この話から新章突入!
自分でも思ってた以上に決闘イベントをかなり盛ってしまい、前半部分を書き上げるのに時間が掛かりました(笑)
そして今回はシエスタ大活躍!
第6話『邪神覚醒(前編)』
そして現在、ルイズとイリスは食堂で仲良く昼食を食べていた。
ちなみに、あのテンタクランサーと背中の翼は体の中に収納可能なようで、今のイリスの見た目は普通の人間と変わらない。
教師の何人かはその見知らぬ少女を見て怪訝な顔で注視しているが、ルイズとイリスは気にすらしていない。
「ねぇ、ルイズ。この食べ物はどうやって食べるの? テンタクランサーは使っちゃダメ?」
「ダメよ。ダメ、ゼッタイ。でもそっか……あんたまだ人間のこと何も知らないんだもんね」
「うん。だから教えて、ルイズ。わたし、人間について知りたい」
完全に二人だけの世界だ。
すると……
「ミス・ヴァリエール。デザートは何をお取りしましょう?」
左手に大きな銀のトレイを持ったメイド服の少女が二人の傍にやってきた。
そのトレイにはケーキやパイが並んでいる。
「あっ、そうねぇ……じゃあクックベリーパイでも貰おうかしら。イリス、あんたは何にーー」
言い掛け、ルイズはイリスに振り返る。
「イリス? どうしたの? 固まっちゃって」
「………」
返事はない。
ただ、そのメイドの豊満な胸を凝視している。
その瞳には光が宿っておらず、吸い込まれるようにぼーっとメイドを見つめている。
「……あっ、ひょっとしてこれが気になるんですか?」
メイドはイリスの視線に気付いたらしく、首から下げていた緑色に光る綺麗な黒石を手にする。
「これ、私の曾祖母が遺してくれた大切なものなんです。マガタマって言う不思議な石らしいですよ」
「へぇ〜。綺麗じゃない。でもイリス、これがどうかしたの?」
「……勾玉」
ぽつり呟く。
「間違いないーーそれはイリスの勾玉。選ばれた人間の巫女がわたしの意思を操り、巫女の願いがわたしの力を増加させるもの。でも、なんでこんなところに……」
「えっ、これがイリスの言ってた勾玉ってやつなの!?」
イリスの言葉に驚き、ルイズはメイドの手にする勾玉をまじまじと見る。
「あの……どういうことでしょうか?」
一方、メイドは頭に何個もの?マークを浮かべ、首を傾げつつルイズとイリスを交互に見る。
「えっと、あのねーー」
ルイズはイリスにどうしようかと視線を送るが、イリスが真剣な表情ではっきりと頷いた為、ルイズはメイドの耳元でイリスのことを話す。
「……なるほど。だいたいの事情はわかりました。でも、いいんですか? この勾玉、平民の私なんかが持ってても……」
ルイズから一連の話を聞いたメイドの少女ーーシエスタはイリスに巫女として認められ、勾玉は今後もシエスタが所持することで決着。
ルイズとイリスはシエスタからデザートを貰い、今度ルイズの部屋で一緒にお話ししようと約束した。
そして仕事が残っているシエスタが二人に頭を下げて立ち去るのを見届けつつ、ルイズはイリスに質問する。
「でも、シエスタにあげて良かったの? あの勾玉、持ってる人間はイリスを操ることができるんでしょ?」
自分の使い魔が他人に支配されるのが心配なのか、ルイズはちょっと不満げな様子。
「大丈夫だと思う。シエスタは優しいし、綾奈みたいにイリスの力を自分の都合で利用しようなんて考えないと思うし」
「そう? ならいいんだけど……」
そう言うと、ルイズは唐突に憤慨する。
「それにしても! さっきから話を聞いてるとほんとアヤナって子は許せないわ! 家族を殺された憎き敵っていうのは同情するけど、だからといって自分たちの住む場所を守ったガメラを倒す為に何も知らなかったイリスを利用するなんて!」
「……別に、イリスは何も知らなかった訳じゃないよ。確かにイリスには生まれる前から『巫女に従い、ガメラを倒せ』っていうーー自分を創り出した人間の意思が刻まれていた」
どこか昔を懐かしむような目で、イリスはぼそぼそと語る。
「でも、わたしは自分の中に宿る意思を無視して巫女じゃない綾奈を選んだ。綾奈はガメラを倒す為にわたしを育ててたけど、わたしはそれでも綾奈に感謝してたの……」
「イリス……」
イリスの話を聞いてルイズの表情が曇る。
