その後の交流は順調であった。
相変わらずなのははこちらと一緒ではあるが、アリサ、すずかと共に親密な関係を築いて行く。
元々のポジションの相性もあったのだろう、お互いのことを知って行くには不都合なく積み重ねて行く。
その中で、なのはの後押しもありつつ自分も話の輪に入ることも多くなってきた。
最初は、意識させていた効果があったのかアリサ・バニングスにはやたら言葉で噛みつかれることが多かったが本人に悪気は感じられない為、猫が戯れついて来ているような感覚で構いつつ対応している。
無駄に癇癪をおこす事なく優しく対応されたのが、アリサ本人的にも満足がいったのか友達としての気軽な対応が増えて来ているので、信頼は少しずつではあるが上がって来ていると思いたい。
月村すずかに関しては、やはり柔らかい性格をしている為、コミュニケーション自体は問題ない。
ただ、一線を引く対応が目立ち例えばもし二人きりになった時には話が途切れる事は多くなるだろう。
まだ友達の友達程度の接点に感じられるが、これ自体は気にし過ぎてもしょうがないはず。
確か夜の一族はバレてはいけないはずで、その為、すずか自身友達としても一線を引きがちだったはず。
リリカルなのはとしてのストーリーとしては、直接的に絡まなかったはずなので特にここを深堀する必要も無いかと考え、一先ずはいざというとき用にコミュニケーションを取っても不自然じゃない程度で行こうと思う。
なので、すずか、アリサ共に現状は情報収集のみで、そこまで親密になろうとする考えはなかったのだが……
「ねぇ……私の目を見て…………」
まるでオルゴールで音を奏でるような小さくも相手を安心させるような声を出し、真紅の瞳でこちらを見ている。
その姿は年齢に見合わない妖艶さを醸し出していた。
だが、自分は薄暗い建物の中、腰を椅子に縛りつけられ更に手首を縛られていて身動きが出来ない状況である。
どうしてこうなった…………
右手も使い無理やりにでも左人差し指を背中側から月村すずかへ向けるようにし、そう考える。
どうしてこうなった!!
再度そう思いながら。
時は少し遡る。
成績優秀なポジションはアリサとの絡み合いもある為、上位は維持しているのとよく他の人とも絡むことも多く性格的にも温厚さを前面に押し出しているので先生からの受けはよかった。
なので、色々とお願いされることも多い。
年齢的にそこまで難しい作業を頼まれる事は多くないのだが、今日に限っては少し遅めの時間帯まで手伝う必要があった。
なのはも一緒にいたい空気を出していたが、遅くなりそうな所が見えた時点で無理やり帰らせる。
若干、むくれていたので、後でご機嫌を取る必要があるだろうと思いつつ作業は継続するのだった。
そうして作業が終わった頃には、夕方となり下校する人も少なくなって来ていた。
今日も良い仕事をしたと自画自賛をしつつ、外履へ履き直すため玄関の方へ向かうと、そこにはアリサ・バニングスが居た。
「何よ?」
「いや……何よと言われても。こちらは特に……」
少し拗ねている表情を出しつつこちらを伺い言葉を発してくる。
今はご機嫌が良くないなぁ……。と思うが、別に知らない仲でもないため話を続ける。
「どうしてこの時間まで残っているの?」
「今日は帰りに迎えの車が来る予定だったのよ。だけどいつもの運転手さんが体調崩しちゃって……代わりの運転手さんを手配していたんだけど、まだ遅れて到着していないのよ」
ふん。とアリサはそう告げる。
なるほど。令嬢であればそう言った出迎えもあるだろうと思いつつ話を続けようと思ったが、ピンとアリサが思い付いたかのように続けて喋り始めた。
「ずっと一人で待つのも暇だし、送って上げるからあんたも一緒に待ちなさい」
ビッと指を突きつけ、完勝の笑みを浮かべつつそう言って来た。
うーん。断る事は難しいだろうなぁ。と考え賛同した返事をする。
そうすると満足した笑みを浮かべ、
「本当はすずかも誘いたかったんだけど、まだ花壇のお手伝いがあるって断られちゃったから暇つぶしとしても丁度よかったわ」
と段々とアリサ本来の調子を取り戻しつつ喋り始めたので、そのままたわいのないお喋りをして行く。
そうしてしばらくすると迎えの車らしき姿が近づいて来た。
「来たわ。ほら、行くわよ」
と、こちらの袖を引っ張り車に近づいて行く。
運転手さんに恐縮しつつ、帰りの道を伝えてアリサと一緒に車へと乗り込んだ。
そうして車の中で、夕暮れから夜に染まりつつある空を窓から見てアリサと会話をしつつ帰りの家路を楽しんでいると、ある道角で車が急にストップした。
家にはまだ距離がある場所である。ふと周りを見渡しても他の人の存在も見当たらない。
「お嬢さま。すみません。急にエンジンの調子が悪くなったみたいで、少し見て来ます」
そう言って、運転手が車のドアを開けた瞬間。
運転手さんが助手席まで吹っ飛ばされた。
は?
