アエラを部屋に残し、俺は“工房”へと足を運ぶ。
ハブ空間に位置し、アイテムの製造を一手に引き受けるという意味では異相協会の中枢とも呼べる一室だ。12畳ほどの間取りにワークベンチ、錬金台、付術台、炉、鍛造台、鋳造台などが周囲の壁伝いにぐるりと取り囲んでいる。
利便性だけを追求して生まれた、洒落っ気の無い工房だ。
そんな工房の中央にはマーシャが作った分娩台が配置されおり、全裸のクレマンティーヌが大きく開脚した状態で拘束されていた。
そして側にはコウコウと熱を発する簡易炉があった。
クレマンティーヌへ目を向けるとその表情は不安気だ。
裏の世界を知るからこそ、これから起こりえる未来を察しているのだろう。
控えていたマーシャに目で合図を送ると、ヤットコを炉に突っ込み、赤熱化した金属の輪っかを取り出す。
発光していて見難いが、表面には精巧なアラベスク模様が浮かび上がっている。
「見えるか? これがお前の首輪だ」
不安を煽る意図はなかったが、俺の台詞に合わせてマーシャが良く見えるようにとクレマンティーヌの目の前に首輪をかざす。
赤熱化した金属を前にクレマンティーヌは諦め顔だ。
「手持ちの金属で作らせた。アダマンタイト以上だから、簡単には壊せないぞ」
「はは、上等」
台詞こそ強気だが口調には覇気がない。彼女の情報が正しければ、この世界の人類にこの首輪を破壊することは困難。スレイン法国の宝物庫になら破壊できる神器があるかもしれないが、お尋ね者の彼女に国を頼る選択肢はない。
つまり、首を刎ねる以外に取り外す手段がない訳だ。
「マーシャ、始めてくれ」
「畏まりました」
マーシャは冷め始めた首輪を簡易炉に突っ込み、足元のペダルを踏みしめ
熱と弾力を取り戻した首輪をヤットコで広げると、躊躇いなくクレマンティーヌの首に巻きつける。
「ぎい゛ぃ!!」
クレマンティーヌは歯を食いしばって悲鳴を押し殺す。
素肌と首輪の間に僅かな隙間ができるよう配慮はされているが、赤熱化した金属を相手に耐えられる距離ではない。文字通り身を焦がしながら痙攣する相手に、全く肌に触れずにいることは不可能だ。
加工開始から早々に肉の焼ける匂いが工房に充満する。
淡々と作業をこなすマーシャとは対称的に、クレマンティーヌは勝手に暴れる身体を必死に抑え込もうとしている。
彼女には申し訳ないがその四肢にも鉄輪を嵌める予定だ。唯一の慰めにもならない心遣いとして、一見して精巧な模様が施された装飾品に見えることだろうか。
それから少し経ち、首と手足に鉄輪を付け終えたところで工房にクラーナがやってくる。
もちろん物見遊山で顔を出した訳ではない。
「そろそろかしら?」
「来たか。こいつを嵌めたら始めるぞ」
首輪の正面に位置する個所に、ギルドマークが彫られたコインを嵌め込む。
これで正真正銘、クレマンティーヌはこのギルドの一員だ。
クラーナがスンスンと鼻を鳴らす。
「見た目は痛々しいけど、食欲が刺激される香りね。回復はしないの?」
「これから穴を開けるんだ、回復は最後でいいだろう。マーシャ、準備をしてくれ」
マーシャが簡易炉を下げて代わりにダイニングカートを引いてくる。
カートにはピアスホールを開けるためのニードルと鉗子、そして様々な大きさのピアスが並べられている。ピアスは全てクレマンティーヌが集めた冒険者プレートが材料だ。
言わずもがな、これからクレマンティーヌの“飾り付け”が始まる。
殺した冒険者たちのプレートを一生背負うことになるわけだが、言い換えればハンティングトロフィーという名のコレクションを身につけることができるのだ。感謝してほしい。
「それじゃ始めるわよ。ヴィクトルの了承を得て私が指示をだすけど、飼い主はヴィクトルなんだから、何かリクエストがあったら言ってね」
「リクエストと言われてもオシャレには疎くてな。付術さえ施せればいいさ」
そう、本命は付術。永続化した
