※この作品はR-18です。

暁の情痴   作:蓬莱玉の三難門

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暁の情痴

 一軒のビルの前で、男が佇んでいる。

 男はスマホを覗き込みながら、せっせと指を動かしていた。

「……六月に入ってから今日で七回終電を逃したか。全くつくづくブラックな会社だよな。まだ入社して少ししか経ってないけど転職も視野に入れるか……。というかそもそも新入社員をこんだけこき使うほうがおかしいんだっつーの。あのクソ上司め……」

 そうひとりごちりながらも男は必死にエクセルを動かす。毎月の光熱費や水道代、ガス代家賃税金。それぞれの平均を入力して、最後に「タクシー代」と書かれた枠の右を埋めた。男は一つ、溜息をついてから大きなあくびをする。

「おまけにこの低賃金。必要経費差っ引いたら全然残らねえじゃねえか。新卒だからってよぉ……もうちょっと普通マシなもんなんじゃねえか?」

 あーもう、とか叫びながら頭を掻き毟る姿は、まるでヤケ酒をする親父のようにみっともないものだったが、幸いにもというべきか、こんな時間に人は出歩いていない。あるのは廃病院のように明かりの消えたビル郡と、時折吹く突風にガサガサと音を鳴らし続ける街路樹だけだった。

 男は腕時計を覗く。文字盤のライトを付けると、「6 21 SU」の文字が浮かび上がった。何かを思い出したかのように急いでスマホのカレンダーアプリを起動する。

「おお、明日……正確には今日か。久々の休みじゃねえか。日々の残業はひっどいものだけど休日出勤はあんまりないからな。まだマシなところか」

 男の口元が綻んだ。心なしか少しだけ声のトーンも上がっている気がする。

「マップマップっと……家まで10km弱、ああ、歩けないこともないな。タクシー代ケチりたいし、今日荷物少ないし、家帰ってからどんだけ寝たって怒られないし。うん、ありだな。歩いて帰るか」

 男は嬉々とした声で立ち上がり、家のある方向へ歩いていった。その足取りは声の調子とは真逆で、おぼつかなく危なっかしいものではあったが。

 

 

 

「クソッ、国道っていうからにはてっきり広い道に広い歩道だと思ってたのに。片側一車線ギリギリに申し訳程度の歩道、おまけに坂道ってんだから残業明けの体には堪えるのなんの。素直にタクシー呼んどくべきだったかな」

 ゼェ、ハァと荒い息遣いをしながら、男は緩やかな坂道を歩いていた。車どころか自転車なら平気で登れそうな坂道だったが、歩いている人、しかも残業明けの体にはあまりにも酷だった。今度歩いて帰るなら遠回りでもいいからもっと平坦に道にしよう、と一人心に誓いながら、気だるそうに足を繰り出していく。

 夜の帳が下りた町は、思ったよりも真っ暗だ。道沿いにポツポツと並ぶ街灯は年代物なのか、時折消えかかってチカチカと点滅している。

 どこの家も明かりはついておらず、また音も聞こえてこない。時折窓が道路のすぐそばにある家の前を通ると、開いた窓から大いびきが聞こえてくることはあったが。

「全く、丘陵地帯も大変だよな。毎日こんな坂道を通りながら通勤通学してんのか。……この道、右側は歩道あるけど、左側にいたってはガードレールに崖だぞ。自転車が一苦労なら自動車は一恐怖だよ」

 車が来ていないことを確認してガードレールから身を乗り出してみると、遥か下に光が見えた。地震でも来たら土砂崩れで滅びそうだな、とか死にたくなったらここから身投げすれば簡単に死ねそうだな、とか不謹慎なことを考えた。

 これだけ街明かりが少なければ、星もよく見える。会社を出るときにうっすらと南に見えた赤く輝く星が、西の空に沈もうとしていた。そういえばさっきまで明るく照らしてくれていた月も見当たらない。気になって腕時計を見ると、あれから三時間近く経っていた。

「うげぇ、マップの予測じゃ二時間程度だったじゃんか。コンビニで休憩してたのが余分だったかな……」

 コンビニでコーヒーを飲んだから目は冴えている。イートインでしばらく座ってたから足の疲れも取れた。そう考えれば無駄な時間ではないのだが、早く家に帰ってゆっくりしたいのも事実である。

 勾配が急になったからか、それともコンビニを後にしてから時間が経ったからか、再度足の疲れを実感してきたとき、男は右手に変わった雰囲気のものを見つけた。

「石段……そんで鳥居、ってことは神社か。神頼みに興味はないが、階段ってのは椅子代わりにはぴったりだな」

 男は数十段ほどありそうな石段を三段上るやいなや、その場に腰掛けた。梅雨時の石段は少し湿ってひんやりとしていたが、疲れた身体にはむしろそれが気持ち良い。

 石段の周りは切り取られたようにここだけ木々が鬱蒼としており、湿った黒い土の向こうからは虫の鳴き声が聞こえてくる。

「『会社から7km! もう足が棒みたい、ぶっ倒れそうだ~……』っと。……まあこんな時間にツイートしたって誰も反応してくんないんだけどな。別にフォロワーも多くないし」

 スマホを空に向けパシャリ、と写真を撮るが、スマホのカメラ程度じゃはっきりと写る星は今一つだった。

「ちえっ、そんなものか。こんな午前四時の星空なんてなかなか見る機会もないだろうから、是非写真に収めておきたかったんだけどなー」

 スマホを切ると木々に邪魔されて明かりが入ってこないのか、辺りは今までよりもさらに深い闇に包まれた。

 男は頭の後ろで手を組んで、つまらなそうに石段に寝転んだ。

「あーあ、いいことねえなぁ、本当。俺の人生ってなんでこんなダメダメなんだろうか。小学生の時だって中学受験に失敗したし、中学生だってついにレギュラーになれなかったし、高校じゃクラス運は最悪だったし、大学でも単位ギリギリで、大人になったらブラック。いつだって必死に勉強してさ、周りのやつらに負けないようにーつって頑張ってたはずなんだけどな。神はいつだって俺のことを苛めやがる」

 その辺に転がっていた石を見つけると、草むらに向かって投げてみる。さっきからこの場を包んでいた虫の音が途切れた。

「いい年こいて八つ当たりかよ。しかも人でも物でもなく地面に。クソ、そんなような幼稚な精神だから学生時代一回も彼女ができたことなんてないんだよな。知らねえよんなもん、だったら俺をそうやって教育したやつらに言えってんの。……ハァ、彼女かぁ。下駄箱開けたら呼び出しの手紙が入ってたりとか、体育館裏に呼び出されて告白されるだとか、当時はそこそこ期待してたんだけどな。結局一回もそんなこと……なかったか……」

