自室にて机に向かいつつ考えを行う。
現在、すずかには勉強すると言って席を一旦外してもらっている。
何も言わなければ勉強している時もじっと見つめているので……集中させて欲しいと伝えて席を外して貰った。
勉強しているフリをする為、机に向かい教科書やノートは開いているが……頭の中は別なことを考えている。
本当に吸い付くされてしまいそうだ……。
まぁ……気持ち良いし……ご奉仕というシチュエーションは色々と男心をくすぐってくれるのは間違いない。
時々、もう好きにしてと考えを放棄した時もある。……ほとんどの場合、色々と事が進めば進むほどそうなるのだけど……認めると敗北感に苛まれるのであくまで時々であると心に言い訳をする。
しかし……色々と検討すべき事項も出たのも確かであった。
そう…………すずかによるお風呂突入の乱である。
すずかに色々と事が終わって…………まぁ……放棄した思考を取り戻した後、突入してきたすずかの考えを伺ってみた。
すずかの考えを聞くと最初に一人で入ると仰っていたので、途中で入ってきました。と言われた時の衝撃を思い出す。
確かに……言葉の正否はどうあれ内容的に『最初は一人で入る』と言った覚えはある……。ただこれの意図は途中で入ってきて良いよと言う意味では勿論無い。
今後、一緒に入ることはあり得るだろうな……と煩悩が導き出した結論があったので……その場で言葉を濁しただけで、あくまであの時は少し休憩と思い一人で入ろうと思っただけである。
そこまで深い意味は無かったのは確かであるし、言葉が拙かった事は確かにその通りである。
しかし、言葉と言うものは相手にそのまま伝わってしまう。
その言葉の意味を考え導き出された動き。相手は命令に忠実に従う機械では無い。当たり前の話であるが、人間なのだ。言葉と言う相手に伝えるその手法はこちらの意図が全て伝わる訳では無いと言うことを改めて理解させてくれる。
とはいえ、全て命令に意図を伝えるのか? と聞かれるとそれほど面倒なことはない。
一つの動いて欲しい命令に関して、事細かに動く内容を伝え、成功、失敗それぞれを考え伝える。
勿論、重要度によってはそれも必要であろう。ただ、日常においても全て網羅して伝えると言うのは、もはや自分で行った方が速いまである。
しかも先ほど自分で言った通り、これは己の言葉不足から始まったことであり、相手に怒るのは筋違いだ。
要するに失敗をしても問題ないような言葉を伝えるべきであるし、意図をきちんと誘導してあげることが必要なのだ。
とはいえ、そのハードルは高い。会話の中で一瞬で相手の性格を見抜きつつ考え相手に伝える。それはある意味での才能の塊であろう。
自分はこの事例を持って改めて学ぶ。次は失敗しないように意識しようと考えた。今はそれが精一杯の所であろう。
人間は意識し続けないとそのうち忘れる。忘却の生き物でもあるので、必ずしも全て出来ると言えない所は自分の力不足を感じてしまうが、今はそれを強く意識することが出来る。
なればこそ今のうちに少しでも手法自体を身体に覚えさせるのだ。無意識の時に少しでもその効果が出ればそれは成長した証でもある。
一歩ずつでもきちんと進めることが重要だと思っていた。停滞は……時と言う化物によって、自然と停滞と言う維持ではなく、ゆっくりとではあるが着実に崩壊への道へ導かされてしまう。
だからこそ、自分は進まなければならない。死にたい訳では無いのだから、次は成功出来るように努力し続けなければならない。
まぁ……こんなことを考えていても失敗するのが人間と言う生き物であるのだけど……ね。と自虐的なツッコミを入れつつ気を引き締め直した。
ひとまず、お風呂突入の乱に関しての考えを結論付けて、今後のことを改めて思い出して考える。
そう……一日ご奉仕の件である。
いや……別にイヤな訳では決してない。むしろ最初に言った通り、男として特典すぎるご褒美だと思う。
しかもさらに可憐な美少女から清楚な美女へ成長することも分かっている少女だ。
性格的にも物腰柔らかくお淑やかであり、仕草仕草に可愛らしさをそして……艶やかな印象をこちらへ植えつけてくるのもまた良い。
こうしてご奉仕をしてくれて色々と致してしまう状況自体に文句などあるはずが無いし、どんと来いと言いたい。
しかし……体力が持つかと思うと……自信が微妙だ……。
相手は夜の一族である。『夜』の一族である。大事なことなので二度言ったが、要するに『夜』こそ真骨頂なのだ。
こちらも身体は色々と元気な形で頑丈に作られていると思うが、現段階でそれなりに吸い取られた状況で、これから彼女の真価が発揮される時間帯が近づいてくる。
二度三度なら全然大丈夫……なはずだけど、もし……二桁を超すのなら、これ死んじゃう死んじゃうよぉ……と泣き言を言う可能性はゼロでは無い。
だからこそ慎重になってしまうのもしょうがないと戦略的撤退な考えを持ってしまっていることを許して欲しい。
