※この作品はR-18です。

オバロ外伝:安穏無事に過ごしたい   作:ウキヨライフ

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第4話:主人とシモベ

 クラーナの言葉を思い出し、自室でコンソールとマスターソースの呼び出しを試したが駄目だった。これでアバターの基本情報が見れなくなった他、課金アイテムの入手も不可だと分かった。

 

「覚えているうちに書き出さないとヤバイな……」

 取得している特殊技能(スキル)や魔法を確認できないのは痛い。俺が取得している魔法は40弱、そして製造できる水薬(ポーション)は100近くある。薬の方は“処方書”があるので問題はないが、魔法に関してはうろ覚えのものも多い。特に高レベル帯の狩場では使わなくなった低位階魔法などはあやふやだ。

 ただ魔法の40個程度で音を上げるわけにはいかない。なぜならクラーナよりは大分マシだからだ。彼女は呪術特化なのでその数は俺の比ではない。「純粋な魔法職に比べると少ない」と彼女は言うが、それでも特殊条件を満たして取得枠を600前後まで拡張していたはず。全て暗記しているとは思えないので、早いうちに書き出すよう提案するべきだろう。

 

「処方書(こいつ)を読み返しておくか」

 アイテムボックスから取り出した処方書(レシピ)は、ゲーム特有の“誇張されたデザイン”のせいでやや大きい。書き込まれた文字はまるで印刷したかのように達筆だが、もちろん俺の字ではない。調合を成功させた時に自動記入される“手書き風フォント”だ。

 今後は自分で記入しなければならないとなると気が滅入る。

 

 ちなみにユグドラシルの処方書(レシピ)は錬金術師(アルケミスト)にとってひとつの“財産”だ。ゲーム内で最も一般的な水薬(ポーション)の製造方法は、特殊技能(スキル)と魔法を合わせたもの。しかし、ユグドラシルではマジックポイント(MP)の回復手段が限られていた。アイテムによる回復手段が無く、1日の使用回数制限がある特殊技能(スキル)を除けば時間経過による自然回復だけ。MP切れで生産が止まるデメリットがあった。

 そこで鍵になるのがMPの回復中を繋ぐ“魔法に頼らない製造方法”だ。当然「未知を既知とする事」をテーマにしているユグドラシルではプレイヤー自身が“調合素材の組み合わせ”を見つけ出さねばならない。

 つまり、「情報の秘匿性」と「限られたMP回復手段」が、処方書に財産たる付加価値を生む訳だ。

 

「この世界でも素材集めか。目的もなくこの世界を彷徨うよりはマシか?」

 行動指針だと思えばいくらか気が楽になる。

 

 

* * *

 

 

 自室でマスターソースを開けなかったので、模様替え用の外装データを手にクラーナの部屋に足を運ぶ。扉の前で一呼吸。ゲーム時代は不躾に入れたが、流石に現実(リアル)になった女性の部屋に許可もなく押し入るのは躊躇われる。

 

 ノックをするとマーシャが出迎えてくれた。

「模様替えを頼みにきた。取り次いでくれ」

「承っています。どうぞ中へ」

 

 案内されたクラーナの部屋は既に改装済みだった。

 ゲーム時代は俺と同じように収納力を重視していたはずだが、今は豪華な内装と調度品が並んだスイートルームだ。意匠にシダ植物を描いた壁紙を見れば、部屋全体がヴィクトリア朝様式だと分かる。個人的には派手に感じるが、“ギルドマスターの部屋”であることを加味すると丁度いいのかもしれない。

 

「待ってたわ。じゃあ寝室に行きましょう。マーシャ、ジル、呼ぶまで立ち入り禁止よ」

『畏まりました』

 マーシャとジルを横目に、クラーナの寝室に入る。

「外装の変更に人払いが必要なのか?」

 

 疑問を口にしながら視線を戻すと、全裸のクラーナが片手で杖をつき立っていた。

 

 クラーナは軽くビッコを引きながらすぐ目の前にやってくる。

 透き通るような白い肌に長い黒髪が良く映える。視線を落とすと円錐形の見事な乳房に目を奪われるが、何よりもまず、状況が掴めない。

 