「わたしは綾奈から伝わってくる『ガメラを殺せ』っていう純粋な意思に支配され、手加減してはいたけど結局死にたくないという思いが綾奈の意思と一つになってガメラを倒しちゃった。でもーー」
そこまで言い掛け、ふとイリスは元気なさそうに俯く。
「ーーねぇ、ルイズ。わたし、生まれてこなければよかったのかな……?」
儚い表情で、イリスは力無く微笑む。
「わたし、自分がわからないの……与えられたはずのガメラを倒せという意思が、綾奈といるうちにだんだん綾奈と一緒にいるっていう意思に変わって」
イリスはわからない。
綾奈だけではなく、ルイズにも感じているこの気持ちが何なのか……
「イリス、それはねーーきっと『愛』なのよ」
そんなイリスを見て、ルイズは優しく言う。
「愛……?」
愛ーーイリスが初めて聞く言葉だ。
「そうよ。誰かを好きになって、誰かの為ならどんなことでもやろうとする純粋で気高く、何よりも強い確かな想いーーそれが愛だとわたしは思ってるわ」
「愛……じゃあ、わたしのこの気持ちは愛なの……?」
芽生え始めた人間としての心が揺れ動かされるようにーー
イリスはわからない、わからないと何度も首を横に振る。
見兼ねたルイズはつんっと、イリスの胸を指先で軽く突いた。
「愛ってね? この胸がきゅんとして、ドキドキが止まらなくなって、痛いほど切ない気持ちになるーーらしいわ。ま、まぁ、わたしはその……まだ誰かを好きになったことなんてないし……そりゃ、憧れの人ならいるけど。でもワルド様は好きって感じじゃないし……うーん、難しいわね」
などと呟きながら、ルイズは自分の世界に入ってしまう。
自分の隣で腕組みしてブツブツ言っているルイズを後目に、イリスも自分で愛について考えてみる。
愛ーーそれは不思議な響き。
だが、悪いものではない気もする。
しかしルイズの言うように、胸がおかしくなるというその気持ちを感じない。
(……じゃあ、やっぱりこの気持ちは愛じゃない……?)
イリスはふと、綾奈を思い出す。
綾奈はどうだったのだろうか。
イリスに対して、愛というものを感じていたのだろうか……?
しかしそれすらも、今となっては知る由もないこと。
(綾奈……今は何してるんだろ)
もう二度と会えない大切な人を想い、イリスは誰にも気付かれずに涙を流した。
一方、ルイズ達と別れたシエスタは再びデザートを配り歩いている最中。
とそこに、紫色の液体の入った小瓶が転がってきた。
それを拾い上げ、シエスタは転がってきた方向へと顔を向ける。
その先には、金髪の男子生徒を取り囲む男子生徒の集団が何やら騒いでいるではないか。
間違いない。
この小瓶を落としたのは、あの中の誰かだろう。
「あの……」
シエスタはおずおずとした口調で、男子生徒の集団に声を掛ける。
「どなたかこれ、落とされましたよ?」
そう言って小瓶を見せる。
すると、集団の中心にいた金髪の男子生徒から血の気が失せる。
この男こそ、今回の悲劇の主演に選ばれた不幸な男ーーギーシュである。
「そ、それは僕のじゃない。君が落としたものじゃないかな?」
引き吊った顔でシエスタに言うと、ギーシュは早く離れてくれと言わんばかりにシエスタに相槌を打つ。
空気を読んでそれを察したシエスタは、言われた通りにすぐに立ち去ろうとするが……
「ちょっと待てよ……その香水、モンモランシーの香水じゃないか?」
その時、ギーシュの近くにいた男子生徒がシエスタから小瓶を奪い取る。
「この鮮やかな紫は、モンモランシーが自分の為だけに特別に調合する香水だ。間違いない」
小太りの男子生徒ーーマリコルヌが鋭く指摘すると、周囲の仲間がそうだそうだと囃し立てる。
「ということはギーシュ、今付き合っているのはモンモランシーだな!!」
マリコルヌの鋭い言葉に、いつの間にか近くまで見物に来ていた他の生徒達も面白がって彼を囃し立てる。
「違う。彼女の名誉の為にも言っておくが……」
ギーシュは未だにモンモランシーとの関係を否定しようとする。
とそこに、一人の少女が青ざめた顔をして近付いてくる。
「ギーシュさま、やっぱり……ミス・モンモランシーと」
「違うんだよ、ケティ……これはその、そう、誤解だ」
一人で得心するギーシュ。
