰り、不届き者が異相協会の旗を盗む現場に遭遇。咄嗟に手を出してしまったが、直後に仲間と思しき二人組が転移で逃亡。吹っ飛ばした相手を回収し、今に至る。
「申し訳ありません、取り逃がしました」
「気にするな。俺もこんな辺鄙なところで
アエラは取り逃したことを気にしているようだった。
咎める気はない。そもそも散歩を促したのは俺だ。満月の夜でも人化を維持できるアエラでさえ感情は昂る。馬車に篭って過ごすよりは気分転換になればと古狼化を許して送りだしたのだ。
それにクレマンティーヌの他、この世界の人間からは熟練の
不可抗力。番犬が番犬らしく仕事をしたに過ぎない。
ここで叱ることで、このさき委縮して吠えなくなっては困る。
懸念があるとすれば古狼化した姿を見られたことだろう。
だが変身中を見られたわけではないし、野盗が騒ぎ立てたところでどうとでもできる。
「アエラ、次からはもう少し加減しろ。お前なら傷つけずにすむはずだ」
「畏まりました」
「そいつを見せろ」
アエラが抱える黒装束の女、その口元を覆う黒い布をずらして顔を晒す。
頬をペチペチと叩く。
「おい、意識はあるか? ――これは」
顔を晒して気づいた。
緩んだ黒装束の内側に、以前見たことのあるクレマンティーヌの
《クラーナ、面倒なことになったかもしれない》
〈
冒険者プレート。
それも厄介なことにアダマンタイト製のプレートだ。
王都リ・エスティーゼ、昼。
アダマンタイト級冒険者チーム「蒼の薔薇」は仲間一人を欠いたまま、拠点とする最上級の宿に集合していた。
酒場と食堂を兼ねた1階。チームメンバーの誰が主張した訳でもないが、最奥にある半ば「指定席」扱いの丸テーブルは重苦しい雰囲気に包まれていた。
「まだ死んだって決まったわけじゃねえんだろ? 場所を教えろ、イビルアイ」
大男と見紛うほどの筋骨隆々な女が声を低く荒げる。
対してイビルアイと呼ばれた小柄な仮面の女は冷静に突き放す。
「駄目だ、ガガーラン。遭遇したらお前も失う事になる」
「馬車は人目を避けていたんだ。事を起こしたなら移動しているさ。ティナもそう思うだろ?」
話を振られたティナは、しかし首を横に振る。
「ティアを囮に罠を張っているかもしれない。それに、イビルアイが魔神をも凌ぐと言うなら、きっとそう。今は周囲に警告を出すべき。――捜索は後でいい」
一番近しいはずのティナから慎重な言葉が出たことでガガーランは押し黙る。
鼻息荒く納得した様子はないものの、ガガーラン自身もアダマンタイト級冒険者だ。歴戦の猛者として優先すべきことはわかってはいるのだ。
ガガーランはひとつ息を吐いて落ち着いてみせると、チームリーダーに声をかける。
「で、どうするんだリーダー」
話を向けられた蒼の薔薇のリーダー、ラキュースは目をつぶり考えに耽っている。
普段であれば「生命の輝き」とも呼べる彼女の魅力ある容姿は、心労からか僅かに影が落ちていた。いつもならきちんと整えられている金髪も、今はどことなく色褪せて見えていた。
「王に謁見を求めるわ。それに叔父様を呼び戻してもらわないと。ガガーランは組合へ、イビルアイは――」
〈
「誰だ!」
不意の魔法詠唱に対してガガーランが立ち上がろうとした瞬間、背後からその首を掴まれる。
「くっ?! た、立てねえっ!」
ガガーランは戦慄する。
背後を取られただけでなく、力自慢が膂力で制されたのだ。
ガガーランの後から警告が飛ぶ。
「全員動かないでもらえるかしら。でないと、
蒼の薔薇に脅しをかけた“赤毛の襲撃者”は店内を窺う。
そして周囲の反応にほくそ笑む。
「防音対策とは感心ね。好都合だわ」
昼時の食堂はその時間帯の割には客が少なかった。なぜなら最上級の宿ともなればその食堂のメニューも高額だからだ。この場には高額な料金を支払えるだけの裕福層や上級冒険者などの極少数しかいないのだ。
彼らは注意を一瞬向けながらも、すぐに感心をなくしたように気を逸らす。それは一見するとテーブルにつく蒼の薔薇に女が親し気に話しかけているだけであり、加えてアダマンタイト級冒険者チーム「蒼の薔薇」を覗き見続ける無粋な客層でもないからだ。
