ついにやって来たアンリエッタ!
ルイズとアンリエッタの思い出話に隠したアンリエッタの悲しい涙のワケとは!?
今回はアンリエッタ回です!
午後の授業が始まる。
モンモランシーの隣に座るルイズは何度もチラッと教室の入口を見ては、自分の使い魔の登場を今か今かと待ち続けていた。
「ルイズったら、そんなに待っていてもイリスは授業に来ないわよ。さっき、中庭でシエスタと二人で何か話していたみたいだもの」
見かねたモンモランシーがルイズの耳元で囁く。
「そうなんだ……ねぇ、モンモランシー。イリスってば、最近シエスタとばかりイチャイチャしてるわよね」
頬杖を突いたルイズは憂鬱な表情で溜息を漏らす。
「そうね……イリスが大人になってから、私たちまだ一度もイリスとエッチしてないものね」
「うん……」
暗い表情で頷くルイズ。
「ねぇ、モンモランシー……ひょっとして、イリスが子供だったからわたしたちを愛してくれていたのかな……? 大人になったから、もうわたしたちは必要なくなったんじゃ……?」
ルイズの悲しい瞳に、モンモランシーも自然と俯いてしまう。
「そうね……飽きたから捨てられたのかもね……私たち。ほら、イリスって子供っぽいところあるじゃない。だから今は新しい玩具のシエスタと愛し合っているのかも」
「っ……! そ、そんなはずないでしょ!? イリスはわたしたちをーー!」
ガタッと音を立てて席から立ち上がり、ルイズが大きな声で言い掛けたがーー
「何事ですか!? ミス・ヴァリエール! 今は授業中ですよ! またわたくしの授業を妨害するのですか!?」
教壇で土系統の魔法に関する講義をしていたミセス・シュヴルーズがルイズを叱る。
「えっ? あっ……」
シュヴルーズに怒られたことで冷静になり、辺りを見渡すルイズ。
見れば、モンモランシー、タバサ、キュルケを除く生徒たちが席から立ち上がったルイズを見て怪訝な顔でひそひそと囁き合っている。
慌てて謝ろうとするルイズが口を開き掛けると同時に、教室の扉が乱暴に開かれる。
一瞬、イリスが来たのかと期待を込めて扉に振り向くルイズだったが、教室に入って来たのはイリスでもシエスタでもなく……
「たっ……たたたっ、大変ですぞ!!」
珍妙な格好をしたミスタ・コルベールだった。
まず目に付くのは頭に羽帽子付きのロールした金髪のカツラを着けていることだろうか。
ローブにもレースの飾りやら刺繍やらが着いており、まるでどこかの舞踏会にでも出掛けるような格好である。
「ミ、ミスタ・コルベール……!? どうかなさいましたか……?」
シュヴルーズがどん引きという感じでコルベールのダサいファッションセンスを見て恐る恐る声を掛ける中、教室中の視線という視線がコルベールに向けられる。
「おっほん。本日の授業はすべて中止であります」
全員が唖然としてコルベールを見つめている中、コルベールは気にすることなく話し始めた。
「そして皆さんにお知らせですぞ!」
もったいぶった調子でコルベールが両手を大きく広げつつ話す。
「本日はトリステイン魔法学院にとってよき日であります。始祖ブリミルの降臨祭に並ぶめでたい日でーー」
言いながら、ズルズルと頭に乗せたカツラが滑って床に落下する。
突然のアクシデントに、コルベールを見ていた生徒たちが笑いを堪えているかのようなクスクス笑いに包まれる。
そんな中、キュルケの隣に座って本を読んでいたタバサがコルベールを指差してはっきりと言い放つ。
「ツルツルで、滑りやすい」
タバサの思わぬ一言で我慢できなくなったのか、教室中が爆笑に包まれる。
「あははは! あなた、たまに口を開くと言うわね! タバサ最高!」
キュルケに至っては腹を抱えて大爆笑である。
「えぇ~い、黙りなさい! こわっぱどもがッ! 貴族が大口を開けて下品に笑うとはあるまじき行いですぞ!」
顔を真っ赤にしたコルベールが物凄い剣幕で生徒たちに怒鳴ると、ようやく笑いの渦も収まった。
生徒たちが沈黙したのを確認し、未だに顔を赤くしているコルベールはコホンと咳払いをして話を続ける。
「え~、皆さんもご存知だと思いますが、本日は我がトリステインがハルケギニアに誇る可憐な一輪の花ーーアンリエッタ姫殿下がこの魔法学院で行われる明日開催予定の使い魔品評会の特別ゲストとして行幸なされます!!」
