※この作品はR-18です。

悪の組織は不死身の少女に殺してと言わせたい   作:Kaisu

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22:回復洗浄

 MRIの設置された地下2階から、拘束具つきストレッチャーに吸血鬼を乗せて地下3階の医療科処置室へ。

 臨床検査技師の藤川(ふじかわ)さんに連絡を入れて、膝の関節液の分析を快諾してもらった。そして誰か手の空いてる人を膝の水抜きに送ってくれると言っていた。

 

「十字(じゅうじ)さんでしたよね? 膝の水抜きと洗浄ですねっ!」

「はい、十字です」

 

 医者のうちの誰かが来るという藤川さんの口ぶりだったのだけど。

 生理食塩水500ml×4を抱えた葵(あおい)ちゃんがやってくるんだもんよ。

 まだ苦手意識があるんで勘弁してください。

 

「膝の水抜きと洗浄やったことあるの?」

「やったことないですっ! お父さんがやってみろって」

 

 えー。

 なに考えているんだ藤川さんと久川(ひさかわ)父。

 いやこっちも偉そうに言える立場ではないけども。

 

「藤川さんは?」

「『関節液だけプリーズ。右と左ちゃんと分けておいてね』だそうです。お父さんは注射器用意するから先に生食持っていけと言ってました」

「今日は葵さんの学校、というか勉強は?」

「事務所で宿題してた時に藤川さんから電話がきて、電話とったお父さんが葵やってみなさいって」

「経験値狙いか」

 

 雪代(ゆきしろ)さんは葵ちゃんが暇なら頼んでみればと言っていた。

 現実は葵ちゃんは暇じゃなかったけどやってきた。宿題<医療経験値ってどうなんだ。

 難易度を比較するなら、小学校の宿題<膝の水抜きと洗浄、なのは明白ではあるけど。

 特に右膝は今後人間にすることはないだろう関節のスカスカっぷりだが、経験値になるのだろうか。

 

「それにしても、肌色がだいぶ変わって、浮腫(むくみ)ですごい膨らんでますね」

「消毒はしたけどそれだけだし、わざと悪化させたんだからね……」

「わざと悪化させるだけなら、手足をバキバキにするのも同じでしょ?」

「確かに」

「吸血鬼は骨を折ってもこんなに後引くことはないのに。なにしたの?」

「左膝は十字靭帯と側副靭帯切断。右膝は十字靭帯と側副靭帯と半月板と関節軟骨を完全に除去。最初は束村(つかむら)さんと解剖の練習だったんだけど、途中から興が乗ってきて人間だと自然回復しにくい部位を完全に消滅させたらどこまで復活するのかなって」

「臓器でも脳でも再生できるし、無駄じゃない?」

「束村さん曰く関節集中攻撃は誰も試してないみたいだから。実際、さっきMRI撮ったけどもまだ再生してないからね。臓器とは再生の挙動が違うって判断してもいいんじゃないかな」

「ふーん」

 

 臓器がどの程度の速度で再生するかは詳しくは知らないが。

 少なくとも、切断された首が30秒程度で繋がるぐらいの再生力だから、早くはあるのだろう。

 ……首や背骨の椎間板、これも半月板同様に繊維軟骨だが、切除したらどうなるんだろうな。束村さんに相談してみよう。靭帯だって、部位によって再生速度が違うかもしれないし。

 

「MRIの画像見れる?」

「タブレットにデータあるけど、見方わかるの?」

「4か月に1回は定期検診で全身MRI撮るから、それ見て覚えた。特に心臓はよく見てる」

「あー、そういう」

 

 俺だってMRIの画像見てワクワクしたぐらいなんだし。

 これだけどっぷりと医学沼に浸かってるなら、自分のMRI画像ぐらい見たくなるわな。

 小児生体ドナーからの小児心臓移植。違法ながらも、違法ゆえに、その経過観察データは極めて貴重。

 

 心臓移植云々を横に置いて、単純に女児の成長記録をMRIで追いかけられるというのもなにかの役に立ちそう。普通の子供は年3回以上ペースでMRI検査なんてしないだろうし。

 もし葵ちゃんのMRIデータを全て残しているならば、なかなかマニアックな類の成長アルバムということになる。……残してそうだなあ。

 

「そういえば、葵さんはMRI怖がったりしないの? 特能科の家長(いえなが)ちゃんが怖がって入ってくれないって技師の人が嘆いてたんだけど」

 

