※この作品はR-18です。

悪の組織は不死身の少女に殺してと言わせたい   作:Kaisu

4 / 48
4:福利厚生の裏メニューと表メニュー

 心臓もどきと翼の解説のため開かれた吸血鬼の背中。

 広げた翼を束村(つかむら)さんが戻し、腹の時と同じく雑に固定されている背中の肉と皮の表面を削ぎ取ってから固定を外して閉じる。

 その方が再生が早いらしい。

 

 その後、吸血鬼を仰向けに戻す。

 先ほど巨乳化すると言われたわけだが、改めて見ると乳房でっけえ。

 最初は開腹の方に意識が向いてて性的な目線では見てなかったんだよな。

 

「榊場(さかきば)君には悪いが、十字(じゅうじ)君には長々と付き合ったご褒美タイムといこうか」

「はい?」

「体は冷たいが、死後硬直はない。つーことで揉み放題です。無修正の下のお口も見れるし触れるが、このカプセルベットじゃやりにくいからおっぱいで我慢しとけ」

 

 もみゅん。

 もみもみもみもみ。

 ラテックスの手袋越しではあるが、束村さんが吸血鬼の胸を揉みしだく。

 録画されてるはずだよね?

 

「カメラはそのままだがもう録画は切ってるから気にするな」

「ほんとだ録画の赤ランプ消えてる」

「だから触っとけ。これも経験だ。こっそりナニ挟んで抜いてるやつもいるし。汚損しなけりゃ誰も咎めんよ」

 

 うーん無法地帯。妙な経験もあるもんだな。

 まあ、乳の魔力には逆らえないので俺もがっつり触るんですけどね。

 指が沈んで、握れば手に収まり切らない。

 反応ないのが残念だけど柔らけえなあ。これは男なら罠でも踏み込みたくなるだろう。実にけしからん。

 

「これだけでも吸血鬼の家畜化したくなるだろ? 従属させたくなるだろ?」

「なるほどなぁ」

 

 もし吸血鬼の危険性が取り去れるのなら。

 愛玩動物の域に落とし込めるのなら。

 金となる可能性は洋々と広がっているし、社会そのものの歴史すら変わる産業革命が起きるだろう。

 

「最後に先輩からのアドバイス。吸血鬼の上下の犬歯。表の見た目は人間と変わらんが、歯の裏側がちょっと変わってて、毒牙であり吸血牙になってる。顎のあたりに毒腺がある。よって口周り触る時は要注意」

「心しておきます」

「榊場君もだぞー。これは絶対覚えとけよー」

 

 カメラとマイク越しに話題を振られた榊場、慌てた様子で窓越しに腕で丸を作る。

 

「毒ってどんな毒なんですか?」

「毒腺があるのはわかっているが分泌物が確保できてないからよくわかってない。が、男をハイパードーピングバーサーカーにする成分不明の謎毒があることはわかってる」

「わからないということがわかっている状態ですか」

「そうなるな。遼君そっちの知識はからっきしだから誰かに任せるしかねえの」

 

 危険性が口にあると警告してくれるのはありがたい。

 未知のものである以上、吸血鬼の全身が危険物みたいなものかもしれないけどさ。

 

「あともうひとつ。吸血される際に被害者は極めて強い快楽を得る。これは叩き起こした奴らから事情聴取したから間違いない」

「ドーパミンの分泌を促すのかな? 血が減る本能的危険信号を抑えるには合理的か」

「医学的に一度死ぬのは快楽で絶頂死してるんじゃないかって考えてる奴もいるぐらいだよ。カルトで吸血鬼に逃げられた話聞いてる?」

「もう知ってます」

「生き残った奴曰く、そこのカルトでちょっとづつ血を吸って快楽に依存させてたっぽいのよ」

「麻薬とどっちがマシやら」

「麻薬の方が治療の可能性があるだけマシかもな。こっちは再現も治療もできんしルートも追えてない」

 

 どうやって吸血鬼がカルトに潜り込んだのか、資料漁ってみようかな。どこかにあるだろう。

 

「これにて遼君の講義は終了。時間は……げ、もう18時前かよ大遅刻じゃねえか。次の久川(ひさかわ)親子に怒られるなこりゃ」

「まだあるんですか」

「人道倫理クラッシュは次が本命かな。遼君がやったのはあくまで解剖の延長に過ぎない」

 

 聖(ひじり)さんが言っていた「拷問しよう」も、これが拷問かと言われりゃおそらく違う。

 俺がやりたかった吸血鬼の解剖ではあったけども。

 

 

 

 

 術着を処理してクリーンルームで消毒。

 榊場の様子を見にいけば、室内がまた酷い吐瀉物の匂い。顔も土気色になっている。

 この様子だと、あの後も何回か吐いたな? よく胃の内容物が足りたもんだ。

 

「お疲れ様です……」

「榊場が1番疲れてそうだな」

「本日残りの予定全キャンセルしよう。榊場君、今日はもう休みたまえ。元医者によるドクターストップ」

「あ、はい、すいません……」

「俺はどうしましょう」

「十字君もキャンセルだな。2人一緒に連れて来いって言われてるし。体調不良なら仕方ねえ仕方ねえ」

「いいんですか、それで」

「大人しく遼君が怒られないためのダシに使われとけ。1日2日予定がズレたところで給料は変わらん。この部屋の換気消毒もしなきゃならんし、吐瀉物バケツ置いてさっさと風呂直行」

