※この作品はR-18です。

悪の組織は不死身の少女に殺してと言わせたい   作:Kaisu

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32:幕間 暗影開闢

 人知れず男の戦いに大敗し、傷心の鮫澤零緒(さめざわ れお)。

 一世一代の覚悟を決めて挑んだはずのあの日。見事に覚悟が空回って、なにもできずに膝を折って地を這った。それから5日。

 あえなく不完全燃焼のまま燃え尽きてしまった首から下は完全に負け癖がついて自信を喪失し、あらゆることに対してのやる気を出せないでいた。

 あれほど猛り狂って精子を作っていた体も一緒にトーンダウンしていて、性欲も湧いてこない。

 夏休みの宿題はまだまだ残っている。でもお母さんの叱咤激励も全く響かない。友達が遊びに誘ってくれたけどそれも断った。

 頑張ったで賞として与えられた連絡先。SNSを経由して話すことはできるが、摂理(せつり)お姉ちゃんは返事が遅く、会話を成立させようとしてこない。

 もうひとつ与えられたお土産、お姉ちゃんエキスの染み込んだ黒のパンツ。嗅げばすぐに股間が反応する。でもひとり遊びでは全く物足りない。出たけど、気持ち良さより情けなさを思い出して気分がさらに沈んでしまう。だから今は机の奥に封印した。

 

「お母さんさ、PTA旅行でフランス行くことになったの」

「え、いつから?」

「12日から5泊7日」

 

 夕食を食べていると、お母さんはそう切り出した。

 

「だから零緒は留守番するか、おじいちゃん家行くかのどっちか」

「えー、ずるいずるい! あとおじいちゃん家行きたくない」

 

 鮫澤家は母子家庭で、鮫澤も母の姓。

 父親は仕事が忙しくあまり家にいなかったせいで記憶は定かではないし、それが原因で育児で揉めて離婚していた。その後別の女性と再婚し、零緒のことは全く気にかけていない。

 一応面識自体はあるものの、父親との親子の情は互いに持てていない。

 

 お母さんの実家には、おじいちゃんとおばあちゃんが2人で暮らしている。

 けど、おじいちゃんには嫌われている。離婚した父親のことが気に入らなくて零緒が好きになれないとはっきり言われたことがある。

 正月に何度か行ったことがあるが、お年玉はくれるけどどうしても居心地が悪い。テレビ見る以外にやることもない。

 

「おじいちゃん家行かないならお留守番」

「旅行行きたい!」

「ツアーだから零緒は無理。1週間分の食事代多めに2万円置いていくから。余ったらお小遣いにしていいから」

「お母さんだけずるい!」

「冬にはどこか連れて行ってあげるから我慢しなさい!」

 

 母子家庭で母が働いているので、留守番そのものは慣れたものだけど、24時間帰ってこないぐらいの期間が最長で。

 丸々1週間の留守番は今までしたことがない。

 

「ご飯はお母さん帰れない時みたいにお弁当屋や牛丼屋なんかで買えばいいんだから。洗濯機の使い方もお風呂の沸かし方も知ってるでしょ?」

「そうだけどー」

「諦めなさい、零緒も大きくなったんだから長いお留守番も将来の勉強よ」

「お土産忘れないでね!」

「はいはい」

 

 

 

 

 夕食を終えて、お母さんが旅行で1週間も1人でお留守番、ということをお姉ちゃんにSNSで愚痴った。

 するとお姉ちゃんはわざわざ電話をかけてきて、思わぬことを言い出した。

 

『じゃあ、お母さんいない間にお姉ちゃんの家に遊びに来ればいいんじゃない?』

「いいの!?」

『洗濯機はこっちにあるし、服は3日分もあれば足りるでしょ。夏だし。そのぐらいならすぐ準備できるよね』

「お姉ちゃんの引っ越し先ってどこ?」

『そっちからだとたぶん電車で最速4時間ぐらいかな? 駅までは迎えに行ってあげるからさ』

「……遠くって言ってたけど、近くない?」

『日帰りは悩ましいぐらいだから遠い方でしょ?』

「電車のお金どれぐらい必要?」

『ちょっと調べるから待ってて』

「うん」

 

