Quality of Life(QOL)のことで、「生活の質」と訳すこともあります。治療や療養生活を送る患者さんの肉体的、精神的、社会的、経済的、すべてを含めた生活の質を意味します。病気による症状や治療の副作用などによって、患者さんは治療前と同じようには生活できなくなることがあります。QOLは、このような変化の中で患者さんが自分らしく納得のいく生活の質の維持を目指すという考え方です。治療法を選ぶときには、治療効果だけでなくQOLを保てるかどうかを考慮していくことも大切です。
国立がん研究センター がん情報サービス 用語集より引用
https://ganjoho.jp/public/qa_links/dictionary/dic01/quality_of_life.html
吸血鬼の膝破壊から一夜明けて、術後おおよそ18時間。
吸血鬼は経過を確認するためMRIに突っ込まれていた。
ガオンガオンという明らかな騒音と、高音でテクノな機械音の継続は、音だけで吸血鬼を起こしかねないと思う。
MRI室自体に防音設備は施されているがそれでも普通に耳に入るし。
「
「ウチMRIは2台ありますけど、新しい方のでも5年前の機種ですし。国産かつ採算無視してのスペック優先でチョイスして、幼児検査は想定してませんでしたからねえ」
「子供なら本来は普通の病院行くべきですからね」
「子供を調べること自体はありえますが、せいぜい短期間で数回、かつ、強制力がある。彼女は想定の外です」
本日のお仲間、機材科所属診療放射線技師の
X線を使用するCTが放射線技師の本分であり、MRIは磁気検査だが、担当は同じなのだそうで。
「緊急検査なら鎮静剤投与してMRI検査もあり得ますが、幼児は鎮静剤での合併症と依存が怖いから薬剤科が猛反対してるんですよねえ。吸血鬼に障害残してもせいぜい始末書で済みますけど、家長ちゃんに変な障害残したら物理的に首飛びますわ」
「そこまでいきます? 薬に依存して離れなくなるのはむしろ好都合では?」
「鎮静剤は主にベンゾチアゼピン系、向精神薬や睡眠薬そのものと言っていいですからね。大人にだって継続投与は論外ですし、適正量使い続けても依存が発生する部類なんですから、幼児になんてとてもとても」
聞くからに健康児に投与するものではなさそうだな。
本当に最終手段になるのか。
「能力の希少性では代えのいない国内オンリーワン。今動かしている出力3
「28億もするんですか、あれ……」
「さすがに値切ってはいるだろうとは思われますが」
単純比較はできないが、家長ちゃんの価値は28億円に勝ると。
家長夫妻に払われた手付け金は1200万円で半年ごとに100万円だったか。
比較すると実に足元見たこすっからい金額で引き取ったもんだな。
「たまの暴走で麻酔科が強制シャットダウンに駆り出されてますけど、後遺症と依存を残さないように毎回戦々恐々しながらギリギリ落ちる量探ってますよ彼ら」
「麻酔による強制シャットダウンしか方法ないんでしょうかね?」
「戻れなくなった幽体の本人に許可とって、
「話聞くだけだとパワー系の障害か統合失調入った子にしか聞こえませんね」
「あの子にこそ、統合失調症の元の病名である精神分裂症がふさわしいねえ」
幻覚や妄想で生活維持が難しくなるのが統合失調症だが。
家長ちゃんの実際に目に見える精神分裂を起こしているエピソードを聞くと、精神分裂の方に頷くしかない。
「憑依放置してた時に、手ヶ咲の兄ちゃんがあの増える手でガッチガチに拘束したままMRIに突っ込んだからよく覚えてる。幽体の本体は音で逃げていましたがね」
「なにか発見ありました?」
「造影は若干雑でしたが、MRIで見てる限りでは異常を確認できず健康そのもの」
「あらら」
「幽体になる方の人格が体を掌握している限りは、生活が苦になる症状はないようですから。我々基準だと首をひねりたくなりますけど」
「確かに。意思ある幻聴が不定期に聞こえてくるのは相当キツい」
単なる幻覚幻聴ならいっそ好都合なぐらいかも。
「幽体の本人同意の拘束検査の時に、MRIでは異常なかったものの、その後にした脳波検査でとんでもない波形描いててね。スパコンでその脳波再現させる計算させたら脳死になるって結果が出て、脳神経研究してる
「ギフテッドの処理能力ゆえに生きている、ってことなんでしょうか」
「かもねえ。MRIでの立体像では同年代の子に比べても差らしい差はなかったけれど」