 自分の醜さに苛まれる。腹の底から黒い感情──怒りや悲しみといったところか──が湧き出てきて、まるで四方八方から怒鳴られ責められているように感じてきた。惨めな自分に耐えられなくなった男の脳に湧き上がってきた感情は───

「ああ、セックスしてえな」

「こんばんは、お兄さん」

 木の葉と星の綺麗な空しか見えなかった視界に、突如影が映り込んだ。

 今まで周りに誰もいないとばかり思っていた男は心臓が止まるかと思うほど驚き、飛び起きる。

 声のした方を向くと、確かに人がいた。身長は高くなく、髪の長い人影が。

「ビッ、ビビッたぁ……誰だよお前。ってかこんな時間に……女の子?」

「こっちのセリフ。こんな夜遅くに出歩いてるなんて珍しい人もいるんですね。あ、虫取りに来たとか?」

「そんなわけないだろ。ただの残業だよ残業」

「ふふ、冗談ですよ冗談」

 得体の知れない女の子は物怖じせず話しかけてくる。声と仕草から女の子が笑っているのは伝わるが、暗いためか顔はよく見えない。

「冗談って……ったく、女の子がこんな時間に外出したらダメだろうが。まだ日も昇ってないどころか人影すらねえぞ。不審者に襲われたらどうするんだ。───こんな感じで、さ!」

 すぐさま距離を詰めて後ろに回りこみ、口を塞ぎ腕を押さえつける。もちろん実際に襲おうなどという気持ちは無かったが……女の子は微動だにしなかった。

「襲いませんよ、誰も。いえ、襲(・)え(・)ま(・)せ(・)ん(・)よ(・)」

 女の子がそう言うと同時に突風が吹く。木々がざわざわと音を立てて揺れ、虫たちの音は止み、耐えられなかった木の葉が数枚、降り注ぐ。

 その神秘的な様子に男は恐怖とも畏怖とも思える感情を抱き、思わず後ずさった。

「あ、離してくれた。よかったです……怖かったんですよ? それにもし誰かに見られてたらお兄さん、今の相当危なかったんじゃないですか?」

「怖かったって……まあいいや。確かにそいつはそうだな、すまなかった。でも本当に危険だぞ?」

「上、行きませんか?」

 男の話をまるで聞いていないように、女の子は石段の上を指差した。

 上、すなわち境内だろう。

「いいけど……なんで?」

「ほら、つべこべ言わずに」

 疑問を呈す男に反して、女の子は手を取り、先に階段を上がっていく。男も引っ張られるようにして石段を上った。

 上った先は、案外広い空間だった。木々に囲まれた中には石段に続くように石畳の参道と拝殿が、その脇には土が敷き詰められ、ところどころに雑草が茂り、申し訳程度に遊具やベンチが置いてある。ベンチのそばには外灯が立っており、さっきの石段より断然明るかった。

 女の子は参道の真ん中を走っていく。やがてベンチの近くまで行くと向きを変え、外灯の下で止まった。

 明るいということは、より物が見えるようになる。改めて女の子の方を向くと、今度ははっきりと視認できた。

「ね? 明るいしベンチもあって、石段より全然いいでしょ?」

 そう言って女の子は微笑む。

 暗闇に慣れた目では眩しささえ感じる純白のシフォンブラウスにカーディガンを羽織り、夜とは対照的な空色のロングフレアスカート。足元ではレモンイエローのスニーカーが影にかかりながらも色味を主張している。

 なめらかな黒髪は肩甲骨くらいまで伸びており、少し目線を下にやれば年相応くらいの控えめな、しかし健やかな成長を感じさせる胸が浮かび上がる。身長は150cm台か、幼さを湛えた風貌も相まって、ミステリアスな少女に朗らかな印象を与えさせた。

「お、おう。ありがとな」

「いえいえどういたしまして、っと」

 真夜中に男女が二人でベンチに座っている見た目は、肩でも組んでいればそのような関係に見えてもおかしくない。だが、そんなこと考える余裕もなく、当の本人は焦っていた。

 それもそのはず、スーツを着た男と少女の組み合わせだ。それは一歩間違えれば事案である。男にとってそれだけは避けなければいけなかった。

 そして恥じていた。男は女の子が現れる直前まで「セックスしてえな」などと考えていたのである。男も所詮は男、それ相応の性欲は持ち合わせており、今でも「あわよくば『いいですよ、あなたとなら』とか言ってヤらせてくんねえかな」とかいう妄想がふと頭をよぎってしまうのだ。男はそれを必死に理性で丸め込み、その度に溜息をつく。

 とにかく話題を振ってそっちに意識を集中させよう、そう思って話題を探していると、女の子の方から助け舟を出してくれた。

「お兄さん、一つ約束をしませんか?」

「なんだ?」

 女の子は口の前で人差し指を立てると、軽くウィンクする。

「今日私たちが会ったことは秘密にしましょう。今日が終わればこのことは忘れて、誰にも話さない。いいですね?」

「……わかった、約束しよう」

「もー、そこは即答してくださいよ。それじゃ説得力に欠けちゃいますよ?」

 絵に描いたように頬を膨らませる。

「わかったわかった、絶対に秘密にする、約束だ」

「絶対ですからね? あと、お兄さんのお名前を教えてください」

「名前か。俺は萩谷(はぎや)敬一(けいいち)。君は?」

「私はこころっていいます。お好きなようにお呼びください」

 女の子──こころは、参道の続く先にある拝殿を指差した。

「ここ、見てのとおり神社なんですけどね。取り壊されるんです。もう少ししたら。『管理者が不在になり、参拝者も見えない廃れた神社を放置しておくわけにはいかない』だとか。酷い話じゃないですか? しかもこの神様は祟り神だっていうのに」

 そう言うこころの目は悲しみに満ちていた。感情が爆発すれば今にも涙が流れそうなくらいに。

「祟り神か……俺は神道は全然わからないけど、それでもわかるぞ。上の連中は随分と命知らずなんだな」

「そういうものですよ。お上って」

「……そういうもの、だな。お上って」

 地位と権力だけを頼りにした上司連中は敬一にも覚えがあった。どころかありすぎた。悲愴感に打ちひしがれるこころに釣られ、敬一も暗い気分になる。

 数秒の沈黙の後、先に動いたのはこころだった。苦笑を浮かべ、仕切りなおすように話しかける。

「そ、そういうのは今はいいんです! 別にお兄さんここ一帯の住民じゃないでしょうし。……話題を変えましょう。そんなことよりも、お兄さんにはいい知らせと悪い知らせがあるんです。どっちから聞きたいですか?」

