今回はもしかしたら今までの話で一番文字数が多いかも……
また、サイトとハルナのキャラが崩壊しています(^_^;)
地球とは違う異世界ーーハルケギニア。
そのハルケギニアに数ある国の一つ、トリステインの夜空には青と赤の双月が浮かび、それらが合わさる事で幻想的な月明かりとなり、闇夜に支配された地上を照らしている。
そうーー現在の時間帯は深夜。
そしてここは、ルイズの祖国トリステインに位置するトリステイン魔法学院からそんなに遠く離れていない長閑な村。
その村に、一人の美少女がいた。
「……ここも、違うようだな」
表情一つ変えずに呟き、その少女は舗装されていない村の砂利道を歩く。
普段のこの村を知る者からすれば有り得ないだろう。
道行く人なら誰もが振り返るほどの超絶美少女。
トリステインの中で一番の美少女と名高い、アンリエッタ姫に匹敵する容姿の持ち主が、何があってかこのような貧しい村に立ち寄っている。
それこそが既に奇跡のようなもの。
しかもその美少女は衣服など一切身に着けず、全裸のまま村のど真ん中に降臨したのだ。
そう……例えるなら、それは天空より突然舞い降りた女神。
自分達が服を着ている事の方が恥ずかしく思えるほどの、包み隠さないありのままの姿で村を歩いている。
まるで、何かを探し回っているかのように……
と、そこに立ち塞がる複数の人影。
「へっへっへ。おい、そこの姉ちゃん! さっきから随分とエロい格好で歩いているじゃねぇか」
「もしかして俺達を誘ってるのかぁ?」
「グヘヘ。こんな夜更けに平民だらけで何も面白味のない村に素っ裸で来るなんて、よほどの露出狂かレイプ願望のある変態くらいだぜぇ」
数人の男が美少女の行く道を阻むように現れる。
しかしこの美少女、下心丸出しの変態野郎を前にしても相変わらず無表情を保っている。
「……我の邪魔をするな」
氷のように冷たい目で睨み、美少女は平然と歩みを再開しようとするが……
「おいおい、姉ちゃん! そりゃあないだろ? 俺達は姉ちゃんの相手をしにわざわざ家から来てやったんだぜぇ?」
「そうそう! 随分とそのエロボディを持て余しているようだし、ここは俺達が一緒に性欲処理でもしてーー」
男達が下品な笑みを浮かべて美少女の豊満な胸に触れようと手を伸ばしーー
「……消えろ存在者……目障りだ」
あと少しで男達の手が胸に触れるか触れないかというところで、美少女は鋭い眼光を飛ばす。
その直後、何の前触れもなくそれは起きた。
「ん……? なぁ、なんか体が変な感じしないか?」
ふと、美少女の一番近くにいた男の一人がその手を止めて後ろの男達に振り返る。
「うわっ!? お、おい! お前の顔!?」
振り返ったその男の顔を見た瞬間、男達が震え声で叫ぶ。
「俺の顔? ……えっ」
惚けたように呟いた男の顔は髪の毛から顎の辺りまでがドロドロになって溶け出しているではないか。
まるで、汗をかいた際にその汗で顔がふやけて溶け落ちていくかのように。
髪が、眼球が、鼻が、頬が、唇がーー何もかもがとろけた。
それを目の前で見せられ、恐怖に支配された他の男達は脱兎の如く逃げ出していく。
「ふん……あの存在者の群れは……自分らが存在者でなくなることを拒む……か」
自分の目の前でホラーさながらに顔が溶ける男を見ても、美少女は相変わらず表情を変えない。
「ではな……存在者だったモノよ」
今や男の顔は溶けて原型がなくなり、今度は貧相な衣服ごと体が溶け出していた。
やがてすべてが溶け落ちた頃、男だったモノは白骨化してこの世から消滅した。
「どこだ……我を必要としているカザミキョウヤなる男はどこにいる……必ず見つけてやる」
誰に言う訳でもなく、美少女は何事もなかったように再び進行を開始した。
