その日、A市に謎の巨大宇宙戦艦が襲来した。
時は少し前に遡る。
大予言者シババワが死ぬ間際に遺した『
説明役のシッチという男がヒーローたちにシババワの予言を伝え、半年以内に来るであろう大災害に備えるよう呼び掛けていたその時、突如現れた巨大宇宙戦艦の攻撃によってA市が壊滅状態になったのだ。
ちなみに何故か無事だった高級マンションが一つだけあるのだが、彼等は知る由もないことだ。
それはさておき、S級ヒーローたちは外へ出てすぐさま応戦。シルバーファング、アトミック侍、金属バット、ぷりぷりプリズナーの4人が地上へと降りたっていた怪人と戦闘に入った。
S級ヒーローの中でも特に活躍したのは、やはり戦慄のタツマキだった。戦艦から無数に落とされた砲弾を圧倒的な出力の超能力で止め、その砲弾を逆に利用して宙へと浮かぶ巨大戦艦を攻撃した。
他のS級ヒーローたちを叱咤しながら悠々と力を振るうその姿は彼女の実力と自尊心を垣間見せた。
そんななか、騒ぎが始まってすぐに天井をぶち抜き巨大戦艦の中に侵入したサイタマは次々と現れる戦闘員らしき生物を倒しつつ、壁やら天井やらをぶっ壊しながら奥へと進みたどり着いた場所で1人の男と向かい合っていた。
大きな単眼に青い肌、重々しい鎧を見に纏ったその男の名はボロス。
A市を襲撃した一団、『暗黒盗賊団ダークマター』の頭目であるボロスは自身を全宇宙の覇者と称し、宇宙中を荒らしまわっていたが、自身のあまりの強さゆえに闘争を退屈に感じていた。
しかし、ある日、とある占い師が予言をした。地球に自身と対等に戦える存在がいると。
ボロスは対等な闘いを求め、20年の年月を経て地球へとやってきた。
「今確信した。見ただけで感じるその強大なエネルギー。お前が予言の男だ。さあ、俺の生に刺激を与えてくれ」
獰猛に笑うボロスと無表情のサイタマ。
立場は違えど、圧倒的な強者であり、同じ思いを抱く2人が今、ぶつかった。
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サイタマとボロスの闘いは熾烈を極めた。
瞬間移動の如き攻防を繰り広げ、拳と脚がぶつかる度に轟音が鳴り響く。生物としての限界を超えている2人の闘いは長くは続かなかった。
体内エネルギーを放出させ、身体能力を上昇させる切り札『メテオリックバースト』を使用したボロスの破壊光線とサイタマの本気の一撃がぶつかり、凄まじい衝撃が余波ですでにボロボロだった戦艦を爆発させ、地面へと墜とした。
煙が晴れたそこには立っているサイタマと下半身が吹き飛び、倒れているボロス。持ち前の生命力でなんとか意識を繋いでいるボロスは軽く笑い、サイタマへと言葉を投げかける。
対等な勝負ではなかった。お前には余裕があった。まるで歯が立たず、戦いにすらなっていなかったと。
「…やはり予言などアテにはならんな」
サイタマはボロスに背を向け、歩き出す。
「お前は強すぎた」
パチパチパチパチ、手のひらを叩く拍手の音がサイタマの耳に届いた。サイタマが音のなる方に目を向けると、そこには褐色肌の美形の青年がいつのまにか瓦礫の上に座り込んでいた。
左足を曲げ、右足をプラプラとぶら下げているその青年は拍手を止めると、ニコニコと優しげな笑みを浮かべながら、サイタマの正面へと降り立つ。
「誰だお前。ヒーロー?」
「いや、違う。俺はシンラ。強いて言うなら君のファンさ。先程の闘い、見事だった。特に最後のパンチなんか凄かったよ。まさしくヒーローの一撃。ギャラリーが他にいないのが残念だけど。まぁ、いたところで余波で死ぬだけだから結局変わらないか」
ペラペラと軽い口調で話す青年、シンラは自分のいる戦艦が今まさに墜落しようとしているというのに焦りの表情ひとつ見せずにサイタマに一歩ずつ近づいていく。
「ねぇサイタマ、君はなんでヒーローになったんだ?」
「え?…えーと、なりたかったからだけど。理由はなんだろ、アニメのヒーローみたいになりたかった…んだと思う」