……誰に謝っているのかは疑問だが、とりあえず少しでも体力を温存するために今はこうして一人で冷静になることで消費を抑えるのである。
一緒にいるだけで、その良い匂いでも揺さぶってくるから……大変なのだ……。
もう、そのまま行っちゃえば良いじゃんと考えたりもした。と言うか流されかけた。
確かに……気持ち良いし……さらに身体を求めて行きたい。抱きたいと言う気持ちにウソはないだろう。
しかし……これはあくまですずかのご褒美に対する対応である。
命令によって出来るのは間違いないだろうが、こちらが満足しても意味がない。
そして当初の目的からズレると共に先ほどのように意味が取り違えられると、もはや本末転倒の結果となり得るだろうとも考えてしまう。
まぁ……もしどの道に進んだとしても、絞り取られるのは間違いないはずと思うのだけれど……それだったらちゃんと当初の目的通りにしておくべきだ。
取り敢えず……夕食後であろう。それに向けて対応を考えていくのであった……。
しばらくうんうんと考えていると……ドアがノックされる音が聞こえた。「入って良いよ」と声を掛けると扉がゆっくりと開いてすずかが入ってくる。
「ご主人さま。お茶をお持ち致しました」
そう言って両手に持っているトレーの上に、家にはなかったはずの紅茶のティーセット一式を載せていた。
すずかの家のお茶会で何度か見たことがあるその形はおそらく持ってきたのであろう。準備万端なその少女の行動に感動してしまう。
そのまますずかはゆっくりとこちらに近づき、紅茶を入れてくれる。
琥珀色で暖かさを伝える湯気と共にまるですずかの心を表すような優しい香りがこちらの気分を落ち着けさせてくれた。
注がれた紅茶をそのままストレートの状態でゆっくりと顔に近づける。
匂いを嗅ぎ、口に含んだ。
うん……紅茶だね。
まぁ……正直に言いますと、優劣なんて判断出来るような舌には育っていない。
雑味というか、なんとなく雑に入れたなぁ……という感じではなく、なんとなくスッキリするような、そしてハッキリと紅茶の味が感じ取れるそれは高級品なのだろうと言うことを容易に想像させてくれる。
すずかに「美味しいよ」と笑顔で告げる。するとすずかはその言葉に嬉しそうに笑顔で「ありがとうございます」と応えてくれた。
そうして紅茶を飲み進めながらまったりとした時間を過ごす。
「ご主人さま。もしよろしければ息抜きに一つ簡単なゲームでもしませんか?」
紅茶をゆっくりと味わっていた時にすずかが声をかけてくる。
「ゲーム?」
「はい。勉強も集中しすぎるとお疲れになりますでしょうし……少し息抜きもした方が……と考えました」
「どんなゲームなのかな?」
「はい。では……」
すずかの手のひらにいつ持ったのか分からないが、コインが一枚ある。
それをピンと言う形で、親指で上に軽く弾く。
衝撃を受けたコインはクルクルと回るように上空に浮き上がった後、重力の力によってスピードを上げて回りながら落下していく。
すずかの胸元辺りに来た瞬間に、そのコインは消えた。
そう……文字通り消えたのだ。
目はしっかりとコインを捉えていたと思う。しかし、魔法のように存在を一瞬で消失させた。
驚きと共にすずかを見ると、すずかは両手をグーの状態にしてこちらに見せつけてくる。
「どちらに入っているでしょうか?」
その言葉にこのゲームの内容を理解する。まぁ……一種のコイン当てのゲームなのだけれど、その動きが段違いである。
夜の一族の身体能力をまざまざと見せつけられた気分だ。全く見えなかった……。
「一応、このゲームのルールとして質問は無しにして頂けるとありがたいです」
「ご主人さまの質問に正直に答えないのは失礼にあたりますし……」
最後にボソッと呟く声に、こちらも同意する思考を持った。
まぁ……色々と妥当なラインだと思った。確かにこちらの言葉はある意味絶対性を持つ。ゲームとしては破綻してしまうだろう。
本人は催眠の設定は分からないが、正直に答えるべきと言う意識はあるはず。なので、これはそれを先に防ぐ形なのだろうと考えた。
けど……それは……そう。勝ちに行く時の思考だ。別に負けても良い勝負なのであれば、そう言ったことは無くても乗ってくるかどうかだけで気分転換になるはず。
勿論、ゲームである以上、勝利を目指すべきだとは思っているが、それでもすずかの性格を考えれば、少し違和感を拭えない。
「そして……これはご提案なのですが、勝利した人には……何か一つ相手に要望を伝えることをよしとして頂けませんでしょうか」
見えた……。要するに負けた人は罰ゲームとして「言うことを一つ聞け」だ。
おそらくは何かすずかは要望を通したいのだろう。控えめで優しい性格のすずかである。いきなり要望を伝えるのは彼女の心が痛むのだろう、
だからこのゲームを行うことで、彼女は何かを通そうと思っているのだ。
まぁ……そんなことをしなくても今はすずかのご褒美の日なので、よっぽどのもので無ければ受け入れるつもりだし……。