その村では、一人の少女が監禁されていた。
ブレザーにスカートの学生服を着た少女がいる部屋に、平民の男が貧相な食べ物と水を持って部屋に入ってきた。
「ほら、飯の時間だ。食わせてもらえるだけありがたいと思いながら食いな」
「……いただきます」
暗い表情で言うと、その少女は男からパンとスープ、水が用意された盆を受け取る。
「しかしお前といい、あの野郎共といい、なかなか口を割らねぇ奴らだよな。お前らがこの村にいきなり現れてから今日で3日だぞ、3日。いつになったらすべてを正直に話す気になるんだ?」
「ですから、最初から何度も言っているじゃないですか! 私や平賀くん、風見くんは日本で暮らしていた普通の高校生で、本当にこの世界のことを何も知らないんです! 信じてください!」
少女は男から尋問される度に自分達の無害を必死に訴える。
しかし村の人達は一向に信じようとはしない。
「あぁ!? 嘘ついてんじゃねーぞこのアマが!! 見た事もない服を着て俺達の前にいきなり落ちて来やがったんだ。にも関わらず、お前らはその体に傷一つねぇ。もうちょっとマシな嘘を吐いたらどうだ?」
「嘘じゃないです! 本当に私は……!」
言い掛ける少女に、男は苛立った様子で舌打ち。
「ちっ。これじゃいつまで経ってもここに監禁されてるようだな!」
吐き捨てるように言い、その男は荒々しく部屋を出ていった。
直後にドアに鍵が掛けられ、少女は落胆した様子で瓶に入った水を少し飲む。
渇いた喉を潤す命の水の有り難みに、少女は少し飲むつもりがごくごくと飲んでしまう。
思えば、最初の頃は食べ物や水に毒や薬物が混入されていないか疑ったこともあったが、召喚されて二日目の朝。
とうとう空腹に我慢できなくなり、少女は用意された食べ物を一気に食べた。
結果、食べ物や水にはそのようなものは混入されておらず、少女は少なくとも自分はまだ生かしてもらえると考えていた。
恐らく、この村の人達は自分達に関することを話せというだろう。
しかしそれだったら既に何度も、飽きるほど何度も正直に訴え続けていた。
にも関わらず、この村の人間はそれを信じようとしない。
当然だろう。
何せ、突然空から三人の人間が仲良く落ちて来たのだ。
風竜やグリフォンなどの飛行能力を持つ使い魔、あるいはフライが使えるメイジであれば多少は平民相手に誤魔化せただろうが、生憎三人は杖なんて持っておらず、マントもつけておらず、見たこともない異国の服を着ていた。
普通の人間ならそれを簡単に信じると言う方がおかしい。
この状況を三人で話し合えるような時間も場所もなかった。
少女は下敷きになった二人の不運な男子の上に着地した事で無事だったが、盛大に大地とキスしてしまった哀れな男子二人が悪態を吐きながら顔を上げると、そこには大勢の人間が驚愕の表情で三人を取り囲んでいたのだから。
その直後、村の中で一番偉そうな男が現れ、いきなり自分達を空き家の中に連行した。
女だからという理由で少女は比較的優遇されているが、そのかわりに二人とは別々の部屋に監禁され、以来見張りの男や先ほど食事を持って来た男以外の人とは会っていない。
毎日決まった時間に食事が運ばれてくる度に、二人の無事を何度もしつこく問い詰めているのだが、真実を言うまでは教えないと断言されてしまった。
そう言われてしまえば仕方ない。
少女は見張りの男に聞くのを諦め、あの二人がどうにか協力してここから脱出する手筈を整えるか……
今はただその時を待つ事にしていた。
(平賀くんと風見くん……今頃はちゃんと話し合いとかしてるよね……? 必ず助けに来てくれるよね……? みんな無事に脱出できるよね……?)
