後ろの激しい音を気にしながら、塔の中へ進んでいく。入ってすぐエレベーターに乗り込み、上へ向かう
「デボル、ポポルの残存データを確認しますか?」
「うん」
そこにあったのは、お世辞にもいい思い出ではなかった。旧時代、マスターが生きていた時代より少し後。彼女達は人類の監視者として作られていた。ただその時には「人類」と呼べる存在はなく、体と魂に分けられていたと言う。そして、彼女の同系機のミスにより二度と戻らなくなってしまい、その時人類の滅亡が決定してしまった
その致命的なミスを繰り返さないために、本人ではない同系機の彼女達へ罪の意識を植えつけ、他のアンドロイドはそんな人類を滅ぼした彼女たちを憎悪した
その結果、彼女達はどこへ行っても迫害を受け、アンドロイドの集落を転々としていた。お互いを支え合い、お互いに死を意識した時ようやくアネモネのアジトへと到着。
それでさっきの「償う」って言葉になるのか……
「疑問。デボル、ポポル両名はなぜ、二人で死ぬ事を考えたのか? データからは単独離脱は可能でそれにより……」
「ポッド……君にわからない事を祈る」
「了解」
きっとそれも「罰」の一つなんだろう。お互いが監視して、片方が逃げようとすれば……。でも、きっと違う。二人でいる時のあの雰囲気はきっと違う……そう思う
エレベーターも止まり通路に出た。中は、白い大理石のようなものでできており、虫食いがある階段で上へ上る構造だ。予想と違って敵の襲撃が無いと思っていたが、そんなに甘くはない。しかも
「汚染されたヨルハ機体!?」
降下作戦後、行方不明になっていたメンバーが襲って来た。相変わらず下品な言葉でこっちに向かってくる
「提案:破損させず機能停止」
「そんな無茶な!?」
向こうは遠慮なんかせず襲ってくる。それを機能停止だけ狙うなんて無理がすぎる。一人目は残念ながらそんな器用な事は出来ず、ポッドの射撃と僕の攻撃で破壊した
「9S。次は確保を推奨」
「なんでそんな無謀な話を……」
「今後の9S達の修繕、改修に必要と判断」
「ああ……そういう……」
確かに、今後もし手足の破損などが出た場合修復は出来ない。その時の予備としてって事か……地味に残酷な事を考えるな
「もしくは、ハッキングにて治療、回復」
「それは……きついな」
以前、オペレーターさんこと21Bさんを治療出来たのは、A2が抑えてくれていたからであって、戦闘中にウィルスを駆除しつつ、自分の感染を抑えるというのは正直無理だと思う
ヨルハ部隊はあまり数が残っていないのか集団で来る事はなかったが、それでも強敵なのは変わりない。
ポッドの言う通り確保を試みるが、やはり無理だった。手足を狙って行動不能を期待するも、動かなくなろうがおかまいなし。運良く心臓を貫いても数秒後に爆発と、どうにもならなかった
『こんにちは! 塔システムサービスです!』
入り口で響いた女性とも男の子ともとれる甲高い声が聞こえる
『最後のサブユニットを解除した来場者様へは、ファイナルワン賞をご用意しております』
「一体なんだってんだ……」
初めて塔に接触した時、なぜかヒントをくれたこの声。しかし、実際に入るためには誰かの犠牲が必要だったことから善意のはずがない。そんな案内に少しイラつきながら進むと、大きな扉が現れた。おそらくここが「用意」している場所だろう
「……敵の誘導と見れる行動……予想:罠」
「だろうね……でも、いかないと」
ゆっくり扉を開けると、中は薄暗く広い部屋のような構造だった。注意して中に入って行くと、上から何か降ってきた。すぐに戦闘態勢をとるが出現した敵に驚く
「2B……タイプ……?」
出てきた10数体の敵は、全部2Bと同じ機体で、一目見ればまったく同じに見える。どうするか一瞬迷ったが込み上げてきたのは怒りだった。僕の友人であり、マスターの大事な人。それをこういう風に利用することに。
彼女たちが襲い掛かってくる。しかし、戦ってわかる。しょせんそれは「2Bの形」をしただけだと。それでも攻撃を当てる時に戸惑うことがある。何とか一体だけでも確保できれば……そんな事を考えるが、戦闘データはヨルハ機体の物を使っているのかスキはない。
一体、また一体と行動不能には出来ても、自爆機能でもついているのか機体の確保は出来なかった。