コルベールからの知らせを聞き、教室中が歓声とざわめきに包まれる。
「したがって粗相があってはいけません! 今から全力を挙げて歓迎式典の準備を行いますぞ~!!」
コルベールがそう言って教室から出ていくと、シュヴルーズや残りの生徒たちも大慌てで教室を飛び出していった。
そんな中、教室に残ったルイズとモンモランシー。
「ほら、私たちも行きましょう? ーールイズ?」
「姫さまが……アンリエッタ姫殿下が……いらっしゃる」
何故だか頬を赤らめ、ルイズは嬉しそうな顔でしばらくそこで立ち止まっていた。
そして……アンリエッタが魔法学院に到着したのはそれから何時間か経っての事だった。
魔法学院の正面玄関で正装に身を包んだ生徒たちが歓声を上げて出迎える。
相変わらず形のいい艶やかな横乳を制服のボタンからはみ出して丸見えにしてしまっている、なんとも大人の魅力に溢れたエロい制服姿のイリスは、近くに集結した大勢の男子生徒たちに挟まれた状態でアンリエッタの登場を見ていた。
(……この感じ、ようやく待ちわびたのが来たわね)
イリスは既に馬車の中から感じる邪悪な怪獣の気配を敏感に感じ取っていた。
(さぁ、聞かせてもらうわよ? なんであの時わたしを助けたのか、なんでモットをキングコングにしたのか……いろいろね)
そして……
「なっ、なぁ……俺たちのクラスにあんなエロ可愛い女の子いたか?」
「んなことどうだっていいんだよ! それより見ろよ、綺麗な銀髪と赤目! そしてあの、『エッチしてください』と言わんばかりに俺たちを誘惑しているおっぱい! 俺たちの女王様はアンリエッタ姫よりもこの娘で決まりだな!」
「み・な・ぎ・って・き・た~!!」
「フオオオオオッ! フオオオオオッ!」
「ナイスおっぱい! ナイス横乳! おっぱいの革命やで!」
「あぁ……俺、あのボタンになって弾け飛んでいきたい」
「なに!? おまえ、天才だわ」
「わかるか、同志よ。ならば俺とお前で握手だ」
シリアスな雰囲気全開のイリスの周辺では、貴族にあるまじき下品なスケベ顔でアンリエッタよりもイリスのおっぱいに視線を注いでいる変態共が。
(……バカばっか)
やれやれと、イリスは呆れ顔で盛り上がっている男子生徒たちに内心呟き、馬車から降り立ったアンリエッタに視線を送る。
護衛の騎士たちに囲まれたアンリエッタが馬車の前で立ち止まっていると、続いて馬車の中から一際目立つ騎士が降り立つ。
黒い鉄仮面で素顔を隠し、黒い鎧でその身を包み、黒いマントから覗かせる腰の辺りには鉤爪状の双剣『ブラディ・トリガー』を背中でクロスさせて差している。
イリスの目から見ても、明らかに彼が強者だというのがわかる。
どこからか、帝国のマーチが聞こえてきそうな圧倒的な存在感で黒騎士はアンリエッタ姫の手を取り、二人で並んで歩き出す。
馬車から敷き詰められたレッドカーペットの上をアンリエッタと黒騎士が、その後ろから護衛の騎士団が歩いてくる。
そしてアンリエッタは学院を代表して出迎えたオスマンの前にやって来た。
「急な我侭で申し訳ありませんでした。ミスタ・オスマン」
「滅相もございません。生徒共々お待ち申しておりました」
優雅な佇まいを見せるアンリエッタの前で跪き、教師陣を後ろに控えさせたオスマンが歓迎の言葉を述べる。
「今年だけは、是非ともこの目で見たかったもので」
アンリエッタは誰かを探しているのか、先ほどから生徒たちのいる方をちらちらと見ている。
「ほう、それは?」
そんなアンリエッタに興味を引かれ、オスマンは顔を上げてアンリエッタを見上げる。
使い魔品評会はトリステイン魔法学院の毎年恒例行事ではあるが、一国の王女がわざわざ見学に来るようなものではない。
それが今年に限っては、アンリエッタ自らがどうしてもとお願いしたのだとか。
何故、今年なのかと疑問に思うオスマンの鋭い視線を受け、アンリエッタはすべてを魅了するような微笑みを浮かべ、オスマンに答える。
「個人的な事ですわ」
そう告げるアンリエッタはようやく目当ての生徒を発見したのか、そちらに向かってにこやかに微笑んでみせた。
(やっと見つけましたわ……愛しのルイズ・フランソワーズ! 私の一番大切なお友達!)