 そうまくし立てると、敬一ににじり寄る。事案のことを思い出して密着はまずいと焦りながらも離れることはできなかった。

「じゃ、じゃあ悪いほうからで……」

「わかりました。…………私ね? お兄さんがセックスしたいって言ってたの、聞(・)い(・)ち(・)ゃ(・)い(・)ま(・)し(・)た(・)」

「!?!?」

 唐突な告白に敬一は勢いよく立ち上がる。動揺に心臓はバクバクと音を立て、呼吸は自然と深くなる。

「ごっごごごご、ごめんな! まさか誰かいるとは思ってもなかったから!」

「いいんですよ、別に? それよりいい知らせ、聞かなくてもいいんですか?」

「おお、おう! なんだいい知らせってのは!?」

 しどろもどろな答えを聞き、こころは小悪魔チックな笑みを浮かべる。

 こころの眼差しはしっかりと敬一の目を捉え、その瞳に敬一は全てを見透かしそうな何かを感じた。

 敬一の乱れた呼吸だけが閑寂な境内に響き渡る。

 やがて、こころが口を開いた。

 

 

 

 

 

「────別に、構いませんよ? お兄さんが望むのなら」

「……は?」

 悪い知らせに振り回されいい知らせすらも警戒していた敬一はそれしか答えることができなかった。

 それもそのはず。その言葉は例え日常で聞き覚えのある台詞だったとしても、前置きのスケールが違いすぎる。敬一にはそんなこと少しも予想できなかった。

 こころはニマニマとし、ゆっくりと言葉を続ける。

「だから、私は構いませんよ? お兄さんがセックスしたいんでしたら」

「なっ、なななな!?」

 やっと言葉の意味が理解できた敬一の脳は途端にフル回転を始める。

(セックス……ってもちろんセックスだよな。できるってんなら飛びつきたいものだけど、でもそんな簡単に体を許すものか? しかもこんな少女が? だって見た目まだJK……いや、それどころかJCかもしれねえし、そんな少女が体を許すなんてあるわけ……。しかもそれってどう考えても事案じゃねえか、見られたら人生詰みどころの騒ぎじゃねえ、即逮捕から有罪判決で社会的な死だぞ……!? ど、どうすべき、なにが正解なんだ!?)

「もしかして美人局とかか?」

「そんなわけないじゃないですか。紛れもない厚意ですよ?」

「そ、そっか……」

 考え抜いた結果出た一つの結論はすぐに撃沈した。

「大丈夫ですよ、誰もみてませんから」

「で、でもだな!」

「……しょうがない人ですね」

 こころはため息を一つつくと自分も立ち上がり、

「へっ……!?」

 ──敬一の唇に自らキスをした。

 それは唇同士が触れ合う程度の軽いキスだったが、唇に残る人肌の温かさは経験のない敬一にとっては心を惑わすのに十分だった。

「これでも動けないんですか?」

 キスをやめ敬一の目を見据え、こころは再度問いかける。

 もう悩みはなかった。

「顔、真っ赤ですよ? もしかしてお兄さん童貞さんとか?」

「う、うるせえ!」

 アハハと朗らかに笑われるが、実際図星だった。敬一には女性経験はない。どころか、彼女すらいたこともなかった。年齢=彼女いない暦だ。

 提案を聞いてから心臓は音を立てそうなほどに脈打ち、今にも吐き気に襲われそうなのを耐え、敬一もこころを見つめる。

「後悔はないんだな?」

「うん、1mmも」

「そうか──」

 そういい残すと敬一は強引にこころの唇を奪った。今度は触れ合うような軽いものでなく、もっと情熱的に、力強く。腕を女の子の首後ろと背中に回し、半ば抱きしめるような姿勢をとる。こころもそれに応じるように踵を浮かせ、敬一に抱きつく。敬一の人生で始めて自分からしたキスだった。

 女の顔がすぐそばにある、しかも童顔の整った、愛らしい少女の顔が、文字通り目と鼻の先に。敬一の理性はこれまで感じたことのない刺激を受け、くらくらして倒れそうだった。

 気を保つように踏ん張り、脳のエロフォルダをまさぐる。こういうときにはどうすべきか、その答えは至極簡単で難しいものだった。

 緊張で唾液の枯れた口内から舌を繰り出し、相手の口内へと入れ込む。カラッカラの自分とは相対的にこころはしっとりと唾液で濡れていて、先ほど触れたときとは比べ物にならないほどの熱量を受け取る。舌を絡めとる仕草に対応し、唾液がくちゅりと水音を立てる。

(これが……ディープキス!)

 ネットで得たうろ覚えの知識だけを元に女の子と舌を絡める。片方が動きを見せるたびにちゅぷぢゅぷと淫靡な水音が響き渡り、その度に敬一の雄としての本能が刺激されていく。

「んっ……」

 こころが声を上げる。初めて聞く喘ぎ声に動揺して思わず唇を離すと、逆に一歩踏み出され、唇を塞がれた。

 力の抜けた口に、ちゅく、にちゅ、ちゅぷと濃厚なキスが見舞われる。

 理性が飛びそうなほどの快楽が敬一を襲うと、口中に柔らかい、触れ心地のいいものが侵入してくる。

 それは口腔内を的確にかき乱し、粘膜を、歯の裏を、上あごをと舐められるたびに脳には興奮が飛び交った。

 やがて満足したように口を離すと、こころは唇を手の甲で拭う。

「ん、ふぅ。……全く強引なんですから。お・か・え・し、愉しんでいただけましたか?」

(な……んだこれ。やべぇ、まだセックスは始まったばっかだってのに……)

 頭がほわほわする。これまで考えたこともない強烈な快感に襲われ、驚きを隠せないとともに自分の未熟さを痛感する。

 気がつくと、キスで持っていかれた体力と酸素を補うように肩で息をしていた。

「あ、あぁ。すげぇ気持ちいい。もう理性がどうにかなっちまいそうだ」

「ふふ、それはよかったです」

「……続けて、いいか?」

「ええ、もちろん」

 聞くだけ聞き、こころが返答するよりも早く敬一は押し倒す。神社のベンチに半ば座るような形になると、敬一はそのなだらかな丘に向けて手を伸ばした。

 年相応な、もしくはそれ以上のふくらみに手が触れる。生粋の初心者であった敬一にとって胸とはママが赤ちゃんを育てるためのものとしか認識できていなかった。いや、もちろんその他の使い道も知ってはいたのだが、それはあくまでも伝聞と画面越しの圏内。自分で女性の象徴に触れることに、脳内で計り知れない感動と新たな感覚が生み出されていくのを感じた。