哀しきかな、分かる者は周囲にいない。
「その香水が何よりの証拠ですわ!!」
「待ってくれ、ケティ。僕の中にいるのは君だけ……」
そう言うや否や、ぱぁんという実に響きのいい音が食堂に響き渡る。
怒りに燃えたケティがギーシュの横っ面を張り倒したのだ。
「さようなら!!」
ケティは泣き顔で真っ赤にした憤怒の形相で叫び、鼻息荒く宛ら猛獣のように走り出していった。
しかし、哀れギーシュの悲劇はまだ続く。
ギーシュの彼女こと、モンモランシーの入場である。
「モンモランシー、誤解だ。彼女とはただ一緒にラ・ロシェールの森へ遠乗りをしただけで……」
「やっぱり、あの一年生に手を出してたのね……?」
地獄の底から聞こえてくるような恐ろしく冷たい声が、静まり返った食堂に響く。
「お願いだよ。『香水』のモンモランシー。咲き誇る薔薇のような顔をそのような怒りで歪ませないでくれよ。僕まで悲しくなるじゃないか」
「この、うそつき!!」
その言葉が引き金となり、彼女はテーブルに置かれたワインを掴むと、ギーシュの頭に浴びるほどのワインをぶちまける。
最後に憤怒の形相でギーシュを睨み付けると、本日二度目の強烈なビンタが響き渡る。
怒り狂った様子で食堂から立ち去っていくモンモランシー。
目の前で起きた悲劇に、一部始終を見ていた教師、生徒、メイドがギーシュという一人の二股野郎を一瞥する。
今や食堂中の目という目が、ギーシュに集まっている。
そんな中、見事なまでの醜態を曝した後も、ギーシュは何事もなかったかのように懐からハンカチを取り出すと、ワインに濡れた真っ赤なダブル手形付きの顔を拭きながらキザったらしく呟いた。
「彼女らは、薔薇の存在意義を理解していないようだ」
やれやれと溜息を吐き、ギーシュの視線が呆然としていたシエスタを捉える。
シエスタは動揺しながらも、その場を離れようと慌てて後退りするが……
「待ちたまえ」
「は、はい」
呼び止められたシエスタは、その場でビクッと足を止める。
「君が軽率に小瓶を拾ったおかげで、二人のレディの名誉が傷付いた。どうしてくれるんだね?」
「そ、そんな……」
困惑した口調で恐る恐る呟くシエスタ。
シエスタ自身、こんな馬鹿げたことを言われるとは思わなかった。
こちらは何も悪くないのに……
シエスタは目に涙を浮かべ、下げなくてもいい頭を下げた。
「……も、申し訳ありません」
それにしても理不尽である。
ギーシュはキザったらしくチッチッチと指を振ると、悪意に満ちた顔でシエスタを見下す。
「そんな謝り方じゃ駄目だね。ちゃんと床に土下座して、反省の気持ちを込めて『貴族様、ごめんなさい。もう二度としません』ーーと、この僕に謝りたまえ」
あまりの悔しさに涙を流し、小刻みに震えるシエスタ。
「ところで……さっきから気になってはいたんだが、その首に下げたものは宝石かな?」
ビクッと反応するシエスタを見て、ギーシュはニヤリと笑みを浮かべる。
「やっぱりそうか。平民が持つにしては宝の持ち腐れだろう。よし、その宝石を献上するというならーー」
……と、ギーシュが言い掛けた時だった。
「……せん」
ぽつりと、小さな声で呟く。
「は? 何だって?」
「渡せません!!」
今度ははっきりと、食堂中に響き渡るくらいの声で告げる。
「これは私の故郷に古くから伝わる大切な宝なんです!! あなたみたいな心の汚い人には絶対渡さない!! イリスさまの力を悪いことに使わせない!!」
「なっ!? なんだと!? 平民のメイドの分際で貴族に逆らうのか!?」
シエスタの突然の怒声に驚き、顔を真っ赤にして怒るギーシュ。
「そこまでよ、ギーシュ! シエスタは何も悪くないでしょ! 悪いのは二股してたあんたの方よ!」
「シエスタ、いじめられてるの……?」
とそこに、ルイズとイリスがやってくる。
「ミス・ヴァリエール、イリスさま!」
援護に駆け付けた二人に、シエスタは嬉しそうに顔を明るくする。
「確かにそうだ! ギーシュ! 二股してたお前が悪い!」
マリコルヌの言葉に合わせて、周囲の生徒達がそうだそうだと大合唱。
この展開は予想外だったのか、ギーシュの顔が更に紅潮する。
状況は今や、完全にギーシュが悪者扱い。
さぁギーシュ、どうする?
