※この作品はR-18です。

悪の組織は不死身の少女に殺してと言わせたい   作:Kaisu

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2:研究対象

 聖(ひじり)さんによる、現在判明している吸血鬼情報講座。

 榊場(さかきば)は既に昼飯を吐きそうな顔してるけども、はじまりはじまり。

 

「吸血鬼。古来よりたびたび伝承に残り、十字架、銀、ニンニク、聖水に弱いなどと弱点もバラバラ。しかし概ね夜間に活動し、食事は人の生き血、増殖方法は噛むか吸血行為とされるあたりのことは大体共通している。まあ私はバカでかい蚊のようなものだと考えているが」

「蚊」

「蚊って……」

 

 えらいスケールが落ちたな。

 

「蚊は置いておくにしても、吸血鬼にはコウモリのイメージがついているよね?」

「まあ、そうですね」

「吸血コウモリ、チスイコウモリ科チスイコウモリなんだけど、コウモリのイメージに違わず夜行性で、大規模な群れになって移動し、夜間に寝静まった動物から吸血行為を行う。アメリカ大陸原産でヨーロッパの吸血鬼伝説には因果関係は薄かろうけど、まず間違いなく影響されただろう。蚊がマラリアを伝染させるように、チスイコウモリも狂犬病なんかを伝染させる。ニンニクは大抵の野生動物にとって忌避される野菜だから、軒下に吊ればコウモリの軒下ぶら下がり避けにもなったんじゃないかと思う。吸血鬼がニンニク苦手のイメージがついたのはそのあたりに理由があるんじゃないかと」

 

 吸血鬼≒コウモリ≒蚊、の連想になったと。

 蚊と吸血鬼が似てないこともない、のか?

 

「十字架と聖水はキリスト教の箔づけだろうから忘れていいだろう。銀も殺菌効果があるから弱点としては理解できる。まあ、今ウチに収容されている吸血鬼たちにそれらが弱点たる効力は認められていないけど」

「当たり前っちゃあ当たり前ですかね。銀でできた巨大な十字架でぶん殴れば効果はあるかもしれませんけれど」

「十字(じゅうじ)君が言うと実際にやりそうに思えてくるね。それはさておき、吸血鬼もそういう伝染する病気と捉えているわけだ。だから吸血鬼症候群(ヴァンパイアシンドローム)。伝染病キャリアーであり、病原体そのものでもある。感染経路は血液感染と接触感染の合わせ技の可能性が高い」

「その割には、感染者少ないですよね。隠蔽できていますし。輸血なり性交なりでいくらでも広がりそうですけど」

「実際そうなんだよね。ここにいる吸血鬼には感染力が確認されていない。吸血行為を受けても吸われた側が吸血鬼になることはない。あくまで仮説だけど、これは火葬文化が問題かな」

「話があっちこっち行きますね」

 

 蚊、伝染病、ときて今度は火葬。

 

「ゾンビのモチーフの原因は、未発達の死亡確認による早すぎた埋葬問題にある。吸血鬼が棺桶に眠るというのも同様の連想だろう。吸血鬼伝承が欧州付近に集中しているのは土葬文化ゆえだな。昔の日本も土葬だけども。これらの前提条件を踏まえて、火のないところに煙は立たぬ、ということわざを思い出していただきたい」

「……昔実際に吸血鬼が存在していた、と?」

「榊場君、正解だ。正確には感染者を増やせる吸血鬼が当時欧州に存在した、と考えている。で、現在吸血鬼がいるということは」

「また出たと」

「十字架や聖水が弱点として扱われているのは、おそらく当時のキリスト教系の何某(なにがし)が討伐撲滅に成功したんだろう。なんなら、今さっき語った吸血鬼のイメージの類は後付けの欺瞞情報で薄めているのかもしれない。コウモリの話なんてまさに後付けだろうし」

 

 一応辻褄は合っているようには思う。

 なんでそれが拷問しように繋がるのかはまだ謎だが。

 

「で、火葬文化だとどうなるんですか?」

「十字君は昨日生首切り落としても蘇生するのを見たよね。あれ、切り落とす前の段階でも心臓は止まってるし、現在の医療基準だと100%死亡診断が出る状態なんだ。強烈なショックで起きるけど」

 

 話の流れが見えてこない。

 

「感染力を保持した吸血鬼を親と呼ぼう。親は夜間に人を襲い吸血する。感染するも、その段階で1度人は死ぬ。たぶん急性心不全かなにかで。しかしこれは仮死状態であり、然るのちに蝶の羽化のように吸血鬼として復活する。……なんだけど、火葬文化だと仮死状態の段階で既に死亡宣告されるわけで、羽化する前に蛹の状態で骨になるまで燃やされる。よって復活できず吸血鬼の流行は避けられる。土葬だと棺桶に入れて土中へ。吸血鬼化した後になんらかの弾みで地上へ進出、ってなる。なんなら欧州の魔女狩りも、誤爆上等の吸血鬼撲滅キャンペーンだったのかもね。その指揮官が銀の十字架持ちだったとかして」

 

「じゃあ、仮死状態から羽化するまでの時間ってどれぐらいなんですか?」

「相当長くかかるってことしかわかってないよ。セミの幼虫みたいなものかもね。ずっと以前から回収したまま手を加えずに仮死状態のまま保管されている吸血鬼がいるけど、羽化の気配はない。モニターはしてて、ちょっとづつ体の内側に変化が起きているのは確認してる。昨日見せたCTスキャンの内臓位置が違うやつがそれ。生首晒した方は蛹の状態から科学的アプローチにより何度も叩き起こされている」

 

 科学的アプローチねえ。あれはいうほど科学的だったか?