 六月も下旬、こころの纏った衣服はそれなりに薄手で、服の上から触るだけでもはっきりとそのサイズと感触を捉えることができる。

 まずはその他と違った盛り上がりに沿って指を這わしてみる。五本指がお椀のような形を作り包み込むと、優しく揉んでみる。

「……っ……」

 心なしか、こころの呼吸が少し乱れた気がした。指に残る柔らかい感触と、おそらくブラジャーであろう人工的な硬さを感じつつ、何度も夢に描いたように揉みしだく。

「あっ……ん……」

 悲しきかな、敬一は夢と妄想の中ではテクニシャンだった。が、現実ではそう思ったようにうまくはいかなかい。妄想の中で幾度も弄んだ豊房と眼前の未熟な果実は、同じおっぱいであっても別のベクトルを孕んでいる。といっても、その可憐な見た目にしてはそこそこ成長している──BからCにかけてくらいの──乳房ではあるのだが。

 試しに五本指で刺激するのをやめ、指で胸の至る所を押してみる。

「んっんぅ……男の人にとってはやっぱりおっぱいって珍しいものですか?」

「そりゃそうだよ。実物なんてそう滅多に見れるものじゃないし」

 触診するかのように肉の層を押していると、時々嬌声を漏らす。少ししてその時々が胸丘のてっぺんに近づいたときだと気づくが、その肝心の頂点はブラジャーに遮られているのかうまく揉むことができない。

 痺れを切らし、胸をいじる手を一旦止める。それに代わるようにして、敬一はこころのブラウスのボタンを全て開け放った。

 突然のことに驚きの声をあげ、胸元をその細腕で隠そうとする。

「ふあっ!? ……もう、いきなり大胆ですね」

「後悔はないって言っただろ?」

「それはそうですけど……まあ、少し驚いただけです」

 手から力を緩めたことが分かると、敬一はその白い腕を優しくかき分けた。服の上からでは分からなかった胸部の高低差が、キャミソール姿からくっきりと見て取れた。

 脱がせたい、そう思うには至って自然な甘美さが敬一の大脳を刺激する。

「……脱がすぞ」

 返事はなかった。が、拒まないその態度が彼女の返事だと受け取る。

 初めての体験に興奮とも緊張とも分からぬ感情が心拍数を上昇させる。

 キャミソールの裾に指をかけゆっくりとたくし上げると、少女の華奢でしなやかな体躯が、無垢で白い柔肌が露出する。上半身をなおも覆い続けるブラウスを脱がすと、少女の身体を隠すものは薄水色の谷間に小さなリボンのついたブラジャーだけになった。

 そして、さらにブラジャーにも手をかけてずらした。

「こ……れが……」

「うぅ……ちょっとさすがに恥ずかしいですね……」

 弾力のある、弓なりに膨らんだ肉肌。山の頂上は他よりほんのりピンクに染まり、その中心には控えめに主張する小さな果実が実っていた。

 先ほどまで余裕な雰囲気を醸していたこころもさすがに赤面し、俯く。

(これが女の子の……生のおっぱい……生の乳首……)

 現実を受け入れようとして理性が飛びそうになる。何とかギリギリのところで保つと、心を落ち着かせるように何度も脳内で反芻した。そしてすればするほどより鮮明に現実を認識してしまい、平常を保つので精一杯になる。悪循環を断ち切るためにごくりと生唾を飲み込むと、深呼吸して脳に酸素を行き渡らせる。冷静な思考が戻ってきたところで、敬一はその眼前の小さな実を指の腹でなぞってみた。

「ひゃぁっ!」

 短い悲鳴が漏れる。

 初めて触った肉粒はある程度の硬さを保ちながら、指に確かな感覚を返してくる。

 今度は両手で両の種を、先ほどの触れるようなタッチでなく、もっと力を入れて押し転がすようになぞる。

「っ……! んんっ! あっ……!」

 指の腹で痼りが角度を変える度、こころの身体が僅かに動き、同時に嬌声が漏れる。その艶気のある声に敬一の理性はどんどん溶かされていく。

 やがて今度は大きく手を開き、手のひらいっぱいにその乳肉を掴む。手の中心に乳房の先端を捉え、五本の指で丁寧に揉みしだきながら腹でこすってみる。

(おっぱい……おっぱい、おっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱい──!)

 自分が指に力を籠める毎にふにゅりと形を変えるのを凝視していたら、急速に理性を失っていった。敬一の冷静な頭は既に熱によって冒され、代わりに獣のような衝動が腹の下から湧き上がる。指先の神経を通りマシュマロのような柔らかな触感が事細かに体全体へと駆け巡り、脳から幸せのサインが溢れ出た。

「あぁぁあん! んんぅ、ひゃぁぁ! ……だっだめっ……敏感なところ……っんん! すごくぅ…………!」

 理性を失った獣は、同時に知性も失った。さながら幼児と化した頭で、ただひたすら眼前のおっぱいのことだけを考える。

 息遣いが荒くなり、脳が酸欠の悲鳴を上げる。仕手であるにも関わらず快楽に飲まれ男の視界は真っ暗になり、そのまま真正面の白肌へとなだれ込んだ。

「ふぇえっ!? お、お兄さん!?」

 混濁した視界の中、女の子の生肌から香り立つ匂いが鼻腔を通り抜けるもそれを楽しむ余裕すらなく。次第に目は光を取り戻したものの視界は未だ朦朧とし、こころの呼びかけもどこか遠くに聞こえる。

(なんだッ……これ……頭がすっごくほわほわして……はたらか……ない……)

「ひゃん! ……っ!」

 不意にこころが喘ぎ出す。それもそのはず、その胸に顔を預けた口元からスースーと漏れる息が胸の先の突起にピンポイントで吹きかかっていたからだ。

 その喘ぎ声が敬一の官能を再度刺激した。遠かった耳がはっきりし、濁った視界も鮮明になっていく。そして、クリアな描写の中央には淡いピンクの塔が聳えていた。幼児退行した脳内が一つの衝動で埋め尽くされていく。それは幼児敬一としての、生理的欲求だった。

「おっぱい…………吸いたぃ……」

「!? あぁん! ふ、はぁっ……っ!」

 言うが早いか細い身体の上で器用に回転し、抱きしめるようにして背中に手を回す。そして視界を埋め尽くす乳果の、少女の豆粒を咥えた。

「あぁっ、やあん ! そ、そんな……先ばっか、り……ひぁぁあ! あっ……んんん! ふぁぁああん!!」

 それは前戯では決してなく。ただ幼児が母乳を求めるように、ひたすら目の前の小さいお母さんの乳を吸いたてる。もちろんそれで何かが出てくるわけではないが、興奮状態の敏感なところには過度な刺激だった。