 予想外に訪れた幸運。

 お姉ちゃん家にお泊まりなんて、フランス旅行の羨ましさが急に色褪せていく。

 

『調査完了。最速最短で移動するとして大人で片道8000円ちょっと。小学生ならもっと安くなるね」

「じゃあ行く! 絶対行く!」

『あんまり大きい声出してたら家族にバレるよ。静かに静かに』

「うん、はぃ……」

『レオ君をお迎えする準備しておくから、楽しみにしててね。じゃ、おやすみー』

 

 途切れる通話。

 やったー!と叫びたいのを堪えてガッツポーズを繰り返す。

 世界の色彩が鮮やかさを取り戻していく。絞りカスのようだった体に気力が漲り始め、眠気がどこかへ吹き飛んだ。

 遠足に行く前の日の夜が如くで、爛々煌々と気持ちが先立って眠れない。

 

〈楽しみで眠れない……〉

 

 どうにもできずに、SNSで呟いた。

 

《夏休みの宿題残ってるんでしょ? そんなに眠れないならやっておいたら? 綺麗さっぱり終わらせてからこっちに来たら、もっと楽しくなれるでしょ? こっちに宿題持ってきてもいいけど》

 

 他ならぬ摂理お姉ちゃんの激励で勉強意欲に火がついた。

 醒めた頭で勉強机にかじりつく。

 お母さんが途中で顔を出したが、夏休みの宿題にやる気を出しているとわかると早く寝ろとは言わず。

 

《あと4日》

 

 名誉挽回のためにまっしぐらに。

 

《あと3日》

 

 毎日されるカウントダウンを燃料に、猛然と宿題を終わらせていく。

 

《あと2日》

 

 途切れることのない集中力で、連日連夜昼夜問わずの強行軍。疲労を全く感じない。

 

《明日出発》

 

 あらゆることに信じられないぐらいの冴えと速度が出て、みるみるうちに消えていった夏休みの宿題。

 出発日前日の夜に全ての宿題を片付け終えて、後ろ髪を引かれるしがらみ全てを捨て去った。

 そして出発日。寝ようとはしたけれど、全能感、歓喜、性欲、それら全てが重なり今度こそ全く眠気が訪れないままに夜を過ごした。

 お母さんは、日が昇らないうちに家を出て行った。

 

 人生初の一人旅。お母さんに全て内緒の5泊6日旅行。

 お母さんが帰ってくる前の日に何食わぬ顔で家に帰る。

 そんなことをこっそり計画していても全く疑われなかった達成感。

 

『全部の窓の鍵閉めた? 忘れ物はない? お金持った?』

「全部大丈夫!」

『じゃあ出発!』

 

 お母さんが出て行って3時間後。朝の8時。お母さんがこれから乗る飛行機の写真を送ってきてから出発。

 住んでいる最寄り駅までお姉ちゃんが迎えに来てくれる予定。

 わくわくドキドキでは足りない、めくるめく既知と未知への誘い。

 今度こそ。

 今度こそ、勝つ。

 

 

 

 

 

++++

 

 

 

 

 

 なんという僥倖。

 

 なんて迂闊で怠惰で危機意識に欠けた親だろう。

 子供が異様なやる気を出しているのをおかしいとは思わなかったのか。

 腹を痛めて産んだ子が今まさに毒牙にかけられ壊され捕食され溶かされつつあるのに、それに気付きもせずに目を離し、1人にしてしまったのだ。

 

 ああ、涎が止まらない。

 長くて5時間ぐらいの逢瀬では、下処理も加圧も煮込みも漬け方も理想の血の味にはほど遠い。

 せめて一晩あれば、と思っていたのに5泊もある。そんなにも時間があるならどうにでもしてあげられる。まるで調理済みの鴨が葱背負って鍋に入りにやってくるようなものではないか。