「なんのつもりだ?」

「理想の身体を手に入れたことだし、私と良いことしない?」

「……で、本音は?」

 その質問に一瞬クラーナの目が揺れ、そして諦めたのか顔を伏せる。

 

「貴方を、繋ぎとめておきたくて」

「こんなことをしなくても、ギルドを出てく気はないぞ?」

「それでもよ。……誤解させたくないからはっきり言うけど、愛とは違うの。もちろん貴方のことは好きよ。ただ、この訳の分からない世界で独り生きて行くのは辛すぎる。傍に居てくれるなら、精一杯尽くすわ」

 

 ここで黙って抱き寄せれば男も上がるのだろうが、ついさっきまでアバター越しに接してきた相手に距離感を測りかねる。

 思い返せばロールプレイをしている彼女しか俺は知らない。

 

「元気に見えたが……、ずいぶんと参っているようだな」

「空元気よ。ギルド長としての見栄もあったし……。今は貴方を失うことがなによりも怖い。貴方は“こんなこと”って言うけれど、私にはこ(・)れ(・)し(・)か(・)ないのよ」

 “売り”をしていた彼女の“確固たる資本”は自分自身だと言いたいのだろう。今も昔も、老若男女問わず、献身は保証を得るひとつの手段だ。

 だとしてもだ、右も左も分からず、立ち位置すら不明なうちに安売りするものでもない。

 

 危うく溜息をつきそうになるが我慢する。

 経験上、女の前で溜息をつくと碌なことにならない。

「傍にいてやるさ。ただ、いつも通りで頼む。変に気を回す必要はないぞ」

「そう……、ありがとう。約束――っきゃ!?」

 不意にクラーナを抱き上げ、ベッドに放り投げる。

 

「ちょ、ちょっと! 何するのよ!?」

「話は終わったろ? “据え膳”ってやつだ。どうせなら実験に付き合ってくれ」

「実験? 普通にするとかじゃなくて?」

「まあ、実験というよりは演技指導だな。お前の“変身”と違って俺のこの姿は擬態でね。自由が利く反面、演技を交えないとどうにも不自然なんだ。例えば――」

 

 俺は言いながら股間を露出させてクラーナに示す。そして通常状態の陰茎(ペニス)を、何の前触れもなく勃起させて見せた。擬態で作りだした陰茎(ペニス)に生理的な機能は無く、変幻自在で自分の意志ひとつで勃起が可能だ。それゆえに演技しなければ不自然なのだ。

 今後この世界で性交渉が必要になる日が来るかは分からないが、備えとして“プロ”の演技指導を受けようと思った次第だ。

 

 思ったのだが。

 

「あっはっはっは! 何それ! あははは! 面白すぎぃ! ひひっ! く、苦しぃっ!」

 急激な勃起がツボにハマったのか、クラーナは腹を抱えて笑い転げている。

「……おい」

「あはは! だめ! お腹痛い……、た、助けて。あっはっはっは!」

 話にならない。笑われ続けるのも癪なので陰茎(ペニス)を萎えさせるが、それを見たクラーナは更に笑い転げ、今度は過呼吸に陥ってしまう。

 逆効果だったようだ。

「ひっひっひっ、し、死ぬ! や、やめ!」

 

 

 

 

 

 クラーナを落ち着かせると先程よりも表情が明るくなっていた。

 ひとしきり笑ったことで色々と吹っ切れてくれたようだ。

 

 改めて向き合うと気恥ずかしさに襲われる。“お互いに裸だから”というよりは、目の前に居るのが間違いなく“本人なのだ”と今更ながらに実感したのだ。

 例えるなら、ゲーム時代の“アバター越しの交流”は言わば仮装パーティー。それが突然仮面を取り上げられたのだから落ち着かない。

 

 切り出し方を迷っていると、クラーナに先を越される。

「ねえ、ヴィクトル。一応聞くけど、性欲はあるの? その……、種族的にって意味で」

「お前やクレマンティーヌの裸をエロいと感じるし抱きたいとも思う。ただ、俺自身が元人間だから“人間の女”に反応しているだけなようにも感じる」

 