そして最後の機体にとどめを刺した瞬間、「ソレ」は爆発した
「うわ!!」
爆発に巻き込まれ、僕の視界は白く閉ざされた
──────────
デボル、ポポルを弔う間もなく私も中に入る。先行した9Sとは大分離されただろうか? 少し心配しつつ入ったすぐのエレベーターで上に登る
エレベーターから降りると左右にうねった白い階段が続いている
「ところどころ、爆発後や何か部品のようなものが……?」
「予想:先行した9Sの戦闘跡」
「ふ……私が露払いをされるなんてな」
彼の死体を無い事を祈りつつ、中央が大きくくぼんだ部屋を抜けるて進むと、やけに大きな扉が出てきた。その扉は簡単に開き中に入ると広く、整理された空間が広がっていた
「なんだ……? ここは?」
「予測:図書館を模した施設」
「としょ、かん? なんだそれは?」
「過去の人類が建設した、情報保存施設」
確かこれは「本」とかいうやつだな。それが壁一面にぎっしり詰められている。近づくとその本は取ることはできず、只の見た目で中を見るにはハッキングで出来るようだった
「ポッド」
「ヨルハ機体A2にハッキング権限を付与」
「よし……」
かたっぱしから……するには時間が無さすぎる、目についたものをとにかく見て行こう
見ていくと、おかしい情報がいくつも出てきた。アダムやイブと言った機械生命体の情報は当たり前だが、ヨルハ部隊でさえ見たことのない、月面の人類サーバーの記録。過去の人類の記録。そして
「ヨルハ計画における二号モデルの、運用概略?」
なんで、私達の部隊のデータまで……すごく気になり、そのデータを見るとそこには私の想像の上の運用方法だった。驚いたのもつかの間、上から何か聞こえたと思うと天井が崩れ巨大な何かが降ってきた
『ハッハッハハハ。コロス……コワス』
「なんだ!? こいつは!?」
巨大なボールのような機械生命体。その声は男と女が二人同時にしゃべっているようで、発声機関が壊れているのか? と思うほどだ。しかし、狭い空間ではそいつも思ったように動けなかったのか、ある程度ダメージを与えたと思ったら入ってきた入口から出て行った
私も先に進むべく、部屋に入った時に最初に見えていた扉から図書館を脱出。壁に装飾の施された廊下を進むと、目立つように「コンソール」のようなものがあった。それに不用意に触れたのが間違いだった。ハッキングをしている……いや「されている」状態に陥ってしまった
「クソッ……」
「敵のハッキング攻撃。推奨:早急な離脱」
「わかってる!」
普段のハッキングは、自分の分身を送り込み、空から見下ろすような感覚だが、今は自分の視線で進んでいる。特に通路は長くなくすぐに行き止まりに着いた……が
「貴様は……」
赤いワンピースを着た少女。しかし、その声はその姿からは予想できないほど低く男の声だ
「久しぶりだな……二号。いや、今はA2と呼ぶべきか?」
こいつとは、昔会ったことがある……そう「昔」に
「私達のような概念情報にとって、時間の意味はないが懐かしいよ……君たちの部隊を全滅させたことは」
アタッカー二号として地球で戦っていた時。こいつらによって私の部隊は全滅させられた
「正式採用される「ヨルハ」のために生み出された、捨て石の部隊」
「うるさい!」
相手の言葉と存在を否定するために攻撃する。少女の姿をしたそれは、一度の攻撃で霧散するが、手ごたえが無い。消えては現れ、消えては現れを繰り返し、どんなに攻撃してもそれは続く
「私達は殺せない……そう言ったはずだが?」
「クソッ……」
攻撃が当たれば消える。それは確かだが当たっているというより、避けられているようにも見える。さっきまでは空間には2人以上出なかったが、3人、4人と増えていき、私の攻撃スピードをどんどん上回ってくる。
「提案:敵の論理学習機能を利用して弱点の形成」
「全然わからない!」
「疑問:ヨルハ機体A2の学習機能」
「私の手助けなのか、茶化すのかどっちなんだ!」
「敵の論理思考をインタラプトして、演算を遅延させる作戦」
「つまり!?」
「敵への攻撃、破壊をしてはいけない」
「はぁ!?」
ここにきて、敵を倒さない事が倒す条件? なんだそれ!?