どうやって切り抜ける?
ギーシュは足りない頭を必死にフル回転させて考える。
どうすればこの最悪な状況を乗り越えられるかーー
(……! そうか、わかったぞ!)
その時、ギーシュの脳裏をビビッと電撃が駆け抜ける。
「よろしい、ならば決闘だ! メイド、僕は君に決闘を申し込む!」
ギーシュの突然の発言に食堂中の人間がざわめく。
「ーーだが、さすがの僕も君のような可憐な女の子をみんなの前で傷付ける趣味はない」
決まったと言わんばかりに、ギーシュは白い歯を覗かせて笑みを浮かべる。
「そこでだ。君は代理人を付けて僕と決闘するんだ。その決闘の勝者が、すべてを手に入れるーー」
キザったらしく前髪を掻き分け、ギーシュはビシッとシエスタを指差す。
「決闘の賞品はーーそう、君だメイド!」
またしてもざわめく生徒達。
「僕が勝ったら、君は土下座して僕に誠心誠意、謝罪するんだ。そしてその宝石を献上してもらう。それとーー」
言いつつ、ギーシュの視線が舐め回すようにシエスタの魅力的な体を視姦する。
「君の態度は非常に悪い。メイドとして非常によくない。たかが平民の分際で貴族に逆らい、この僕を怒らせたんだからね! そこで君は今後、僕のメイドとして仕えてもらおう」
言って、ニヤリと意地汚い笑みを浮かべる。
「君が貴族様に逆らわなくなるまで、僕は徹底的に躾てやるからね!」
ギーシュのとんでもない発言に、周囲の生徒達もさすがにドン引きする。
「お、おい……ギーシュ、さすがにそれは……」
マリコルヌは焦った様子でギーシュに声を掛けるが……
「みんなは何とも思わないのか!? 僕たち貴族が平民のメイドに馬鹿にされているんだ!! 見下す立場にある貴族が逆に見下されているんだ!! そんなのーー」
自分の思いを熱く語るギーシュは、声を大にして叫ぶ。
「貴族のプライドが許さないだろう!!」
怒鳴り散らすギーシュに、周囲の生徒達はハッとしたような顔になる。
「それでどうする? メイド、君は僕の言った条件を受け入れた上で、この決闘を受けるか?」
「シエスタ……」
ルイズはシエスタを心配するが……
「……わかりました。そのかわり、私からも条件を付けさせてください」
そして決闘の交渉権はシエスタへと移る。
次はシエスタがギーシュに交渉を取り付けてもらう番だ。
「私が勝ったら、頭を深く下げて謝ってもらいます」
「ほぅ。謝る? 誰に謝るというんだい?」
知らないなと言うように、ギーシュはせせら笑う。
「あなたが二股をして傷付けた二人の女の子に。そして何よりーー」
キッと、鋭い目付きでギーシュを睨み付ける。
「私に対してです!! もちろん、誠心誠意!!」
煽っていくスタイルでギーシュを精神的に追い詰めるシエスタ。
「なっーー!?」
またしてもシエスタの問題発言に驚愕するギーシュと生徒達。
「ふ、ふふふ……いいだろう! 僕の心は寛大だ。その交渉を許可しようじゃないか!」
ギーシュがシエスタの提示する条件を受け入れた事で、再び交渉権がギーシュに移る。
「だが、僕からも更に条件を出させてもらう!」
さぁギーシュ、何をシエスタに言ってくるのか。
「さっきも言ったが、僕は君を怪我させるような真似はしない。さぁ、メイド! 君は誰を決闘の代理に立てる!?」
……それは、シエスタの隣から現れた。
「イリスよ! イリスが相手になるわ! それなら決闘で禁止されているルールには接触しないはずよ!」
そう、貴族同士の決闘は禁止されている。
そこでルイズは、使い魔のイリスを決闘の代理に推薦する。
それならば問題はない。
「イリス? ーーあぁ、『ゼロ』のルイズが呼び出した穢らわしい化け物か」
馬鹿にした態度で吐き捨てる。
「『ゼロ』のルイズの使い魔ーーなるほど、つまりは『ゼロ』の使い魔か。何もできない役立たずのゼロ同士、弱い者を庇い合う姿がお似合いだな」
……ギーシュがそう言った時だった。
突如としてその場に冷たい悪寒が走る。
「……てやる」
そんな中、誰かが小さな声でぽつり呟いた。
「はぁ? なんだって?」
その声の出所はーールイズとシエスタの間。
「……殺してやる」
刻まれた使い魔のルーンが綺麗な虹色ではなく不気味な赤色に光り輝き、全身から邪悪なオーラを放出。
視線だけですべてを殺してしまうかのように、ギーシュを激しく睨み付けている銀髪の美少女。
先ほどまではオレンジ色だった瞳は血のような紅に染まり、ルーンに呼応するように赤く発光している。
おかしい。
この学院にこのような女の子はいなかったはず。
だとしたら……
「殺す? 冗談だろう?」
このヒトのカタチをしたモノは……ナンダ?
