意識外の一撃はきちんと決まると意外と精神に隙を生むものである。
何故、プレシアへ意識外の一撃を直接一直線に伝えるのではなく、アリシアに向かっているかと言うと自分に出来る範囲内で成功の確率を少しでも上げるためでもある。
意表をついてアリシアを人質に取る……どう考えても無理筋である。
アリシアを消滅させてプレシアを諦めさせる……これも先ほどと同様、アリシアの元にたどり着いても手を出す方法が全く無い。
アリシアに向かうことでプレシアの怒りを誘発させる……この辺りが出来る範囲として妥当だろうと考えていた。
要するにプレシアの意識を一気にこちらへ向けるようにしようと考えた。
意識を向けるにしても冷静に向けられると対処される可能性が上がってしまう。
プレシアが大事にしている愛娘のアリシアに向けて
恐らくアリシアに一直線に向かっていることが理解されれば、プレシアの逆鱗に触れるであろう事は想像に難しくない。
意識外から行われる行動は対処を反射的に行わせ、その内容を理解させる事で怒りの感情を埋め込む。
そうすると相手の対応が理性ではなく、感情での行動が大きくなるはずと考えていた。
感情の行動が全て悪いと言う訳ではない。ただ理性で考えた行動よりも感情で行う行動はどうしても最短を走ってしまうため短絡がちになってしまう。
その隙を狙いたい。と考えて今回の行動を実施していた。
最初から口上でプレシアの怒りを買う内容も考えたりしたのだが、それだと近接距離に近づくには程遠い。
強い攻撃だけが一方的にこちらに飛んでくるだけだろうし、それを回避しつつ近づく行為はそれこそ自殺行為だ。
近距離でこちらに意識をしっかりと向けさせ、対処されないように冷静さを奪う。そして感情を溢れさせることで心の隙を極力作る。
そこまでの状況を作ることでようやく自分が一撃当てられる可能性が出てくると考えていた。
どんどんスピードを上げながら、真っ直ぐアリシアに向けて自分という弾丸が走る。
誰もがその行為に戸惑った表情を一瞬浮かべていた。ただプレシアがその射線の先がアリシアにあると理解した瞬間、それを反射的に止めるかの如くこちらへと攻撃を行ってきた。
プレシアの攻撃は強力に展開されていたなのは達の防御魔法で防ぐことが出来ていた。
プレシアとの戦闘を隅から見ていた時に弱い攻撃が多かったとは言え、なのは自身の防御を抜ける事は無かったのは確認していたので、大丈夫だと思っていた。
それでもやはり実際防ぐ事を体感できたことでそのまま作戦が進行出来ると思い一安心しつつも気を抜かず対応を進める。
どんどんとアリシアに近づくにつれてプレシアの表情が怒りの表情を表しこちらへの攻撃の行動が激しくなる。
しかし、それでもこちらの防御を抜く事は無かった。そしてどんどんとプレシアはこちらを止めるべく意識を集中させていく。
他に何も見えないと言わんばかりに自分へと意識を集中させていく。
恐らく「このクソガキ! アリシアに何かしたら殺してやる!」と言わんばかりに怒りを溜めてこちらに集中させているはずだ。
そしてアリシアの距離がもう少しで到着しようとする瞬間、アリシアに展開されていた防御魔法が更に大きく展開される。
それはどんな攻撃も通さないという意思表示にも感じられた。恐らくそれは実際叶えられるだろう。何故なら自分はこの防御を通す手段を持ち得ていないからだ。
防御魔法が更に展開される様子を見て自分は腰を一気に捻るように飛ぶ方向を大まかに調整する。
急に方向を変更させる事で多少軽減されているとは言え、体にグッと負荷がかかるがそれは特攻しているテンションで体を誤魔化す。
変更して向かう先は本命であるプレシア本人だ。
急遽射出されている弾がプレシア本人に変更されたことでプレシアは、なっ! という感じで驚きの表情を見せてきた。
その一瞬の空白が欲しく、それを狙ったかのように自分の身体はプレシアにぶつかるように勢いよく接触を行うのであった。
ただ、身体的接触は出来るはずもない。お互いの防御魔法がぶつかる形で体勢が拮抗している状態であった。
それはイメージ的には鍔迫り合いを行っているかの如く一瞬の停滞時間を生み出す。
ギギッ! と言う感じでお互いの防御魔法が擦り合い悲鳴を上げたような音が発生する。
そしてお互いの視線が近距離で交わし合うのであった。狙い通りプレシアは
プレシアがその驚きの表情から回復する前に使いたい能力を頭の中でイメージして薬を飲み込んだ。
そのイメージした力とは……
薬を飲み込んだ瞬間、体に異変を感じする。
それは時間的には一瞬ではあったが、体感的には物凄く長くも感じられた。
その能力を使用する為、細胞の一つ一つが実現させるかのように変化する感覚になる。
実際、変更されているのかも知れない。自分が使うのは人間としての能力ではないのだから。
