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とある日の出来事。
「あかんなぁ……あの本に届かへん……」
ぼやくような声が小さく呟かれる。
傍目から見ると車椅子に座っている少女が、一所懸命に手を本棚へ伸ばし、本を取ろうとしている姿が見える。
だが……残念なことに伸ばされれている手は、欲している本には届かないであろう。
しかも、現段階において周りに人影は見当たらない。
手助けが入ることも期待出来なかった。
少女は孤独であった。
しかし……ある意味、少女は孤独を許容していた。
両親が亡くなり、足に障害がある自分が一人で暮らす。
ある種、将来の夢とかの希望は持てない。それが実感してしまったのは何時頃だったのだろうか。
彼女を治療してくれるお医者さんは絶対に良くなると言ってくれるが、それでも意思を持って足が動いてくれないのは彼女の心を蝕んで行く。
未来と言う希望的思考が失われるにつれて現実主義と言う名の割り切り的思考が頭の中を埋め尽くしていく。
夕方、家族連れで歩く親子を見ると、心が締め付けられる日もあった。
しかし……割り切りの思考が現実を諭してくる。
段々と段々と希望的思考が希薄になっていくのだ。
そうして彼女は無理矢理にでも精神的に大人になっていく。
だがしかし、少女はまだ無垢で心優しき少女でもあった。
いま本に手が届かないと言う状況であって、もし……他の人が手助けが出来る状況下にあったとしても、少女はすぐには要望しないであろう。
足に障害があっても、自らで出来る限りの行動を行い周りの迷惑を掛けないようにする。
誰かの負担になることを恐れ、自身に負担がかかる事、自己犠牲を恐れない。
それが「八神はやて」と呼ばれる少女であった。
だから、今現段階において、八神はやては、他の人による手助けを希望すると言う選択肢を排除して、なんとか自身で取ろうと努力する。
しかし……現実は厳しい。
該当の本に対して、手が届かない以上、どうやっても手に取ることは出来ない。
どんなに気合の声を上げたとしても手は魔法のように伸びず、届かなければ物理的に動かすことは出来ないのだ。
ある意味そんなリアルを突きつけられながらも少女は手を伸ばし続ける。
そのままであれば、時間だけが過ぎ、打ちひしがれるだけであろう現実があるのだが……
ここでなにかの意思なのだろうか。第三者の手が入る。
「この本かな?」
はやての頭上から小さな鈴の音が鳴るような透明感のある声が聞こえた。
どんなに手を伸ばしても届かなかった本は、立って手が届けば簡単に動かすことが出来る。
それを示すかのように声を掛けてきた人物は、問題なく手を伸ばし、声を掛けた人物の手に収まるのだった。
はやては、その本の行方を追うように視線を動かしていくと、その本を抱え込んだ人物を見ることになる。
ここで、八神はやてと言う少女と月村すずかと言う<<少女>>が邂逅するのだ。
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「この本の作者。私も好きなんだ」
「そうなん!?」
切っ掛けは手にとった本であった。
そして、年齢が近い……恐らくは同年代の少女と少女。
「私は月村すずか」
「八神はやてや。よろしゅう」
自然と自己紹介においてもスムーズに交わし、引き続き会話が繰り広げられる。
趣味においても好みが近い話題になると、自然とお互いの言葉が交わされ、お互いの心が打ち解けるのも、さほど時間はかかることは無かった。
そして、交わされる言葉の応酬。はずんだ会話は次第にお互いの身の上にも及んでいく。
「一人暮らししているの!?」
「そうなんや。お父さんの知り合いが支援してくれているけどな」
恐らくはやては、久方ぶりに同年代の人と話すのであろう。
話す内容は様々に変化を続け、話題が尽きることは無く、進んで行くのだった。
「今度、遊びに行ってもいいかな?」
「勿論や! 何時でも大歓迎やで!! 何なら今日でもオーケーや!!」
友達の作り方の一つとして、お互い友達だよね? と確認しなくても自然となっていくパターンもある。
どちらかと言えばこちらのパターンの方が普通であろう。
今回はそれにあたるのだろう。お互い会話することで自然と趣味、嗜好等が合致することで、価値観の共有が行われ、自然と仲良くなっていくのであった。
一人で過ごすと言う環境は、心の奥底では寂しさと言う感情もあったのかもしれない。
そして、こうしてお互いが馴染み合うことで、自然と次回に向けての遊ぶ約束も結んでいた。
さすがに今日いきなり遊びに行くのは大変だろうと言うすずかの心遣いの話に若干はやてが寂しさを覚えたシーンもあったが、最終的にはお互い笑顔で次回の約束に行くのは、お互いの性格の優しさが垣間見えるのであった。