 俺の「粘体(スライム)要素」と「神話要素」の比重は、粘体(スライム)側が重い。裸のクレマンティーヌを見た時も、欲求としては性欲よりもさきに食欲を強く覚えたほどだ。

 

「上手く言えないが、性欲と食欲が混ざって嗜虐心が強くなった気がするな」

「あらあら、“そういうプレイ”の演技指導も必要かしら?」

「あー、まあ、ノーマルで頼む」

「ふふふ、冗談よ。――それじゃあ、始めましょうか」

 小さく笑ったクラーナが俺の首に両腕を回して身体を預けてくる。どちらからともなく唇を合わせ、ベッドに身を沈める。

 

 

 

 

 

 実技を交えて演技指導を受けたが、結果は散々だった。いや、セックス自体は及第点だ。射精も睾丸内に作られた“精子が詰まった握りこぶし大の袋”を破って擬似男根(ぺニス)を通して排出できた。

 しかし、表情を上手く演出できなかったのだ。もちろん、現実(リアル)の俺にも感情はあった。ただそれら喜怒哀楽の表情は無意識にでるもの。それを急に意識してやれと言われるとなかなかに難しい。

 しかも擬態の顔は粘体製。表情を作る“表情筋”なんぞ無いのだからなおさら難易度が高い。

 

「落ち込む必要はないわよ。何事も一日でどうこうなる訳じゃないでしょ」

「まあそうなんだが……、先が思いやられるな」

「それよりも掃除しなきゃ。潤滑液は多いにこしたことはないけれど……、量多すぎよ」

 クラーナの言う“潤滑液”とはもちろん精液(ザーメン)のことだ。

 

 突然だが、どうやら俺の身体は“雄”だったらしい。

 “らしい”とはなんとも曖昧な表現だが、そもそも粘体(スライム)の性別なんて考えたことも無いのだから仕方がない。粘体(スライム)といえば漠然と雌雄同体なのではと思っていたが、もしかしたら漂う聖なる肉塊(ディヴァイン・グロブスター)の設定が影響しているのかもしれない。

 

「人間のよりキラキラして綺麗なのが腹立つわ。コレ、瓶詰にして売れないかしら」

 クラーナが胸元に残る精液(ザーメン)を指ですくい取る。

「誰が買うんだよ……」

「あら、あっちでも需要はあったのよ?」

「精子バンクのことか? あれは受精できてこそだろ」

 件の精液(ザーメン)は、精子と保護粘液で構成されている点では人間の物とさほど変わらない。しかし、種族はあくまでも粘体(スライム)。人間や亜人相手に受精できるとは思えない。

 

「試しに鑑定してみなさいな。仮にも“神の種”でしょ? 凄い効果があるかもしれないわ」

「お前と違って元ネタがってだけだ」

 やるせない気持ちを抑え、言われるままに己の精液(ザーメン)を鑑定する。

 

「どう? 売れそう?」

「お前なぁ……」

 食い気味に確認してくるクラーナに若干引きつつも鑑定結果を伝える。

 肉体強度、疫病耐性の上昇。血液成分の正常化。性欲や性機能の維持。精神高揚化、鬱耐性上昇。内臓脂肪型肥満、高血糖、高血圧、動脈硬化の予防。消化促進、薬効の即効化。眷属召喚の媒体、等々。

 自分でも驚くほどの数だ。

 

「そんなに!?」

「どっちの効果か分からないがな」

「ああ、合わせた効果なのね。でもやっぱ売れるわよ、それ」

「正直な気持ち、売りたくはないぞ」

 何が悲しくて己の精液(ザーメン)を精製して商品にしなければならないのだ。

 

「生(そのまま)でいいわよ。売らなければいいでしょ?」

「そう来るか。気になる効果でもあるのか?」

「強いて挙げるなら精神高揚化か鬱耐性上昇かしら。別に鬱病って訳じゃないけど、現実(リアル)になった役職が重すぎるのよ」

 ゲーム(遊び)が遊びではなくなった。ギルドマスターが背負う責任も現実味を帯びた訳だ。

「考えておく。ただ課題もある。時間をくれ」

 特殊技能(スキル)で特定の薬効を抽出することはできる。問題はモルモットが居ないことだ。クレマンティーヌで色々と実験をしたが彼女は人間。異形種や亜人種でも試さないと実用は怖い。