 もっともっとじっくりと、素材の水分だけで煮立てて、まめに灰汁をとり、火加減を状態によって変え、身から雑味を取り去って、ほろほろふやふやになりながら一生懸命に美味しくなってもらわなければ。

 

 性刺激は獲物を繋ぎ止める首輪とリードでしかない。求めているのは恋や愛ではない。人間が社会で生きるために分厚い理性でコーティングしている生殖本能、一方的で無責任で無道徳な純度100%のそれを希求する。

 社会のしがらみから隔離され、時すら忘れて生殖のために生きて、1発で孕ませねば死あるのみというほどに追い詰められて、全ての身体機能がその一瞬のために統一された時。必死になった体は燃え尽きてもいいと極上のエキスを体中に分泌し、最期の一撃に全てを賭けて強い精子を作る。それを放つ直前の、本来溶け出してはいけない骨や肉からの旨味すらも含んだ、エネルギッシュで美味な血を啜(すす)る。

 

 生かさぬように、けれど死なさぬように。

 わざわざ呼び寄せて死なせてしまっては引っ越した意味もない。彼が家に帰り着けるだけの抜け殻に留める必要はある。

 引っ越し前に別れた日、あの時に見限って、川に沈め殺さなくて本当に良かった。

 

 レオ君と遊ぶため、レオ君で遊ぶため、レオ君を美味しくするための道具も急いで買い揃えた。

 楽しんでくれるだろうか。悶(もだ)えてくれるだろうか。焦れてくれるだろうか。泣くだろうか鳴くだろうか啼くだろうか戦慄(わなな)くだろうか。

 いつも切なく震える小動物が、いつ理性をプッツンして獣性を発揮する勇気を出してくれるだろうか。

 

 退廃的で甘く苦しい蠱惑の試練は、彼の中の雄を試す。

 雄の自覚に目覚めるか、あるいはぐずぐずに溶け切るか。

 どちらになっても私にとっては美味しいことになる。

 

 

 

 

 

++++

 

 

 

 

 

 2回電車を乗り換えながら、1人の旅路は4時間と半刻、昼の1時過ぎ。

 車窓からはずっと太平洋が見えていた。もうすぐ到着だと連絡を入れると、改札向こうにいるとすぐに返事がくる。着いた駅は案外大きくて、降りる人も結構な数。

 早足でホームを突き進んで改札へ。向こうから摂理お姉ちゃんが手を振っている。

 日傘を小脇に抱えて、白いノースリーブの肩出しワンピース。もうそれしか目に入らない。

 僅か10日のお別れだったのに、その10倍以上も経っていた気がする。

 

「お姉ちゃん!」

 

 改札を抜けて一直線、その胸に飛び込んだ。

 

「おーよしよし、よく来たねー」

 

 無条件で全ての抑えを緩ませ体を喜ばせる匂いが鼻から脳へ直撃。

 ここ数日の昼夜問わずの猛勉強で疲れ、昨晩も昂って眠れていなかった体に報いる目覚めのご褒美にしては、過激で強烈な衝撃であった。

 

「あっ、んっ、あっ、あぅ」

「おお?」

 

 抱きついたそれだけで、予兆もなく、我慢することすらできずに、溢れる気持ちが射精になって、体が、お姉ちゃんに出会って早々に白旗降伏。

 周りに人がたくさんいるのに、精子を漏らしてパンツの中をどろどろに汚してしまう。

 

「あ、あ、あああ、あああ」

 

 異変に気付いたお姉ちゃんは、抱きついたまま小声で話しかけてくる。

 

「……レオ君震えてるけど、もしかして、また、会っただけで出ちゃった?」

「……ぅん」

「トイレ行って履き替えよ。裾から垂れないように抑えながら後ろついてきて」

「うん……」

 

 涙目。人目がなければ泣いていたかもしれない。

 再会のご挨拶とばかりに精液をたっぷりと吐き出したちんちんは、今度は恥ずかしさで縮み上がる。

 多目的トイレに誘(いざな)われ、内鍵を閉めると、お姉ちゃんは呆れたような表情で口を開いた。

 