うっとりとした瞳で見つめるアンリエッタの視線の先には、同じく顔を赤らめてアンリエッタを見つめていたルイズが。
(私たち……これからはずっと一緒ですわよ?)
ゾクッとする腹黒い笑みで、アンリエッタはルイズに向かって手を振るのだった。
アンリエッタの歓迎式典も終わり、生徒たちは今日の授業がすべて中止になったことで、明日の品評会に向けて各々が芸の練習を再開し始めていた。
そんな中、イリスは焦った様子で学院内を歩き回っていた。
(たしか、こっちに行ったはず……)
イリスは例の黒騎士を探しているようだ。
歓迎式典の後、アンリエッタと黒騎士がオスマンと共に学院長室に入っていくのをイリスはこの目で確認している。
そしてしばらくしてから黒騎士が退室し、どこかへと歩いていくのが見えた為、こうしてイリスは学院の廊下を捜索しているという訳だ。
(この辺にいるはずなのに……まさか、気付かれたの……!?)
ふと思った時、イリスの背後からコホー、コホーという不気味な呼吸音が聞こえてきた。
「ほぅ……もしや迷子かな?」
背後から聞こえてくる男の声を聞いてすぐさま振り返るイリス。
そこには……
「いや、違うなーーどうやら君は、誰かをお探しのようだ」
黒いマントを翻した黒騎士が立っていた。
「ククク……私に会いたかったか、イリス」
「黒騎士……っ!」
イリスは黒騎士を睨み付け、警戒心を顕わにする。
「さて、伝説の邪神がこの私に何用だ?」
「……いろいろ聞きたいことがあるの」
そう言うと、イリスは息を吸い込んで一気に話し始めた。
「あなた、どうしてわたしを助けたの? それに、モットをキングコングにしたのは何のため? あなた、わたしと同じ怪獣よね? 何の目的でこの魔法学院に入って来たの?」
まくし立てるように次々と自分が思っていた疑問をぶつけ、イリスは黒騎士を問い詰める。
「ふむ……助けたことに関しては特に理由はない。私はモットを処分し、その場にたまたま君が運悪く居合わせただけ……ただそれだけのことだ」
冷静な口調で答えると、黒騎士はさらに続ける。
「モットを怪獣へと進化させた事に関しては言えんな。皇帝の命令だとは言っておこう。そして如何にも。私は君と同じ怪獣ーー」
言うと同時に、黒騎士の黒い鉄仮面の眼が真っ赤に発光する。
「ーー遥か遠い銀河系の宇宙から隕石に乗ってこちら側の宇宙へとやって来た。皇帝『モンスターX』に仕える『宇宙暗黒四天王』が一人、サイボーグ怪獣『ガイガン』だ」
ガイガン……自らをそう名乗った黒騎士。
「ガイガン……それがあなたの名前……」
確かめるように、イリスはその名前を呟く。
「左様。そして何故、この魔法学院にやって来たかーー答えは簡単だ。私はアンリエッタ姫殿下の専属護衛騎士としてトリステインに仕えている身分。ゆえに、アンリエッタ姫に従ってやって来た」
イリスの質問にすべて答えてみせたガイガン。
「本当に? 何か怪しいことでも企んでいるんじゃないの?」
「ふふふ。信じる信じないは君の自由だがーー私は聞き分けのいい子が好きだな」
しかしガイガンは嘘を言っているようには見えず、あまりにも余裕な態度というか、堂々としている為、イリスはとりあえずガイガンの言葉を信じることに。
「わかったわ。でも、そんな情報を敵であるわたしに教えてよかったの?」
「なに、構わんよ。私はただ、私のやりたいように行動させてもらっているだけに過ぎん。すべては私自らの意思。そこに皇帝も他の四天王も一切関係ない」
さらりと言い、ガイガンはイリスから背を向けて歩き出す。
「話はそれだけか?」
「あっ……まっ、待って!」
モットの屋敷での時と同じく、イリスが慌ててガイガンを呼び止める。