 小学校6年生の彼女の年齢は11歳か12歳。怖がっても不思議ではない年齢ではある。

 

「私はもう慣れてます。心臓病患者には、怖いからMRIに入らないなんて甘えは許されなかった。死かMRIか、どっちが怖いかって、言うまでもないよね?」

「愚問でした」

「それに、単なる病人なら必要だからで説得するけど、風(ふう)ちゃんは超能力で高い機材を壊せる可能性があるから無茶できないのは大きな違いだよ」

「2人は仲いいの?」

「地下のシアターでたまにチャンネルの取り合いになるぐらいの仲かな。上の階に来ないしあんまり接点ないよ」

「あんまり上の階には移動しないのか家長ちゃん」

「出歩くって考えがあんまりないみたい。たぶん隠されて育ったから」

「あんまり外で遊ばせたい能力じゃないもんなあ」

「本人がそれでいいならいいんじゃない?」

「外に連れ出してあげたいとは、正直思えないのは確か」

 

 隠蔽工作とか、費用とか。

 管理の1点に絞って見る場合、外へのチャンネルが狭い方が好都合。

 兵庫支部にいる限り、家長ちゃんが欲しいものがあれば大概手に入るだろうし。

 

 

 

 

 

 

++++

 

 

 

 

 

 

 久川父がやたら太い針で、ペットボトル大の巨大な注射器を持ってやってきて、膝の消毒を始めた。

 

「大地(だいち)さん、その針、何mmあります?」

「2.7mmだね」

「うっは。痛そー」

「注射針としては最大クラスだよね」

「もう事前に麻酔がなければ刺してはいけないレベルですよ」

 

 緊急性が必要になる輸血に使う針ですら1.6mmかそこらのはず。

 いやすげえの出てきたな。

 

「滞留しているかもしれない軟骨の小片や組織片を吸い出すには太くなくてはいけませんからね」

 

 そりゃごもっともです。

 

「ドレナージしなかったんだね? 束村(つかむら)君ならわかってるだろうに」

「吸血鬼だからまずは放置で様子見しようという方針で一致しました。手助け関係なく再生するかもしれないと」

「あの再生能力だとそれも一理あるか」

 

 ドレナージとは、液が溜まるであろう患部に、体腔内に溜まった水分を排出するための医療器具であるドレーン(排液管)を留置し、チューブを経由して廃液バックに流出させ体内に異常な液を溜めさせないようにする処置のこと。

 膝関節手術であれば排出される液に血が混じらなくなるまで、術後2日程度は挿しっぱなし。

 今回それをわざと怠ったから異様なほど膝に水が溜まっている。

 

「お父さん先に左膝の液抜いて排出口作るから」

「お父さん、大きい方のシリンジの容量いくつ?」

「100ml。生食70mlぐらい吸わせておいて。それを5本分」

「はーい」

「あー、俺どうしましょう?」

「十字君は暇だろうけど見てて。3人でやるほどのことじゃない」

「では大人しくしてます」

 

 餅は餅屋に、ということで大人しく眺めていましょうか。

 

「廃液口は作らない。ひとつの穴で済ませる」

 

 葵ちゃんが見ている前で、大地(だいち)さんは比較的浮腫がおとなしい左膝の膝小僧の下側、8時方向から2時方向へ向けて空の太い注射針を刺し、少しポジションを整えると、溜まった関節液を吸引する。

 黄色がかった乳白色の液体がずるずると吸い出されていく。あまり粘性はなさそうに見える。

 

「十字君が求めていたのはこれだろう? 葵が右膝の液も抜いたら病理に持っていくといい」

「ありがとうございます」

「色からすると感染症か化膿性関節炎の色だけど。靭帯損傷なら血が吸えてもおかしくないけど、吸血鬼の出血が止まる速度は異様だからこれはなんとも言えない」

 

 ゴム球だろうか。大地さんは液を吸い出した注射針の先に突き刺して蓋代わりにして、膿盆(のうぼん)に置いた。そのまま持っていけということだろう。

 

「そして、生食を流し込み、いっぱいになって余計な傷をつける前にそれを吸い出す。それを繰り返す」

「はーい」

「注射器でひと穴のみで行う場合、あらかじめ生食を吸わせたものを何本か用意しておくといい」

 