 少女は今までとは比類ない嬌声の連続を見舞い、身もだえ、よじる。快感の波に襲われ腰が浮く度に木製の粗末なベンチが軋んだ。

「ひぅっ! だめぇ……はぁっ……! そんなに吸ったらっぁぁああ! んっあああ! ……気持ちよくて、はっああんん!」

 外で、誰かに見られるかとの考慮すらもなく叫ぶ。いや、快楽の絶頂が口を衝く。可憐な少女は胸の宝石への激しいベーゼに耐えることはできなかった。

 その熱の籠った吐息に敬一の色欲は再形成されていった。その構築と同時に先ほどまで失っていた知性が取り戻されていき、それがMAXまで達したとき、ついに敬一は乳芽を手放す──口放した。

 吸った方も吸われた方もお互い大きく乱れ、エネルギーを消費していた。肩で息をしつつ少女の小さな手が男の髪を撫でる。

「ふぅっ……よしよしお兄さん、ちゅっちゅ、よくできましたね~♡ 偉いですよ~?」

「はぁっ……はぁっ……俺、ちゃんとできてたかな? こころのこと、気持ちよくさせてあげられた?」

「優柔不断な上に心配性だなんて、情けないですよ? 大丈夫です、私はとっても気持ちよかったですから……じゃあ、そんなお兄さんにご褒美を与えちゃいましょう!」

 とろんとした目で敬一を褒めると、突っ立ったままの敬一の股ぐらに手を伸ばした。さっきから五感全体で様々な刺激を受け取っていたその海綿体は既に血液をいっぱい溜め込み、パンパンに膨れ上がっている。パンツ、スラックスの上からでもよく分かるほど怒張した盛り上がりを、細い指が一撫でする。

「あッ……つぅ……」

「ほらほら、力を抜いて楽にしてください? 私が今からマッサージをしてさしあげましょう」

 そうは言われても、このような状況で脱力しろというのも無理がある。もちろんそれはこころも十分承知しているみたいで気にすることなく愛撫を続けていく。

 まずは静かに、一本の指だけで責めていく。根元の方に指を動かしたかと思うと、爪の先でつっとゆっくり、尿道の上をなぞる。陰茎の中に張り巡らされた神経がじわじわとした快感を脳に送り込み、裏筋のあたりを爪が通ったとき、快感は一気に増幅された。

「あっ……」

 自分一人で慰めるときでは到底することのないような念入りな愛撫に思わず声が漏れる。それを聞いたこころはかすかに微笑み、今度は折り返して指の腹で雄の性感帯を刺激する。

「っ……ぁ……!」

「どうです、気持ちいいですか?」

 小悪魔のような笑みを浮かべながら裏筋のあたりを念入りに往復する。その度に全身を快感の電流が走り回り、ボクサーパンツで押さえつけられた肉棒が電流の波とともにビクンと震えた。

「うっ……あぁ……気持ちいいよ……」

「えへへ、それはよかったです!」

 自らの愛撫を褒められて気を良くしたのか、今まで一本の指で嬲っていたのに残りの四本指も加える。五本の指で絶え間なく筋をなぞったり、と思ったら今度は竿のてっぺんをわしゃわしゃ擦ったりと慣れた手つきで敬一の敬一を可愛がっていく。

 時折流れ込んでくる強力な悦楽に頭が痺れ、これまでのたった性欲処理に過ぎない自分の行為と質の違う興奮が体中を満たしていく。

「……はぁ……ぅっ…………うぉっ! ……んぁあ……」

「いい感じに喘ぎますねお兄さん……♡ そんなに感じられると私だって、もっとシてあげたくなっちゃいます。……ほら、そろそろ脱いじゃってもいいんですよ?」

「脱いじゃって……そ、そうだな」

「それとも私に脱がせてほしいとか言うんですか? お兄さんってば、とんだ変態さんですね」

「ちちちがっ、そういうわけじゃねえよ! そんなにいうなら脱ぐからよ、その代わりもっと気持ちよくしてくれよな?」

「はい、お任せあれです!」

 この男、既に扱い方をマスターされてしまっている。学生時代からずっと据え膳を食えないタイプの人間だった敬一は挑発されないとなかなか動けないし、逆に挑発されればすぐに反抗する。そうやってセックスを提案されたときから動かされているのに本人はまだ気づいていない。

 目の前で女の子に魔羅を弄ばれながらベルトを抜く。金具をはずし、チャックを引き下げると先ほどまで敬一の下半身を守っていたスラックスがいとも容易くずり落ちた。十数分ほど前まで会社から歩いてきて酷使された太腿にパンツがぴっちりと当たり、下腹部だけが怒張した男根によって元気よく盛り上がっている。腰周りのゴムの先からはその先っぽが少しはみ出ており、今は触られてもいないのに快楽を求めて時折ビクンビクンと跳ねる。

 この男敬一、例に漏れず脳内では羞恥など自分は捨てていると思っていた。経験のみないものの、エッチな女の人に誘われたら据え膳食わぬは男の恥、躊躇なくそれに飛びつき恩恵を享受するものだろうと。しかしこれも例に漏れず現実は妄想と違い、敬一の心臓は不安と緊張でドクンドクンと血液循環を早めた。

 何より自分のイチモツを女の子に見せるのだ。しかも一回りも二回りも年下の、年端も行かない少女にだ。先から少なからず快感の恩恵に身を浸している敬一には既に美人局だの通報されるだのの心配などとっくに忘れている。警戒心を失った代わりに心に芽生えたのは、自分の息子を見て笑われたりしないだろうかとか、引かれないだろうかといった心配事だった。

 畢竟敬一はヘ(・)タ(・)レ(・)であった。

 パンツに手をかけたまま止まってしまったヘタレ男を見て、こころはむーと頬を膨らませる。

「もう、だから優柔不断は情けないですよってさっき言ったじゃないですか! もういいです、私が下げちゃいますから!」

 そう言い放つと親指の隙間に指を入れ、ボクサーパンツを勢いよくずり下げた。今まで抑圧されていた愚息がその縛りから解放され、ぶるんと勢いよく跳ね起きる。

「きゃあっ!? ……わあ、なんというかその……えっと、そう! ご立派ですね! さすが大人の男の人です!」

「ま、まあな」

 落ち着きを取り戻した太棒は重力に逆らうように堂々と上に向けて反り立っている。その容貌は日本人男性の平均と比べ長くも太くもあり、なかなかに厳然な風格を呈していた。

 普段見ることもないであろう男の肉刀に興味津々なこころは立ち上がって多方面からその刀身を観察し、時折浮き出た血管やギチギチと音でも鳴りそうなほどパンパンに膨張した様子につど「おぉ……」とか「へぇー……」とか、感嘆の声を漏らす。そして、手をわきわきとさせ始めた。