偽名を名乗らせる案もあったが没になった。クレマンティーヌによればこの世界にも上位の占術がある。今回の追手、つまり所属していた組織に本名が割れているため、偽名に期待できないらしい。
逆に言えば名前バレさえしていなければ偽名を名乗るだけで防げることになる。だからこそ漆黒聖典の隊員は異名を持ち、占術対策の一環として本名を隠しているという。クレマンティーヌであれば「疾風走破」がそれにあたる。
そして、なぜ符呪対象がピアスなのか。
事の発端はクラーナが俺の目の前で
言葉にすると何でもない行為に思えるが、ユグドラシルプレイヤーには信じられない行為だ。なぜならゲーム内で指輪を装備できる部位は基本的に二ヵ所、左右の人差し指にそれぞれひとつずつ、指輪右と指輪左だけ。装備枠を増やそうと思ったらリアルマネーを支払うしかない。
だがこの課金がえげつない。
指輪の装備枠を拡張する際、
翻って今、クラーナはこの世界で指輪の付け替えに成功した。これは多くの部分でユグドラシルのルールに囚われている身としては大きな発見だ。
しかし、指輪の付け替えが自由にできることは判明したが、
恐らくだが、この世界では指に指輪を通す行為は
つまり、基準となるのはこの世界で、我々ユグドラシルの存在はそれに合わせて変質している可能性がある。
指輪は課金枠から解放された。しかし、ひとつの指にひとつの指輪しか付けられず、その他の装備枠も相変わらずユグドラシルのルールに縛られている。頭、顔、胴、内着、腕、手、腰、足、靴の九ヶ所に加え、指輪を除く装身具枠が三ヶ所のまま。それも装備できるのは取得している
では、この世界の住人は?
その疑問に考察と実験を重ねた結果、クレマンティーヌにピアスを施すことになったのだ。
結論から言うと夢の無いものだった。この世界の住人はひとつの指に何個も指輪を付けらえるし、ユグドラシルと違って重ね着もできた。しかし、同じ個所に複数の魔法アイテムを装備しても、効果が出るのは最後に付けたアイテムのみだったのだ。
安易なチートは許されなかった。この世界はそれほど甘くはなかったわけだ。
結局のところクレマンティーヌをスレイン法国とやらから守るためにも、
「飼い主の言質は取ったわよ」
クラーナの機嫌がやたらと良い。
昨夜、というか明け方に抱いた効果だろうか。
「まずは乳首! と言いたいところだけど、初めはやっぱ耳からよね。マーシャ、右はコンク、イヤーロブ。左はヘリックス、コンク、イヤーロブに宜しく」
「畏まりました」
施術を任されたマーシャは躊躇なくニードルを突き刺す。
血が僅かに滲むが、マーシャは構わずにリングを通しボールで固定すると施術を終える。
その手際の良さに当のクレマンティーヌも驚いているようだ。
「次、舌を出しなさい」
クレマンティーヌは言われるまま口を開けて舌をだす。
「マーシャ、ボールは5ミリね」
「畏まりました」
マーシャは鉗子でクレマンティーヌの舌を挟むと、耳と同様にニードルを刺す。その後は先ほどと同じだが、今度はリングではなく棒状のシャフトを通してボールで固定する。
「いい感じね。じゃあ次、乳首の根元に内径15ミリのリング。それが終わったら乳輪の縁を左右から摘まむ感じで20ミリのシャフトに6ミリのボールで留めてみようか」
乳首にピアスを施すと聞いたクレマンティーヌは心底憂いた顔になる。何年越しかは分からないが、やっと取り戻した乳首を他人に改造されるのだ。心穏やかではないだろう。
だから、という訳ではないがつい口を挟んでしまう。
「ちょっと待て。乳首のリングは好いが、乳輪はよさないか? あまり好みじゃない」
同情したと思われたくないのでやむなく自分の好みとする。
「そう? 常時摘ままれたような“下品な形”になって面白いんだけど。まあ、好みなら仕方ないわね」
クラーナは特に追及もせずマーシャに乳首のピアッシングを指示する。クレマンティーヌを見ると涙を浮かべているが、乳輪を歪められずに済んでいくらかはほっとしているに違いない。
続いてヘソピアスも一瞬で付け終わるとクラーナが喜々として宣言する。