もっともその無関心さに拍車をかけているのは他でもない、当の蒼の薔薇が講じた防音対策によるものが大きい。一般人ならいざ知らず、上級冒険者であれば「聞こえない」ことに違和感を覚えてもおかしくはない。だが、
冒険者は互いに深く干渉しない文化を持つ。それがいま、この場に見えない力となって働きかけているのだ。
「あら、あなたたち双子だったの」
ティナを見た襲撃者から驚きの声が上がる。
そこにイビルアイの声が重なる。
「――その気配は!!」
「今度は逃がさないわよ」
正体に気付いたイビルアイが殺気立ち、それに当てられたガガーランも怒気を纏う。
「てめえがティアを!」
「抑えて、ふたりとも」
「――チッ、分かったよ」
蒼の薔薇のチームリーダー、ラキュースが会話を引き継ぐ。
「チームリーダーとして対話を希望するわ。ガガーランを放してもらえないかしら」
「始めからそのつもりよ」
襲撃者はあっけなくガガーランから手を放すと、躊躇わずに空いている席へと座る。
ラキュースの正面、いつもならティアが座る席だ。
「マジかよ」
背後にいた赤毛の女の姿を初めて認めたガガーランが驚嘆する。
その恐ろしく整った美しい顔立ちもさることながら、自分を押さえ込んだ膂力が細腕から生み出されていたことを知って驚いたのだ。
アダマンタイト級冒険者4人を前に赤毛の女は切り出す。
「まずは自己紹介をさせていただくわ。私の名は
『つ?』
「つ、妻です」
頬を朱に染めて恥ずかしがるアエラを前に、それまで警戒心を露わにしていた蒼の薔薇メンバーの間に微妙な空気が流れる。
「な、なるほど。私は蒼の薔薇のリーダー、ラキュースと申します」
「ラキュース・アルベイン・デイル・アインドラ」
「!」
フルネームを呼ばれたラキュースの顔が僅かに強張る。
「家名を伏せられたのは、あくまでも冒険者として対話を望む、と受けとっていいのかしら」
アエラの問いにラキュースは逡巡する。
「ええ、その認識で構わないわ。――それで、まず先に聞きたいのだけど、ティア――貴女が襲った仲間は無事なのかしら」
ラキュースの質問にアエラの笑みを深くする。
「もちろん無事よ。落とした手も元通り。――ただ、今のところは、と付け加えさせてもらうけど」
アエラの言い様に蒼の薔薇のメンバーは顔をしかめる。
そんな彼女らにアエラは言い聞かせる。
「ひとつ誤解があるようだから訂正。襲ったのではなく自衛、野盗から馬車を守っただけよ。ティアさんが冒険者だと分かったからこそ、こうして話し合いに来たの」
起こった出来事だけを並べればアエラの言い分に矛盾はない。
ラキュースが受けた報告はティナとイビルアイの主観によるもの。ふたりが離脱したその後でティアから蒼の薔薇の情報――例えばこの宿のことなどを聞き出したのだとしたら、アエラの言う通りティアの生存も期待できるだろう。
逆に問題となるのは当時のティア、ティナ、イビルアイの3人が冒険者組合を通さない依頼を受けていたこと。「ティアを襲った魔物」はイビルアイしか見ておらず、深夜に第三者へ忍び寄った状況は野盗だと誤解されても仕方がない。
特に不味いのは組合に問い合わせられること。流石のアダマンタイト級冒険者であっても流血沙汰となれば事情聴取は免れず、場合によっては依頼者の立場に悪影響を及ぼす恐れもある。
それを理解したラキュースが首肯する。
「お互いに誤解があったようね。でも、この場にティアを連れて来なかった理由は?」
「蒼の薔薇の行動は不適切だった。私も過剰な攻撃だった。これでお相子にしたいところだけど、そちらの仮面のお仲間さんが私の正体を見てしまっている」
「つまり、ティアを返してほしければ正体を秘密にしろと?」
「話が早くて助かるわ」
ラキュースが仲間たちへ目配せする。
「みんな聞いたわね。今回の出来事はちょっとしたすれ違いで起こったこと。他言無用よ」