「疲れやすかったりするんでしょうか?」
「そっちは特能科に聞いてくれ。普段の体調のことまでは知らんね」
「失礼しました」
人間は1日で使用するエネルギーのおよそ20%を脳で消費する。
一般人でこれであり、将棋や囲碁のプロはほとんど動かないはずなのに一局指すごとに数kg体重が落ちることもあると鑑みると、脳の酷使はそれだけエネルギーを使っていることになる。
家長ちゃんのあの能力は相当に脳の酷使をしそうに思えるが。
「CTなら音関係なくて検査時間短くできません?」
「小児被曝のリスク考えると、CTは緊急じゃなければ使いたくない」
「あー」
「能力が消えないと仮定すると、成長してからも検査漬けになるだろう。長い付き合いになりそうだから早い時期からCT連発は放射線技師として反対なのさ。単純に、脳の情報を得るにはMRIが圧倒的に優勢でもあるし」
「慣れてもらうしかないですか」
「私含む放射線技師には、家長ちゃんとの信頼関係構築が優先事項のひとつ。検査担当が親しい人ばかりの方が安心するだろう?」
「ごもっともで」
「地下のバーや地下シアターに入り浸って顔を覚えてもらうところから地道に始めたさ。まだ会釈しかしてもらえてないけどね」
一般的な子供の入院であれば、治れば帰れるというゴールがあり、多少なら我慢するし、親という絶対者がいる。非日常感を楽しむ子もいるかもしれない。
しかしながら、家長
「問答無用で検査の雨あられとせず、本人の意向を汲んでもいるのは、人間味があると評するべきなんでしょうか?」
「いーや、人間味の問題じゃあないよ。超能力の暴発が怖いのさ。我々としては毎日でもMRIに入って欲しいし、貧血にならない程度に血液検査もしたい。本当はもっと、24時間検査器具ベタベタ貼りつけてなにかが降りてくる瞬間の体の変化を観測したり、なにかと意思疎通ができている状態での脳の働きを計測したりもしたいのさ。でも、本人が苦痛を感じ、それを除くためになにか取り返しのつかない存在を呼び寄せて身に宿してしまう可能性は誰も否定できないだろう? 家長ちゃんは科学にとって未知の泉だが、役に立つかそうでないかすら判別されていない。ゴイアニアの被曝事故のように、無知無謀無秩序無遠慮無防備無節操で未知の危険物を扱うわけにはいかないのさ」
「手ヶ咲さんも、精神不安定な超能力者は危険物って言ってましたね」
「彼らの方がよほど立場は理解しているだろうね。ただ、彼女の能力を解明できたとしても、そこからなにかへ活かせることがあるのか? 危険物を増やすだけなのではないか? という疑問が私にはあるが」
「ベタなところだと、身体能力の強化はありえると思いますが」
「武で全てを解決できる時代ならともかく。今の時代役に立つのかねえ。家長ちゃんの能力が軍事へ活かされたとしたら遠からず
「神々の戦争ですか」
「代理なのかそのものになるのかは知らないけどね」
誰も彼もが神や霊の神秘的な力を行使し争い始めたら、相当なブレイクスルーが起きるか、石と棍棒の世界に戻るか、神話の戦争が起きるか、ホモサピエンス絶滅のいずれかになるんだろうな。
++++
「さて、スキャン終了。膝の拡大をすればいいのかな?」
「あー、すいません診断データの見方教えてください……」
「靭帯と軟骨が再生しているかどうかだろう? 左膝の内側の側副靭帯はもう繋がってるね。それ以外はまだのようだが」
「24時間経過してないんですけど、もう繋がっている部分あるのか……」
「吸血鬼の再生能力をもってしても、すぐさま、という速度ではないようだがね」
「靭帯の切ったところ、直接くっつけてれば30秒そこそこで繋がっていたんですけどね」
やっぱり、両側から引っ張られると再生は難しいのかな。
「正常な膝関節の画像って見れますか? できれば同じぐらいの年齢と背丈の女性で」
「あるよ。吸血鬼の仮死体は全て最低1回は全身スキャンしてあるから。過去の彼女と比べればいい」
ディスプレイに表示された膝関節4つ。
並べてみると、特に軟骨と靭帯を切除した右膝はだいぶ違って見えてくるもので。
「やーすごいですねMRI」
「関節内部をカラにした撮影データなんてこっちも初めて見たね。いやすごい水溜まってらっしゃる」
正常な方の膝にはねずみ色の軟骨が映っているが、膝蓋腱と腸脛靭帯と薄い皮だけで繋がっていると言える右膝、軟骨と十字靭帯を取り除いた方は関節液で見事に真っ白。