「殺してやる。おまえはルイズとシエスタを傷付け、このイリスを怒らせたんだよ。その命、全部残らず搾り取ってやるから覚悟してね! この二股野郎!」
咄嗟に出てきた二股野郎という言葉の意味をイリスが理解しているのかはともかく。
イリスはシエスタと同じーーいや、それ以上に激怒していた。
シエスタの所持する勾玉もイリスの怒りに呼応しているのか、緑色に発光している。
勾玉からイリスへと力が送られ、勾玉を通してシエスタの想いが伝わる。
『ギーシュを謝らせ、改心させる』
それがシエスタの願い。
だが……駄目だ。
それでは生温い。
やはり、愚か者ギーシュには死を以て償ってもらうしかない。
幸い、その為の力はある。
幼体のままでは勝てなかったかもしれないが、今は人間の姿を得ているのだ。
ルイズとの完全な融合がイリスを爆発的に進化させ、今のイリスは体こそ小さいが強さはかつての成体に匹敵するはず。
しかも勾玉から送られてくる力でイリスは更に強化されてしまった。
それにどういう訳か、使い魔のルーンが光ってから不思議と体も好調だ。
何となくではあるが、このルーンの影響でもっと強くなっている気さえ感じる。
もはや、今のイリスを止められるものはこのハルケギニアにいない。
「ククク……アハハハハハ!!」
イリスは狂ったように高笑いすると、愉快げにギーシュを睨み付ける。
「さぁ、ギーシュ! わたしを笑わせてよ、わたしを楽しませてよ! おまえがわたしを倒さないと、わたしは邪神となってこの世界に終焉を齎しちゃうよ?」
ちょっとした興奮状態になったイリスはギーシュを挑発する。
「まるで意味がわからないね」
言いつつ、ギーシュはマントを翻して颯爽と去っていく。
「貴族の食卓を化け物の血なんぞで汚せないからね。場所を変えて決闘しよう」
その後ろを、ワクワクしながら追い掛けるギーシュの取り巻きとその他大勢の生徒達。
どうやら食堂にいた生徒達はギーシュの思惑通り、貴族のプライドからギーシュの味方に回ったらしい。
そして食堂を出る直前、立ち止まってイリスとシエスタを睨み付ける。
「ヴェストリの広場で待つ! 必ず来い! そこで決着をつける!」
吐き捨てるように告げ、ギーシュは立ち去った。
ギーシュがいなくなるとシエスタは気が抜けたのか、蒼白な顔で泣き出してしまう。
「ごめんなさい……! 私、つい頭にきて貴族様にあんなことを……どうしよう……私、殺されちゃう……!」
「大丈夫よ、シエスタ」
恐怖に震え上がるシエスタをルイズは優しく抱き締める。
「イリスがすっごく強いって話はさっき聞いたでしょ? わたしもイリスがどれだけ強いかは正直、まだよくわからないんだけど……多分イリスは勝つわ! 勝ってくれるに決まってる!」
そこまで言い、ルイズは「ねっ?」と、イリスに笑い掛ける。
「うん。あんなのに負ける訳ないよ。むしろ、負ける方が難しいくらい」
頷くイリスは、これからの展開が本当に楽しみだと言うように、クスクスと笑っている。
……が、その冷たい目は一切笑っていない。
完全にギーシュを殺すつもりだ。
そんなーー殺意に満ちた目をしている。
「ほら、イリスもこう言ってるんだし」
「は、はい……なら私も……ミス・ヴァリエールとイリスさまを信じます」
祈るように、シエスタはギュッと光り輝く勾玉を握り締めた。
次回は後編パート!
そこでイリスとギーシュの決闘です!
果たしてギーシュの運命はいかに……!?