※この作品はR-18です。

悪の組織は不死身の少女に殺してと言わせたい   作:Kaisu

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41:『雪花の光』崩壊後

 宗教団体『雪花の光』から1体の吸血鬼が逃げ出した。

 その際に戦闘となった、人であり人でならざる者達。

 その検証は大いに行われたが、わからないことがわかった、という結論である。

 けれど、どうやってそうなったがわからなかったが、どのようにして人間にはありえない戦闘力を有したかはわかっていた。

 

 まず、なんらかの要因で肉体のリミッターが外れる。

 死を受け入れてこそかもしれない、生命の灯火を爆発燃焼させて得られる15分に満たない破格の運動能力と、銃弾を急所に受けても怯まぬ体。

 

 ではその原動力はなんであったのか。なにを消費して、なにを代償にハイパフォーマンスを発揮したのか。

 

 回収された異常な戦闘力を見せた信者の死体。

 彼らが修験者であり、日々山を走り節制した食生活と厳しい生活を送っていたとしても。

 彼らの死体には、脂肪と血液が決定的に不足し、筋肉には数多くの断裂跡が残っていた。

 

 血の中にある酸素と栄養素を蒸発させて変換して充填し、過剰に脂肪を燃やして溶かして筋肉を動かし続け、失い断裂した組織を再生し、大きく激しく早く心臓を動かし、それによって裂けた心筋や心室すらも修復して。

 

 より膨らんだ心臓で、脂肪が減ってスペースを増した空間でより強烈に全身へエネルギーを送り続ける。

 異常な血圧で血管も千切れる。普通であればどれほどの激痛があるのだろう。

 そうして、死に向かって体内を溶かし続けて、速度重視の歪(いびつ)な体内再生を繰り返す。

 彼らは山中から逃れる吸血鬼から目を逸らすことに成功し、そうまでして守るべきなにかを達成された。

 

 そうして逃げた吸血鬼は、捜査の手が『雪花の光』本体へと集中している隙に、5件の襲撃と1件の襲撃未遂を北陸3県跨いで1ヶ月でやり遂げ、消えた。

 成功した襲撃は1人住まいの寝静まった夜に忍び込んでの吸血。被害者は失血で死亡している。1人住まいだから発見が遅れ、県境も跨いだために横の連絡もなく。

 《雪花の光》強制捜査が8月のこと。そこから1ヶ月、残暑厳しい室内で死亡ともなると死体の腐敗と損壊も早く、吸血を伴う咬み傷の跡が崩れていたのも特定を難しくした。

 

 さらに、吸血鬼は空から侵入したと思わしい。

 地に足つけた人間のくくりでは密室と言っていい場所への襲撃も行われていたので犯人探しを難航させていた。

 未遂に終わった1件は、1人暮らしを狙ったと思われるところ、たまたま親戚が別室に泊まっており発見された、というもの。

 この時も飛んで逃げており、闇夜に消えたという。いかに監視カメラが増えたといっても、空にはあまり向いていないものだ。

 

 これを最後に『雪花の光』から逃げたと思われる吸血鬼は姿を消した。

 その一方で、年3体ほどのペースで吸血鬼仮死体が発見され始めた。

 カプサイシン蒸しを食らった益川麗奈(ますかわ れいな)であったり、檻で監禁観察中の佐土莉音(さど りおん)であったり。

 突然死に近い状態になるため、発見できず荼毘に付された者も暗数として存在しており、実際の被害者はもっと多いのではないかと言われているが。

 

 彼女らに共通することは、どうして仮死に陥ったか一切不明ということ。

 部屋や家に侵入された形跡はなく、佐土の場合であれば彼女は家族と同居。外傷はなにもなく、ある朝突然死の状態で家族に発見されている。

 どこで目をつけられ、どこで毒牙にかけられ、そしてどんな目的があったのか。

 それとも目的はなく、なんらかの活動の結果として仮死体ができているのか、それもわからない。

 

 吸血鬼事件に伴い『雪花の光』が潰れたのは実に8年前。

 東日本大震災の復興も多少の道筋がつこうとしていた2012年。オバマがアメリカ大統領に再選し、習近平が中国のトップに就き、自公政権が衆院で圧勝し政権奪還を果たした年。