 

「分かったわ。――そういえば、“見た目”もうひとつあったわよね? 見せてよ」

「ん? ああ、アレか」

 クラーナの催促で擬態用のアバターを二つ登録していたことを思い出す。

 ひとつはこの成人男性の外見。もうひとつは12歳くらいで腰まで届く黒髪の少女だ。どちらもギルドメンバーが作った商売用の側(がわ)だが、少女の方は早々に使わなくなった。なにせ口を開けば自分(おじさん)の声が転びでるのだ。自分で言うのもなんだが、ちょっとしたトラウマものだ。

 狩りや戦闘で〈擬態〉(ミミック)を使うことが無かったので今の今まで忘れていた。ガチの粘体(スライム)プレイヤーは〈擬態〉(ミミック)に宝箱や岩などを登録しているらしいが――。

 

「まだ試してなかったな」

 意識の中で、登録してある少女の姿を思い浮かべるとすぐに外見に変化が現れた。

 縮んだ身体はクラーナと比べると小柄で、肉付きは薄くて“なだらか”だ。

 

 クラーナが歓声をあげる。

「あら、可愛いじゃない」

「これこそ上手く演技できる気がしないぞ……」

 声も少女のものだ。

 この世界ではボイスチェンジャー無しでいけるらしい。

 

「外見が複数あるだけで役に立つわよ」

「そっちはどうなんだ? その姿以外にはないのか?」

「無いわよ? あとは変身を解いた蛇女(ラミア)本体だけ。見てみる?」

 俺の返事を待たずにクラーナは変身を解く。

 瞬く間に両足がひとつにまとまると、鱗を生やしながらスルスルと伸びていく。さながら特撮モノの変身シーンのようで、7メートルほども伸びればその存在感に圧倒される。上半身の色白の肌はそのままに、黒髪だったものがキラキラと輝く黄金の髪に変わり、黒かった瞳も真っ赤な爬虫類のそれになる。

 外見が基本的に醜くなる異形種にしては“珍しくまともな部類”で、目元を覆う鱗にさえ目を瞑れば、その長い舌を含めて好事家の受けは良さそうだ。

 そして、本来は亜人種である蛇女(ラミア)種を異形種たらしめている要素が、頭上に輝く円盤と背中に生えた純白の翼に見てとれる。鬼子母神(カリティモ)は、種族ツリーの果てに亜人種から異形種に変化する珍しい種族だ。

 

「元が亜人でも醜くないな。流石は隠し種族といったところか?」

「狙って取得した訳じゃないから能力とかまったく活かせてないけどね……」

 

 クラーナは手鏡を片手に、頭上の円盤を指で突いている。俗にいう天使の輪だがドーナツ型ではなく、まったく厚みを感じない薄い円盤のようだ。

 

 しげしげと眺めていると光の円盤がスゥーと消える。

「お、消せた! オーラと直結してるのね」

「こんな事になるなら俺も何か取得しておけばよかったな」

「まあ、製造に役立つオーラなんて稀だし、仕方ないわよ。それよりさ、その姿でも(・)う(・)一(・)戦(・)、どう?」

 

 返事をする間もなくクラーナに押し倒される。

 異形種は方法が何であれ、人間種へ姿を変えると能力値にペナルティが発生する。本来の数値的には僅かに勝っているはずだが、小柄な少女の姿では正体を現したクラーナに抵抗するのは難しい。

 

「両刀だったのか?」

「私が選べる立場だったと思う?」

「……その返しはずるいぞ」

「まあまあ。演技が無理ならマグロでいいからさ」

 クラーナは既に長い舌を身体に這わせている。彼女のハーレムを思い返せばこの姿はストライクゾーンだったのかもしれない。

「好きにしろ」

「やったー」

 ギルドマスターを元気付けるためと自分に言い聞かせてクラーナを受け入れる。

 やることは大して変わらないしマグロで良いと言うのなら任せるだけだ。

 

 その後、情事を終えた頃には空は半ば白み始めていた。

 

 

* * *

 

 