「分かった。リーダーの決定に従う」
「脅されているようで釈然としねえが、ティアのためだ」
「ひとついいか」
「なにかしら」
ティナとガガーランが了承するなか、イビルアイがアエラに問う。
「いまの会話でお前が理性的な存在だとは理解した。だが、お前の力は強大だ。この国にとって脅威とならないかを懸念している」
「その言葉、そのまま貴女に返すわ。どこにでも転移できる
蒼の薔薇に緊張が走る。
「ああ、
「いつから……」
「私は聖職者。
アエラが凄むと周囲を神聖な空気が包む。
「くっ!」
「イビルアイ!?」
近くで見ないと分からないが、イビルアイの僅かにのぞく肌から白い煙が漂う。
アエラの〈
だがそれも一瞬。すぐに神聖な空気は霧散する。
「無害であること。それを証明するのがいかに困難か、貴女も理解しているのでしょ? せっかく双方丸く収まったのだから、変な疑いで話をこじらせないでほしいわね」
「――確かに無粋な問いだった。私も秘密を守ると約束しよう」
イビルアイも思うところがあったのか、しかし不承不承ながら引き下がる。
アエラが席を立つ。
「話がまとまって良かったわ」
「待って、ティアはいつ?」
立ち去ろうとするアエラにラキュースが慌てて声をかける。
「明日か明後日。怪我を負わせたお詫びに会長がもてなしてるの。少しの辛抱よ」
「信じていいのね?」
「もちろんよ。――あ、そうだ。聞きそびれるところだったわ」
アエラが何かを思い出したのか、今度は逆にラキュースへ質問する。
「ロフーレ商会ってどこかしら」
アエラがフロアを退出するのを見届け、俺は
ほどなく宿を出たアエラと合流する。
今日のアエラは黒ナース服ではなく、クラーナが新たに用意した
アエラにとっては2着目の私服だ。
ちなみに俺は以前エ・ランテルでも着たイタリアの国家憲兵をモデルにした制服を着ている。儀礼的な装飾が施されているので厳格な雰囲気の
俺もアエラも揃ってクラーナの着せ替え人形だ。
ただこの衣替えは「アエラと並ぶ」以外にも切実な理由がある。
有り体に言えば冒険者でもないのに
これがユグドラシルなら「
どちらにせよ今の俺に「
それまでは初代ギルマスの「
王都のみすぼらしい大通りをアエラと進む。
目的地はロフーレ商会だ。
アエラが俺を見上げる。
「如何でしたか、ヴィクトル様」
「“様”を外せ。約束しただろ」
「申しわけありません、――ヴィクトル」
「少し硬いが、まあいい。お使いは合格だ。よくやった」
「ありがとうございます!」
合格を聞いてアエラの表情がパッと明るくなる。
「頑張ったのはお前だ。“ありがとう”は変じゃないか?」
「でも、お褒めの言葉をいただきました」
NPCの悪いところが出ている。
「“ホッとした”とか、“嬉しい”の方が自然だと思うが……」
「はい、嬉しいです」
鵜呑みにしているだけなようで腑に落ちない。
きちんと理解しているのだろうか。
「私の正体を流布されたらどういたしますか」
「話の伝わり方次第では放置、明確に敵対するなら排除する」
実のところ「アエラは化物だ」と騒ぎ立てられたところで致命的な状況に陥るとは考えていない。アエラの〈完全なる変身〉は俺の〈
あの満月の夜、接触したのが下級冒険者や野盗であったならば「無かったこと」にしただろう。だがアダマンタイト級冒険者相手ではそうはいかない。蒼の薔薇を排除しなかったのは彼女たちの社会的地位が高かったからだ。
蒼の薔薇が万が一にも敵対したその時は、王都に
社会的に貶めたうえで消す。
アエラが了承とばかりに頷いてみせる。
「なるほど。そうなると王都のアダマンタイト級冒険者にクレマンティーヌを置くのも面白いかもしれませんね」
「エ・ランテルには冒険者モモンがいるしそれも有りかもしれない。だが王国が
「確かにそうですね。――あ、そういえば」
アエラが不意に話題を変える。
「例の娘ですが、蒼の薔薇には2日ほどで返すと伝えたのですが、――大丈夫ですよね?」
「ああ、クラーナの“おもてなし”か」
俺は心のなかで唸る。