その準備が完了したかのように自分の中にある異変を感じてしまった。
プレシアを見て、その口から乾いているその跡を見て、とある衝動が生まれてしまう
血が飲みたい……。
血など本来は美味しくないものであるのは頭で理解しているのだが、身体がそれを欲するのがわかる。
それは砂漠で乾き、飢えた人が水を目の前にして欲する衝動にも感じられた。
その衝動はどこまでも強く貪欲に飢えの解消を身体に要求するのである。
これがフィードバックの効果なのかと思ったが能力はまだ使用していないので、恐らくはあくまで能力を使うための下準備なのかも知れないと考えた。
しかし、その衝動を感じて思ってしまう……
自分が使用を考えていた能力とは夜の一族の能力である。
魔法少女リリカルなのはとしての設定では無く、俗に言う裏設定と呼ばれる所を使う。
すずかには以前から夜の一族に関しての情報を色々と聞いていた。
そして自分は画期的アイディアなどが急に浮かぶ天才的な人物では無い。そこにあるものを合わせ考え出来うる道を探り続けるだけである。
能力を使う内容はすずか自身の能力でない。その上の存在を確認して使う意志を固めたのであった。
それはすずかの姉でもある忍の能力でもない。年齢的にも力的にも現段階において、更にその上だと思っている忍の叔母、綺堂さくらの能力。
裏設定から更に裏設定を引き出す。リリカルなのはとしての正史ではそもそも彼女自身が存在するか記憶は曖昧であるが、この世界では存在する事をすずかから聞いている。
そしてその発揮出来る力はすずか達よりも上であることも。
その能力を使う。
この世界において心を操る力、ある種の催眠能力をプレシアに使用するのだ。
そして自分の頭の中にその能力が使えると言う感覚が浮かび上がる。
本来であれば吸血をすれば完璧であるかも知れない。しかし、この薬はその仮定を省いたように能力だけをしっかり発揮出来る力を与えてくれる。
瞳から発するその力で持ってプレシアの瞳を重ねて植え付けるのだ。
アリシア・テスタロッサの記憶を忘れろと。
心……記憶を操作すると言うのは長く深いものであればあるほど、その効果は弱くなる。
実際、これで完璧に忘れる事は不可能であると思っていた。
しかし、暗示程度でも良いのだ。それは一瞬の隙を更に大きくさせて、更にその
この世界における魔法の力と言うのは物理干渉の比重が高く、精神に直接影響を与えるものは少ないと思っている。
だからこそこの力を感じる術は魔法の力で存在しないだろうし、効果を発揮出来る自信があった。
そしてその力は想定通りにプレシアへ発揮出来た。
プレシアが先ほどの驚きの表情から困惑した表情を浮かべる。それは「何故、私はこんな行動をしていたのだろう」と言う感じであった。
そして自分はすぐ腰に取り付けていたロケット噴射を止め、別途、腰に取り付けていた別の機器を取り出してスイッチを押し空中へ放り投げる。
自分はその効果を知っているので放り投げた後、目を閉じるのであった。
効果を発揮したその機器は眩い光を強く発する。閃光弾にも近いそれは目を閉じていても目蓋の裏へ強く光を感じさせる。
ただそれは一瞬ですぐ収まり、すぐ目を開いて周りを確認する。
これは本当に一瞬光を発するだけである。隙を大きくすると言う目的もあるが主目的は後の言い訳を埋めるためのものであった。
何か機器を使用して、プレシアの隙を引き出したと言う結論を作るためである。
催眠能力を隠しつつ、これをリンディさんの作戦だったとするために準備しておいた対策でもあった。
そして辺りを見渡す。アリシアを蘇らせたいと言う願いの根本が途切れたせいだと思うが、ジュエルシードからプレシアに流れている魔力が途切れていた。
プレシアの防御魔法は全て消えており、プレシアは先ほどの光で目を焼かれたのか、それとも記憶の齟齬がおきているのか目を閉じて苦悶の表情を浮かべている。
その隙を見逃さない。ここからの攻撃手段は自分は持っていないので、隙を作った事実を元に脱出するだけなのだが、念には念を入れる。
自分はアリシアのカプセルに近づき両手に抱え、そのままロケットを再作動させてその場から遠ざかる。
防御魔法が消えていた為、浮いているアリシアのカプセルに近づくのは容易であったし、プレシアの邪魔も心が隙だらけな今だけは入らない。
何故、アリシアのカプセルを強奪したかと言うと、フェイトの為では無い。あくまで自分自身の作戦遂行の成功確率を上げる為である。
とはいえ、これは本当に本当の最終手段の一つである。もしプレシアが記憶を完全に取り戻し、完全に勝利の目がなくなった場合、これを交渉材料でプレシアと二人になると言う対応である。
ただ、完全に自殺行為以外の何ものでも無いので……本当の最終手段の確保でもあった。
そして早急にプレシアの元から離れる事にも成功して、改めて様子を見る。