今度はガイガンも立ち去ろうとはせず、黙ってイリスに背を向けた状態で立ち止まる。
「えっと、その……あ、ありがと」
恥ずかしそうに呟くイリス。
ガイガンがチラッと顔だけをイリスに向けると、顔を赤らめて照れたような仕草を見せる乙女モード全開なイリスが。
「わたし、ああやって誰かに危ないところを助けてもらうのって初めての経験だったから……」
恥ずかしそうに言いつつ、イリスはガイガンに感謝の気持ちを伝える。
「い、一応お礼だけは言っておくけど……か、勘違いしないでよ!? あなたの優しさがちょっと嬉しかったりなんて……そ、そんな風に思ってなんてないんだから!」
ツンデレ気味にそれだけを一気に伝えると、イリスは顔を真っ赤にしてガイガンから逃げるようにどこかへと走り去っていった。
「ふっ……主人に似て扱いやすい馬鹿な娘だ。今はそうして、私の手のひらの上で踊っていたまえ」
イリスが走り去っていった方向を見ながら、ガイガンはぽつり呟いてその場を後にした。
そして夜になり、女子寮に位置するルイズの部屋。
そこではルイズとイリスーー
そして今日からルイズ専属のメイドとなり、ルイズの部屋で生活する事となったシエスタの三人が揃って品評会に向けての話し合いをしていた。
「それじゃあ、本当に品評会に出てくれるのね!?」
ルイズは切羽詰まった様子でイリスに何度も聞き返す。
「えぇ、出るわ。芸もシエスタに協力してもらって練習済みだから大丈夫よ」
……などと、品評会に向けてやたら自信満々なイリス。
「イリスさま、すごいんですよ! アンリエッタ姫が好きそうな芸を瞬時に見抜いて、私と二人でやることにしたんです!」
笑顔でルイズに話すシエスタを見て、ルイズの心がズキッと痛む。
(シエスタと二人でやる芸……やっぱりイリスはわたしを必要としていないのね……)
思ってしまったことを胸に仕舞い、ルイズは急にわざとらしい騒ぎ方でイリスに話し掛ける。
「ね、ねぇ! 練習済みって言ってたけど……あんたたち、どんな芸をやるの?」
やはりそこは気になるのか、ルイズはイリスに聞いてみることに。
「あんたは擬人化できる怪獣ってことで通ってるんだから、やっぱりそれをアピールしなきゃ優勝なんてできないわよ」
「まぁ、そうね」
しかしイリスはニヤリと意味ありげに笑うだけで、一向に教えようとはしない。
「ルイズ……わたしにいい考えがあるの」
そう言って、イリスはドヤ顔を決める。
ルイズはこの時、『あっ、これは失敗するな』と何故だか悟ったようだが、自信満々なイリスとシエスタを見て敢えて口にしないことにした。
と、その時……
不意にルイズの部屋の扉が規則正しいノックの叩き方をされる。
始めに長く二回、続いて短めに三回。
途端にルイズはハッとして急いで扉を開ける。
そしてそこには……
「お久しぶりね、ルイズ・フランソワーズ!」
頭に黒い頭巾を被って素顔を隠し、黒いマントを肩から羽織った純白のお姫様ドレスを着たアンリエッタ姫が護衛も付けずに一人で立っていた。
「懐かしいわね、ルイズ! こんな風に再会できるなんて夢のようだわ!」
扉の先に立っていたアンリエッタは素早く部屋の中に入り込むと、頭に被っていた黒い頭巾を取って素顔を見せる。
昼間に見た時と変わらない、トリステインのお姫様がそこにいた。
「あぁ……ルイズ・フランソワーズ! 何年ぶりかしら!」
深い青色の瞳に涙を滲ませ、アンリエッタはいきなりルイズに抱きつく。
「アンリエッタ姫殿下!!」
「ルイズ!!」
久しぶりの再会を喜ぶ二人はお互いに抱き合ったまま、涙を浮かべて二人の名前を呼び合う。
「お懐かしゅうございます!」