 

「あと、仮に日本で吸血鬼が仮死状態のまま土葬されていても、湿度の問題で羽化より先にカビて腐ってる可能性がある。古墳も現存してるから一概には言えないけど、棺桶に入れて埋めても、あれだけ地震と雨が多ければ軋んで歪んでズレや割れもするだろうし。湿度の高い場所が多いユーラシア東に吸血鬼伝説が少ないのもそういうことじゃないかと。チスイコウモリがいないことも大きいだろうけど」

「日本の環境は踏んだり蹴ったりの吸血鬼不毛の地ですか」

「話を火葬に戻すけど、火葬は現在見つかっている吸血鬼を仮死ではなく全殺しにする手段のひとつなのさ。日本の場合、死亡=ほぼ100%火葬になるから、もれなく蛹のまま羽化せずお亡くなりになるわけ」

 

 火葬が全殺しにする手段のひとつであるならば他にもあるわけで。

 硫酸か塩酸のプールにでも放り込めば殺し切れるか?

 なんてことを考えていると榊場が手を挙げる。

 

「昨日見せられた彼女も、どこかに保管されているCTスキャンされた個体も吸血鬼として、話が広まっていない以上、普通の医師なら疑問を抱かず死亡診断しているってことなんでしょうから、どうやって判別して、入手したんでしょう?」

「割と幸運が重なった結果なんだけどね。ちょっと過程を書き記そうか」

 

 

 たまたま死者の血液量が減っていることに気付いた医師がいたこと。

 同時期に比較的近場で同様の死者が確認されたこと。

 監視カメラに空飛ぶ巨大ななにかが捉えられていたこと。

 ここでしばらく捜査が暗礁に乗り上げる。別県に吸血鬼が移動していた様子。

 

 別件で公安警察がカルト教団の不穏な動きを察知して特殊部隊とともに突入するも、奇怪な反撃と女性の死体がごろごろ待ち受ける。

 辛くも生き残った信者から吸血鬼が出たという証言が出たため監視カメラ映像を洗うと飛び去る吸血鬼がばっちり映っていた。

 突入隊の中に飛び去る大きな影を見た者まで複数人いる始末。

 ここから我々兵庫支部の登場になる。

 

 

「話の腰折って悪いんですけど、ここ民間企業じゃなくて国営ですよね?」

「追々説明するつもりだったけど、兵庫支部は限りなく国営に近いよ。民間企業にガワだけ借りてる状態。理論上はエボラウイルスや天然痘すら扱えるBSL(バイオセーフティレベル)-4に相当する最高位の設備施設を備えている。もっとも、ここは秘匿案件しか扱わない場所だし、やることの趣はだいぶ違うから、十全に機能が発揮されたことはないけど。国立感染症研究所とは違って、もっとオカルティックな方向。人員もそれにならう。財前君みたいなね」

「そりゃ給料が違うわけだな」

「我々は731部隊の亜種みたいなものだよ。国営の悪の組織。保護してもらう代わりに表立ってできない研究の成果を献上するのさ」

「ヒェッ……」

「だから拷問で人の倫理とか良心の呵責とか神への冒涜とかそういう概念はさっさと粉砕して、手を汚してもらわないといけないわけで」

 

 そりゃ研究で精神疾患起こしますわ。念書用意されるわけだ。

 夢に生首は出てこなかったらしいけど、榊場は受難が続くな。

 俺はたぶん大丈夫だけど。

 

 

 

 

 

 

++++

 

 

 

 

 

 

 飲み物休憩を挟み、経緯説明再開。

 

 結構な量の死体が司法解剖にかけられることになったものの、案件がオカルト臭いため兵庫支部から遠征して司法解剖。

 すると、血液量が少ないのは当然として、いくつかの死体から再生能力の発露が見られた。

 さらに詳しく調べると、いくつかの死体には内臓の変異も認められた。

 結局死体の多くを兵庫支部で収容して研究続行になった。

 

「吸血鬼の親逃げてるじゃないですか」

「足取り追っかけるのは我々の仕事ではないけど、吸血鬼の親を捕まえたら我々の出番ではあるね。被害者ならぬ仮死の吸血鬼個体も発見次第送られてくるけど」

「遺族は死体取られて怒りません?」

「火葬場で納棺して炉に突っ込んでから死体すり替えるんだよ。無縁仏を燃やして返す。性別と背丈合わせれば判別なんてできないね」

「やることがえぐい……」

 