思考が停止してしまう。
運転手さんは頭から血を流していてぐったりしている。
するとドライバー席に全然見知らぬ覆面を被った男が入って来た。
手に銃を持ちながら。
そのまま運転手の手を見事な手際で縛りつけハンドルを握る。
えっ?
困惑状況が更に広がっていると、後部座席の方のドアが開けられてこちらも覆面をした男が入ってくる。
こちらも手に銃を所持していた。
そうして覆面越しに声を発してくる。
「動くな。叫ぶな。少しでもそぶりを見せたら撃つからな」
ようやく頭が回り始めた頃には、手遅れの状態を認識する。
アリサの方も事態を認識したのか顔は真っ青に変化し始めた。
こんなイベントは
ようやく回った頭の中で、知識を反芻するが思い当たるふしが無い。
そんな合間にも時間は過ぎて行く。
ふと、後部座席に入った覆面男を見るとガスマスクらしきものを被っていた。
そうしてこちらにスプレーのようなものを向け、ガスを発してきた。
それを無理やり吸い込まされると、段々と意識が薄くなり遠くなって行く。
意識が薄れて行く中で、ドライバー席を見てみるとそちらの覆面男もいつの間に付けたのかガスマスクらしきものを付けており、そのまま車を動かし始めた。
こうしてどこに行くかも不明なドライブが始まった。
__
今日もアリサちゃんのお誘い断っちゃったな……。
花壇に手を入れつつ心の中で呟く。
夜の一族
私たち月村家において、別途呼ばれる呼称の一つだ。
それは人間を超えた力を発揮し、普通の人間が感知出来ない能力を使う存在。
人類が進化した超越者と呼べるその存在は、いくら本人が普通に人間的思考を持っていたとしても人々に恐怖を与える。
もちろん代償もあるが、それでも人間を超える人外の力は大きければ大きいほど相手に不安を掻きたてる。
そして、恐怖された人々から短絡的に言われる言葉は「化物」だ。
その言葉は月村すずかの心を抉る。
どんなに仲良くなっても恐怖の視線を向けられ伝えられるその言葉はどこまでも心を抉られてしまう。
本当の私のことを知っちゃうと皆離れて行く。
強迫観念にも似たその事実はどこまでもすずかにのし掛かり、どうしてもより仲良くなるための行動が一歩引けているのであった。
とは言え、別に彼女らを友達と思っていない訳では無いし、友達だからこそ迷い不安が強く生まれてしまっている。
そう後悔に苛まれつつ、つらつらと花壇に手を入れ続ける。
そうしていたらいつの間には日は落ちかかっていた。
夕方から夜へ向かい空は急速に暗闇を纏い始める。
いけない! と思い。花壇に手を入れるのを止めて帰宅する準備を始めた。
時はそのまま過ぎつつ、準備を終え帰宅する時には更に日が落ちて来ている。
遅くなると怒られちゃうから、少し早めに走ろう。
そう考え、すずかは走り始めた。
夜の一族。それは身体能力一つを取っていても一般と比べ突き抜けている。
彼女自身の少しは一般でいうと、とんでもないスピードで帰宅するスピードであった。
その走っている中で考える。
鏡音奏と言う存在。
高町なのは、アリサ・バニングスという同性の友達と呼べる存在とは別に異性としての存在。
成績優秀、運動能力高、容姿は良いと言う三拍子である。
性格もアリサちゃんを上手くやり込める辺り、精神年齢は高いのだろう。
側から見ているとなのはちゃんはゾッコンに見えるくらい鏡音奏に入れ込んでいるように見える。
私たちよりも前から一緒だった為、幼なじみとしての存在が強いとは思うがそれでも異性として少なからず好意は持っているのだろう。
まぁ、他のクラスメイトを見ていると、どうしても惹かれちゃう魅力はあるよねー。と私も思う。
ちょろいと言われればそうかも知れないけど、やはり自分に持っていないものを持っている異性というのは目を惹かせられる。