「本当に……! ずっと会えなかったものね!」
二人は互いに手を取り合い、嬉しそうな顔で話している。
「アンリエッタ……またキャラの濃さそうな娘が来たわね」
「えっ? 姫さまがミス・ヴァリエールと……? えっ、えぇ~!?」
それを間近で見せられたイリスとシエスタは唖然として抱き合う二人を見つめている。
するとルイズは自分たちの抱き合う姿を見てハッとなり、慌ててその場に跪く。
「ルイズ……?」
訳もわからずにいるアンリエッタがルイズに声を掛けると、ルイズは頭を下げたままアンリエッタに謝罪する。
「申し訳ございません。懐かしさのあまりとんだご無礼を……」
「やめて! わたくし達は幼馴染みじゃない」
アンリエッタはそう言うが、ルイズはそれでも忠誠の姿勢を崩さない。
「いえ! いけません姫殿下! こんな下賎な場所へお一人でお越しになられるなんて……」
「いいえルイズ、そのことなら心配しなくても大丈夫よ。ガイガンーー孤独なわたくしが宮廷でただ一人頼れる忠実な騎士が、わたくしをあなたの部屋まで案内してくれたもの! それに、そんな堅苦しい行儀はやめて頂戴! わたくしが本当の意味で何もかも心を許せるのは、昔から一緒に遊んで過ごしたルイズだけよ!」
「そんな……姫殿下、もったいないお言葉でございます」
「その態度をやめてルイズ! あなたとわたくしはお友達ーー将来を誓い合った親友じゃないの!」
(……何なの? このふざけた茶番は)
二人の会話を聞いて冷え切った様子のイリスが内心突っ込む。
あの女の子大好きなイリスが突っ込むくらいに、ルイズとアンリエッタは女の子同士のピンク色でいっぱいな雰囲気の中で語らい合っている。
「感激です! 覚えてくださっていたなんて……!」
「忘れる訳ないじゃない! ルイズ・フランソワーズ! わたくしとあなたは死ぬまでずっと一緒にいるのよ!」
涙を見せながらまたしても抱き合うルイズとアンリエッタ。
きっと二人の間では背景に百合の花が咲いているのだろう。
「はわわ……ミス・ヴァリエールってミス・モンモランシだけでなく、姫さまともあんな関係だったんですね……」
「しっ。あれは見ちゃいけないわ。完全にあの馬鹿二人の世界になってるから」
ぽかんとするシエスタをよそに、イリスは見てられないと言わんばかりにやれやれと失笑していた。
ルイズとアンリエッタの感動的な再会から数分後。
二人は相変わらずイリスとシエスタを無視して自分たちの世界に入り浸っていた。
「本当に懐かしいわ! ねぇ覚えてる? 一緒に宮廷の中庭で蝶を追い掛けたわよね!」
「はい! 泥だらけになってしまって侍従のラ・ポルトさまに叱られました!」
「ふふふ、そうそう! あの頃は毎日が楽しかった。悩みなんか何にもなくて、いつもあなたと笑っていたわ。ねぇ……? わたくし達ってよく、ふわふわのクリーム菓子を取り合って掴み合いの喧嘩したわよね。喧嘩になるとわたくしが負かされ、よく泣いたものよ」
「い、いえ! 姫様が勝利をお収めになったことも一度ならずございました!」
「ああ……! アミアンの包囲戦ね!?」
「はい! 宮廷ごっこでドレスを奪い合った時です!」
「そうそう! どっちがお姫様役をやるかで揉めて取っ組み合いになったわね! そしてその時よ! わたくしの渾身のパンチ一発が上手い具合にあなたのお腹に決まって……!」
「そうです! それでわたしったら姫様の御前で気絶してしまってーー」
「「あはははは!!」」
……長い。
いくら何でも話が長過ぎる。
(あぁ、もうっ……この姫様なんだかすっごくイライラするわね。ルイズは私だけのモノなのに、この姫様ったらルイズとイチャイチャしちゃって……!)