涙を流し、祈る。
その頃、別室にて。
「なぁ、才人」
徐に、男が口を開く。
乱暴ながらも短く切り揃えられた黒髪がよく似合い、黒い瞳は目の前を見ているようで何もそこに映してはいないーー
見る者にそのような印象を与える。
顔はそこまでイケメンというほどではないものの、高校生ながらどこか大人びたクールさを醸し出しており、少なくともかっこいい方だと言っていい。
黒い学生ズボンに白のワイシャツ、その上から黒い学ランを着ている。
その男は部屋のベッドで横になり、静かに窓の外を見ていた。
「ん? なんだよ、急に」
才人と呼ばれた少年は日本人らしく黒髪に黒い瞳。
そして青いパーカーにズボンを着用している。
「いやな? 何がどうしてこんなファンタジー世界の宿屋の一室みたいな狭苦しいとこに、野郎二人で3日間も監禁放置プレイされてなきゃなんねぇのか、ふと思ってな」
自嘲気味に言うと、キョウヤは学ランの内ポケットからタバコの紙箱を取り出し、その中から一本引き抜く。
その動作をぼんやりと眺めつつ、サイトは口を開く。
「俺だって訳わからないよ。くそ、こんなところに俺達を閉じ込めやがって……!」
サイトはベッドの上で胡座を掻いており、自分達を監禁した男達への理不尽な怒りから、平民用のベッドに向かって拳を振り落とす。
「まぁ落ち着けって。お前さんの怒りもわかるが、ここで怒りをぶつけてたって何の解決にもなりゃしねぇさ」
サイトと違って冷静沈着な口調で言いつつ、紙箱から取り出した一本を口に運ぶ。
「今は寝てろ。そのうち、ここから脱出する機会ってやつが必ず訪れるさ」
諭すように言い、キョウヤはその一本を口に咥える。
「ふぅ……こういう時はこいつに限る」
ふぅ……と息を吐き出すも、それからはタバコ特有の紫煙が一切出てこない。
当然だ。
それは本物のタバコではなく、タバコに似せたお菓子シュガレットなのだから。
「お前さんも一本どうだ? 俺のようなヘビースモーカーにゃあ虫歯は免れねぇが、こいつの味は保証するぞ」
「い、いらないよ。っていうか、ここに来てからもう3日も経つけど、それ結構口にしてるよな?」
なくなったりしないのか?という才人の質問に対し、キョウヤはニヤリと笑う。
「俺にとってこいつは非常食みたいなもんだからな。なに、まだ一週間分は残ってるさ」
その言葉に驚きを隠せないサイト。
よくもまぁ、一週間分のシュガレットを用意してきたものだ。
「おっと……来たか」
唐突に呟く。
「来たって、何が来たんだ? 尿意か?」
サイトの惚けたような質問に、キョウヤはフッと微笑する。
「いやなに、俺向きの風が吹いて来やがったって話だ。才人、この部屋に未練はねぇか?」
「いやいや、ある訳ないだろ! もしかして……ここから脱出できるのか!?」
期待に顔を輝かせ、サイトはキョウヤを見つめる。
「おいおい、才人。俺を誰だと思ってるんだ。俺はこの物語の主人公になる男だぜ?」
ーー決まった。
かっこよく言ってみせたが、サイトは胡散臭い目でキョウヤを見るだけだった。
「またその台詞かよ……いくらここがファンタジーみたいな世界だと言ってもさ。主人公ポジションの奴なんていないだろ」
呆れ顔で言うサイトだが、キョウヤは不敵に笑って見せるだけで余裕の態度を崩さない。
「いないなら、なればいいじゃねぇか。主人公のやることに不可能なんざねぇのさ」
そう言うなり、キョウヤはベッドから立ち上がって窓をコンコンと叩く。
「よし、このくらいの強度なら部屋にある椅子で叩き割れそうだな」
「なぁ、恭哉。そんなことしたら見張りが気付くんじゃないか?」
「大丈夫だ。言ったろ? 俺向きの風が吹いて来やがったって」
キョウヤがそう言った直後、村の外からタイミングよく複数の悲鳴が聞こえてきた。
「……ほらな? それじゃ、少しは主人公らしいとこ見せないとな」
言って、キョウヤは椅子を手に持って窓の傍に立つ。
「さぁて、この世界は俺を楽しませてくれるかねぇ!」
窓ガラスに木製の椅子を思いっきり叩きつけ、ガラスは派手な音を立てて割れた。
「ヒュー、いいねぇ」
割れた窓に自分の足を掛け、キョウヤは顔だけを外に出す。
とその時、背後から見張りの男の慌てたような怒声が聞こえてくる。
「おい!? 今の音はなんだ!? お前ら、いったい何をしている!?」
「マズい恭哉! これじゃあ脱出は無理だ!」
焦った様子でキョウヤに告げるサイト。
「できないってか? ったく、情けないぜ、男子高校生! 安心しな、俺ならできるさ」
そう言った直後、ドアが開いて見張りの男達が入ってくる。