「すごく、おっきいです……。じゃ、じゃあマッサージの続きと行きましょう!」

 星の綺麗な空を指すモノを今度は両手の、十の指でふんわりと包み、収まりきらない亀の頭にチュッとキスをした。何気ないその動きは受け手としてはとても淫らに感じられ、思わず背中がビリビリとするほどの愉悦を感じる。まつげの長い、ぱっちりとした愛らしい目を開けると、手を離し、欲塊の先端の愛撫に走る。

 細い指が滑らかな曲線を描く頭に絡みつく。軽く撫でるだけで敏感肌は淫悦を感じ、ビクンと電気信号を発射しながら透明な液を先走らせた。少女は慣れた手つきで粘るゼリーを拭い取り、それを潤滑油として更なる興奮を生み出させる。

「ふっ……ゔうっ!」

 女の子の温かい手。そのほのかなぬくもりはゴツゴツした自分の手と違って、柔らかな感触も相まってまた別次元のものを感じさせた。その手から生じる快楽は非周期性の波形を作り、時たま思わず下腹部に力が篭るほどの悦波となって襲い掛かる。

(あぁ……ダメだ、何でか知らんけど声が止まんねえ。何でこんなにゾクゾクするんだ……!?)

 興奮と背徳感で敏感に成り果てた欲肌のせいで、どんなに抑えようとも快感の叫びを止めることができない。そのことは既に向こうもお見通しのようだ。

「ふっふっふー、声、抑えなくたっていいんですよ? お兄さんの喘ぎ声、とっても魅力的ですから♡」

「そんなこと言ったってなぁ…………あぐっ!」

「あはは♡ ほら、抵抗しなくたっていいんですよー? 心の赴くまま、自分に素直に……」

 こころは目を見据えながら不意に立ち上がり、自分が今までいた場所に交代で敬一を座らせる。当然、股間の剛直は角度を増し、上を通り越して自分の方へと淫溝を向けてくる。

 再度指をそそり立つ幹へと絡みつけ、頂上のスリット目掛けて涎を一滴垂らす。外灯の光を受けてぬらりと艶めく液体を潤滑油代わりに、今度はその形を保ったまま、ゆっくりと動かしていく。

「うがッ! ……あァ……」

 滑らかな手のひらが幹から枝先までを念入りになぶりまわす。人差し指と親指でできたわっかが二つを分ける段差に引っかかるたびに擦れ、摩擦が強烈な淫靡となって踏ん張る必要のなくなった足の裏をビリビリと痺れさせた。先までよりも一回りも二回りも強い刺激が層のように折り重なり、敬一の腹の内に募っていく。

(これが本当の手コキ……ッ! 自分でシコるのとは比べ物になんねえ。このテクニック……こころは一体……?)

 感動や疑問が脳内を駆け巡るが、荒波のような愉楽が全てを洗い流していく。どうでもいい。温かで柔らかな少女の手技だけに身を任せていたい。次第にそんな煩悩に頭が埋め尽くされていく。

 こころの手淫は絶妙だった。始めはゆっくりじわじわと舐め回すように快楽を与えていき、突如一気にその速度を引き上げる。刺激に慣れ始めた淫肉に性質の異なる興奮を与え飽きさせない。時には優しく、時には激しく、焦らしながら、攻め立てるように敬一の勃起肉棒へと絶頂を送り込んでいく。

「あああ……あうっ! ……ふぅー、ふぅゔっ! ……すげえ気持ちいい…………やばいよ……んんンッ!!」

 にっぢゅ、ねちゃ、ねじゅ、にぢゃと淫靡な水音と男の喘ぎだけが閑静な境内に響き渡る。鳴いているはずの虫の音も、風に煽られて呻く木々も、耳に入ってこない。唾液と先触れ液の混合潤滑液が奏でる生演奏は自分が実際に今シているんだという実感を沸かせ、聴覚を通して脳内麻薬を溢れさせる。

(お兄さん、とてもよく喘いでる……気持ちいいんだ。よぉし、もっともっと感じさせてあげなきゃ)

 口角の上がった口元に続き目元も崩れ、上機嫌な笑顔を浮かべる。こころの口元を赤い舌先が一周する。

 突如、舐め回すような念入りな手淫から一転、ピストン運動が加速する。敬一の腰から力が抜けて、一瞬跳ねた。着席の反動で木製ベンチがガンッと一際大きな衝突音を響かせる。

「あはっ♡ すごい、跳ねちゃいましたね、今! ほら、お兄さんのおちんちんびくんびくんしてますよ。こんなに悦んでくれて……私も嬉しくなっちゃいます!」

「あぁ……ああ……! いいよ、気持ち……イイ、よッ! ありがと……」

 乾いて動きが悪くなる前に唾液を継ぎ足し、常に潤いを保っておく。大振りな高速手コキは徐々に趣を変え、スピードそのままに細かな動きでカリ首を幾度となく往復した。

 敬一の松茸は特に傘の付け根が敏感だった。こころはそれを数度の行き来で見極め、傘下を重点的に刺激するよう移行する。その圧倒的な観察眼と判断力に敬意を表しつつ、初めてを捧げるであろう女がこころでよかったと、見ず知らずの初めて会った少女であるにも関わらず安堵が生まれていっていることに気づくことはなかった。

 甘美な痺れが脳を焦がす。官能が前立腺を責め立て、少しずつ射精までのタイムリミットが近づいてくるのを感じさせる。

 何の弾みかふと一瞬冷静になった自分が、年下の少女に大の大人が啼かされてる構図に気づき、胸の内から恥ずかしさが激しくこみ上げてきた。

 敬一は元来オナニーして喘ぐようなタイプではない。無言で、一人黙々とオカズ片手に手を動かすだけだ。しかしそれが、生の少女の手となると途端に声を我慢しようとも漏れ出てしまうような興奮と快楽を享受しているわけだから疑問なのだ。これはこころのテクニックがずば抜けているからか、それとも他人にされているからか、はたまたセックスしているという場の雰囲気がそうさせるのか……。常に蕩かされ続ける麻痺した脳みそで考えようとして、気づくと……嬌声が一時的に収まってしまった。

 観察眼の鋭いこころはもちろんすぐに気づき、上機嫌な笑顔から一転して不満顔になる。

「あれっ、お兄さん……。んーもう、どうしたんですか!」

「……あっああ、なんでもないよ! うん! いやぁ、こころの手コキが気持ちよすぎて……ちょっとぼーっとしちゃって」

「嘘ですね。目が泳いでますもん」

 指摘を受けて慌てて首を振るが、既に時遅し。上目遣いで睨まれ、さっきまでの官能とは別に焦りの感情も募っていく。ああさよなら、俺の童貞卒業。こんにちは一生童貞の称号。