「お待ちかね、おまんこの飾りつけよ」
マーシャが開脚しているクレマンティーヌの正面に陣取ってクラーナの指示を待つ。
「まずは
スラスラと伝えるクラーナもどうかと思うが、それに応えて施術するマーシャも凄い。
立て続けにブツブツとニードルに肉を貫かれ、クレマンティーヌの肌に薄っすらと汗が滲む。素早い施術とはいえ敏感なところに穴を開けているのだから相当痛いはずだ。彼女なりの意地なのだろうか、声を上げないのは大したものだ。
「やたらと詳しいが、
「まさか、興味はあったけど耳だけよ」
鬼かこいつは。いや、魔女だったな。
「
「ふっふっふ。マーシャ、例のアレを」
「はい、こちらに」
柄でもないキャラでマーシャに取り出させたのは注射器型の吸引器だった。
「前から拡張にも興味があってね。自分で試すの怖いからクレマンティーヌで試そうかなって」
「そ、そうか」
やっぱ鬼だな。
「あまりデカくして欲しくないんだが。ほら、股間に長いのがあるとチンコを連想するだろ? 正直萎える」
ダメもとで拡張具合を牽制しておく。
なぜ俺がクレマンティーヌの身体をここまで気遣わねばならないのだろう。
「え~、じゃあ3センチくらい?」
親指の第一関節くらいを想像する。
ギリギリ許せそうな気がする。
「それで手を打とう」
「了解。じゃあ、ヴィクトル。火傷の治療と、媚薬を塗ってあげて」
「必要か?」
「痛いだけじゃ可哀想じゃない」
20ヵ所も穴を開けておいて“可哀想”などとよく言えたものだ。
「それに今日の施術はこれで終わりだから」
「そういう事なら治療しよう」
この
素材のレアリティに比例して消費する魔力も増えるため、魔力を補給する術が無いユグドラシルでは正直微妙な
クレマンティーヌの首と両手首、両足首の火傷に指を這わせて治療してやる。
続いて
「ひゃっ!? んん♪」
クレマンティーヌから甘い声が漏れる。
「このぐらいで良いか?」
「そうね。それじゃあ
言われるままにクレマンティーヌを支配すると、クラーナの指示をなぞるように命令する。
身体の拘束を解き、クレマンティーヌに吸引器を手渡す。これから自分で自分の
注射器型の吸引機を
瞬間、クレマンティーヌの身体がビクリと跳ねる。
「取っ手を回せ」
クレマンティーヌが吸引機の先端にある取っ手を回し始める。
「ふぅっ!? んん! ん゛んんーー!!」
実はこの吸引機、外見こそ普通の注射器だが仕組みは若干異なる。
内径の棒がネジ状になっていて、回すことで吸引力を発揮する。つまり、手を放しても簡単には吸引力が失われないのだ。
「ぃひぃい゛ぃぃっ!! ああ゛ぁぁあぁ!!」
クレマンティーヌが激しく身体をよじるが、支配下にあるためネジを回す手は止まらない。
取り戻して一日も経っていない
「後は適当に引っ張ったりして、抜けたら始めからやり直し。それじゃあ、私たちは部屋に戻りましょう」
クラーナの放置宣言に従って工房を後にする。
「大丈夫なのか?」
「大丈夫大丈夫。三センチ育てるのに数ヶ月くらいかかるんじゃないかしら」
「……未経験なのに詳しいんだな」
「勉強したからね! これから毎日吸引して磨き上げるわよ!」
遠回し過ぎた嫌味を笑顔でさらりと流され、クレマンティーヌの装飾ショーはお開きとなった。
暗い部屋の中でクレマンティーヌは目を覚ます。泥のように眠っていたせいか身体はやや重いものの、気分はそれほど悪くはない。
視線がゆらゆらと泳ぐ。寝起きの余韻に浸りながら、焦点の定まらない目に見慣れぬ天井が映る。
「えっと?」
意識が覚醒するにつれ、自分が全裸で寝かされていることに気づく。それも分娩台もどきの怪しい台座ではなく、ただの木の床にだ。
状況を整理しようと記憶を掘り起こし、無様にも醜態を晒してしまった事を思いだして顔をしかめる。
拉致されてから休みなく続いた実験と凌辱。肉体の損傷はその都度治してもらえたが、疲労と精神の摩耗はずっと放置された。その状態で精神支配を受け、自分で自分の身体を延々と拡張させられた結果、支配が解けて最初に欲したのは解放ではなく“睡眠”だった。