「なっ!? お前、何をしている!?」
「よう、とっつあん。一話しか出てこないモブキャラ諸君が、俺の記念すべき旅立ちをそこから見送ってくれるのか?」
この状況を楽しんでいるといった様子で、キョウヤは意気揚々と男達に笑い掛ける。
「はぁ!? 何を馬鹿なことを!」
「おい、お前はその男の仲間だろ! 早く奴を止めろ!」
キョウヤの行動を理解できない男達は、キョウヤを止めようと近くにいたサイトに振る。
「と、言われましても……キョウヤはいつもこんな感じだからなぁ」
サイトはキョウヤという男をよく知っている。
サイトとハルナがキョウヤと知り合ったのは一年ほど前だが、短い付き合いを感じさせない、ある種の魅力的な何かがキョウヤにはある。
サイトやハルナと同じ現役高校生でありながら、タバコや酒、ギャンブルを異様に好み、車やバイクの運転もお手の物。
女の子の扱いにも長け、女性には紳士的な振る舞いを見せる事だってある。
学校の成績もそこそこ優秀で運動神経は抜群。
サイト自身、キョウヤからは色々と学ぶところも多く、密かに憧れのような感情を抱いているのも事実。
普段はどこか抜けたような、ふざけているとしか思えない言動を繰り返すキョウヤだが、こういう場面になると生き生きと瞳を輝かせ、男のサイトから見てもかっこいい男へと変身する。
「フッ。お前ら脇役にはこの俺を止められやしねぇよ。じゃあな、とっつあん!」
クールに言い放ち、キョウヤは民家の二階に位置する窓からスタイリッシュな動きで飛び降りた。
「……なぁ、小僧。あの男、何者なんだ?」
キョウヤが颯爽と逃げ仰せた今、部屋に残されたサイトに男達が問い掛ける。
「あんな堂々とした馬鹿、久しぶりに見たぜ……」
「え、えーっと……恭哉が言うには、自称『この物語の主人公になる男』らしいですよ」
「カザミキョウヤか……すごい男がいたもんだぜ」
男達は口を揃えて彼を評価した。
ーーつまるところ、キョウヤとはそういう男なのだ。
さて、その頃のキョウヤはというと……
「あそこで飛び降りるってのは一か八かの賭けだったが、意外と映画みたいに上手くいくもんだな」
二階から飛び降りた際の怪我もなく、民家の裏側に回って次の行動に入ろうと考えていた。
「あの神様から転生させられた後、17年も日本で生活してきてようやくファンタジー世界に足を踏み入れたんだ。ちったぁ生きてるってことを本気で楽しまねぇとな」
独り言を呟き、キョウヤは歩き出す。
(ひとまず、サイトとハルナをあそこから脱出させないとな。その後のことはその時に考えるとして……ん?)
……その時、キョウヤの視界にあるモノが入り込む。
「うぁぁ……た、助けてぇ……」
「顔がぁ……おれの顔がぁ……!!」
「あぁ……目がぁ……目がぁ……!!」
顔や胸、手足の皮膚が爛れ、着ている衣服すらもドロドロに溶け出した全裸の男女が痛々しい呻き声を上げて村をゆっくりとさまよい歩いているではないか。
まるで、原爆で被爆した人間を目の前で見ているように……
(うっ……! な、何だよこれ……ここはファンタジーな世界じゃなかったのか……? しかし、こいつはさすがに冗談キツいな……言っちゃ悪いが、すまん……正直吐きそうだ)
いきなりのショッキングな光景に吐き気を催しつつ、キョウヤは何とかその人達を避けて砂利道の端を歩く。
すると……
「この村に潜んでいるのはわかっている……出てこい、カザミキョウヤ……貴様が我の前に出てくる意志を見せなければ、我はこの地を破壊し尽くすだけだ」
……見つけた。
背中から紅蓮に染まった翼を生やし、村の上空に浮かんだ紅髪の全裸美少女。
その美少女は自分の両手を村の民家へと向け、派手な音と共に射出される黄色の剣圧を次々と飛ばしては、民家を破壊していく。
しかしその行動とは裏腹に、彼女の表情は暗い。
(何故だ……カザミキョウヤ……何故現れん……我は神とやらに見定められてこの世界にやって来た……我も知らない我のすべてを理解し、我の力を求めているという者……さぁ、出てくるのだ……我は貴様を守護するべく、地獄の底からやって来た紅蓮の悪魔であるぞ)
その名に破壊の意味を持つ完全生命体ーーデストロイア。
そんな彼女ーーデストロイアは無意味な破壊を繰り返しながら……ただ待ち続ける。
(我は知りたいのだ……我は何故、この世に生きているのか……我は自分が何者かを理解していない……知っているのは我の名がデストロイアという名前であることのみ……カザミキョウヤ、貴様は我に生きることの意味を教えてくれるというのか……?)