 ……だが、事実は小説よりも奇なり。

「そんなお兄さんにはお仕置きが必要ですね!」

 ふにゅっ。

 突如として、敬一のペニスが生暖かい感触で包まれた。先っぽに蠢く何かが当たる。そして、この感触には覚えがある。

 こ(・)こ(・)ろ(・)が(・)肉(・)棒(・)を(・)口(・)で(・)咥(・)え(・)て(・)い(・)た(・)。

 小さなお口でキノコの傘を咥え、口内で舌先をチロチロと動かして亀頭を刺激する。温かく滑らかな影響もあり、指による愛撫と比べ何倍も強い悦楽が敬一のつま先から頭のてっぺんまでを駆け巡った。ここまで来ると一人じゃできない、もう経験したこともない領域。喘ぐことが普通なのか否かの比較対象までなくなり、曖昧な問いは満員混雑の脳内から叩き出されて思考は快感と欲望に埋め尽くされた。

「んはぁッ!? うっ……ゔっッ!! ハァ……ハァ……ああ…………」

 糸を引きつつ口を離し、今度は陰茎の付け根──玉袋と肉茎の間ぐらいから舐め上げられる。涎でぬめった卑猥なスポンジは敬一の自制心を洗い流し、オーガズムのボルテージをぐんと引き上げた。かれこれセックスが始まってから十分近く本来の機能を果たせていなかった雄棒が使命を果たそうと動き出す。

「もおっと激しくいっちゃいますからね~? おちんちん、どこまで耐えられるでしょう♡」

「望む……ところだぁっ……!」

 麓から頂までつゆをまぶされたソーセージにしゃぶりつく。そしてそのまま、少女の柔らかい唇で上へ下へと扱く。抽送の度に口唇が張り詰めた海綿体を懇ろに押し返し、悦楽を送り込む。時たま勢いあまって鈴口が軟口蓋にキスを見舞い、迸る悦びが体がぞくぞくっとさせた。

 淫らなおくち遊びは指や舌でいじっていた時とは比べ物にならない、淫らに乱れた水音を神社いっぱいに轟かせる。ぐぷっ、ぶぢゅっ、ずじゅじゅっと粘膜同士が擦れる音が生まれる毎に耳で感じ取った卑猥音を脳が興奮に置換する。さながら耳レイプだ。

「ふふふっ、ろおれすか?」

「まっ、まだまだ……あぎっ、うっひゃっぁ……ううっ!」

 口だけは達者だが、もちろん現状はそんな余裕もなく。既にエクスタシー登山は半ばを優に越え、最後の断崖絶壁を前にして二の足を踏んでいる。この崖登りを再開したら最後、敬一は敗北者となるだろう。折り重なる快楽の濁流が前立腺を刺激し、興奮が自分の中で一段と高まっていくのを感じ、下腹部に力をこめる。

 フェラは次第に激しさを増し、肉幹を、カリを、裏筋を、亀頭を、陰茎全体を余すことなく刺激する。と思えばスピードを緩め、喉奥で先っぽを捉え強く吸い上げる。また上下を繰り返せば、咥えるのをやめ舌先でくすぐってもみる。度重なる舌技と口技で止まることなく攻め立てられ、脳に激烈な痺れが訪れるのに合わせて倅がびくんっ! と何度も跳ね暴れる。

「うあぁっ!! ……ふー……っんが! あァ、ぁアァッ! ああっ、くそぉ! ……ひっぐぁぁあア!!!」

 再度口を窄めて音が鳴るほど吸い上げられ、真夜中ということも気にせずに絶叫してしまう。まるで魂が抜きとられるかのような感覚が身体を襲い、自制も聞かず涎が垂れる。咥えられて見えなくても、息子が先行する涎を垂らしているのも手に取るように分かった。

 気を良くしたのか口抽送はどんどん拍車がかかり、何度も何度も淫竿の付け根と先端を行ったり来たりする。神経は次々に送り込まれる快楽の電流で埋め尽くされ、脳は処理落ちし理性はメルトダウン、射精中枢はもはや限界を迎えようとしていた。

「あっ、ああっ! ダメだ、もう! こころ……俺、オレェッ!! ダメ、もう無理だ、耐えられ……うゔうっ!」

 射精とは奇妙なもので至るまでの快楽関数は直線ではなく、むしろ放物線よりに、限界に近づくにつれいきなり強くなる。敬一はどんどん男根がじんじんとした痺れを強めて行くのに気づき、もうエクスタシーまで幾ばくもないのを悟っていた。

 こころの口遊戯は一層早くなる。じゅっぽ、にゅっぢ、ぐちゅりと淫猥な水擦れの音も激しさを増し、口の端から粘った涎が糸を引いて垂れ落ちた。スパートを受けて肉槍は溢れんほどの快楽を享受し、何度もビクッと痙攣を起こす。口内で激しく愛撫された槍先が仄かに張り詰めて膨らむ。

 快感に脳が溶かされ、肉棒も蕩かされ、そんな状態で敬一の心にふと思い浮かんだのは「愛おしさ」だった。セックスしている相手は素性の知れない、不思議な少女。だけどそんなことは今となってはどうでもよくなり、ただひたすら年下の少女が冴えない自分に尽くしてくれていることに、背徳感と愛おしさを抱かずにはいられなかった。限界を目前として、男は叫ぶ。

「んがっ……ああああぁっ!? こころっ、こころぉお! こころ、俺もう、もうっ……! あっ、ぁぁああああ!!!」

 射精中枢にズシッと重い一撃が迸り、膀胱の下から熱いものがこみ上がってくるのを感じる。同時に愛おしさも決壊し、思わず伸ばした手が抽送にあわせて小さく上下する少女の両肩を、鎖骨が折れそうなくらいに握り締めた。

「でっ、射精(で)るぅぅうううっ!!!!」

 ──どびゅっ! びゅるるるるるうっ!!