 自室に戻ると外装が無事に更新されていた。

 中型外装のなかから広そうな部屋を選んだ。以前と同様「ログハウス風」でトイレ風呂付きのワンルームだ。部屋自体は長細く、入口からトイレと風呂、続いて居間、仕切り代わりの収納棚を挟んだ最奥は寝室と書斎を兼ねた雑多な空間だ。

 

 居間にはソファーと背の低いテーブルが設置してある。この部屋で客をもてなす予定は無いが、現実となったこの馬車は言わばこれから住み続ける家だ。寛げるようにしておいて損は無いと考えた。

 居間と寝室を仕切る収納棚には“アエラ専用”も用意した。本当はアエラ専用のベッドも用意する予定だったが、本人は愛玩動物(ペット)としての矜持からか狼の姿で床に寝れば問題無いと言い張ったためにセミダブルのベッドひとつで済んだ。

 ベッドを取り囲むようにある本棚には宝物庫に放り込んであった錬金術師(アルケミスト)用のレシピや魔法詠唱者(マジックキャスター)用の魔導書を発掘して並べた。

 

「アエラ、今まで通り自分の部屋だと思って自由に使うといい」

「畏まりました。――ヴィクトル様、私の姿は普段どちらをお望みですか?」

 その質問に、ふとアエラの“正体”について考える。

 

 アエラの種族は人狼(ワーウルフ)。

 一般的な伝承はさておき、ユグドラシルでは吸血鬼(ヴァンパイア)と対をなす存在。吸血鬼(ヴァンパイア)と祖を同じくするも、“生き方”を違えて敵対関係にある種族だ。そして他の異形種と同様に正体は醜い化け物だ。

 “真祖(トゥルーヴァンパイア)”であれば、地を這うような猫背に大きく裂けた口には鮫のような何列にも並ぶ鋭い牙を持つ。同様にアエラも人狼(ワーウルフ)の上位種“古狼の血脈”としての醜い正体を持っている。

 

「普段は狼だ。……だがそうだな、正体を見せてくれ」

「はい」

 

 返事と同時にアエラの身体がにわかに膨れ上がる。

 装備は自動解除され、全身が紅い狼の毛皮に覆われた二足歩行の魔物が姿を現す。身長は2メートル強、狼が二足歩行したような外見という点では普通の人狼(ワーウルフ)と変わらないが、身体の各パーツが酷く醜い。口は耳を通り越し喉元まで裂けていて隠し切れない大量の牙が無秩序に伸びている。両腕はやや長く、ごつくて大きな手には太くて長い指、その指先には20センチほどの鉤爪が備わっている。爪の一本一本がまさに凶器だ。

 

 プレイヤーが種族に人狼(ワーウルフ)を選ぶと、月齢に比例して暴走するリスクを孕む。これは吸血鬼(ヴァンパイア)の持つ種族ペナルティー〈血の狂乱〉と同じようなもので、NPCであっても例外ではない。

 NPCの場合、基本的に拠点から外に出られないので暴走する機会はなかなか無いが、例えば館や砦、城などの大型拠点の“中庭”のように“拠点の内”と判定される野外であれば、月の影響を受けて暴走する条件を満たすことになる。

 

――では、アエラは暴走するのだろうか?

 

 答えは“暴走しない”、だ。

 アエラは俺が“犬を飼いたい”という欲求から生まれたNPC。本来、狼の姿を維持するには魔力コストを毎秒支払わなければならないが、アエラはそれを回避する為だけに種族レベルを高レベルまで上げている。それにより様々な常時発動型技能(パッシブスキル)を取得しているのだが、そのひとつに月の影響を理性で抑え込む〈古の血〉を取得している。

 だから今のように本人の意思で変身する以外には正体を現すことはない。

 

「アエラ、次は人間の姿に。全裸になって両腕を左右へ水平に広げろ。両足は肩幅に」

 彼女は素直に指示されたポーズをとる。

 これはクリエイトツールでアバターを登録する際の基本姿勢だ。

 アエラを観察しながら彼女の周りを一周する。

 