デストロイアは自分の存在理由について思い悩んでいた。
気付いた時には巨大な怪獣の姿で真っ白な空間にいて、そこで神様と名乗る存在に出会った。
あの時、神様はデストロイアに言った。
『風見恭哉という男と共に過ごし、これからの戦争で風見恭哉を敵から守護し、共に仲良くなるのじゃ。さすれば、お主は真の意味で自由を得られるじゃろう』
……どうでもいい話だった。
破壊が全てのデストロイアにとって、守るものなど必要無く思えた。
だが……
(……どうでもいい、ただの気まぐれに過ぎん)
それでも何を思ったのか、デストロイアは神様の指示に従い、ハルケギニアの地に転生した。
その際、他の人間から怪しまれないように人間の姿に変身させられたりしたが。
……何はともあれ、この村に来れば、キョウヤは必ずデストロイアの前に現れるというのだ。
そして……
「おい、そこの素っ裸の馬鹿娘!」
今が、その時だった……
「おい、そこの素っ裸の馬鹿娘!」
……不意に声を掛けられた。
この村の人間はあらかた白骨化させたので、生き残っている人間は少ないはず。
となると、この男が探していたキョウヤなのだろう。
「貴様……カザミキョウヤか?」
村の上空に浮かびつつ、真下にいるキョウヤを見下ろす。
「お前さんのような美女に名前を覚えられているってのは光栄だ。だが、これはいったいどういう真似だ?」
質問の意味が分からない。
「なんでこの村の人達にあんな残酷なことをした……何の罪もなかったはずだ!」
首を傾げるデストロイアに、キョウヤは怒気を含んだ声で言う。
「簡単なことだ……この村の人間はカザミキョウヤを我から隠していた」
「だから殺すってか? だがな……ただそこに存在して生きている人間をそんな理由で殺していいってことにはならないだろ!」
珍しく感情的になったキョウヤが叫んだ刹那、そのすぐ近くに先ほどの黄色の剣圧が射出される。
まるで大地を引き裂くように、破壊の爪はキョウヤの立つ大地に痛々しい爪痕を刻み付ける。
「少し黙れ、カザミキョウヤ……今はこの我が貴様に話をしているのだ……そこに転がった無数の骸骨のようになりたくなければ……おとなしくしていろ」
言って、キョウヤを悪魔の如く恐ろしい目で睨み付ける。
このままでは、この悪魔の無差別破壊を許してしまう……
キョウヤが如何にしてこの状況を切り抜けるか思考を巡らせていると、そこに聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「恭哉、無事か!?」
「風見くん、大丈夫!?」
声の人物はーーサイトとハルナ。
まさか……あの民家に監禁されていたはず。
……では、いったいどうやって脱出したのだろうか。
「お前ら……どうしてここにいるんだ?」
キョウヤが驚いた様子で二人に問い掛けると、サイトが得意気な顔で脱出の経緯を語り出した。
……何でも、村の騒ぎを聞き付けた見張りの男達がドロドロに溶け出した村人達を見て一目散に逃げ始めた為、隙を見計らって逃げる男の一人から鍵を奪い、それで部屋から脱出したのだとか。
その後、サイトが隣の部屋に監禁されていたハルナを助け出し、二人でいなくなったキョウヤを探そうと民家の外に出たら、そこら一帯の民家が炎上して村は火の海と化していた。
そんな中、燃え盛る村の上空に紅い悪魔の如く浮いている全裸の紅髪美少女をハルナが発見し、急いで現場に駆け付けたという訳だ。
なるほどと納得するキョウヤに、ハルナが怯えた様子で恐る恐る口を開く。
「ねぇ、風見くん……ここにあるたくさんの骨って、ひょっとして……」
