最初の1ヶ月は当初の予定通り進め、観察内容から見える問題点や検討による大きな変更は30日を超えてから反映していく、という方針はある。
一度格闘戦で噛みつかれたことが思ったより警戒感を煽ったのか、八木は徹底して噛みつかれることは避けている節があり、監視している側としてはこれは結構いただけない。
口腔内に吸血鬼が毒腺を持っていることはわかっていて、歯と顎にはそれに対応する構造がある。
猿ぐつわのような口を塞ぐ道具は与えていないのだが、うまく薄い服を活用されてしまっている。
だから、ある時から服も取り上げた。
すると八木は掛け布団も使い始めたので、それは監視の邪魔になるという理由で就寝時以外の使用も禁じた。
拘束具支給や機能制限は今のところ変えていない。
今日も被験体八木は被験体佐土を性的に消費する。
我々監視側でも飽きがきているのに八木は飽きもせず。
舐めて、
しばらく挿れっぱなしにして回復するとまた突いて、突いて、吼えて
回数はまちまちだが、一度に最低4回、最多8回それを繰り返し、体力が尽きるのか潰れるように眠る。自らの寝床に戻れず、その場で倒れるように眠ることも増えている。
十分な食事は与えているのだが、八木の様子は変わってきていた。
時間の間隔もまちまちで、起きてはなにか食べて精を放出することを繰り返し、二桁時間以上寝続けるということはない。
時間と昼夜の感覚が崩れるのは想定の範囲内だが、檻に入れた直後には感じられた知性のようなものが徐々に薄れてきており、性交もなにかに浸るような、荒々しさと執拗さが同居する奇妙なもの。
マイブームなのか別の理由か、八木は被験体佐土の全身を舐めるようになり、それだけで陶然としていることもある。
逆に被験体佐土の方も、連日昼夜を問わずの度重なる性行為により性的な開発が過剰なほど進み、より深く八木との性行為を受け入れ始めている。
体が慣れたのか愛撫の量が乏しくとも痛がる様子はなく、喘ぎ声もあまり我慢しない。特にクンニリングスは好きなようで、それをされている間は否定の言葉を発することはなくなっている。
逆に八木が性器を舐める時間も長くなってきており、2時間近くそれを続けていたことすらあった。
彼女の膣内や子宮内に精子が存在するだろう時間は連続10日を超えた。
行為の後に元気が残っていれば体を清めて掻き出しているが、シャワーヘッドは上から降る固定式で、全て出し切れるとは到底思い難い。
八木との性交で
そもそも八木の復活の方が早く、自分で掻き出すよりも先に上書きされていたこともあった。
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檻の片隅に最初から用意されていた鉄扉。けれど堅牢に塞いであったそれの鍵を開ける。
天井が低い通路があり、まだ施錠中だがサウナ室や浴室のようないくつかの部屋へ連絡する。
そのうちの一部屋が、拘束型診察台が置かれた部屋。産婦人科の診察台やマッサージチェアに似ており、所定の位置に座ると手枷足枷首枷腰枷を自動で嵌める機材科自慢の優れもの。
こちらの部屋は檻型ではなく床も壁もあって天井も高い密閉型で、いざという時に部屋そのものを亜酸化窒素とセボフルランによる麻酔ガスで満たして鎮静化が行える。
経過日数が15日を数えた時、強制命令を発動し、この部屋を用いて2人の採血、喉の確認と唾液採取、被験体佐土には腟内検査を行った。
2人にとっては久しぶりの部外者。だが検査を行う我々は全身フル防護服かつマスク内に覆面で一言も発さず、指示は全て電子音声に変換してのもの。
空気感染による吸血鬼化はおそらくはないが、監禁中の2人に余計な情報を与えたくないのが本音。
八木は概ね指示に従順で、素直に診察台に座って検査を行えた。
ただいろいろと不満はあったようで、食事の改善や部屋の気温の問題等の要望は上げてきた。
15日前に比べると随分と顔色が悪くやつれ気味になっており、睡眠は摂れているはずだが、目元のクマも結構なもの。連日絶倫ぶりを発揮しているのが原因なのだろうか。
食事に精力剤は混ぜていない。問診において、絶倫が元来のものかを問うと、そうではなかったと返答される。
ヤッているとどんどん気持ち良くなっていき、歯止めが利かなくなっていくようだ。
佐土は、診察台に座り拘束を受けるところまでは従順であった。
けれど問診には答えず、体調面でなにか変化を抱えているかは不明。
性器の撮影を行うと告げると激烈な悪態を吐かれた。
既に一度、監視檻に入れる前に隅々まで、子宮内部すらも撮っていることを告げると更に猛烈な罵倒を浴びせられた。
けれど我々も吸血鬼化による再生能力がどのように作用しているか調べる必要があるのだ。
つい最近では、解剖大好きな新人が関節の軟骨や腱すらも再生することを調べた。
では、処女膜は?