 アエラは完全な肉体をもって立っていた。

 ユグドラシルでは性器の再現は不可。アバターのデータは服装込みでひとつの完成データだ。本来、データ容量を軽減する為に服に隠れる肌や性器は“無”、つまりデータとして存在しないものだが、目の前に立つアエラの身体は余すところなく再現されている。

 

 正面へ周り頭を撫でる。少し癖のある髪質が肩より少し長めに伸びている。髪を掻き分けても頭に狼の耳は無い。人狼(ワーウルフ)の人間形態は幻術ではなく“完全なる変身”、人間種には見破れないという架空の伝承がある。その設定が利いているなら外見から正体がバレる心配は無い。

 次に胸を見る。クレマンティーヌのそれよりも大きい。俗にいう“円錐型”で乳頭はやや上を向いている。“完全なる変身”のおかげで乳房は一対、狼のような副乳は見当たらない。

 乳房に軽く触れるとキュッと乳首が引き締まる。

 

 ふとアエラの顔を見ると琥珀色の瞳が震えていた。

 僅かな期待の他に、緊張と恐怖が宿っていることに気付いて反省する。

 

 考えてみればこの状況は彼女にとって異常事態だ。

 行われているのは「査定」や「品評」であり、NPCとして問題があれば消去される可能性もあると思えば怯えもするはずだ。

 

「両手を下ろして楽にしろ」

 俺はベッドに腰を下ろすとアエラに質問を続ける。

 

「異相協会が砦を持っていた頃の記憶はあるか?」

「いいえ、ありません。私の記憶はこの馬車で創造されてからになります」

 名前はもちろんのこと、アエラの外装データや制御するAIはずっと使いまわしてきたが、今の証言から砦時代のアエラとは別人という事になる。使用しているギルドポイントがそもそも違うのだから当たり前と言えば当たり前だが、今の返事で創られてからこの瞬間までの記憶を有していることがわかる。

 ゲーム内の1日は72分。現実換算で80年近く仕えてくれたことになる。

 

「俺の愛玩動物(ペット)だと自覚し、慰めることが義務だと言っていたが……。クレマンティーヌのような奉仕をする気はあるか?」

「ヴィクトル様がお望みならば喜んでご奉仕いたします」

「俺の意志を考慮せず、お前自身の気持ちを聞きたい」

「そ、それは」

 アエラが言い淀む。

「素直な気持ちを聞かせてほしい」

「はい。許されるのであれば、私も夜伽のお相手をしたく思います。ヴィクトル様からクラーナ様やクレマンティーヌの匂いを強く感じると、どうしようもなく身体が疼くのです」

「そうか」

 クラーナの言葉を思い出す。アエラに疎外感を与えないと約束したがさっそく破ってしまったようだ。

 

 ベッドに座ったまま自分の太ももを叩いてアエラを手招きする。

「背を向けてここに座れ」

「はい。し、失礼します」

 太ももにアエラの柔らかい尻が乗ったのを確認すると背面からアエラを抱きしめる。

「寂しい思いをさせたようだな」

「い、いえ! そんなことはありません! 側に置いて頂けるだけで幸せです!」

 

「アエラ、俺がお前を愛玩動物(ペット)として創るにあたって望んだのは、狼の姿で側に侍ることだ。だがこの世界でお前は自我を持った。であればもっと我が儘に振る舞っていいぞ。愛玩動物(ペット)の我が儘に振り回されるのも主としての楽しみだと知れ。今後はもっと甘えてこい。それが許されるのが愛玩動物(ペット)だ。分かったな?」

「はい。ありがとうございます」

 

 

 

 

 

「そういえば、夜伽の相手をと言ったが、知識はあるのか?」

「はい。未経験ですが、知識はあります」

 その知識がどこから来ているのか気にはなるが、動物が本能で交尾できることを考えれば自然と備わっていても違和感はない。

 

「自慰も未経験か?」

「はい。申し訳ありません」

「謝る必要はない。……ではそうだな、いまから俺に身体を預けろ。何をされても抵抗はするな」

「畏まりました」

 

 アエラの返事を受けて整った乳房に手を這わす。

 乳房の輪郭を確かめるように縁を撫でる。くすぐったそうに身を震わすアエラに構わず、撫でる指先を肌に微かに触れる程度の力で徐々に乳房の先端、乳首へ向けて撫でていく。

 指先が乳輪を捉えたところで両胸の乳首を摘まみ上げる。

 