「……あぁ。みんな、この村の人達だ。この女の不思議な力で全員が骨だけ残して溶かされたらしい」
その言葉を聞いたハルナはショックのあまり、ふらふらと力無くサイトの体に寄りかかってしまう。
しかし、そのサイトはと言えば……
「これが……ファンタジーおっぱい」
スケベ顔で鼻血をだらだらと垂れ流し、デストロイアの破壊力満点なエロい裸体ーーとくに豊満な胸に釘付けとなっていた。
「高凪さんのおっぱいも充分大きいけど、これもまた……フォォォォォォォォ!!」
感動のあまり、サイトは我を忘れて雄叫びを上げてしまう。
それを見ていたキョウヤは……
「才人、お前って奴は……本当に異世界でもブレないよな」
やれやれと、呆れ顔で首を横に振る。
「おっぱいだと? ……くだらん」
サイトに裸体をガン見されているにも関わらず、デストロイアは体を包み隠さずに冷たく吐き捨てる。
それでも見続けるサイトに我慢できなくなったのか、白骨化のショックから無理やり立ち直ったハルナがサイトに怒鳴る。
「ちょっと平賀くん!? いつまで女の子の裸を見ているの!? 平賀くんにはわたしがいるんだから、他の女の子の体は見ちゃダメ!」
「ご、ごめん高凪さん……これは健全な男子生徒としては仕方ないと言いますか、ついって言いますか……」
「ヒ・ラ・ガく~ん!?」
怒りマークを頭上に浮かばせ、ハルナはサイトに抱きついたままの体勢でサイトにプロレス技のアイアン・クローを仕掛ける。
「いて、いててっ、痛い! 痛いって高凪さん!」
……さて、外野でサイトがハルナにお仕置きされている間、いつの間にかみんなから無視されているデストロイアは怪訝な表情でキョウヤに声を掛ける。
「……カザミキョウヤ、一番マトモそうな貴様に聞く……その二人は馬鹿なのか?」
「えっ? そこで俺に振るのか……あ~、その、あれだ、仕様だ。気にしたら負けってやつだ」
「……そうか」
不思議とその説明で納得できたデストロイアであった。
ーー閑話休題。
「カザミキョウヤ……我と共に来い」
言って、デストロイアは空中滞在を止めて地上に降り立つ。
「……それはこの世界で流行っている新手のプロポーズか何かか?」
「ふざけるな……! 貴様も神から聞いているはずだ」
「神から……? あ~、あの時の爺さんか」
思い出したように呟く。
「それじゃあ、お前さんが神様の言ってたーー」
「そうだ……我が名はデストロイア。『破壊の魔神』と呼ばれている完全生命体……らしい」
どうもデストロイアは自分自身に関する事をあまり知らないらしい。
すると、いきなり外野から飛んできたサイトがデストロイアを見て叫ぶ。
「デストロイア!? ちょっ、ちょっと待ってくれ!」
いつの間にかハルナのお仕置きから復活したサイトは、驚愕した様子でデストロイアをまじまじと見つめてしまう。
とそこに、ハルナもまた黒い笑みを浮かべてやって来る。
「平賀くん……あっち、逝こうか」
気のせいだろうか。
ハルナの台詞の字が違う気が……ああいや、何でもない。
「た、高凪さん!? い、嫌だぁ! ツンモードのお仕置きだけは絶対に嫌だぁ……アーッ!!」
ふふふふふ……と不気味に笑い続けるハルナに腕を引っ張られながら、泣く泣くサイトは外野へと連れて行かれた。
……しばらくお待ちください。
「特撮映画の怪獣だと!? この素っ裸のーー失礼、見た目麗しいお嬢さんがか? 才人、本当なのか?」
「あ、あぁ。俺の知ってる範囲で話すよ」
……さて、復活したサイトから聞いた話によると、デストロイアとは世界的有名な特撮映画『ゴジラ』のゴジラVSシリーズに登場する平成ゴジラ最後の敵にして最強の怪獣だという。