ぶっちゃければ性的なおもてなしなのだ。
クラーナがなにをどう読み取ったのかは知らないが、ティアと名乗った娘の性癖に感づいたのだから仕方がない。あの夜からずっとハーレム部屋でよろしくやっているのだ。
「流石に大丈夫だろう」
脳内がピンクでもギルド長だ。
ラインを守れるだけの分別はあるはずだ。
ティアは微睡から目覚める。
「ん……、あぇ?」
何かがおかしい。
動けない。
痛みはないが、身体がとても重かった。
「あら、お目覚め?」
「ぁ……、ク、クラーナ、様……。っい゛!?」
クラーナの声を聞いて
気を失うまで嬲られた身体がいまだに熱を持っている。
動悸が激しい。
気だるさを振り払うように首を振り、霞む目で置かれた状況を把握しようと周囲を見渡す。
広い部屋の中央に置かれた天蓋付きのベッドに寝かされていた。それもクラーナに膝枕をされた状態で、両隣には添い寝するように年端もいかない娘たちが横たわり、動けないティアの身体を思い思いに愛撫をしている。
「ゆっくり休めたかしら?」
美しい女主人が妖艶に微笑む。
この笑みにまんまと騙された。
いや、隙を見せたのは自分自身だとティアは反省する。
性癖を見破られ、甘い言葉に流された。
相手の目的を察し、心に少しの期待を秘め、媚薬が盛られていると知りながら、出された紅茶を飲んでしまった。
慢心。
未知の薬だったのだ。
暗殺者になるべく
「ぉ゛ぉ……」
「意識が無くても身体は反応するものなのね。寝てる貴女も可愛かったわよ」
クラーナの手が伸び、すらりとした指がティアの乳首を弾く。
「ひっ!?」
媚薬のせいか乳首を弾かれただけで達してしまった。
全身が性感帯になったようだ。
「なかなかの感度、ねっ!」
「おぉんっ!!」
クラーナが再度、今度は強く乳首を弾くと、ティアは腰をガクガクと震わせて潮を吹く。
「いい顔ね。もっともっとダメにしてあげる。――ナタリー、いらっしゃい」
「はい」
「分かっているわね? 愛を以って奉仕するのよ」
「仰せのままに」
ナタリーが潮で濡れたティアの股下に陣取る。
「ほら、見て」
クラーナがナタリーの腕を指す。
「……嘘」
「凄いでしょ? 改造したの。気持ちいいわよ、
「ぃ、嫌……」
ナタリーは両手首から先が無かった。だが、問題はそこではない。
クラーナが「改造した」と言ったのはナタリーの前腕。明らかに異常な凹凸があるのだ。それも前腕に何かを巻きつけたなどといった生易しいものではなく、
少女たちが前腕に媚薬を塗りつけると、それは部屋の光をテラテラと反射し、その醜悪で歪な肉棒の形をより際立たせる。
「さあ、よ~く顔を見せて」
クラーナが膝に乗せたティアの顔を両手で挟み、強制的に目を合わせる。
「ゆ、許して」
「貴女に怪我をさせたのはこちらよ? 許してもらうのは私たち。だからね、誠意を受けとってほしいの」
クラーナがナタリーに合図を送ると、ティアの秘部に添えられた彼女のゴツゴツとした前腕に力が入る。
グチュッと音を立てたと同時にティアの腰が大きく跳ねる。
「ん゛ほぉぉぉ!!」
ただでさえ媚薬で過敏な膣をナタリーの腕が抉る。
耐えられるはずがない。
女の細腕とはいえ一般的な男性器より太いのだ。
ティアの潮を顔に浴びながら、ナタリーは前腕をゆっくりと慣らすように抽送する。
「あひぃいい!!」
絶頂の連鎖にティアは盛大に潮を吹き散らす。
「いいイキッぷりね。快楽に必死に耐えようとするそのドロドロの顔も可愛いわ」
ティアの顔はクラーナに固定されたまま、霞む涙目で女神の如き美しい双眸を見つめ返すしかできない。今のティアにとって醜態を観察されていることなど些末なことなのだ。
だが――。
「さあ、本番はこれから。楽しむのよ?」
強烈な快感に晒されていた意識が不穏な言葉を捉えた。
クラーナとナタリーが嗜虐的な笑みを浮かべる。
「力を抜いて」
下半身からナタリーの声が届くのと同時にぬるりとした感触を膣以外から感じ取る。
それが肛門に添えられたもう一本の前腕だと気づき、ティアは危機感を募らせる。