 生理食塩水を膝関節に注ぎ入れ、それを吸い取り中身を捨て、新しい注射器で生理食塩水の袋から補充し、再度患部に注入吸引、以降繰り返し。

 繰り返される患部洗浄で、吸い出される関節液と生理食塩水の混合体がどんどん無色透明に変わっていく。

 

「十字君、このままドレナージもできますが、しておきますか?」

「無しでお願いします。また腫れて水が溜まるようならドレナージ移行で」

「はい。では再生力に期待ということで」

「お父さん、もう右膝やってみていい?」

「いいでしょう。ですが、最初に吸い出す液は検査ですから捨てずに膿盆におくのを忘れずに」

「はーい!」

 

 こんなに嬉々として注射器を扱う小学生なんて彼女しかいないだろう。

 慣れた手つきで刺す場所を消毒してからの、刺す角度を少し悩んでゆっくりと突き入れ、あっという間に関節液の吸引にかかる。

 

「お、お? これ、ちょっと変?」

 

 そう葵ちゃんが言うので手元を覗き込むも、吸い出されているのは黄色がかった乳白色の液体なのは変わらず。

 

「具体的に教えて」

「なんか、手に来る感触がびみょーにざらざらしてるっていうか、ボコボコしてるっていうか。飲まないヨーグルトをストローで吸う、スッと上まで出てこない感じ」

「それは期待持てそうだなあ」

「うわすっごい、どんどん出てくる」

 

 吸い出されている液の色を見る限りは血が混じっているわけではなさそう。

 膿でそんなにドロっとはしないだろう。

 すると、なにか粘度を増す物質が含まれていると考えるのが自然だけれど。

 

「お父さん、普通ならどれぐらい溜まるの?」

「多くて50ml、普通で30ml程度だね」

「え、まだまだ吸えそうなんだけど……」

 

 そのままずるずる吸い出されること注射器3本、たっぷり100ml超も吸い出された右膝の関節液。

 膿盆に並んだ注射器3本分のそれは、左膝に溜まっていた量の3倍を超える。

 そりゃあ膝が変な色にもなるわ。

 

「正常な膝関節液って、どれぐらい溜まっているもんなんでしょうか? 10mlぐらいですかね?」

「いやもっと少ない。1mlにも満たない場合がほとんどだよ」

 

 マジか。

 

「そう考えると100ml突破って衝撃的な量ですね……」

「束村君が聞いたらぶったまげるだろうね。まあ、靭帯切除の上に半月板すらも取ったんだろう? それだけ痛めつければこうなってもおかしくはないなと思うけど。ドレナージ無しステロイド無しなら、普通なら腐り始めても不思議じゃないね」

「はっはっは…………」

 

 切る範囲とオープンにする範囲は狭くしてナンボの手術。

 空気中の雑菌が傷口に降り注ぐ確率を下げ、感染症になるリスクを下げるために。

 

 対して束村さんと2人でした解剖はその逆をいく。

 見てバラさなきゃいけないから傷口は非常に大きくなり、基本的に解剖後の検体の生存は考慮しない。

 吸血鬼にもそれを当てはめていて、対象が強靭な再生力を持っていることを考慮に入れても、正直雑にザクザク切り開いた感は否めず。

 でもすっげえ楽しかったけどな!

 

「それじゃ関節液を病理に持って行きますけど、洗浄後の左膝はなるべく伸ばして、右膝はなるべくくっつけて固定をお願いします」

「仰せの通りにー!」

 

 葵ちゃんの古風な言い回しに少し驚きながら、注射器4本の関節液入り膿盆を持って処置室を後にした。












調べたけど関節洗浄の具体的な方法がわからん!
注射針刺して汚液抜く→代わりに生理食塩水注入してそれを吸い直す→清潔な生理食塩水注入して吸い直す繰り返し
もしくは
注入専用の針と排出専用の管を刺してひたすら生理食塩水流し続けて洗浄
の一連の流れを想像したが、前者の過程で注射針を体に抜き刺しするのか、針だけ刺したまま注射器本体の方を着脱するのか、なにかいい器具あるのか判断つかない。
知ってる人いたら教えてください。







関節の障害(膝関節を中心に) 近藤泰鉱
医療法人千寿会 道後温泉病院
http://doh-racenter.jp/medical/
↑ここからいける2018/05/29の記事

関節腔ドレナージ
看護roo!
https://www.kango-roo.com/learning/4317/

膝の水を抜いた場合、水の色が大切?
都立大整形外科クリニック
https://ar-ex.jp/toritsudai/930833169481/
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