拉致当日を含めれば不眠不休で丸二日。精神が限界に達し「寝かせて下さい」と何度も懇願してしまったのだ。
始めはもう少し堪えられると思っていた。これが普通の任務や、人の手による拷問であればもう数日堪えられたはずだ。だが、絶対的な回復手段に裏打ちされた絶命寸前の実験の数々と、今までの人生で経験したことの無かった快楽の渦には勝てなかった。
クレマンティーヌは自分の身体をまさぐる。穿たれたままのピアスが、今までの出来事が夢ではないと物語っていた。
ゆっくりと身体を起こす。拘束はされていない。願い通り、ただ寝かされていたようだ。その事実に驚き、屈辱を感じ、そして安堵する。
「起きたのか?」
唐突に投げかけられた言葉に身構える。なぜ気づけなかったのか、ヴィクトルが近くのソファーで寛いでいた。その足元では赤毛の大狼が耳だけをこちらへ向けなから寝ている。
見た目は人間と狼。でもクレマンティーヌは身をもって知ってしまった。彼らが神や魔神、従属神の類いであることを。
「どうした? どこか痛むか?」
「神さまでも冗談いうんだ。あんだけ奇跡をぽんぽん使っといてさ。笑えないよ」
「……なら、何故泣いているんだ?」
何を言われたのか理解できなかった。「泣いている」。その言葉を何度も頭の中で反芻する。そして、そっと自分の頬に触れて自覚する。
「答えないなら
「い、言いますっ!」
クレマンティーヌは反射的に土下座する。その突然の行動に驚いた大狼が顔を上げ、ヴィクトルも不審そうにクレマンティーヌを窺う。
「支配は、嫌、です」
「そこまで嫌がられると傷つくぞ」
既にスレイン法国の呪いは無く、死の危険もないのにとヴィクトルは続けるが、こればかりは仕方がない。どんな責苦も“敗者の宿命”と甘んじて受ける覚悟はあった。しかし、自分が自分ではなくなる
体一つで過酷な世界を生き抜いてきたクレマンティーヌにとって、意思に反して身体を支配されるという状況は耐え難い苦痛であったのだ。
クレマンティーヌが恐る恐る顔を上げると、ヴィクトルが顎で発言を促す。
しかし、言葉に詰まる。これが戦闘であれば状況分析には自信がある。だけど今求められているような、“己の内面”といった自己分析は苦手だ。元々、感情は整理するよりも発散させる質なのだ。
「どうした?」
ヴィクトルの催促に焦る。いまさら「実は欠伸が――」などと言える雰囲気ではないし、奴隷の立場で「何も答えない」という選択肢も無い。ヴィクトルの虚ろな目がただただ不気味だ。
クレマンティーヌは必死に考える。目覚めて何を思ったのか、何を感じたのか。言葉を絞り出す。
「生き残れて安心したというか、気が緩んだ、のかな」
「……」
「そ、それと、無防備に寝たのは、いつ以来かなって。ずっと武器を手放せなかったから」
熟睡が久しぶりだったのは嘘ではない。漆黒聖典だった頃は戦い詰めだったし、抜けてからはなおさら武器を手放せなくなった。まともに寝た一番古い記憶は十数年前、実戦に備えて訓練を受けていた幼少期の頃だ。久方ぶりの安寧に感化され、記憶の奥底に沈んでいた幼少期の思い出が無意識に浮上したのかもしれない。
それが涙腺が緩んだ原因だとは認めたくはないが、目覚めの一瞬、安らぎを感じてしまったのも事実だ。
「ふむ、もう少し気丈夫かと思ったんだがな。――まあいい、聞け」
ヴィクトルが改めてクレマンティーヌの目を覗き込む。
「俺を神と呼ぶな。それと、この部屋にいる間は床で過ごせ。許可が無い限り家具の使用も禁ずる。――これを渡しておこう。アエラと相談して寝床を決めろ」
そう言って投げてよこされたのは見たこともない上等な毛皮だ。
思わず感嘆する。
「すっごい柔らかい」
「ん? ああ、名前は何だったかな。
その名前とは裏腹にふかふかに柔らかい毛皮を抱きしめ立ち上がると、いつの間にか人化したアエラに腕を取られる。