いつも読んでいる小説のような恋愛をしてみたいと言う妄想はしてしまう。
……ただ、私の場合は、どうしても一族の後継を視野に入れる必要があるため、あくまで妄想レベルで終わるのは間違い無いだろう。
けど、多少の妄想は許可して頂きたい。こう見えても女の子である。
恋をしたいという想像は女の子にとってすごく甘美なのだ。
そう段々と変な方向に頭の列車が走り始めていると……
ふと、鼻に異臭がして来た。
足を止める。この辺りは確か私の中で話題だった鏡音奏の家の近くであったはず。
異臭が濃い方向に足を繰り出し、動き始める。
すると一つの車が遠目に見える。
力を強め遠目でその車を見ると、
確かあれってアリサちゃんのお出迎えの車だったような……
何度か登下校の時にその存在は見ている。ただ嗅覚から伝わる異臭はその車から強く放っているように感じた。
更に目を細める。車の窓から中身がよく見えない。
んーと更に見ていると車は動き始めた。とりあえず車が移動した後に足を進めてみる。
そして先ほど車があった位置には、よく嗅ぎ慣れた匂いがした。
血の匂い。
その匂いを嗅いだ瞬間、心臓は速まり目は薄らと赤くなり始める。
そうして、先ほどよりもスピードを上げて車の後を追い始めるのであった。
__
「いやぁぁぁあぁぁぁっ!!!!」
女性の叫び声で意識が浮上する。
そして目の前に飛び込んできた光景は、男に伸し掛られる寸前のアリサ・バニングスだった。
アリサは目の前に居る男性に恐怖をあげ、顔を涙で濡らし更に悲鳴を上げ続ける。
「ちっ。少し楽しもうと思ったら目が覚めやがった」
襲い掛かろうとした男性はあまりの叫び声に萎えたのか、体勢を戻し立ち上がった。
顔は覆面状態で見えない。ただ立ち振る舞いはどう見ても不良レベルの素人ではなく訓練された動きに見えた。
そうした視線に気づいたのか、こちらに視線を向ける。
「こっちも目が覚めやがった。おい。うるせえからお前は黙っていろよ」
そう言って銃を持っていることを見せびらかす。
こっちがそのまま黙っていることに怯えたんだろう。と満足したのか、アリサに向き直る。
「ぎゃあ、ぎゃあ。うるせーな。お前は少し黙っていろ!」
そう言ってアリサに向けて車で受けた同様のスプレーのようなものを出し、アリサに直接吹きかける。
そうするとその空気を吸い込んだアリサはそのまま黙ったまま動かなくなる。
「ちっ。これも安くは無いんだがな……。あんまり使わせんなよ」
そう覆面男がぼやいていると、先ほどの叫び声を聞いたのか別の覆面男が現れる。
「おい。何かあったのか?」
「あー。少し鬱憤を晴らそうかなと思っただけさ。高く売れそうでもあったからな」
と下卑た笑い声を上げて会話をし始める。
「まだ、交渉が終わっていないんだ。それが全部終わるまで我慢しろ」
「へいへい。少しぐらい摘んだって良かっただろうに……」
そう言ってやれやれと言った動作をおこなった。
「……ひとまず他の場所を哨戒するぞ」
と先ほどきた覆面男はこちらをチラと見て、黙っている様子で支障ないと判断したのかそのまま先ほどから居た覆面男を連れ扉から出て行った。
……ひとまず現状の状態を確認する。
廃墟のビルなのだろうか、ここから見る限り窓っぽい場所から見える外の様子は地面など全く見えず空の様子しか見えない。
そして部屋の状況はひどい。床は剥がれ壁のコンクリートもボロボロで剥き出しだ。
恐らくは誰も近づかない廃墟のビルなのだろう。
そして自分は椅子は腰に縛り付けられて、手も背中の方で縛り付けられている。
動こうにも動いた瞬間、椅子ごと倒れて終わりだ。
そう言った状況の中でこうなった原因を探る。
誘拐?