「レオ君、もうちょっと気合入れて耐えないと。お姉ちゃんに勝ちたくないの?」

「勝ちたいよ……」

「まさかこんな、人前でもお構いなしな堪え性のないおちんちんになっているとは思わなかった。どうしたらそうなるの?」

「わかんない」

「まー、そこら辺の追及は置いとこう。今はさっさと着替えて家に行こう。早くちんちん拭いて」

 

 カラカラとトイレットペーパーを巻き取り水で濡らすお姉ちゃん。

 トランクスの中をべちゃべちゃに汚した精子を目の当たりにして、生臭く惨めな敗北の印を鼻で感じて、その処理をしていると気持ちがどんどん沈んでいく。

 

「拭けた? じゃあおちんちんにオムツつけよう」

「オムツ?」

「オムツっていうかコンドームだけど。セックスする時に、精子が子宮に入らないようにつけるゴム。これつけておけば、家帰るまでにまた精子漏らしてもパンツ汚れないからね」

 

 もう漏らさない、と即答できない。

 現に、お姉ちゃんが触ってくれるという事実ひとつで、ちんちんがあっという間に元気を取り戻したのだから。

 

「つけにくいからちんちん硬くしておいてね」

「あ、あわ」

 

 被っていた皮を引き下ろされ、クルクルと人生初の透明なコンドームが装着されていく。

 余った皮も胴に収められ、先端が剥けた状態で固定される。

 

「最後に、しおれても外れないように髪ゴムで根元抑えれば完璧。家までならこれで大丈夫でしょ」

 

 内側からの熱がこもっているところに、ふぅっとゴムの防護越しに息が吹きかけられて、背筋がガタガタと性感に震える。

 

「もう先っぽから我慢汁出てる。家まで耐えられるかなー?」

 

 汚れたズボンとパンツはお姉ちゃんが持っていたスーパーの袋に入れて片付けて。

 新しいトランクスとズボンに履き替えてからトイレを出たけど、薄いゴム1枚で露出した敏感な先端が中で擦れて内股気味になる。

 

「家までどれぐらい?」

「お姉ちゃんが歩いて10分だから、足ガクガクのレオ君だともうちょっとかかるかな」

 

 お姉ちゃんは右手で日傘を掲げ、左手で僕の手を引く。

 手を握られているだけで、柔らかい指遣いが脳裏に浮かんでチリチリと余裕を削ってくる。お姉ちゃんの汗の匂いを敏感に感じ取り続けて、体が服従するスイッチが入ってしまった。

 暑いのか熱いのか、もうわからない。どんな道だったかもよく覚えていない。

 連れてこられたのは、海に近い大きなマンションだった。心臓がちんちんにあるかのようで、膝が笑いっぱなし。

 

 角部屋の608号室。その扉の前で、お姉ちゃんは最後通牒を突きつける。

 

「レオ君はお姉ちゃんのオモチャになった。この扉の先に行くと、もうレオ君は完全にお姉ちゃんのモノ。逃げる最後のチャンス。入ったらレオ君の6日間が全てが吸血鬼のお姉ちゃんの管理下。辛いかもしれない。恐ろしいかもしれない。知るべきじゃないことも知るかもしれない。泣いて家に帰りたいって言うかもしれない。それでも、入る?」

 

 ここまで連れて来ておいて、大人しく連れて来られて、YESNOを選ばせる。

 お姉ちゃんの手が、ズボン越しに股間を撫でる。

 答えは最初からひとつしかない。

 

「入る」

「そう。じゃあ、いらっしゃい、レオ君」

 

 扉が開かれて、暗い室内から冷気が流れ出る。

 

「うわっ」

「あー、すずしー」

「クーラー何度に設定してたの?」

「25度」

 

 外の気温は軽く35度を突破しているだろう。落差を思うと凍えるほど。

 

「寒くないの?」

「帰った直後は暑いし。落ち着いたらもうちょっと上げるかな。けどその前にお風呂で汗流して、スッキリしましょ。おちんちんも、ね」

 

 ずくんずくんと火照り続ける体と心臓が、一際大きく跳ねた。

 

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