この最新話ですが、事情により後編ではなく中編となりましたm(_ _)m
また、活動報告でも書いた通り、インフルエンザになったので数日は更新できないかもしれません(>_<)
それは……永遠に続く悪夢のように思えた。
先ほどまでは確かに聞こえていたはずの歓声や悲鳴は既に無く、静まり返ったヴェストリの広場。
決闘を観戦していた生徒達はただ恐怖し、キュルケは顔面蒼白で絶句。
その隣に立つタバサは杖こそ構えてはいたが、その足はそこから一歩も動けずにただ震えている。
そしてその広場の中心ーー
先ほどまで決闘が行われていた場所で、ルイズとシエスタは二人揃って膝を折り、泣き崩れている。
そして真っ赤な鮮血で染まるモンモランシーは、動かなくなった男の体を抱き、嗚咽を漏らしつつ泣き叫んでいる。
何度も何度も、彼の名を……
誰の目にも、恐怖や絶望が刻まれている。
彼らは目の前で起きてしまった惨劇に、ただ意味もなく震えて見ているしかない。
あぁ、ギーシュ……
邪神の逆鱗に触れた男は今、自分の胸に真っ赤な薔薇を咲かせ、愛する少女の腕の中。
既にその瞳は何も見えていなかった。
そして瀕死のギーシュを、宙に浮かんだ状態で冷たく見下ろすヒトのカタチを持った化け物。
背中の翼は神聖で美しい虹色の光を放ち、両肩から突き破るように出た四本の触手は、地上にいるルイズとシエスタを拘束して放さない。
そして白く華奢な右腕は槍状の突起に変化しており、そこからまっすぐ伸びた手甲は血に塗れたギーシュの胸の前で停止している。
何故、こんな状況になっているのか。
……さて、それにはまず事の始まりを語らなくてはならないだろう。
そもそも、一時間前のことです。
キザな男子生徒ギーシュの二股がバレ、彼女達から手痛い仕打ちを受けたギーシュ。
彼はその罪をメイドのシエスタになすりつけようとした。
それがすべての発端だった。
シエスタは下げたくない頭を下げつつも、心の中ではギーシュに怒っていた。
そんなシエスタの感情は勾玉越しにイリスへと伝わり、ハルケギニアに来てから初めてキレた我らが邪神イリス。
イリスは優しくて可愛いーーしかも巫女の資格を持つシエスタをギーシュの魔の手から守る為、シエスタの守護神となってギーシュの決闘を受ける。
ーーそして今、イリスとギーシュは決闘の舞台となるヴェストリの広場にいた。
「諸君、決闘だ!!」
噂を聞きつけて集まった大勢の観衆を前に、ギーシュが勇ましく宣言する。
湧き上がる歓声の中、ギーシュは目立ちまくっている自分自身に酔いしれている。
「ギーシュが決闘するぞ! 相手は平民のメイドが立てた代理! しかもそいつは『ゼロ』のルイズの使い魔だ!」
普段の生活ではそんなに娯楽のない貴族のメイジ達。
その中で行われる決闘は、貴族達にとって退屈を紛らす都合の良い娯楽となる。
集まった生徒の中には、面白がってどちらが勝つかという賭けまで始める者もいる。
しかしその賭けのほとんどはギーシュの勝利を予想していた。
集まった生徒達の中で、イリスの勝利を予想している者はあまりに少ない。
最前列で見物しているルイズとシエスタ、さらには大穴狙いでイリスに賭けたほんの一握りの生徒だけだ。
それ以外の全員がギーシュを応援している。
……当然だろう。
この世界ハルケギニアでは、それほどまでにメイジが圧倒的に優勢なのだ。
対してイリスは化け物から人間の姿になれるというだけのただの使い魔ーーというのが大多数の認識である。
……が、その中にも例外はいる。
ルイズやシエスタから少し離れた場所で見物しているキュルケと、その隣に腰掛け、ギーシュとイリスの決闘には目もくれずに本を読んでいる青髪の眼鏡少女ーータバサ。
「それにしても珍しいわね、タバサ。あなたがこういうの見に来るなんて」
ようやくこの子が本以外に興味を持ったと、キュルケは嬉しそうな様子でタバサを見ている。
「あの使い魔が気になる」
顔を上げてチラッとイリスを見た後、短く答えるタバサ。
その返答が意外だったのか、キュルケは驚いた顔になる。
「あら、あなたもイリスが気になるの? まぁ、あの子、ルイズと一緒で絶対何か隠しているだろうしねぇ」
キュルケも気になってはいたのだ。
岩のようなゴツい卵から孵ったルイズの使い魔。
その姿はカタツムリのようでまた違う未知の生物。
無数の触手を操って食事を行い、教室ではあろうことか主人のルイズを触手で辱め、発情させていたのをキュルケは確認済み。
しかし問題はその後だ。
あの授業が終わってから、ルイズと使い魔は一度も姿を現さなかった。