アリサの立場を考えればあり得るだろう。
大会社の社長令嬢。恨みを買う機会など売るほどあるだろう。
先ほど交渉とも言っていたし、恐らくはその線で考えるのが妥当である。
そうするとこちらは完全に巻き込まれた状態か……。
サブイベントもあるのかよ! と気持ちは沈む。
これのタチが悪いのは、事前知識が全く役に立たない。
あくまで本筋のストーリーの記憶はある程度あるが、こう言った発生するかどうかも分からないイベントは覚えていない。
さすが完全に知っているとは言えない世界をピックアップされているだけある。
その手際は出来る子の印象をある意味強烈に裏付けられてしまった。
とは言えここで出来ることはないか検討する。
名前すら知らないので催眠能力は使えない。そもそも男性なので使えないのは確定だ。
事前知識も無いためこちらも役に立たない。そうなると体一貫なのだが自由は奪われている。
やはり現段階では何も行動は出来ないか……。
と黄昏れる。あとは可能性の検討だ。
先ほど考えた通り、アリサの親は大会社の社長。
恐らくは救出部隊に関しても伝手はあるだろう。
この世界としての繋がりを考えれば、裏仕事もしていたはずの高町家にも伝手があると信じたい。
そうなるとそこからの救出待ちだろうか……。
結局は、信じて待つ以外の選択肢しかないかと考えた。
結果としては的はハズレてしまったのだが……。
しばらくそのままの状態で、うんうんと手はないか考えていると、ふと気づいた。
……さきほどから何も音が聞こえない。
元々場所的にも音は聞こえて来づらいだろう。ただ、あの複数名を考えると全く音がないのは不自然だ。
その状況を不審に思っていたら、とんでもない光景に出会すことになる。
そして、冒頭に戻るのであった。
それは幻想的な光景だった。
月村すずか。
ふと現れたその少女。
月明かりに照らされたその紫色の髪は、月の光を吸い込んだかのように深く綺麗に映る。
まるで重力すら感じさせないようにふわりと現れた、その姿は年齢に見合わない妖艶さを醸し出している。
そして、
「ねぇ……私の目を見て…………」
とオルゴールで音を奏でるような小さくも相手を安心させるような声を上げつつ、真紅の瞳でこちらを見ていた。
ヤバイ……。
夜の一族の方が来てしまった……。
こちらは純粋にヤバイ。
詳しく能力は知らないが、この世界において超常現象を操る連中である。
記憶操作系で吸い上げられると一発で終了だ。
そして恐らく発した言葉を聞く限りこの目を見る行為自体が、魅了の可能性が十分あり得る。
それでも十分こちらのピンチは変わらない。
そんな気持ちをまるで考慮されてないように、すずかはこちらに近づいてきている。
考えろ。
他を全て捨て、考えろ。
その魅力的な瞳を見ないように注意しつつ、自然な動作で視線を外したまま問いかける。
「……その前に、確認したいんだけど」
少し軽めにした口調を含ませ発言すると、すずかは先ほどの雰囲気を流されて気が抜けたように目をパチクリとさせた。
ここからだ。
……正確な時間は不明だが、出来る限り時間を稼げるように、ゆっくりと言葉を詠うように優しく伝え始めた。
「いつも君を見ていた、綺麗な瞳と今もさらに魅力的に映る瞳」
急に真剣な顔を作り君をいつも見ていましたよと言う表情から照れたような表情を浮かべ、
「そして、いつも優しそうになのはとアリサを見つめていた笑顔」
そんな光景を見ていたよ。と言わんばかりに遠い目をして表情を作り、
「今の触れれば壊れそうに映る守ってあげたくなる儚げな表情」
ゆっくりゆっくりと表情を変化させつつ、こちらが優しく守ってあげたくなる気持ちが少しでも伝わるような気持ちを込め、
「こんなに引きつけるような魅惑的な君は、本当に」
再度、照れを意識した表情を出しつつもその魅力に釣られてしまった残念な少年の顔を少しでも表現するようにして、
「月村すずか」
名前をしっかりと発言しつつ、
「なのかい?」
その魅力に酔ったように弱く問いを行う。
__
後を追いかけアリサちゃんの車を見つけた場所は、誰も近寄りそうにない取り壊し予定の壊れかかったビルだった。
周りに目立った他の建物は無く、大声を出されたとしても気付かれる可能性は低いだろう。
そんな場所へアリサちゃんが向かうことは無いだろうと判断して、身体能力をフル活用し様子を伺う。
……こんなビルの中で動いている人間が数名いる。
さすがに平和な状況では無いと判断し、アリサちゃんを救うべく行動を開始した。
友達の緊急事態なので、私の能力をフル活用することに戸惑いはなかった。
そうしてビルにいる怪しい人たちを無力化していく。
夜の一族として瞳の力を実践で使うのは初めてであったが、問題無く対応出来たと思う。
だけど、力を使用しすぎたせいで疲労感は溜まっていたのだろう。
無力化した後は、あまり上手く頭が回っていないような感覚だった。
だからこそ、あの言葉は身に心に深く深く沁みた。
アリサちゃんが囚われている場所へ行った際に、そこに想定していない人物がいた。
鏡音奏
アリサちゃんとは別に意識があったままで居た為、慌てて彼にも能力を使い眠らせてしまおうと考えた。
すぐ意識を落とせばそこまで苦労なく変更出来るだろうと思い足を進める。
だが、彼はこちらに向かって怯えることなく言葉を伝えてきた。
いつも君を見ていた。
今の君も可愛い。
化物と私を怖がることなく、むしろ今の私を受け入れてくれそうな言葉は私にとって心からずっと求めていたものである。
その言葉は私の身を震わせ、心を震わせてしまう。
そうして私は、彼から告白を受けたような言葉を受けその答えを出すように返事を返すのであった。
__
そして時間稼ぎも含めたこちらから出た言葉は、相手側の意表を突くことが出来たのか、
その真紅の瞳が揺れ動きながら、それでもこちらへ向きつつ
「そうだよ。私は月村すずか」
そう答えてくれた。