「んふぅ!?」

 アエラから甘い声が漏れる。

 彼女の手を乳首に導く。

 

「自分でも触ってみろ。強く揉む必要はない。優しく、指の腹を擦り合わせるだけでいい。まずは“くすぐったさ”を楽しめ」

 アエラは恥じらいながら自分の胸を愛撫する。

 ぎこちない手つきだったが、暫くすると慣れてきたのか次第に動きが滑らかになる。

「気分が乗ってきたようだな。胸を愛撫したまま、次は股を開け」

 アエラは言われるままに両足を開く。いわゆる背面座位と呼ばれる格好だ。

 今、誰かが部屋に踏み込めば彼女の陰裂は丸見えだろう。

 

 アエラに自分の胸を愛撫させながら、俺は両手で彼女の胴体を撫でおろす。

 引き締まった腰をゆっくりと下に撫で、腰に達したところで両手を下腹部へ回す。左手で下腹部を、そして右手で恥丘に茂る陰毛をならすように撫でる。

 アエラが軽く身悶える。初めて他人に触れられる臀部が心地いいのだろう。

 

 陰毛を指で掻き分け、包皮越しに陰核(クリトリス)の位置を確かめる。

 何もかもが初めての相手に直接陰核(クリトリス)へ刺激を与えるのは辛いだろうと考え、まずは包皮越しに陰核(クリトリス)をやさしく揉みほぐす。

 

 恥丘越しにアエラの陰茎(クリトリス)をゆっくりと揉むと、未知の快感に彼女は太ももを強張らせる。

 アエラは刺激を受けて反射的に脚を閉じようとするが、その脚に自分の脚を絡めて防止する。

 

「んん! はぁ……はぁ……、あ……」

 初めての刺激にアエラの息は荒い。時折、快感の高まりに耐えきれず小さな嬌声を漏らしている。初体験にしては上々だろう。

 心臓の鼓動も速く体温も上昇している。肌は薄っすらと汗ばみ、抱いているだけで粘体(スライム)である俺からするとアエラが丸々塩味を得たようにしょっぱく感じる。

 

「自分で陰核(クリトリス)を揉んでみろ。初めは皮越しで構わない。中の芯を確かめるように、ゆっくりしごいてみろ」

 アエラは恐るおそるといった感じで恥丘を揉み始める。

 徐々にその動きが呼吸ともに早くなるが止めずに見守る。

「はぁはぁはぁ……、んん! はぁはぁはぁ……」

「いい子だ。そのまま逝ってみろ」

 

 瞬間、絡めていたアエラの両脚に力が入るのを感じる。

「あっ! ふあぁあ! んん!」

 突然身体を大きく反らしながらアエラは小さく潮を噴く。太ももが痙攣するたびにピュッと潮を飛ばし床の絨毯を濡らす。

 

「も、申し訳ありま……せん。そ、粗相を……してしまいました……」

「気にするな。絶頂は我慢するものではないからな。しかし……、普通は陰核(クリトリス)だけで潮を噴くのは難しいらしいんだが。――淫らな身体だな」

 耳元でそう囁くとアエラは羞恥のためかそっぽを向く。

 

 その仕草に嗜虐心がそそられる。

 クレマンティーヌのように絶え間ない絶頂を与えたくなるのを我慢して、いまだに息の荒いアエラをなだめるように、優しく下腹部を撫でてやる。

 

「初めて逝ったんだ、余韻を楽しめ」

 

 どのような力が働いてこの世界に転移したのかは分からないが、ただのAIだったNPCが自我をもって応えてくれるのは良いものだ。

 

 落ち着いてきたアエラを後ろから強く抱きしめる。

「ヴィ、ヴィクトル様!?」

 ユグドラシルでは感じ得なかったその肉感をひとしきり味わうと彼女を解放する。

「……今日はここまでだ。風呂に入ってこい」

「……はい」

 

 




独自設定
・人狼(ワーウルフ)の設定。skyrimを参考にしている。
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