風俗嬢もやらないようなインターバルの膣酷使をされた場合のダメージは?
15日でどれほど変化が起きるのか?
膣分泌液になにか変化はあるのか?
八木の変化になにか影響を起こしているのか?
たかが撮影ひとつ、我々にとっては些細なことだ。その過程と行為で誰かの尊厳を踏み
毎日毎日仕事で情事を見せつけられているんだぞこっちは。今更なにを隠すことがあるというのか。
拘束された足をがばりと開き、露わになった女性器へカメラを寄せ盛大にフラッシュを焚いて連写。指で少し開いてみたが、処女膜は確認できない。
八木によって性的興奮が首をもたげるまでのラインを下げられていたため、あっという間に感じ始め、身をよじって逃げようとする。
しかし腰枷までつけられていてはなにもできず、あっさりと絶頂へ至った。
だがそれで止めず、電動マッサージ器を当て続けて連続絶頂へ導く。挿入した脱脂綿に腟内分泌液をたっぷりと吸わせる必要があり、この後行う処置のために膣を柔らかくしておく必要があるのだ。それと並行して、体表に浮く汗も適宜拭き、採取を行う。
罵倒と懇願を続けていた佐土の口から人語のIQが溶けて消え、電動マッサージ器も随分と水気のある音を立てるようになったので、検査を再開する。
引き抜かれた脱脂綿はぐっしょりと分泌液を吸い込んで滴るほどに糸を引く。それはパックして検査場へ。
代わりに樹脂製で透明なクスコ膣鏡を柔らかくなった膣へ挿入し、膣奥まで広げ、照明の角度を変えつつ、羞恥に打ち震える腟内の全周を撮影。
これがリアルタイムで別の部屋へ中継され、そこに集まった好き者や興味本意の者や研究班へ伝わり、いくつかの注文がつけられてそれを撮る。
撮影会を終えた後に唾液を採取し腋汗を吸った脱脂綿も回収。
天井のスタッフ用出入り口から荷物と機材と検体を抱え脱出、入念に天井のロックをかけて診察台の拘束を解除する。背もたれが前屈側に動くため座り続けることはできない。
恥辱で
++++
臨床検査技師の
この二人で行った八木および佐土の検査。その結果が各所から一通り上がり、情報共有のためとある会議室に有志が集まった。
その末席に
「定刻になったので始めます。司会進行は大河ですよろしく」
まばらな拍手。
「まず最初、吸血鬼佐土や被験体八木の血からは新種と思しき病原体やそれに類するものは見つからなかったと、いつも通り
大河さんは壁のプロジェクターからスライドを映す。
「しばらく前に、極度のストレス下においてヘロインを自己分泌していた吸血鬼を発見していました。ヘロインに酷似した物質、とするのが適切ではありますが」
「9割9分死んでたけどな」
「とにかく、そのような快楽物質を自己生産することで過酷な環境で一応生き永らえていたわけです。そして今回ですが、端的に申し上げて、八木にメタンフェタニンで薬物中毒症、おそらく依存症もが出始めていると思われます。我々がなにも与えていないにも関わらず、です」
どよめきが起きた。
「ヘロインに目処つけていたのにメタンフェタミン、というのはおかしな話ではありますが、続けます」
たまたま横の席に麻酔科の
鎮痛や鎮静側にあるヘロイン一派と、興奮作用側にある覚醒剤では確かに相反かもしれない。
「佐土の膣分泌液からはメタンフェタミン系の物質が検出されています。同時に、口腔内の分泌液からはモルヒネ系ヘロイン系の物質も微量ですが検出されています。おそらくですが、快楽および薬物依存性のある興奮物質と鎮静物質をなんらかの条件で使い分けることが可能と思われます」
どういうことだよ面白生物め。
「するってーと、2人ともポン中ってことかよ」
「八木に関してはなりかけ、あるいはもう既に、と言っていいでしょう。佐土はまだ疑義があります。血中や尿中に確かにメタンフェタミンの代謝物があるのですが、これは摂取した結果のものではなく、分泌するために生じた結果にあたるのではないか、というものです。また、麻酔科の麻薬使用組の所見ですが、佐土の顔や様子から中毒者のそれにはまだ見えないと」
「八木のほうはそういう兆候があるということだな?」
「そうです。ただ、それが閉じ込められた環境下で発露した八木の本性からくるものか、いわゆる禁断症状に由来するものかはまだ要観察と」