唐突な質問にサイタマは戸惑いながらも答える。
「じゃあ、次。自分はプロのヒーローに向いていると思う?」
「…」
「思わないだろ?自分のなりたかったものと何かが違うって感じてるだろう?分かるよ」
シンラはサイタマを真っ直ぐ見つめて説得するように会話を続ける。
「俺も正義の味方に憧れてた。弱きを助け、強きを挫く。そんなヒーローにね。でもダメだった。俺の正義は理解されなかった。自分を犠牲にしてでも多くの人々を助けたんだ。なのに、よりにもよって俺の正義を否定したのは俺が助けた奴らだった。俺は気付くのが遅かった。民衆なんてものはみんなそうだ。助けを求める癖に、失敗した正義には強く責任を追求する。そんなのおかしいだろう。助けなかったら悪か?失敗したら悪か?安全圏から騒ぎ立てる馬鹿どもを何故助けなきゃならない?そう思わないか「話が長ぇ!!要点だけを言え!!」
サイタマがそう話を遮った瞬間、轟音を立てて戦艦が地面へと墜落した。地震のような揺れが起こるが2人ともバランスを崩すことはない。
「ああ、ごめん。つい熱くなっちゃった。うん、つまりね。…一旦ヒーロー辞めて、俺と一緒に世界を作り変えないかってこと」
「作り変える?」
「そう。さっきはああ言ったけど、俺も助けるべき人間は存在すると思ってるよ。だからそれ以外の人間を一旦消して、正義を理解する人間を一から増やしていく。そしてその後に俺たちが正義のヒーローとして立つ。この世から悪を無くすことは不可能でも絶対的な正義とそれを理解する人々がいれば世界は恒久的な平和に包まれる。その為に君みたいな強い正義が必要なんだ。だから、俺と来ないか?」
サイタマの目の前で止まったシンラはその手を差し出す。
サイタマはその手をジッと見つめ、ゆっくりと口を開いた。
「……いや、俺はいいや」
「…そう。分かった」
サイタマの拒絶の言葉にシンラは少し寂しげに手を戻しながらもあっさりと引き下がる。
「んー、残念だけど、本人が嫌だって言うのなら仕方ない。今日は帰ることにするよ。あ、その前にS級ヒーローたちに会いに行こうかな。俺今まで顔見せたことなかったし、宣戦布告の意味も込めて軽く挨拶でも…」
シンラはちょうど集まっているS級ヒーローたちに会いに行こうと考え、軽い足取りでサイタマに背を向け、歩き出す。
「なぁ」
だがその背中にサイタマは声をかけた。動きを止めたシンラは振り返らずに「何?」と聞き返す。
「さっき、助けるべきじゃない人間を消すって言ってたけど、それ本気でやるつもりなのか?」
「ああ」
「…じゃあ、俺はお前を逃すわけにはいかねぇな」
振り返ったシンラの眼前には拳が迫っていた。
一瞬の静寂の次の瞬間、ボロボロとなり半壊していた戦艦が木っ端微塵に吹き飛んだ。
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地上にいたS級ヒーローたちは困惑していた。巨大宇宙戦艦が墜落しただけで終わらずに大爆発を起こしたからだ。
巨大な土埃が舞い、遅れて到着したA級1位ヒーローアマイマスクとメタルナイトを含むヒーローたちが見上げる中、煙の中から2つの影が飛び出した。
数メートル離れた位置に同時に着地した2人、シンラとサイタマは崩壊した街や宇宙船には目もくれずお互いを見据える。
サイタマは自身の拳を確かめるように握り、シンラは謎の光を纏った手で土煙を払う。
一度軽く振っただけで充満していた土煙が霧散し、視界が晴れる。
「…あいつはさっき会議の時にいたB級の…」
「…もう1人は誰だ。人間のように見えるが」
S級ヒーローたちは突然現れた2人に疑問を抱く。
と、その時、爽やかな笑みを浮かべたシンラが周りのヒーローたちに話しかけた。
「やぁ、どうも。ヒーローの皆さん。俺の名前はシンラ。よろしくね。…ああ、勘違いしないでほしいんだけど俺は別にこの船のボスでもなければ、宇宙人でもないよ」