そして昼にようやく食堂にやって来たルイズと使い魔。
正直、キュルケは目を疑った。
今朝見た時はカタツムリのような姿だったのに、食堂に現れたのは見知った姿ではなく人間の少女の姿だったのだ。
しかも、それが主人であるはずのルイズと親しげに会話しているのだから。
明らかに主人と使い魔という関係を超えている。
そしてシエスタを庇った時に見せたあの邪悪な紅の閃光。
それを見たキュルケは確信した。
あの授業の後、ルイズと二人っきりになった教室で『何か』があったのだと……
だから何としてでもその秘密を暴き、あの使い魔の正体を教えてもらう。
それがキュルケの密かな企みだった。
そんなキュルケの言葉にこくんと頷くと、タバサはイリスを観察する。
タバサもまた、キュルケと同様にイリスの正体が気になっていたのだ。
ルイズが卵を召喚し、それから生まれたのはタバサも見覚えない未知の生物。
密かに本を読み漁って調査してはいたが、結局は何もわからなかった。
使い魔のシルフィードに至っては恐怖のあまり震え上がり、『アレとは関わりたくない』とタバサに言ってから、ずっとブツブツと意味不明なことを言い出す始末。
だが、あのシルフィードをここまで怯えさせるのだ。
タバサもまた、イリスの正体はとんでもないものだと確信している。
「ねぇ、タバサ。あなたどっちが勝つと思う?」
ふと、キュルケが訊いてくる。
「わからない」
その問いに、短く答えるタバサ。
「でも、この場所一帯に不穏な気配が漂っているのは確か。今なら間に合う。ギーシュを止めた方がいい」
「止めた方がいいって言われてもねぇ……」
キュルケは観衆で埋まる広場を見渡しながら困惑顔で呟く。
その視線の先では、今まさにギーシュが決闘での開始を宣言しているところだ。
「逃げずに来たことは褒めてやろう。だけど、これで勝利は僕の手中に収まった!」
ーー決まった。
大観衆を前に随分と調子に乗っているギーシュ。
「改めて、ルールの確認だ。君が勝てば、約束通り僕は彼女達に謝ろう。僕が勝てば、メイドは僕に謝り、僕専用のメイドになるんだ」
確認の言葉に、シエスタは緊張した様子で頷く。
「それと、さすがの僕も使い魔とはいえ、仮にも魔法の使えない見た目麗しい少女相手に本気は出さない」
言いつつ、ギーシュは薔薇の花弁に見立てた杖をイリスに見せ付ける。
「君は僕から『降参』と言わせるか、この薔薇を落とせば勝ちということにしてあげよう。なに、ちょっとしたハンデさ」
言って、フッと笑みを浮かべるギーシュ。
それに対し、黙って頷くイリス。
「一応聞いておくけど、イリスは?」
「僕と同じく『降参』と言えば負けになるね」
その言葉に、またもイリスは頷く。
「さぁ、みんなが僕の華麗なる勝利をお待ちかねだ。時間も惜しいし、そろそろ始めるとしよう」
言って、ギーシュはイリスから10メイルほど距離を取る。
そして華麗な仕草で薔薇を振るギーシュ。
その花弁が一枚、ゆらゆらと宙を舞い、やがて重力に引かれて地面に落ちーー
すると、その花弁が光り輝き、人間より少し大きい何かに変化を始める。
「僕はメイジだ。だから魔法で戦う」
それはやがて、青銅で出来た兵士のような姿になって現れる。
「僕の二つ名は『青銅』。青銅のギーシュだ。したがって、青銅のゴーレム『ワルキューレ』がお相手する」
ギーシュの召喚したワルキューレの美しさを見て、待ってましたと言わんばかりに大きな歓声が上がる。
「……わたしはイリス。二つ名はーー『邪神』とでも言おうかな?」
とりあえず、ギーシュの見様見真似で決闘の名乗りを上げるイリス。
その幼い顔はニヤリと、ただ残酷な笑みを浮かべている。
「君が邪神だって?」
プッと噴き出すギーシュ。
見ると、キュルケを含む周りの生徒達もみんな呆れ顔で失笑している。
冗談だと受け取っていないのは、イリスを知るルイズとシエスタ、そしてイリスを警戒するタバサの三人だけ。
「馬鹿馬鹿しい。魔法も使えないからと言って、たかが使い魔風情があまり調子に乗らない方がーー」
ーーそう言い掛けた次の瞬間、なんとイリスがガクリと立ち崩れて地面に膝をついた。
「はっ?」
イリスの身に起きた突然の行動に思わず目を丸くするギーシュと観衆。
ルイズとシエスタですら、困惑顔でイリスを心配そうに見ている。
「君……それは何の真似だい? 降参という意思の表れかな? まさか今更この僕に許しを乞おうなんて考えてるんじゃないだろうね?」
呆れ顔でーーだが僅かの怒りを含む表情でイリスを見下すギーシュ。
だが、次の瞬間ーー!!