「じれってえなあ」
「ちょっといいか? まだ押し込んで半月だろ。ヒロポン中毒っていうにしても、依存症ってそこまで早く進行するものか? あれそこまで早期の依存症にはならねえだろ?」
「だな。個人差はあるが、だいたい2年ぐらい濫用してようやく依存症と言えるぐらいになる。半月は判断が性急」
「仮に依存症になってるとしてもだが、現状で毎日好き勝手摂取し続けてるんだろ。2人を引き剥がしてしばらく別離しないと依存症になってるか考えもんだわ。そこの判断は保留に一票」
「右に同じ」
「同意」
話について行けない。
「次行きます。佐土の汗ですが、こちらからもメタンフェタミンに似た物質を検出しました。ただ膣分泌液に比べると濃度が薄く、効果を出すなら相当な量の摂取が必要かと。しかしながら『雪花の光』で行われていた修験での、蒸すことによりある種の高揚を煽る効果があることへの一定の説得力はあります」
「けどさ、いままで吸血鬼何体も起こしたし、汗の検査もしてきたよな。でも今回が初検出だよな?」
「メタンフェタミン狙いで検査はしてなかったから怪しいが、たぶんない」
「なんで今回はメタンフェタミンに当たりつけたの? ヘロイン検出狙いだったよね蔵本っち」
「あー、大河さんちょっとマイクこっち」
病理専門医の蔵本さんがマイクを握る。
「なぜヘロインとメタンフェタミン検出できたかというところだが、今回は違法薬物系で総当たりしたんだよ。ヘロイン系だけじゃなく、コカインとかMDMAとかも類似物質出てこないか確認した。大河さんがさっきちょっと触れてたが、ヘロイン系は唾液から微量しか出てないが、メタンフェタミン系は全身どこの汗からでも出てることを申し添えておく」
「なおのこと今までなんで出てこなかった?」
「わからん、というのが正直なところだ。違法薬物系の狙いをつける前にも、それこそ成分分析はしてるんだが。血液に含まれるメタンフェタミン代謝物なんて、今回検出された量からして以前でも見つかってなけりゃおかしい量が出てる」
「吸血鬼の佐土って檻入れる前にも血液検査してるよな?」
「当然。でも檻入れる前のからは出てない。冷凍保存しておいたやつ調べ直したからこれは確実」
「じゃあやっぱ檻入ってからの変化なのか。なんで?」
なんでだろうな?
そうこうしているうちに大河さんがマイクを取り返す。
「次移ります。再生能力の話いきます。佐土の再生能力は、事前の検査では、吸血鬼としての平均速度をだいぶ下回ります。再生能力が育ったと思われる個体なら首落としても短時間であれば傷口合わせれば接着再生、および外的要因は必要ですが蘇生まで行きます。しかし佐土の場合はおそらく首落としたらそのまま死ぬだろう、というぐらいの速度です。長さ10センチ深さ2センチの創傷テスト基準だと30秒弱が平均的再生完了速度ですが、佐土だと同条件で2分強でようやく再生していました」
吸血鬼の解剖をやって、脅威の再生力と正面から向き合っていてわかることもあった。
再生に際して、骨を折るだとか靭帯を切るだとか、質量が変わらない内部の負傷と言えるものは、変な固定をしない限り、たとえ粉砕骨折のレベルまで骨を砕いたとしても、人間とは比べ物にならないぐらい短い時間で元通りに近い状態になる。
しかし、足を落とすだとか、手首を切り落とすだとか、そこまでやってすぐの再接着もさせないなら、そこに新たな足や手が生えてきたりはそうそうしない様子。
吸血鬼も生物ゆえ、再生能力にも当然エネルギーを必要とするので、あまりにも再生を要する負傷を連日繰り返すようなことをすれば再生速度は鈍化する。毎日毎日同じ傷を与え続けたら傷跡が残りもする。
「佐土の再生能力は、おそらくあまり伸びてません。処女膜も認識できないぐらい消えてましたからね」
「あれだけ昼も夜もなくやってりゃ、すり潰されもするもんか」
「ただ、膣粘膜の腫れや擦過傷と思われるものもなく、そういう意味では頑丈ですね。本人どう思ってるかは不明ですが」
吸血鬼の足がない、手がない、となった場合。
生えてきたりはそうそうしない、だが、恐ろしいことに、生えないわけでもないのだ。