思い出話に花を咲かせるのはいいが、ここにはイリスとシエスタもいるという事を思い出してほしい。
アンリエッタへの苛立ちを隠し切れないイリスがついに我慢できずに口を開いた。
「ねぇ……その話、いつまで続けるつもり?」
軽く怒っている様子のイリスが、ルイズとアンリエッタに声を掛けて思い出話を強引に中断させる。
「あっ……そう言えばイリスとシエスタのこと忘れてたわ」
「ルイズ、この方達はどちらさま……?」
ルイズとアンリエッタはようやくイリスとシエスタの存在に気付き、二人の方へと視線を向ける。
そしてルイズは自信たっぷりにアンリエッタを二人に紹介した。
「二人とも、よーく聞きなさい! こちらはトリステイン王国の王女、アンリエッタ姫。わたしは姫様がご幼少のみぎり恐れ多くもお遊び相手を務めさせていただいたのよ!」
紹介を終えると、アンリエッタはイリスとシエスタに向かって柔らかく微笑んで会釈した。
「姫様、申し遅れました。この者達はーー」
次にルイズが二人をアンリエッタに紹介しようと言い掛けた時だった。
ムスッとした不機嫌顔のイリスと頬を赤らめてドキドキしているシエスタ、そしてその二人に挟まれた真ん中のルイズを交互に見比べて何かを悟ったのか、アンリエッタはくすっと笑った。
「ごめんなさい、二人とも。わたくしったら、再会に浮かれてしまったとは言え、ルイズを一人占めしてしまうなんて……」
そう言って、アンリエッタはイリスとシエスタの前に歩み寄る。
「でも、水臭いわルイズ。わたくしというーー将来を誓い合ったあなたのお嫁さんがいながら、わたくしと離れていた間にこんなにも可愛い女の子たちとこっそり付き合っていたなんて」
「えっ、えっ? あの、ちょっ……えぇ!?」
アンリエッタの言った言葉を理解できないルイズ。
「はわわわ……ミス・ヴァリエールと姫様って、やっぱりそういう関係なんだ……うわぁ」
シエスタは顔を真っ赤にして照れまくり。
「………」
イリスは無言の殺気を放ちながら、アンリエッタを睨み付けている。
「ち、ちちちちち違います!! この二人はわたしの使い魔とわたしの専属のメイドで……! と、とにかく! 姫様の妄想するようなーーそ、そんな関係じゃないんです!!」
とここで、ようやくルイズもアンリエッタの言わんとしていた事の意味がわかったのか、顔を真っ赤にして両腕をブンブン振り回し、必死に否定し始める。
「使い魔?」
しかしアンリエッタはルイズの言った使い魔という単語に首を傾げ、イリスを見つめてしまう。
「これが……使い魔ですか? 人にしか見えませんが……」
「あら、失礼ね。私は別に人じゃないわ。どこかの黒騎士と同じ怪獣よ。今は擬人化して人間の姿になってるって話よ」
イリスがツンとした態度で答えると、アンリエッタは納得したように頷いた。
「ああ、怪獣でしたか……じゃあもしかして、あなたもガイガンと同じーー」
「ちょっと待って。それ、どういう意味?」
アンリエッタが思わず言い掛けた言葉をイリスが疑問に思い、聞き返す。
「あっ……ごめんなさい。今のは忘れてください」
「気になる言い方ね……まぁいいわ」
何やら怪しい素振りを見せ始めるアンリエッタに、イリスはガイガンと似た胡散臭さを感じていた。
「それより、あなたは何年も会っていなかったのに、どうして今更ルイズに会いに来たの?」
「それは……いえ、あなたがたには話しましょう。実はわたくし、宮廷での生活が嫌になって、近々ガイガンを連れてどこかに逃げようと計画しているのです」
今にも泣きそうな顔でそう言うと、アンリエッタは感極まっていきなりルイズに抱きついた。