「クレマンティーヌはこっち」
相談しろと言われた筈だが発言権は無いらしい。
アエラが指さしたのは書斎の本棚と衣装棚とのわずかな隙間。
指示されるまま毛皮を敷くと、クレマンティーヌは不思議な感覚に襲われる。目の前にあるのは床に敷いた毛皮だ。だがそれは自分に与えられた唯一の居場所でもある。
クレマンティーヌは思う。出会いこそ最悪だったが悲観するほどの事でもないのではと。なにせ本国の連中が待ち望んでいた神の御許だ。服従を強いられてはいるが、これほど安全な場所は無いだろう。
「2人ともこっちに来い」
ヴィクトルに呼ばれアエラとともに彼の足元に侍ると、目の前に
「ぁ……」
初めて“外”で見るヴィクトルの
ヴィクトルの中で散々自分を嬲った
そう理解したクレマンティーヌは反射的に仰向けに寝ると、両足をM字に開脚する。そして自分の臀部を抱え込むように両手をまわすと、大陰唇のリングに指を通し左右に大きく広げる。
クラーナに仕込まれた「服従と“おねだり”のポーズ」だ。
「覚えていたか。だが、まずは奉仕だ。アエラ、服を脱いでクレマンティーヌの顔に跨れ。クレマンティーヌも分かるな? 口でアエラを満足させろ。それができたら
その言い様に軽く自尊心を傷つけられるがぐっと堪える。彼らにとって自分は文字通り塵芥にも等しい存在だ。今は少しでも心証を好くし、待遇が良くなるように振舞うだけだ。
「う゛っ、ふぅう゛っ!!」
息苦しさを我慢しながらあてがわれた秘裂に舌を這わすと、すぐにアエラの放つ雌の香りにあてられて疼きが強くなる。膣がうねり小陰唇がヒクヒクと痙攣する。
早く逝ってほしい。そう強く願うが、奉仕経験などないクレマンティーヌにアエラを素早く満足させられるだけの技量は無い。
互いに交わす言葉が無いまま、湿った卑猥な音と、時折漏れるアエラの喘ぎ声だけが部屋に響く。アエラが達し、顔面をその蜜で濡らしたクレマンティーヌがご褒美にありつけたのは、もうしばらく経ってからだった。
翌日、馬車で城塞都市エ・ランテルを目指すことになったので、出発の前に「出自設定」をどうするか、現地人のクレマンティーヌを交えて話し合う。「異世界からきました」と素直に言えれば楽なのだが――。
「スレイン法国や
クラーナが強気だった。
「本気か?
「敵対しなければいいのよ。定住するにしろ放浪するにしろ、今までの
「まあな。でも、だからと言ってプレイヤーであることを公言する必要はないと思うぞ」
「そりゃね? ただ、身分を偽るにしても大きくいきましょうよ。貴族とか、王族とかさ。――クレマンティーヌはどう思う?」
「う、嘘を見破る術があるので、下手に偽るのは危険だと思いまあ゛ずぅ」
話を振られたクレマンティーヌは朝から
「ああ、そんなのもあったわね」
対するクラーナは意に介さず受け答えする。
「た、ただ王国も帝国も身分とか権威ってやつに弱いんで、多くを語らず、勝手に゛ぃ勘違いさせるのは、有りかなと」
「それ採用。いいわよね? ヴィクトル」
「ああ、それでどんな設定にするんだ?」
「某国から逃げ延びた貴族って事にしましょう」
クラーナが言うには全盛期の異相協会は拠点持ちだったので「城に住んでいた」や、ユグドラシルは“終わった”のだから「帰る場所を失った」も嘘にはならない。「占いや物品販売で生計を立てている」も後期のギルド形態から大丈夫だろうと。
つまり、それらの言葉尻から何を想像するかは聞き手次第だ。
「その為には馬車の外装も変えなきゃ駄目ね」
「なんだ、魔女の家じゃダメなのか? なんだかんだ愛着があったんだがな」
「地固めするまでは我慢なさい。こういうのはハッタリが大切なのよ」
「そういうものか?」
「そういうものよ」
そこまで言うのなら異論はない。
自信たっぷりなクラーナに任せることにした。
「分かった。さっそく始めよう」
独自設定
・漆黒聖典が二つ名を名乗る理由。当二次創作では占術対策としているが、原作ではなぜ中二病めいた二つ名で呼び合っているか説明はない。