 

 現在、2020年12月。

 8年間も研究と検証と実験を重ね、延べ20体を超える仮死体のサンプル個体を得ていても、吸血鬼のメカニズムは、爪の先ほどしか理解されていない。

 佐土のように、仮死から叩き起こした状態で過ごさせたことも複数体。

 けれど、必要十分と思われる栄養であったり血液であったりを与え、それなりに文化的な生活を過ごさせても。

 個体差はあれど、1か月程度で仮死に、おそらく蛹にあたる状態に戻ろうとする。当人の意思に関係なく、唐突で強烈な睡魔とともに。

 覚醒か羽化に至るなにかの要因が足りていない。

 

 

 研究が進まないのには、兵庫支部の体質的な問題もある。

 公にできない研究であることは大前提だが、吸血鬼研究専任、という研究者および監督者が現時点で不在である。

 大捷製薬兵庫支部というのは、最優先には超能力者と呼ばれる類の研究を念頭に置いた施設。特殊な先端医療技術や、違法に両手両足突っ込む倫理なき医療の研究と治験がその次に来る。

 

 吸血鬼の研究というのは、言ってしまえばサブもサブの研究で、脅威は確かにあるけれど、仮死体として年3人程度しか被害者が見つからない、暗数を含めても多くないことに人的リソースを振り向け続けることは組織として難しい。

 成果が出ているわけでもないのにダラダラと8年。超能力者ではないが超生物ではあるから研究を放り出すこともできず。

 彼ら兵庫支部の人間は、吸血鬼研究に情熱を失っていた。

 本業を投げ出させてでも没頭させる魅力はもうなかった。

 

 

 そこに加わったのが十字源裁(じゅうじ げんさい)という若手である。

 8年目にしてようやく吸血鬼研究の専任を目的とした採用。

 兵庫支部に採用される人物としてはかなり珍しい部類の前歴だったが、性格と適性は確かに向いていた。

 

 兵庫支部に来ておおよそ半年強。

 仮免が取れ、名刺に医療科特殊生物研究担当の肩書きがつき、ここからさらに半年かけて吸血鬼関連の決定権が十字の元に統合され移譲されてくる予定。

 大卒2年少々の時期に与える権限としてはかなり大きなものになるが、積極的に取りまとめようとする者がおらず、腫れ物事業でもあったので、やる気のある者に早めに投げてしまおうという意思が働いていた。

 

 吸血鬼の諸研究を行った上で、なにをもって成果とするか。なにが成果と評価と言えるのか。そこが定まっていない。

 おおよその軸、再生能力をどうにかして移植する、あるいは再現することができれば、という最終目標はある。それをできれば有史以来培われてきた人間の医学の歴史がほとんどひっくり返る。

 けれども、吸血鬼騒動以前から行われている超能力研究ですら成果はほぼないまま存続している状態。際立った成果を必ずしも求められているわけでもないのだ。

 たとえば、吸血鬼がどのように増え、あるいは目覚めるのか。それを確定させるだけでも成果と言えるであろうし。真に覚醒した吸血鬼の腑分け図、なんてものが作れたなら、それも十分に稀少な資料となるだろう。

 

 高い理想を掲げつつも、実情として超能力者の隔離によって社会制度の損壊を防いでいるだけ。

 

 吸血鬼の研究に専任がいなかったとはいえ、8年の月日で手を拱(こまね)いていたはずもない。

 たとえば、健康な人に吸血鬼の仮死体から切除した臓器を移植してみたり。

 たとえば、吸血鬼の仮死体から採取した血液を人や動物に輸血してみたり。

 たとえば、逆に仮死体の血液を丸ごと別人のものに入れ換えてみたり。

 たとえば、強制的に起こした仮死体であった者に自身が吸血鬼であることを告げて人を噛ませてみたり。

 たとえば、健康な人と強制的に起こした仮死体吸血鬼の血流を機械によって繋げて維持し続けたり。

 皆で頭を捻って、なんらかの特性が別の人に移りそうな実験を散々やっている。

 けれどダメ。

 誰にも特性は移らないし、仮死体ではなかった方の被験者が死んだり、なにも起きなかったり。

 