靭帯を切断しただけの左膝も少なからず関節液が溜まっている。
「膝の水抜いて病理の方に回してみましょうか。再生の元になる成分含まれてるかも」
「是非持っていってやるといい。たぶん前例はない」
「十中八九膿混じり血混じりでしょうけどね。思いっきり外傷与えましたから」
「そのまま足腐られるのもそれはそれで面倒だし、悪性の液は抜いてあげなよ」
関節液は本来粘性があり、潤滑油と栄養供給の役割を果たす。
膝に水が溜まるのは、外傷等によりこれが過剰に分泌され膝に蓄積している状態を示す。多くの場合粘り気が薄まり、炎症と共にギシギシし始める。
その一方で、関節軟骨を補修する働きもしており、日々すり減った軟骨を維持し続けてくれる。現代人基準だと遅い感じもするが。
一方、特に炎症性や外傷性、今回のような場合に溜まる浸出液だと有害物質が含まれており、再生を促すどころかより関節を破壊していく。原因次第で溜まる水も違うようなので診断そのものはケースバイケースではあるが。
水が溜まるのは癖になるから抜かない方が良い、という話もあるのだが、それは治っていないから溜まるのであって。癖じゃなくて未治療未回復なだけであって。
つまり水を溜めておいた方がより関節の破壊は進むのだが、再生するかどうかを見たい今回の目的とは合致しない。
「……医者じゃないんで注射器の扱いが怪しいんですけど」
「スキャンした膝断面図を印刷するから、それ見せて医療科の誰かに丸投げしてもいいし、
「注射器の扱いうまいんでしたっけ」
小学生に頼る大人というのも面目が立たない気はするが。
こっちは医者でも看護師でもないから恥ではないだろう。たぶん。いや向こうも医者でも看護師でもないな。
直接病理にお願いしようかな。
参考資料
Canon
CTとMRIはどう違うの?
https://jp.medical.canon/general/CT_Comparison
MRI Q&A
https://jp.medical.canon/general/mri_qa.html
キヤノンの小児MRIに有用な技術 〜こどもに”やさしい”検査の実現を目指して
https://redcross.repo.nii.ac.jp/index.php?action=pages_view_main&active_action=repository_action_common_download&item_id=13625&item_no=1&attribute_id=17&file_no=1&page_id=13&block_id=17
CTとMRIの違いってなぁに? 東京ベイ・浦安市川医療センター
https://tokyobay-mc.jp/radiology_blog/web13_06/
医療機器の充実している病院をランキングでまとめてみました! FROGWELL
https://www.frogwell.co.jp/blogs/medical-equipment/
PET/MRI:同時収集がもたらすクリニカルインパクト〜PET/CTと何が違うか?〜
野上宗伸(神戸大学医学部附属病院放射線部)
https://www.innervision.co.jp/sp/ad/suite/gehealthcare/seminarreport/190802
PET/CT とは? ―さらに進歩したがんの画像診断法 PET/CT―
https://www.nmp.co.jp/public/pet/petct.html
磁場強度3テスラ超電導MRIシステムの新バージョン
https://monoist.atmarkit.co.jp/mn/articles/1901/22/news025.html
MRIの価格の元ネタ(日立製)
シーメンスだと3TのMRI税抜き約15億でもいけるらしいが。
統合失調症 厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/kokoro/speciality/detail_into.html
ゴイアニア被曝事故
https://ja.wikipedia.org/?curid=2076128
関節のお話 その2 関節液の役割(潤滑と栄養)
医療法人社団 裕正会 脇田整形外科
https://www.wakitaseikeigeka.com/diagnosis/?p=543