そして……少女達の楽しい時間は一瞬に過ぎ去り、一先ず、はやての家に遊びに行く日程をきちんと決めていく。
「それじゃ、またね」
「ほなな〜」
二人の少女は笑顔で、別れていったのだった。
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…………
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「と言う訳です。ご主人さま」
実際、ストーリー上でも一番最初に親睦を深めていた関係でもあったので、取り込み自体に関してはそこまで心配してはいなかった。
ただ、ストーリー上よりも速く、そこの繋がりを持った為、すずかとの接触も極力こちらの存在の匂いは消すように動く必要がある。
実際、この会合自体も二人が合った後、一人になった後、すぐ家に帰るのでは無く、すずか自身を一旦回り道と言う名の散歩をしてから、家に戻るように伝えていた。
その段階で、物理的監視者がいるかどうか……確か相手側は猫の姿をしていて監視をしていたはずなので、その辺りの事項も伝えつつ、帰る時の気配の注意をさせる。
そして、家に戻った後も、すずかの敷地内で調査をさり気なく行うように話を行っていた。
見知らぬ動物が留まっていないかを確認させている。
現状、すずかの家に行くまでに尾行されていた可能性はあるが、すずかの敷地内に留まって監視していると言う存在は特に見当たらなかった。
とは言え、これ自体は物理対応であるので、魔法を利用されるとすずか自身では対応が出来ない。
ただ、状況的にただ困っている人を手助けした上で、仲良くなるといった雰囲気なので、いきなり相手も魔法関係者であると疑うことは少ないだろうとも思っている。
しかし、油断は禁物である。これから幾度となく、接触を図るため、あくまで少女同士の会合と言う所を常に意識させておく必要がある。
「あくまで普通に心優しき少女達が偶然に出会い、仲良くなっているだけ」の状況下を疑われないようにするための対応をするのだ。
基本的にはすずかは一般的少女の装いをしてもらうし、あくまで自分もすずかと仲が良いクラスメートの立ち位置を維持する。
「夜の一族」と言う所は、元々隠匿されている所ではあるので、ずっと内部まで監視しなければ分からないであろう。
そして、向こうは調査人員を出せるほど、余力人員は抱えてないはずである。なので、よほどの猜疑心に囚われない限り、放置されるはずだ。
闇の書存在自体、此方側が知っていると思っていないはずだからね。
ただ、疑われないようにしておくことは当たり前に行うべきである。
「偶然の一日」で向こう側が結論を出させるように、日常的に過ごしているようにしておく。
すずかは、普通に次の日も登校して、今は学校内……放課後の図書室でお互いの勉強を見る形の雰囲気を作りつつ、すり合わせをしているのだ。
ただ……小声で他に聞こえないとは言え、どうしても会話の節々でメイドモードになってしまうのは……どうしようも無いと割り切ることにする。
実際、すずかはその超人的と呼べるに相応しい形で身体能力を駆使して、気配は敏感に感じ取れるし、こういった話の時には、人の気配は特に注意を払っている。
基本的には安心なのだけれど、同年代からご主人さまと呼ばれると言うアブノーマルな内容はどうしても気恥ずかしさは残ってしまうのだ。
「それで、次はどうしますか?」
しかし、すずかはこちらのそんな心情はお構いなしである。
まぁ、すずか自身の要望なのだから、彼女自体は気恥ずかしい気持ちは無いのだろう。
ただ、こちらが年端も行かぬ可憐な少女に「ご主人さま」と平常的に呼ばれることに、『慣れちゃいけない……慣れちゃいけない……』と自制を効かせているだけである。
すずかから聞いた内容を加味して、次のアクションを決める。
実際、内容を聞いて安堵していた。
ヴォルケンリッターが出ていれば、そちらの攻略からスタートしないといけなかったので、その辺りの時期のずれが無くてホッとしていた。
召喚前と召喚後では正直難易度の桁が違う。まだ対処が容易な時点で、気持ちが少し落ち着くのだった。
とは言え、結構、時間的には差し迫っているはずだ。
プレシア事件が終わってからほぼ同年で発生する闇の書事件である。
用心に越したことは無いが、機がありそうならそれはそれで組み込まないと事後対応となってしまう。
なので、すずかがきちんとやり遂げてくれた『はやてのお家へご訪問イベント』を利用するのであった。
まずは…………
何でも出来る経験豊富な大人の女性。リンディさんに相談だな!!