大袈裟に手を広げ、話すシンラに警戒の目を向けるヒーローたちを一人一人見渡しながら、シンラは続ける。
「俺は近々ヒーロー協会を潰して、新しい正義の象徴を作り出すつもりだからどの道君たちの敵ってことになるけどね。だから挨拶しに来たんだよ」
「ヒーロー協会を潰すだと?」
S級16位、ジェノスが鋭い眼光のまま聞き返す。
「うん。俺はヒーロー協会の正義を信じてない。上層部の奴らも嫌いだしね。だから新しい正義が必要なんだ。その正義を理解する人々もね」
と、シンラが言葉を終えたその瞬間、シンラの周りの空間が見えない何かに押し潰されるように歪んだ。
よく見ればシンラの身体や周りの瓦礫を薄く緑色の光が覆っている。
「長ったらしい話はいいわ。つまりあんたは敵ってことでしょ」
それを行った人物、戦慄のタツマキはシンラを中心に超能力でシンラを押しつぶさんと力を込める。彼女にとっては敵の言葉などどうでもいい。重要なのは敵かどうかということだけだ。それさえ分かればあとは自身の実力で捻じ伏せるだけなのだから。
「っ!?」
が、しかし。
「いきなりか。戦慄のタツマキ。話ぐらいは聞いてほしいところだけど。まぁ、仕方ないのかな」
何事もなかったかのように話を続ける男に余裕の表情を崩す。
もちろん本気でやった訳ではないが、それでも多くの怪人をなす術もなく倒したほどの力だった筈だ。
「ほいっ」
シンラは一歩強めに足を踏み出した。それだけでシンラを覆っていた力は消え、タツマキの身体が少し後ろに弾かれた。
S級の中でもトップクラスの強さを誇るタツマキの超能力を容易く耐え、打ち消したシンラにヒーローたちは驚愕するが、それでも彼等はトップヒーロー。瞬時にシンラを敵と定め、攻撃を仕掛ける。
背後に回ったアトミック侍と正面から殴りかかった金属バットのそれぞれの得物がシンラに襲いかかる。
首と脳天を狙った必殺の一撃をシンラは掴み取り、そのまま投げ飛ばした。
そんな2人と入れ替わるように飛び込んできたのは真っ黒い肌に筋骨隆々の巨漢、超合金クロビカリとタンクトップを着た短髪の大男、タンクトップマスターだ。
常人では考えられないほどに膨張した筋肉でタックルを仕掛けてくる超合金クロビカリを片手で止め、タンクトップマスターの右ストレートを首を捻って躱し、ガラ空きの腹を蹴り飛ばした。
「なっ!?俺の筋肉を片手で止めただと!?」
「ぐう!?」
蹴り飛ばされたタンクトップマスターは瓦礫へと突っ込み、絶対的な自信を持っていた己の筋肉を止められた超合金クロビカリは狼狽える。
その隙にシンラは超合金クロビカリの足を払い、発勁のように押し出した掌で超合金クロビカリを吹き飛ばした。
『閃光斬』
しかし、シンラは吹き飛ばした相手を見ることなくその場に低くしゃがむ。
その直後、ちょうどシンラの首があった位置に斬撃が残像を残しながら迸った。
「閃光のフラッシュか。言うだけあって速いな」
シンラの首を切り落とさんと仕掛けた金色の長髪に刀を携えたその男、閃光のフラッシュはシンラを冷たく睨みつけるが、その頬には一筋の汗が流れていた。
ここで、一旦ヒーローたちの動きが止まる。
S級ヒーロー数人に容易く対応するこの男に無闇に攻撃を仕掛けるのは悪手だと気づいたからだ。
シルバーファングやタツマキすらも攻撃を仕掛けずに睨みつけるだけだ。アマイマスクも焦りの表情こそしていないものの攻撃を仕掛けることはなかった。
「…ま、とりあえず今日のところは帰るよ。…あ!俺と一緒に正義の道を進みたいって人は歓迎するから遠慮なく来てくれていいよ。もちろんヒーロー協会は辞めてもらうけど。…じゃあねヒーロー。また会おう」
友達と別れるように気安く手を振ったシンラはその場から瞬間移動で姿を消した。
シン、としたその場に残されたヒーローたちは様々な表情を浮かべていた。
屈辱、焦燥、興味、萎縮、恐怖、それぞれが違った表情を浮かべる中、サイタマだけは無表情のまま己の拳を見つめていた。