最終的にはデストロイア(完全体)はゴジラ最強の姿であるバーニングゴジラと死闘を繰り広げ、圧倒的な強さを誇るバーニングゴジラを前に自身の敗北を悟ったデストロイアは戦意喪失して敵前逃亡。
そこを自衛隊の集中攻撃で撃墜され、そのまま爆発して死亡する……というストーリー展開なのだとか。
「平賀くん、詳しいんだね。知らなかったな」
「どうでもいいが、才人ってそういうの詳しいんだな……」
変なところで感心するハルナとキョウヤであった。
そしてデストロイアは……
「……なるほど。サイト、貴様の話はよくわかった」
サイトの語る内容を素直に受け入れていた。
また、サイトに悪影響を与えるというハルナからの強い言葉に逆らえなかったキョウヤは、自分の着ていた黒い学ランをデストロイアに着させていた。
今思えば、サイトの為にももっと早くそうしてやるべきだった……
などと呟くキョウヤの思惑を余所に、デストロイアは言う。
「我のことを理解するのはキョウヤだけかと思っていたが……サイトもどうやら我を我以上に理解しているようだ」
そう言って、デストロイアはしばらく考え込む。
そして……
「……キョウヤ、サイト、ハルナ。これからは、最強の魔神たるこの我が貴様たちを有象無象の雑魚共から守護してやる……光栄に思うがいい」
上機嫌ながら偉そうな態度で、デストロイアはキョウヤ達の仲間に(強制的に)加わった。
「それはそれとして、だ。この村の有り様……どうするんだ?」
キョウヤの言葉に、サイトとハルナは周囲を見渡す。
民家のほとんどは未だに燃え盛り、道端には村人だったモノの白骨化した死骸があちこちに散らばっている。
……地獄は確かにそこにあった。
「えーっと……みんなで逃げる?」
サイトがおずおずと提案する。
「……まっ、それしかないか。このままだと俺達全員が犯罪者だからな。さすがに異世界まで来て刑務所行きは勘弁だ」
「へぇ、ちょっと意外です。風見くん、デストロイアさんを許してあげるんですね」
どこかからかうような口調のハルナに言われ、キョウヤは渋い顔で三人に向き直る。
「俺の責任でもあるからな……デストロイアだけを怒る訳にはいかねぇよ」
「ふふっ、優しいですね。どこかの誰かさんとは大違い」
楽しそうに笑うハルナを後目に、キョウヤは溜息混じりに自分の黒髪をくしゃくしゃと掻く。
「俺も自分が善人じゃないってわかっているからな……」
呟き、キョウヤ達は燃え落ちる村をそれぞれの思いを胸に見つめる。
「……わたし、この村の人達のこと、絶対に忘れません」
「俺もだよ」
村を出て少し歩いた外に位置する森の茂みの中から、ハルナとサイトは誓う。
二人の瞳には、幻想的な夜空を背景に燃え上がる村がこの世界の地獄のように映っていた。
「キョウヤ……その……悪かったな」
キョウヤの隣に立って村の最後を見続けるデストロイアが言い辛そうにぽつり言う。
「我がこうして破壊を行う時、我は我自身を見失い、我という存在は狂気という名の破壊衝動に支配されるのだ……だから……その……」
もごもごと口を動かし、デストロイアは怯えた瞳でキョウヤを観察する。
「……起きたことは仕方ないさ。お前が反省しているならそれでいい……だが、この次はないからな?」
「……ああ、わかった」
キョウヤの言葉に、デストロイアはしっかりと頷いた。
そして……
四人は静かに行動を開始した。
番外編、いかがでしたでしょうか?
番外編のノリはこんな感じです。
また、次回も番外編が続きます!
そして次回、イリスが番外編に登場!?
イリスとデストロイアが出会う時、第3の怪獣が2人の前に現れる……
次回もまた見てね!