 無縁仏をどこから調達して来るのやら。

 国営悪の組織のスケールと守備範囲が見えてこない。

 

「吸血鬼の好むターゲットの話に移るよ。なぜか親の吸血鬼は若い女の子ばかり狙う。逃亡後も散発的に仮死の吸血鬼が来てるけど全員女の子なんだよね」

「男吸血鬼のロリコンですか。害悪そのものですね。いやまあ男女逆でも大概ですけど」

「いや、ハズレだよ十字君。若い美女の吸血鬼だ。監視カメラにバッチリ映像残ってたし、目撃したカルトの生存者もいれば、叩き起こした吸血鬼からの証言もあって、顔や姿は結構はっきりしてるんだ」

 

 百合ですかそれともレズですか。

 

「どんな過程で生じたのかはわからないけど、若い女で美しいというのは効率的に吸血行為を行うために正しい進化だろうね。家に上がるにも、人気のないところに誘い込むにももってこいだろう」

「そういえばデブった吸血鬼の伝承って聞きませんね」

「抵抗なく血を吸うのが目的であれば、接近するまでの不快感は薄いほうがいいに決まってるだろうからな」

 

 隠れるのか近寄らせるのか待ち受けるのか狩りに行くのか。

 それぞれの種によって進化は様々であろうが、その捕食フィールドにおいて最適であろう形態に進化するか適応するのは生物の根幹。

 吸血鬼がどのレベルの知能を誇るのかは定かではないが、人間を捕食対象とするのであれば相当な知能は持ち合わせていると考えるのが自然。

 

「さっき被害者が女の子ばかりと言ったけどね、男の被害者もいないわけじゃないんだ。街中で見つかる被害者は女の子ばかり。なんだけど、カルトに警察が踏み込んだとき、男がゾンビみたいに襲ってきたんだなこれが。血が出ようと傷を作ろうと、自らの体の損傷を全く厭わないリミッターの外れた馬鹿力で襲いかかってきて制圧に相当苦労したんだそうだ。しかも明確に襲ってくるのに意識がなければ催涙弾もスタングレネードも効かない」

「特殊部隊相手にそれってなんつー戦闘力」

「それにてこずって大元の吸血鬼に逃げられたって最終評価がついてるからね。もっとも、相手が自力で空飛んで逃げるなんて予想してなかったんだから仕方ない」

「そりゃそうだ」

「当たり前ですね」

 

 事前知識なしじゃ無理ゲー過ぎるわ。

 そんなゾンビと女性の死体ゴロゴロのリアルホラーゲームやってたら目の前の出来事に注意も集めるだろうし空なんて見るまい。

 つか、そんな大事になってるのに一切話が漏れてないのが凄いな。

 

「男性被害者だけど、吸血鬼という前提では眷属と呼ぶべきなんだろうかね? それの特徴なんだけど」

 

 狂乱状態、痛感の極端な鈍化、意思疎通不能、知能低下、筋力を中心とした運動能力の大幅な増加。

 同士討ちはしない。

 組みついて噛みつこうとする傾向、特に首。力が強いため脅威。

 催涙弾、スタングレネードで鎮圧不可能。

 若干の再生能力を保持し、ヘッドショット1発や心臓1発程度では一時的な足止めにしかならない。

 無傷で捕獲しても数時間〜十数時間後には死亡。再生能力も失われる。

 首元に噛み跡。

 噛まれても感染力はない。

 死亡後に大きなショックを与えても蘇生せず。

 

「なんやこの化け物」

「ゾンビって表現されるわけだ。本当に人ですか?」

「人だったもの、というのが正しいかなあ」

 

 さらっとヘッドショット1発だの心臓1発だの書かれているあたり相当な戦闘になったことが伺える。

 銃器使用にアホほど障害のある日本で、その禁を破らないと突入側の命が危ういと判断されたのだろうし。

 そして噛まれた人もいるっぽいなあ。生きて帰れたんだろうか。

 

「一応、無傷と思しき男性被害者死体はここにも3体保存されてるんだけど、新たな情報を得るのは望み薄かな。これまで3体も実験し潰したけど、脳が溶けてる蘇生しない内臓変化しない腐るで正しく死体。繁殖用ではなく、吸血鬼による一時的な護衛作りの能力ではないかと考えている」

「効果がそこまで長続きしないことと、二次感染が起きないことは救いですね」

「再生能力は人間の復元力の前借りじゃないかと思っているよ。言うなれば寿命を超早送りにするような」

「強制燃え尽きる前の蝋燭状態ってことかあ。脳が溶けるほど酷使してるってことだろうし、脳波観察してみたいな。真っ赤っ赤になってそうだ」

 

 板書されている特徴からして、検査装置をつけることすら無理そうな気はするけども。


















この小説、
舞台→現代
ジャンル→SF
って設定するのが適切だと思う。仕様上できないのだが。
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