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「失礼します」
整理整頓されている部屋は、真面目で几帳面な部屋主の性格を想像させる。
部屋の雰囲気はその性格を表すように、静謐な空気を生み出している。
それに溶け込むような形で、落ち着き払った声が部屋の中へ発せられた。
発せられた声の音域の高さは、女性特有の高音を相手側の鼓膜へ届ける。だが、決して鼓膜を強く刺激するような声では無い。
精神的な成熟をイメージさせるかのように声の乱れは無く、そして意思の強さを感じさせるように声は相手側にしっかりと伝達されるような音量を維持していた。
「来たかね」
対する相手側も発せられる声は、様々なイメージを彷彿とさせてきた。
積み重ねてきた経験を表すような落ち着いた低い声。
様々な経験は、誰もが羨むような成功も苦渋を飲まされる失敗もあったのだろう。
だが、それらを経て年輪を重ねてきた人物は、ある種のカリスマが宿る。
それが自然と感じさせるような形で、その男性のオーラが声に乗ってくるのだ。
落ち着きつつも芯のある声。
お互いがお互いに積み重なった想いを声に乗せて、会合がスタートする。
「クロノは?」
「先程、リーゼロッテ、アリアロッテの方に捕まって成長を確かめられてますわ」
クスクスと笑う仕草。
一種の色気すら漂わせながら、本人の魅力を伝えてくるが、決して不快感は無く、動に入った動きはむしろ似合っていると言う印象を強く与えてくるだろう。
「そうか」
対する男性も笑みを浮かべる。
クロノがあの両名に扱かれている想像でもしたのであろう。
浮かんだ笑みは、息子を労るような親心を感じさせるような優しい笑みであった。
だが、
「それで、今日はどういった要件かな?」
ある意味、お互いが知っている仲であるため、世間話は必要ない。
本筋と行こうじゃないか。と言わんばかりの言葉は、経験を感じさせ相手側にやり取りの鋭さ……精神的負荷を自然と感じさせてくる。
だが、それは想定内と言わんばかりに女性の方は、どこ吹く風と落ち着き払ったものであった。
「世間話ですよ」
話の本筋をズラす言葉を発しているが、女性の笑顔は崩れない。
むしろ笑顔と言う魅力を増した形で、相手側へニコニコと愛嬌を伝えてくる。
その仕草はある意味、焦っている相手であれば、精神が乱されるだろう。
そして、何も考えない相手であれば、その笑顔の魅力の虜になったかもしれない。
だが、男性は一瞬、片眉を動かしただけで終わった。
女性は続きの言葉を発する。
「世間話。最近、私達が遭遇した事件。プレシア・テスタロッサ事件」
「そう。私達の間では、P.T事件と呼ばれるお話」
リンディ・ハラオウンはここで更に笑顔を輝かせる。
まるで子供が親に対して、おねだりをするような純粋な意思を感じさせる表情が相手に意図を諭させる。
恐らくはこの話の内容で男性側にお願いしたいことがあるのだろう。
それを感じた男性は、相手側の今回の訪問内容を大体察することが出来たのか、やれやれと言う感じで相手側が話しやすいように誘導する。
少し長めで深めの話になるだろうと言う形で、座って話そうと言う流れで部屋の応接出来るテーブルを挟んでお互いに座った。
そうして、ギル・グレアムは、リンディ・ハラオウンに対して話の続きを促していくのだった。
ギル・グレアムは気づかない。
リンディ・ハラオウンの目的として、今回の話は話で進めたい内容で合ったことは間違い無いが、それよりも、もっと重大で大切なことが存在する。
そしてこれから話す内容は、重要ではあるが、あくまで
とは言えこれも失敗するわけには行かない。とリンディ・ハラオウンは心の中に浮かび続けている少年の姿を思いながら話を続けていった。
フェイト・テスタロッサの保護観察官のお願い。そしてアリシア・テスタロッサの確保支援の協力。
これはこれで絶対に達成すべき内容ではあるが、優先度的にはそれよりも重要なこと。それは……
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