「敵が一定数、一定時間存在することが条件」
確かに、このまま倒し続けてもじり貧だ……倒すこと自体はなんとかなるから、ひとまずこいつを信じてみるか。そうしてこちらが攻撃をやめると、増殖するスピードが上がってきた
「敵自我データ飽和率30パーセント」
こっちが攻撃しなくても、敵の攻撃は続く。数が増えればもちろん攻撃の数も増えるから、躱すのがだんだんきつくなる
空間は決して広くない。それでもなんとか躱し続ければ「60パーセント」とポッドが言う
「人類が残したアンドロイドが、まるで人類になりたいかのように振る舞う。エイリアンが残した機械生命体も、まったく同じように振る舞う。私たちは似ている……」
……違うな……お前のように、自分のためだけに行動するヤツと、子供を殺した私に対して、その憎しみを抑えて許してくれた主。あの人の優しさだけは違う
「だが、ネットワーク化された私達のほうが優れている」
奴が話を続ける……なぜ抵抗するのか? あきらめて死ぬことが、終末ではないのか? 理屈ばっかりこねてくる。
「敵の自我データ飽和率90パーセント」
周りの空間に、巨大な少女の影が出てきた。
「私達こそが、完成させれた精神のありようなのだ……私たちは進む、先に、未来に……」
「生命の多様性を学習」
まだなのか……? 攻撃そのものはまだ避けられるが、このままだと本当に勝てるのか怪しくなってくる
「自我データ飽和率100パーセント。予測、敵自我が分裂を開始」
攻撃が当たりそうになり、まずい! と思った瞬間、敵の影がすべて消えた
目の前に赤い服の少女二人が、お互いに見つめ合うように立っている
「我々には敵が必要だ。このアンドロイドを残しておけば、さらなる困難が訪れる」
「敵は危険だ。このアンドロイドは排除すべき」
「その困難を乗り越えれば、我々はさらに進化できる」
「こちらが破壊される可能性は排除すべきだ」
二人の少女が静かに見つめ合う
「我々の勝利を疑う存在は……敵だ」
「勝てると思っているのか?」
片方の顔が、醜く笑ったようにゆがむと二人が攻撃しだした。さっきまで引っ込んでいた他の赤い服の少女も、どんどん現れるが、お互いに攻撃し合ってつぶし合っている
「報告:飽和した自我がお互いに闘争を開始」
「は……まるで……まるで……」
増えた人類が、お互いの意見が合わないから殺し合う……主を連れてこなくて正解だな。この戦闘内容は報告しないでおこう……。どんどん、減っていく赤い服の少女。最後の一体を私が倒した時、ハッキングが終了した
さっき触ったコンソールがスイッチになっていたのか、乗っている床がエレベーターのように上昇を開始。すると、さっき逃げた丸い機械生命体が再度現れた
「しつこいのか、潔いのかどっちだよ!?」
そんな悪態をつきつつ迎撃を開始。さっきと比べると動作が遅く感じるが、腑に落ちない。さっきの赤い少女がこいつらの親玉で、あいつがいなくなったから、機械生命体が動かないんじゃないのか?
「予測;敵サーバーの残存データによるもの」
「結局、全部倒せってことか……!」
さっきは殺すだ壊すだ言っていたが、今度はさらにわけのわからない事をしゃべる。二つの砲台を壊し、本体に攻撃を加えると動く床から離れまた逃走した。
「一体……なんなんだ……」
そのまま斜めに登る床に残り、降りることも出来ないので呆然とする。
「次は何が来るんだか……」
そう言いつつ警戒は怠らず、軽くメンテナンスを行い次に備える。もう少しで終わるはず……そして帰るんだ……そんな思いを胸に再度武器を握りしめる
後3,4話ぐらいかな・・・?多分