やってもやらなくても恐らくは結果は変わらないが、それでもすずかに喜んで貰う事は悪いことではないので、その勝負に乗ることにした。
「分かった。それで行こう」とすずかに伝えると、すずかは更に笑顔を輝かせた。ぱぁぁと広がるその笑顔のキラキラを見てなんとなく良いことをしたようにも感じられてしまう。
だけど、勝負は勝負だ。恐らくは最初から不利な状況であることは理解しているとは言え、負けるつもりは無い。
すずかの両手を見る。先ほどの動きを見せたとは思えない、その柔らかそうな手はギュッと握られてこちらに見せてくれる。
ぱっと見で考えれば、両手なので確率は2分の1だろう。しかし、ここでよくある手としては両手以外に持っている可能性である。
まぁ……その可能性を考えてしまうともはやこちらに勝ち目は無い。何故ならもはや見えなかった時点でどうにでも出来る。
質問は出来ないので、その可能性を聞くことが出来ない。まぁ、聞ければそれで終了なので、致し方ない所ではあるのだが、もどかしいのも事実である。
ならばせめてもの抵抗として、こちらの指をこっちかな〜と言う感じで握っているすずかの手にそれぞれ差していく。
しかし、すずかは笑顔のままピクリとも反応を示さない。普通にポーカーフェイスを維持してくれている。
誘導も無しっと……
駆け引きとは様々である。勿論、言葉によるやり取りが一番効果が見えるのだけれど、視線や動きでもそれは可能だ。
特に注視している今は判断の材料として相手をコントロールできる方法だと考えている。
結果としては、動き無し。と言うことだ。
動きが無い。と言うことは一般的に相手に考えを読み取られたく無い行動の一つである。
ただそれもやり慣れていなければ、動きが自然と硬くなる。しかし、すずかはずっと自然に笑顔をこちらに向けてくる。
まぁ……すずかはやり慣れてそう……と思っていた。他の人でも自然とシチュに持ち込む手腕は、空気を読み受け流す手腕が優れているのだろう。
今回に対してもそれが活きているのだろうなと言うことは想像に難しく無い。
と言うことはやはりすずかには絶対の必勝があると思って間違いない。
自然と落ち着き、こちらの様子を見て取れるさまは賭けと言う要素に縋っていない。
落ち着けば落ち着くほど、彼女の必勝の気配を感じとれてしまう。
やはり……両手には無さそうだな。と考える。
さらにその裏をかいて両手にと言うこともあり得るが、まだそこまでの精神は成熟していないと思いたい。
となると次はすずかの身体だ。あの一瞬でどこまで隠せるかは分からないが、恐らくはすずかの身体のどこかにあるはずだ。
少し姿勢を正して、視線をすずかの身体全体を視界に入れるようにする。
そしてすずかの身体全体を見て隠せそうなポイントを探す。
しかし……メイド服はどこに何があるかパッと見だけでは正直よく分からなかった……。
どうしたものかなぁ……とジッとそのまますずかの身体を見つめているとすずかの動きに変化があった。
おっ!? と思ってすずかの顔を見ると何故か顔を赤らめてモジモジとした動きを見せてくる。
……いや……あの……すずかさん……その顔は色々と卑怯っすよ……
今、ゲーム中だよねと突っ込みを入れたいのを我慢して、長引かせるとろくなことにならなさそうな予感を覚えたので、結論を出す。
「よしっ!」と声を出して、すずかに伝える。
「コインの場所はすずかの右の袖の中だ」
そう伝えた。
まぁ、多少の根拠はあるが、賭けの要素は大である。
まず、すずかの利き腕は今までの仕草を見る限り右だろう。コインを一瞬で手から他に隠す場合、繊細に動かせる利腕の方に自然に寄るはず。
そして隠し場所として、あくまですずかは両手を提示している。と言うことは最終的に両手のどちらかに戻すことはあり得ると思った。
それを簡単に行えるのは袖の中が一般的にあり得そうかなと判断する。
けど、それを立証できる証拠は全く無い。全て憶測にチップを張った賭けであった。
すずかはその答えに両手でなかった為なのか多少驚いた表情を見せてくる。
その顔を見てちょっとは引っかかる所があったのかなと思い、ニヤリと悪巧みをするような顔をつい見せてしまうのだが……。
開いたすずかの右手にコインがあったのだった……。
……やだ……恥ずかしい……
右手にあるコインを見て恥ずかしさで顔の温度が上昇する。
裏の裏なのかそれとも純粋に2分の1ですずかが行ってくれたのかは分からないが……見事に負けた。
悪巧みの顔で分かっているんだぞと言うような表情までしたのに、この結果は恥ずかしい。
「ご主人さま……ありがとうございます」
そう笑顔で告げてくるすずかに、追い討ちはやめてよぉ……とさらに顔が赤くなってくるのが分かる。
それを誤魔化すようにすずかの視線から外れるように顔を動かすのであった。
そうして午後の一時は過ぎていく……
難しいことは分かりませんが、コインは右手だけだったのでしょうか。