「だからお願いルイズ……! この学院を出て、わたくしやガイガンと一緒に、自由を手にする旅に出ましょう!」
「ちょっ、ちょっと待ってください! 姫殿下、いくら何でも話が無茶苦茶です! だいいち、姫殿下がいなくなったらこの国はどうなるんです!?」
慌ててアンリエッタを引き離し、ルイズはアンリエッタにどういう事かと話を聞く。
するとアンリエッタはルイズの部屋の窓際へと移動する。
「……わたくしがいなくても、今のトリステインは変わりません」
儚げに部屋の窓から夜空に浮かぶ双月を仰ぐアンリエッタ。
「わたくしなんて、籠に飼われた鳥も同然……飼い主の機嫌ひとつであっちへ行ったりこっちへ行ったり……わたくしの自由なんてどこにもない……!」
そう言って、ルイズ達へと振り返ったアンリエッタは涙を流していた。
「王国の姫であるわたくしを飼い慣らし、でかい態度で城内を闊歩する欲の皮の張った宮廷貴族が実質的に支配しているこの汚れ腐ったトリステインには、今一度トリステインの誇りを取り戻す為の力が……怪獣神話に語られた伝説の破壊神『ゴジラ』による破壊と革命が必要なのです……!」
驚き、呆然とするルイズ達を尻目にアンリエッタの独白は続く。
「そう、わたくしの目的は破壊神ゴジラの復活……! そして伝説の怪獣たちによる神話を実現させ、かつて夢見た素晴らしいトリステインをこの手に取り戻すことです……!」
そこまで一気に言い切り、アンリエッタは涙を流した泣き顔のまま、混乱状態のルイズに手を差し伸べる。
「さぁ、ルイズ・フランソワーズ……! わたくしと一緒に来るか、その使い魔と一緒にこの学院に残るか……選びなさい!」
アンリエッタがルイズに答えを迫る……
……と、その時。
「な、なに……!?」
「じ、地震……!?」
「地震……? いいえ、違うわ! 恐らくこれは怪獣よ……!」
既にみんなが寝静まった真夜中の学院内が突然大きく揺れ動いた。
「シエスタ、どうやら寝る前の怪獣バトルの時間みたい……! この挑戦、受けて立つわよ!」
「あっ、待ってください! 迂闊に飛び出して行ったら、またやられてエッチな目に遭っちゃいますよ~~! せめてもう少し情報を集めてからでも……!」
「うるさい! もう負けないんだから!」
この揺れはただの地震ではないといち早く気付いたイリスは、引き止めようとしたシエスタを抱き寄せてから部屋の窓を開け放ち、シエスタ共々窓から中庭へと飛び降りていった。
「まさか……ガイガン、あなたが……!?」
一方、アンリエッタもイリスと同じように何かを悟ったのか、窓ではなく部屋の扉から急いで飛び出していった。
「ちょっ、あんたたち!? って、姫殿下も!? ああもうっ、待ちなさいってば!! わたしも一緒に……きゃあ!?」
ルイズが言い掛けた時、ゴゴゴゴゴという地響きと共に凄まじい轟音が学院の建物をグラグラと立て続けに揺らす。
「いったい何が……どうなってるのよ~~っ!!」
そんな中、部屋にただ独り取り残されたルイズは、訳もわからずに叫ぶのだった。
次回予告(ウソ予告)
真夜中の学院内に突如として響き渡る轟音。
それは、ここ最近で噂になっていた盗賊フーケが操るゴーレムの仕業だった!!
フーケのゴーレムと戦う為、中庭に駆け付けるイリス、シエスタ、アンリエッタ、ガイガン!!
しかしゴーレムは何故かイリスばかりを集中的に狙ってきて……!?
色々な事があって殺気立っているイリスの怒りの感情が爆発し、ついにイリスは最強の必殺技を解き放つ……!!
次回、『土くれのフーケ』
突然のフーケ襲撃の理由とは!?
そして怪しい動きを見せるガイガンはイリスたちの敵か味方か……!?
次回もまた見てね!