「ヒィ……!」
「さあ、堕としてあげる」
ぬ゛っと押し込まれた異物の
だが、先端の侵入を許したものの続く前腕から肘前にかけての太さはそうもいかない。
「――っ!! ぃ゛ひっ!!!!!」
少しずつ、ミチミチとナタリーの腕が深く刺さるたびに、プシッ、プシッ、と小刻みに潮が飛ぶ。
「心地いい締まり具合です」
「それはよかったわ。それじゃあ、初めて」
ティアの「中」をうっとりと堪能するナタリーにクラーナが指示を出す。
するとティアの股間に両腕を挿入した一見窮屈そうな体勢にも関わらず、ナタリーは上体を器用にくねらせながら凶悪な両腕を高速で出し入れを開始する。
「お゛っっおほぉぉお゛ぉぉぉ!! お゛っ! お゛っ!」
ティアは逃れたくても顔はクラーナに、両腕両脚は少女たちに押さえられていた。
いま彼女にできることと言えば、無様なアヘ顔を晒しながら、唯一動かせる下腹部を反らせ、ベッドから腰を浮かせることだけ。
ナタリーの繰りだす抽送が強く激しくなるにつれ、ティアの腰も高く高く反っていく。
そしてそんなティアの反応に合わせて動きに緩急がつけられる。
「お゛ぉ゛っ! お゛ぉ゛っ! お゛ぉ゛っ! い゛ぃ!! しゅ、しゅごいぃ!!」
「気に入ってくれたみたいで嬉しいわ。――んちゅっ」
「ぉ゛んん、ぶちゅちゅっ!?」
ティアの喘ぎ声とは呼べない雄叫びを上げる口にクラーナの唇が重なる。
『じゅるっ! じゅるるっ! ぢゅぢゅっ!!』
クラーナとティアの舌を吸い合う音と、ナタリーが責め上げるグチュッヌチュッとした湿った音が入り混じる。
ティアは快楽の濁流に飲まれ、抵抗もなくされるがままだ。
「ぷはぁ、――美味しかったわ。ふふ、貴女が同性愛者でなければ中出しの良さを仕込めたんだけど」
クラーナが愛おしそうにティアの頭を撫でる。
しかしティアは痙攣するだけで意思のある反応を返せない。
「ナタリー、仕上げよ」
「かしこまりました」
「にゃっ、なにを゛!!? お゛ほぉぉおぉぉ!!!」
ティアが覚醒する。
自分に何が起こったか理解できないまま腰を最大限に浮かせて潮吹きブリッジを披露する。
「い゛ぐっ! い゛ぐぅ!! お゛ぉ!! と、止まらなひぃ!!」
ナタリーの両腕がティナの子宮を内と外から、円を描くように、パン生地をこねるように、グリグリと押し潰しているのだ。
「ああ、堪らないわ」
「ん゛ほぉ、ぉ゛、んぐぅ!?」
クラーナは膝枕を止めて一旦膝立ちになると、今度はそのままティアの顔面に腰を落とす。
「催してきちゃったわ。――飲みなさい」
クラーナは自分の秘部をティアの口に当て、ぶるりと小さく震えながら容赦なく放尿する。
「ん゛ぐっ! じゅる、え゛ぉ゛! ごくっ、ごくっ、じゅるるる!!」
「良いわ。もっと下品な音を立てて吸うのよ」
クラーナの生暖かい尿を喉へ直接流し込まれたティアは嘔吐きながらも必死に飲み下す。
その間もナタリーの責めは続き絶頂も止まらない。
そしてクラーナの股間から解放されたティアは――。
「ぷはぁ……、あ゛ぁあ?! ぃ゛……、あぁぁぁ……」
もはやまともな思考はできず、ただただ生まれたての赤子のように、言葉にならない音を奏でるだけの肉人形になると、次第に甘美な夢心地に微睡みながら意識を手放すのだった。
独自設定
・ティア、ティナ、イビルアイの探索は、時系列としては書籍で黒粉の栽培地を燃やす前。
・ティアは旗に手を伸ばしたところで古狼化したアエラの巨大な爪に手首を落とされ、そのまま吹っ飛ばされています。
・ゴヴニュの槌。ダグザの大釜と同じケルト神話から拝借。ダーナ神族の工芸神。ダグザの大釜は金貨の消費で食べ物を生み出すが、こちらは金貨を叩くことで各種
・ティアを囲んでいた「年端もいかない娘たち」は、一時的に貸与された〈若さの指輪〉を付けた娼婦たち。
・ナタリーが両前腕に施されたのはサブダーマル・インプラント。大小様々なビーズを埋め込まれている。俗にパーリングとも呼ばれるものだが真珠であるかは不明。