ここで思う事は……
願いの方向性の力を失ったジュエルシードはどう言う暴走をするかである。
案の定、プレシアへ与えていた力はジュエルシード内に留まり膨れ始める。
そして再度、次元震が巻き起こり始めた。その規模は最初に行われたよりも規模が大きく進行が速い。
自分はジュエルシードが暴走している駆動炉を指差し大声で叫ぶ。
「フェイト! 頑張れ!! 君自身の手で決着をつけるんだ!」
と。
フェイトに命令していた
自分が指差して「フェイト。頑張れ」と伝えた場合、己の全ての力を行使して指を指した対象を攻撃するようにと。
励ましの言葉で気持ちを底上げさせ限界以上の力を出せられるように期待する。そして出来うる限り自然に対象を命令させるために仕込んでいた。
アルフにも別に仕込んでいたが、アルフは近距離メインのため、今は近づく行為自体危険である。
そちらは指示がなくても自由意志でフェイトに協力するだろうと思うので、今回は控えようと考えた。
フェイトはその命令を聞き、今まで極力控えていた魔力を爆発させたかのように金色の美しい魔力を噴出させる。
そして魔法陣が浮き上がり、彼女の現段階において最高の一撃を繰り出すのであった。
射線上にプレシアが居たとしても彼女は戸惑う事なくその攻撃を実施する。
しかし……
ジュエルシードの方が進行が速かったのだ。フェイトが射出する魔法よりも先に虚数空間が広がる進行が速い。
それはジュエルシードの間近に居たプレシアを巻き込むのに時間は掛からなかった。
本当に本当にあっさりとプレシアは苦悶の表情のまま虚数空間へと取り込まれてしまう。
何も分からないまま落ちていくプレシアは何を思っていたのだろう。
そしてそれを成してしまった自分は湧き上がる感情を飲み込む。
謝る事は論外であり、同情も出来ない。自分が出した結論をしっかりと目に焼き付けそれを飲み込む。
悪役のまま退場させると決めたのは自分であるのだから。誰に縋り付くことすら出来ない。
ストーリー的にそうであったとしても先を知っているのは自分だけであり、その結果を受け止め進むしか無いのだ。
そんな葛藤は誰も知らずフェイトの攻撃が暴走しているジュエルシードへと向かう。
ただただ無差別に力を吐き出しているそれは先ほどとは違い確実にジュエルシードを押し込むのであった。
それを見たのか続いてクロノ、ユーノ、アルフが魔力砲を射出して手助けを行おうとする。
少しずつではあるが、ジュエルシードの力を削り押し込んでいく。
しかし次元震の影響がまだ強く続く。このままでは時間が足りないと思ったその時に連絡していた彼女が現れるのであった。
「ディストーションシールド」
その艶やかな薄緑の髪を靡かせて背中から同じ色の羽を4枚身につけているその姿は成長した妖精のようにも見える。
そしてその力は本物である。ジュエルシードの暴走による進行は更に遅くなりこちらへ更に有利な状況を生み出すのであった。
一応、来ないとは思っていなかったが、状況が悪ければ頭だけは緊急脱出する可能性もあり得たので、念のために連絡していた。
上長のみが逃げ出すと言う言葉は見た目は悪いかもしれないが、責任を取るため、そして感情の矛先を向けるため、またその状況を後に説明するためにもその存在が必要になる場合がある。
ある意味命が助かると言うわけでは無いのだ。惨事が酷ければ酷いほど、精神が先に殺される可能性の方が高いであろう。
それはさておき、連絡の甲斐があったかは分からないがリンディさんがここにちゃんと来てくれたことで戦力がアップした事は事実であった。
これで自分が想定していた舞台にはなった。後は本当に力と力の勝負だと思っている。
本来ならここでコピー能力を使いたかったがそれはもう無い。先ほど仕込んでいた部分がそれぞれ発揮してくれるのを祈るのみである。
しかし……ジュエルシードの力はまだ衰えない。
これでもまだ足りないのかと思ってしまう……進行が遅くなったとはいえ、流石に限度はあるだろうと焦りが生まれた。
全員分でも足りないのかと思ったが……一つ足りないと感じてしまった。
それはなのはの存在である。
なのははまだ攻撃に参加していない。じっとジュエルシードの暴走している場所を見つめているのだ。
そういえば……なのはに応援はしていなかったな。と考えたが、なのは自身にその設定は行なっていない。
先ほどの自分の言動や行動があるので、自分からなのはへの応援に効果があるのか? と消極的にも考えてしまうが、無いよりはマシかもと言う気持ちでなのはへも声を掛けようと考えた。
しかし、その声よりも速くなのはは行動を実施する。
「あああああああああああっ!!!」
と叫ぶ声は、いつもの優しいなのはの面影は無く、その身に纏う桜色の魔力は暴走しているかのように渦を巻いて身体から溢れさせていくのであった。