 

 榊場が参ってるのは確かだから、従っておくか。

 血の気の失せたその様子は血の気のある仮死体よりもよっぽど吸血鬼っぽい。

 

 

 

 

 

++++

 

 

 

 

 

 半ば引きずるように榊場を大浴場へ連行して汗を流し、ほんのり血色は良くなった気がする。

 夕食は俺は豚の生姜焼き大盛り定食、榊場はきつねうどんと栄養ゼリーと胃薬。

 食事内容にはなにも言うまい。もっと食えとも言いにくい。

 

「胃腸が強そうでホント羨ましいよ……」

「人体や動物の腹の中覗くのは初めてじゃないからな。むしろ得意分野寄りだからな」

「録画してあるって言ってたけど、すぐに見返せる気がしないよ。気分悪くてカメラ越しでもあんまり直視できてなかったし、頭に説明入ってないんだよね」

「しゃーないしゃーない」

「大事そうなところ、口頭で説明できたりする?」

「食い終わってからでいいなら」

 

 さっさと食わないと大盛りの生姜焼きが硬くなるし。

 濃い味で実にご飯が進む。おかわりするか。

 味噌汁は出汁の風味が飛んでてちょっと微妙かな。生姜焼きの濃い味で舌が馬鹿になってるだけかもしれないけど。

 

 20分ほどかけて皿の上にあったものを全て平らげ番茶で一服。

 本日の実物研修の大事なところをなるべくグロテスクにならないように説明していく。

 胃腸の短縮、いくつかの臓器の不在、空きスペースの多い腹部、生殖器の存在、背骨の心臓もどき、肋骨代わりの翼、念押し気味に牙の危険性。

 

「うぅん……」

「説明してとお願いされてそれでも引かれるとはご無体な」

「十字が悪いわけじゃなくて、自分の問題だからごめん……」

 

 いましがた食べたものを思い出し吐きしないだけマシ、か?

 榊場に対する期待値がどんどん下がっていく。

 

「1週間保たずに辞めるのは堪忍な? 喋る相手いなくなっちまう」

「善処する」

「行けたら行く並の回答やめろや」

「いやもう情報量多過ぎて。研修終わった段階で頭の中どうなってるかわからないから」

「それは一理あるな」

 

 この2日で常識歪みまくりだからな。

 科学の英知の塊ですってツラした施設ながら、人間側にも超能力者?がいるし。

 鉄ぐねぐねの財前(ざいぜん)さん、どうやっているんだろう。

 

 

 

 

 

++++

 

 

 

 

 

 翌日。外は結構な雨だが大捷製薬兵庫支部には関係ない。研修は今日も地下。

 夜のうちに束村さんから連絡があり、今日の研修は15時からとかなり遅めのスタート。ただし終了予定22時。

 時間がかなり空いたので地上階散策で時間を潰す。榊場は朝飯誘いに行ったが昼まで寝るそうな。

 筋トレ用ジム設備、鏡張りのレッスンルーム、ミニシアター、卓球台、全自動麻雀卓、ビリヤード台、ソフトダーツ、ワインセラー(小)、カラオケルームと、思ったよりもレクリエーション設備が整っている。

 外出許可がとんでもなく厳しいため、閉じこもれるように工夫を凝らしている様子。

 

 ショッピングに出かけられない対策にも、やたら分厚く種類の多い日用品お取り寄せカタログが購買に置いてある。カタログになければ購買の端末で直接注文。

 せっかくだったのでお気に入りのグミとスナック菓子と炭酸飲料を箱買いしておいた。ある程度量がまとまったら配送されるそうなので、届くのが遅くなる代わりに送料会社持ち。至れり尽くせりでホント申し訳ない。

 

 ……福利厚生面ではホワイトだが離島勤務に等しいのと、仕事内容が法律ぶっちぎり真っ黒なあたりに目を瞑る必要はあるが。

 あと業務内容次第では昼夜の境界ないみたい。残業代と夜間給と休日出勤代が出ない代わりに基本給が上がってる節も。

 その代わりに仕事時間の融通はかなり利く。かなり長いスパンでの成果第一主義。

 

 

 

 

 その分厚い福利厚生と特殊な仕事環境をフル活用している存在であろうのが、本日の研修の教師役、久川(ひさかわ)親子だった。

 

「本日の研修担当、父の久川大地(ひさかわ だいち)です。大地の方で呼んでください」

「助手で娘の久川葵(ひさかわ あおい)です。葵ちゃんって呼ばれることが多いですっ」

 

 くったくたの白衣を着た父の大地さんは40歳には達しないぐらいに見える。線は細いが気力はまだまだ若そう。

 問題は娘さんである葵ちゃん。

 目尻のあたりや唇のラインや鼻の下の形が父親譲りで血が繋がっていることを示している。

 

「ごめん、女性に歳聞くのは悪いんだけど、葵ちゃん、何歳?」

「今年で12歳になります!」

 

 明朗快活なお返事ありがとう。

 榊場が目元に指当ててグリグリしてる。気持ちはとてもよくわかる。

 

 オイ労基仕事しろや! 無いかもしれんけど!

 なんでこんなところに小学6年生がおるんじゃい!

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。