私は、人の多い所を歩くのが好きだ。さっきのようにぶつかるのはまれだが、そういうアクシデントも楽しい
あの人が生きていた時代に、少しでも近くなったのだろうか? あの人との最後になるかもしれない子供をお腹に抱えつつ、「
もちろん、表ではなく裏の方だ。人目のつかない通路を歩き、一面真っ白の行き止まりに着く。そこに手を付けると
「……登録されたアンドロイドの信号を検知……おかえりなさい」
そんなアナウンスが『頭の中』に響き、何もなかったはずの壁が音もなく開く。私が中に入ると、また音もなく壁は閉じ、壁には何も残っていなかった
「奥様? また外を散歩されておられたのですか?」
「最近楽しくてね……」
支配人の奥さんが、ちょっととげとげしい雰囲気で言う。
「もう……『今は産まれない』とはいえ、無理はしないでください」
「ええ。注意はしてる」
私達であれば、ちょっとやそっとじゃ、外からの力で産まれることは無いと思うけど、それでも大事に扱いたいのは同じだ
「みんなは?」
「いつものお部屋で、てれびを楽しんでおられます」
そう言えばあの人に聞いたことがあったな。外に出られない人とか旅行に行けない人が、記録を大きな画面で見ることで楽しめるとか……
「トゥーワン。いつもありがとう」
「いいえ。いつものことですから」
口元を隠しているが彼女の笑顔はそれでも伝わる。支配人が表に出られない以上苦労もあるだろうが、それを楽しんでやっているようで何よりだ
エレベーターに乗って最上階に向かう。そういえば、あの花があったのは逆に地下だったな……とふと昔を思い出すと、扉が開いた
「あー!!! そこは左の攻撃をさばいて投げるかキメるだろうが! なんで飛び込んだんだよ!?」
「もう……あんまり叫ぶとお腹の子が心配ですわ」
二人とも……というか片方だけテレビに夢中のようだ。かじりついているのはやはり昔ずっと戦っていたからだろうか? 格闘技というのを好んで見てるみたいだ
「あら? おかえり」
「ただいま」
「おはへりー」
「口に物を含んだまましゃべらない」
最上階は私たち専用の部屋で、『私達』以外がボタンを押しても来れないようになっている。と言っても広さはあの時の部屋と変わりないけど
「今日はなにか面白いことがあったか?」
「人が一杯だった」
「それでも、全盛期の10分の一……まだまだ時間がかかりますね」
「確か、男の数が足りないだっけ?」
「現在で2:8。最近3:7になったようですね」
それでも、あの人一人の時に比べれば本当ににぎやかになった。出来ればお腹の子の出番が無い事を祈る
「あの時流行った病気も再発してないですし、機械生命体も今やお手伝いロボットです。このままいけば私達も静かに暮らしていけるでしょう」
「戦闘型の私にとっては微妙だけどな」
「君も妊娠してるのだから、控えた方がいい」
「はいはい……って本当、これ重いな……お前らよくこんなの抱えてたな」
「あら? 幸せの重みです」
「……まぁ否定はしねぇけど」
私達三人とも、あの人の遺伝子を直接卵子に書き込み、息子をお腹に抱えている。戦闘型といった彼女は、私の二つの子宮で書き込んだ卵子の片方を移植したものだ。
「一度、滅んでしまった人類」
「あの時は旦那様がいたから、今がありますが」
「次も考えないとな」
万が一。あの時は色々なものが重なり、人類がいなくなってしまった。あの人が残ったのは本当に偶然。それに備えるべく私達は
「再度同じことが起こった場合」
「息子を産み、何度でも人類を復活させる」
お腹をさすりながら、来てほしくもなく、でも産まれてほしいという小さな矛盾を思う。この子を宿し1000年と少し。お腹にいてくれるという幸せは、やはり心が安らぐ。この子が生まれる時は、またあの時のように絶望の夜が続く。だから私達は
「どんなに暗い夜でも、いつかは明ける……」
「私達『ヨルハ部隊』改め」
「ヨルハアケル部隊……何度でも私達は人類を再生させます……アナタ……」
記憶の劣化はない私達。もう娘たちは全員死んでしまったけど、それでも、あの思い出は苦しむ呪いでもなく、生き残る罰でもなく、明日の希望となっている
……マスター……いつか、また、お会いできると、信じております……
これにて、このお話は終了となります
「ヨルハアケル」「夜は明ける」このダジャレが思いついて、どうしてもここまで書きたくなりましたw
それでも、ヨルハ部隊はいつか来る夜明けを信じて戦った
それが叶った一つの形として私はこの形になりました
次回‥というか、まだ書いてたりするものがあるので、まだだらだら続けたいと思います
ではでは