 

「どこから手をつけたものだか」

「いやまあ……、なんだかんだで蓄積はされてるものだなあ……」

 

 複数の部署に散在していた吸血鬼関連の文書資料が全部雑多に十字が割り当てられた区画に放り込まれ、資料読みだけでもどれだけかかるか。

 資料の追加を持ってきた榊場(さかきば)が壁の一面を埋め尽くす量に圧倒されている。

 

「どれが電子化されてて、どれがされてないかがもうサッパリ」

「じゃ全部電子化コース?」

「突き合わせてあるかないか判断するぐらいなら、全部やって自分でわかるようにするべきかなあと」

「電子しかないデータはどうすんの?」

「それもそれで頭痛いんだよなあ……逆に全部紙に印刷するか?って思ってるぐらい」

 

 雑多に送りつけられたデータをPCに保存してはいるものの、未整理である。

 そもそも何を示しているデータや資料なのか知識が足りず読み取れないものすらある。

 たぶん吸血鬼関連だろう、というものも紙電子問わずあるのでタチが悪い。

 

「1ヶ月ぐらいで整理と資料読みは終わらせておきたいけどな」

「いや全部スキャンして全部読むの1ヶ月は無理では……?」

「締切作らないと延々終わらないし?」

「それはそうだが……」

 

 片や専任研究者になろうというところ、同期たる榊場は未だ総務付きの見習いを継続中。

 十字が修めているような専門職はさすがに無理があるが、そうでない部署をいくつか異動しつつ、兵庫支部の組織構造を知る過程の途中。

 将来的には聖(ひじり)さんのような内部と外部の連絡と応接交渉役の立場を目指す採用であったらしく、兵庫支部でなにができてなにができないかの把握と、かなり徹底した礼儀作法の勉強中とのこと。

 

「同期がさっさと出世していくのを見せられるこっちの気持ちになれよ」

「うるせえぞ偏差値77の京大卒。上限は明らかにそっちの方が上だろうが」

 

 地頭の出来では、関西の雄たる京国大学の文系卒な榊場に軍配が上がるし、同期が求められている将来の立場は、ひいては兵庫支部の首脳陣か、本社側の偉い立場である。

 十字源裁という研究者が最大限出世したとしても、せいぜい部下を抱えた研究室の主任。

 吸血鬼研究の結果でノーベル賞でも獲れたらまた別だろうが、非人道的研究によって得られた成果は公表できるものなのかどうか。

 そもそも俺は、誇れるような論文はおそらく書けないぞ。

 

 現実は、そう広くない部屋を1室専有できるというだけだ。

 研究費の確保に奔走することになる世の学者や研究者と違って、予算は非常に潤沢なのだけど。

 

「多額の予算があったところで、若葉マークの解剖学者に使い道はなかなか思いつかないけどな。必要だと思うことならそりゃ使う気はあるが」

「資料読みに金使えって言われてもだよね。パソコン新調するとか?」

「支給のタブレットにせよパソコンにせよ、スペックは文句なしだしなあ。そんな大規模演算することもないし」

「棚増やすとか」

「予算無理に使うことはないけどな。予算使うってんなら吸血鬼がいたっていう『雪花の光』自体を調べに行きたいけど、捜査の権限もないし、そもそもあの事件が原因で消滅しちゃってるからなあ」

 

 吸血鬼研究専任、という職を作るのであれば、『雪花の光』の背後を洗う必要はあっただろうが。

 それをするには遅きに失した。

 

 

 

 

 

++++

 

 

 

 

 

 吸血鬼佐土莉音(さどりおん)の檻の中の生活は、1ヶ月に届こうとしていた。

 

 抵抗する気は、佐土莉音という人格から失せた。

 昼夜の概念はなくなり、起きて食って出してセックスして寝て、この5つをずっと繰り返す。

 いつも何度でも体を求められて、随分とオンオフの境目が崩れたと思う。

 

 ちょっとした前戯や愛撫で濡れやすくなったと思うし、勝手に体が火照ってムラつく頻度も増えた気がする。

 撫でられる、揉まれる、舐められる、指を這わされる、そんなことで簡単にその気になってくるし、陰茎が股のあたりに触れるだけで、ずくりずくりと下腹が熱くなったりもする。