「うっ……う、あ……あぁ……!!」
苦悶の表情を見せるイリスの体に住まう『何か』が激しく蠢き、まさにその皮を突き破らんとしているではないか。
「ちょっとイリス!? 大丈夫なの!?」
「イリスさま……大丈夫ですか!?」
ルイズとシエスタもイリスの危険を察知したのだろう。
慌ててイリスの傍にくると、二人でイリスの体に触れようと手を伸ばしーー
「こないでッ!! 来ちゃだめぇ!!」
差し伸べられた手を拒絶するように、イリスは体を激しく揺れ動かして二人に怒鳴る。
「いまは手加減できないッ!! ルイズとシエスタでも殺しちゃうかもしれない……ッ!!」
歯を強く噛み締め、イリスは地面に四つん這いの格好で唸り続ける。
その姿はまるで獰猛な獣そのもの。
……あるいは、観衆に向かってルイズから借りたパンツの柄を見せ付けているようにも見え、それが実に滑稽だ。
「うっ……くっううう!」
力を込めて地面の土を両手の爪でぐぐっと引っ掻く。
さすがのギーシュもやばいと感じたのか、離れた場所から大丈夫かとイリスに声を掛けている。
……が、イリスにはまるで聞こえていない。
いよいよ見ていられなくなったルイズとシエスタはお互いに顔を見合わせると、意を決してイリスを助けるべく一歩を踏み出しーー
ーーその直後、イリスは広場全域に響くほどの大声で咆哮した。
それと同時に背中がボコッと大きく膨らみ、皮を突き破って『何か』が勢いよく飛び出す。
それはーーそう、言うなれば翼だ。
半透明の色合いは虹色の如く、神聖で美しい閃光を放っている。
しかしイリスの背中を突き破って生えた翼は、ハルケギニアのメイジ達が知る鳥や翼人の翼とは明らかに違う。
空を飛べるか怪しいほどの薄い膜で出来た翼のようにも見える。
変貌を終え、イリスは息も絶え絶えになっている。
「し、進化したぞ! 『ゼロ』の使い魔が亜人に進化したぞ!」
「最初は卵で次は触手の生えたカタツムリ、その次は人間の女の子。そして今度は亜人か!」
生徒達のざわめきが広がる中、ルイズとシエスタは急いでイリスの両腕を支えるように掴む。
「ちょっ、ちょっとイリス! こんなところで翼なんて出して大丈夫なの!?」
ルイズは慌てた様子でイリスに言うが、イリスはつらそうな表情で力無く笑っただけ。
その瞬間、今度は両肩から四本の赤くて太い触手が突き破るように飛び出す。
「きゃっ!?」
「ひっ!?」
ルイズとシエスタは思わず目を閉じて怯む。
目の前で始まったイリスの変貌。
「おい……な、なんだよ……あれ」
それを見ていた一人の生徒が震える手でイリスを指差す。
「あんなの、亜人ですらねぇ……!」
「化け物だ!! 『ゼロ』の使い魔は化け物だ!!」
誰かの口から出た化け物という言葉に、大勢の生徒で集まった広場は恐怖のあまり悲鳴が飛び交う。
あちこちで多種多様な叫び声が聞こえる中、イリスはその白く華奢な手で自分の両肩から生えた触手をそっと手で撫でる。
「お待たせ♪ これでイリスも準備完了だよ。さぁ、おまえの処刑を始めようか」
イリスの赤く発光した目がギーシュを捉える。
「き、き君は、何者なんだ……!?」
ワルキューレの後ろに隠れた怯え顔のギーシュがイリスに問い掛ける。
「うーんとねぇ……」
その問いに、イリスは触手を撫でるのを止めて考える仕草を見せる。
そしてーーはっきりと告げる。
「化け物ーーかな?」
ーーニヤリと、邪神は残酷に笑う。
その瞬間、恐怖に我慢できなくなったギーシュがワルキューレを突撃させる。
「アハッ♪ 簡単には終わらせないからね♪」
イリス目掛けて所持した剣で斬り掛かってくるワルキューレ。
だが次の瞬間、イリスの両肩から生えた触手『テンタクランサー』の一部が伸び、馬鹿正直にまっすぐ接近してきたワルキューレの頭部を容易く吹き飛ばす。
「……くす♪ 脆いんだね、その人形」
ゴトッという音と共に、吹き飛ばされたワルキューレの頭部がギーシュの足元に墜落した。
「うっ、うぅ……うわあああああ!! ワ、ワルキューレぇぇぇ!!」
助けを求めるように叫び、薔薇の造花を振り回すギーシュ。
すると今度は花弁から六体ものワルキューレが呼び出され、そのワルキューレ達はギーシュを守るべくイリスを取り囲む。
その手には剣や槍、斧といった様々な武器が握られている。
「へぇ……でも、それがどうしたの?」
ニコッと無邪気に笑い、両肩のテンタクランサーがそれぞれワルキューレに狙いを定め、射出。
新たに現れた六体のうち、四体のワルキューレが無惨にも粉々に砕かれ、所々パーツの欠けた残骸だけが崩れ落ちる。
ーー決まった。
この決闘は間違いなくイリスの勝利で終わる。
テンタクランサーで一方的にワルキューレを駆逐していくイリスの余裕を見て、その場にいたギーシュ以外の全員がそう確信した。
次回、ギーシュ死す!←
そしてイリス以外の新たな怪獣の存在が……?
ただ、次回更新はいつになるか未定(^_^;)