自分がここに配属される前に行われていた実験で、今現在佐土が行っているように、吸血鬼飼育での実験を行なった際の内容。
それは吸血鬼研究の比較的初期に入手された仮死個体。とても再生能力に優れた個体であったようで、意識の有無を問わず大いに切り刻まれていたそうだ。
まず指を落とす。1週間で細いが再生した。
手首から先を落とした。1ヶ月ほどで再生した。
膝から下を切り落とした。再生し復元される様子がなかった。
栄養が足りないのではないか?という仮説が立てられ、強制的に摂らせた。ゆっくりとだが足が伸び始めた。
しかし、そこで研究は止まる。
被験体が壊血症に陥り、再生能力が機能不全を起こしたのだ。
長期間ビタミンC不足に陥ると起こる壊血症。
しかし、観察期間にあって摂取させた栄養に特段の偏りはなく、強いて言うなら骨肉の元となるであろう栄養素は多かった、そのぐらい。
壊血症を治療するのであれば、不足したビタミンCを補えばよい。
当然そのように考えられて、非加熱のフレッシュ果汁や柿やトマトなど、ビタミンCを多く含有するものを食べさせた。栄養剤の注射もした。
しかし症状は悪化の一途を辿り、一度再生した手首から先も骨が崩れ、体の至る所で内出血を起こし、遂には切り落とした膝から下の傷が開いて出血が止まらなくなった。
そのまま仮死にも戻らず、そこで完全に死んでしまった。
当然原因究明が行われた。
まず第一に挙げられたのが、やり過ぎである。
再生能力が高かろうと、あれだけの部位を続けざまに失いそれを再生するとなるとどうしても歪な部分が出てくる、あるいは反動が起こるのではないか。
短期的、瞬間的に大きな傷を作ったことは何度もあったが、長期的に重傷を与え続けるほど痛めつけたのはこれが初であり、どこを加減するべきかのラインを誤った。
第二の理由は、栄養不足。
肉体を再生するために摂取させた栄養の量が不足。
壊血症になった原因として、吸血鬼と人間では必須栄養素が異なる可能性を挙げられていた。
事実、死後行われた解剖により消化器官にあたる内臓にも胃の縮小と小腸の長大化が起きていたことが判明しており、固形物をあまり必要としなかったのではないかという仮説も立った。
期間中に人間含む血液を与えなかったことも原因の一端を担っていたのではないかとも言われている。
「次、食事について。これは前例と変わったことはありませんね。全体として野菜への忌避があり、ネギ系は特に顕著。概ね肉食傾向と言ってよいでしょう」
「まだ、雑食といってもいい感じなんだな?」
「消化できているようですし、おそらくまだ胃腸の変化は大きくないものかと」
「告知をいつやるか、だなあ」
「自分で噛みついてくれるのが1番なのですけどねえ」
「いっそ生レバーかユッケでも出すか? それかブラッドソーセージ」
「微妙に難易度高そうですね。一応食料品担当に打診はしましょう」
ここ、周囲に食肉処理場とかないもんなあ……。
本当に新鮮さを求めるならヘリ空輸になる。
鹿や猪はいくらでも見るし、獲れもするようだが、それを食肉化できる人がいるとは聞いたことがない。
解体だけならどっちも大学時代にやったことはあるけども。
ド山中に数百人の規模で
そこに機材や原料や個人の嗜好品を追加、となると緊急性が低いものは後回しになるのも珍しくない。
産業廃棄物もかなり出るし、一般ゴミの量も当然かなりある。
……けど、よほど燃やせないもの以外は敷地内の高温焼却炉行きになっていたりもする。下手に医療系の産廃を外に出して杜撰な処理をされようものなら大変に困った事態にもなりうるから仕方なし。焼却炉は既に六代目だそうだ。
大雨の後だったりすると、山道に枝やらなにやらで通行止めとまではいかずとも荒れていたりするので機材科が道の掃除に行ったりもする。
「十字君、牛豚羊とか猪鹿とか解体できない?」
「いや……精肉レベルまでは無理です」
「解剖学者と精肉業は違うか。残念」
精肉スキルを上げるにしても、もうちょっと余裕のある時にして欲しい。
血抜き用の設備があって、何頭も潰していいなら、ぐらいの経験値だと思う。
たぶんそれでも他の人がやるより何十倍もマシなのだろうとは思うが……。