 膣は随分と八木(やぎ)のブツにフィットするようになってしまったし、膣奥の快楽、子宮イキも覚えてしまった。

 腹の奥から戦慄(わなな)いて、放心するような充足感がやってくる。

 それを得ている間にさらに子宮口を振り回される動きをされるともう堪らない。

 私が我慢できずに喘ぐ弱点であるとか、どういう動きをすればこの男が喜ぶのかとか、そういうものもわかってしまった。

 

 手枷足枷は、もう着け外しが面倒になったのか放り出されている。

 けれど、キスをしようとはしないし、私に口を使わせようともしない。噛まれたのがよっぽど嫌だったのか?

 けれど、そんなことをしなくても、もう隙だらけ。

 ばったりと私の横で寝始めることは珍しくなくなったし、襲おうと思えばいつでもできるだろう。

 

 そうしないのは、襲って殺せても、監禁されている状況に変わりはないからだ。

 3食食っちゃ寝セックス付きはあまりに怠惰で退廃的。それに慣れてきている。

 ツンケンしていた時期は諦めの中に過ぎ去り、退屈を埋める会話のネタもおおよそ尽きた。

 むしろ、八木との会話は通じなくなってきている。私はある程度自我を保っていると思っているが、向こうが先に狂い始めている。

 あまりに刺激に乏しい環境ゆえか、常時監視がストレスになっているのか。

 いつからだっただろう。私を襲って辱めてやろうという気持ちが薄れ、私を貪り自分自身の快楽を追求し始めたのは。

 それすらも、今はなにかから逃げているような切迫感があり、私とセックスすることが目的になっているような気がする。

 

 何度か2人が分けられて、監視する何某と話す機会があった。

 一方的なものではあったし、私になにか要求されることもなかったが、八木がなにかを求められた可能性はある。

 けれどそれを聞いても八木はなにも答えなかった。口止めされているのかもわからなかった。

 

 監禁から何日経ったのかもうわからない。

 けれど食事の回数からしてそれなりに日時は経っていると思う。

 最初はどうしてもクソまずいと思う品がいくつも出てきていたが、最近は提供側も慣れたのかちゃんと食べられるものが出てくるようになった。

 

 その間、生理は来ていない。その兆候もなかった。

 あれだけ常時腹の中に精液を注がれ続けていたら孕まされもするだろう。そう思った。

 けれど。

 今日で1ヶ月だという表示が電子パネルに表示され、豪華にもステーキが出てきて、それと一緒に妊娠検査薬が差し入れられた。

 結果は陰性で、意外にも私の腹に八木の子はいないらしい。

 ならば不調を抱えていることになるが、そんな気はしない。もともと大きくなっていた胸がさらに大きくなったような気がするぐらい。立っていることが減ったので、足も弱ったかもしれない。

 

『1ヶ月の共同生活はいかがでしたでしょうか。多少の絆は育まれたでしょうか。本日より当プロジェクトは次のフェーズへ移行します。これ以降、いくつかの設備が開放されます。また、こちらから指定する行動を行っていただきます。これに従わない場合、罰則が発動しますのでご注意ください』

「たとえばどうなるんだよ?」

 

 今の八木は頭が比較的冴えている。冴えている時を狙っての告知かもしれないが。

 

『1番わかりやすいのですと、こうなります』

 

 ブーン、と重低音でなにかが動く。

 

「あ゛っ」

「がっ」

 

 痛撃が体を貫く。一瞬だけ見えるものが白くなった気がする。

 

『いつでも使えるものではこの電気ショックがわかりやすいでしょう』

「この……」

「い痛ぅ」

『他にも、食事制限、室温湿度上昇、睡眠妨害、やれることは色々あります。達成困難な指示は出しませんので、進んでご協力をお願い致します』

「わかったよ。それでなにさせようってんだ」

『お二人には、サウナに入って頂きます。もしかすると、過酷なものかもしれませんが』

 

 監禁生活にしては聞き馴染みのないことを、電子音声の案内は言ってのけた。

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