 男の絶叫と同時に、少女に咥えられたままの肉銃は勢いよく白濁液を撃ち出し、少女の口腔を汚していく。肉筒の中を子種汁が駆ける。かすかに痙攣しながら筋肉が収縮するのとは裏腹に、敬一自身は深い幸福感と開放感に満ちていた。

 自分の荒い息遣いと心臓が、肉棒が脈打っている感触だけを感じながら、静寂に身を委ねて射精の終わりを待つ。やがて痙攣の波が止み肉筒が空っぽになったのを感じ取ると、今なお硬く張り詰めたままの欲竿を口から引き抜いた。白い涎が糸を引く。

「ん……んくっ。……ごくり。ふわぁ、すごいにおい……いっぱい出ましたねお兄さん……♡ えへへ……お兄さんの精液、ちょっと大人の味がしました……ごちそうさまです♡」

 喉を鳴らし、スペルマを飲み込む。その後口を大きく開けて何もないのを見せ付けると、少女はそう言って笑った。刺激的な快楽を得たそばからぞくぞくと背徳的な快楽に襲われる。

 敬一は言葉を発することもできなかった。快楽の幸せを噛み締めながらこころの肩を抱きしめ肩で息をする。初めて女の子に出したという喜びと感動に脳が支配され、急速に思考力が低下していく。仕事で疲れきった心情など脆いもので先ほど再構築された理性が再び音を立てて崩壊する。賢者タイムなど感じることもなく、オスの性欲だけに支配されていった。

「あ……っああ、ハァ……ハァ……ありがとう……ありがとう、こころ……」

「ふふっ、いっぱいびゅーってできましたもんね。お兄さんもさぞ気持ちよかったんですよね。それなら私は嬉しいです。……でも、今度はお兄さんが私を愉しませる番ですよ?」

 そう言ってびくびく跳ね続ける恥先にチュッとキスをするとこころはベンチに座り、手を取ってそのままスカートを越えて自分の秘部へと運ぶ。下着一枚越しの感触はしっとりと濡れていた。

 生温かなイケない感触に雄の本能が呼応し、ズボンを下ろした開放的な外見にも構わずこころと対峙するように座りこむ。

「……ひひ、ふへへへ……」

 到底人間のものとは思えないような声、或いは呻きを上げ、膝下までカバーする水色のスカートを一気に跳ね除ける。

「あはっ……♡ 相変わらず大胆ですね♡」

 スカートの先、眼前に広がったのはシンプルなつくりをした白いパンツだった。軽くフリルのあしらわれた、それくらいの飾りっ気のないパンツ。だが目の前の少女の外見と見比べると、むしろ愛おしささえ生まれてくる。

 もう獣には我慢などできるはずがなかった。手つきは慎重ながらも躊躇なく、小股へと伸びる。下着の上から触ると既に溢れた愛蜜によってぬめりと動いた。

「脱げ……脱がすぞ……!」

「は、はいっ……!」

 言うが早いか腰の辺りに手を掛け脱がそうとする。が、こころが座っているせいでどんなに引っ張っても尻から下にはいかない。くすっ、と笑って少し腰を浮かすと、するするとショーツは足首まで運ばれた。布が秘部を離れる瞬間、透明な粘性の液体が糸を引いて切れる。

「こ、これが……」

 ごくりと生唾を飲み込む。敬一の視線の先には秘密の花園が広がっていた。

 女の子のお股のワレメ。他より少し盛り上がり、毛は生えていない。純潔な秘裂はつゆを纏い、外灯の光を受けてほのかに照っている。

 もう言うまでもなく敬一は女性の裸体など面と向かって見たことはない。無くなりかけた理性はついに蒸発し、自我は融解していく。

「ひゃあぁっ!?」

 今や本能と性欲で動く敬一に、他人を思いやる能力などなくなっていた。心の準備をさせる間もなく、いきなり眼前の蜜壷へとしゃぶりつく。姫器を覆う愛液を舐めとり、音を立てるほどに吸い上げる。

「は……はぁ……! これが……ぁあ!!」

「あっ、んんっ……だめっ……そこ、吸い上げちゃぁあっ!」

 吸い取るほどに姫裂からは潤滑汁がとぷとぷと溢れてくる。そしてそれをまた舌や口で取り去る。そこには早くもエロの永久機関が出来上がっていた。

 ずぞっ、ぴちゃ、じゅるるるっと啜る音だけが境内にこだまする。時折、勢いよく吸いたてたり舌が裂罅(れっか)に当たる度に、耐え切れなかった嬌声が漏れ出てコーラスを奏でる。

「じゅぞっ……ごく、れろっ! ……ハァ……ハァ……こころ……じゅずずっ!」

 収まりきらないおなごのエキスがベンチを段々濡らしていく。声を荒げる法則に気付いた獣は更なる快楽の賛美を求めて、純潔を守らんとする最後の壁をかき分けるように舌をねじ入れていく。

「んっ、ふわぁ! ……くっ、くすぐった……! ~~~~~っ!!!」

 続いて境目の分水嶺に飛び出た肉芽を舐め上げると、声にならない叫びがほとばしる。ぴくんっとこころの体は跳ね上がり、湖はじわっと水嵩を増した。

 舐め取り、吸い立て、ねじ込む。その愛撫は決して優しいものでなく、ただ性欲の塊と化した獣が己の欲望を埋めるために行っているに過ぎないが、奇しくも可憐な少女にはその荒々しい前戯が噛み合った。涎を垂らしたままの口が少女の口を刺激するたび、快楽の印が湧き出る。一人はただひたすらに食らいつき、一人はただひたすらに享受する。互いに無心のままのひとときはずっと続くかのようにも思えたが、やがて終わりを迎える。

「ちゅっ、ちゅくっ! ……ぢゅぱっ……ハァ、ぐぷ、ずぞっ……ハァ……れろん……はむっ!」

「んんんっ! …………あぁっ……んっ! ……はぁっ…………ふぁあ!」

 時々小さな痙攣を見せる二枚の肉襞に鋭く口付けを見舞う。念入りに楽園への入り口をほぐした後、舌先でぷくりと膨らんだ淫豆を撫で立て、ぬめりを纏った両唇で挟み込む。自分が肩で息をしているのに気付き顔を上げると、僅かに虚ろな目をしながら、これまた肩を動かして息をするこころの姿があった。

「あっ……俺っ……」

 ようやっと自分がまたもや理性を手放していたことを悟る。その途端、傷つけたんじゃないかとか、いけないことをしたんじゃないかとか、これまで快楽によってシャットアウトされていた不安が一気に襲い掛かってくる。

 こころはもう、そんな不審な行動に疑念も抱かなかった。今までの敬一を見ていれば、何を考えて、何に焦っているのかくらい手に取るように分かる。そして、それが全くの杞憂だということも。

 急に震え始めた敬一を、こころは優しく包むように抱きしめた。

「……凄いですね、お兄さん。本当に童貞さんなんですか? 私……こんなに、その……気(・)持(・)ち(・)よ(・)く(・)させられるなんて思ってなかったです。えへ、ありがとうございます♡」

 そういいながら、動揺する敬一の頭を撫でる。優しく、ゆっくりと、まるで言い聞かせるように。

「あ、ありがとうなんて……そんな……俺、何もわからなくて……感謝される筋合い……なんて……」

 無言で微笑みながら、腕の中のヘタレを見守る。それは、働き詰めで人の温もりを忘れた男に、大きな安堵と元気を与えていった。最初こそなんだかんだと言い訳がましく呟いていた敬一だが、静まる感情の波に合わせ黙り込むまで、そう時間はいらなかった。

 腕に包まれた中で、深呼吸を繰り返す。収まった怖気の代わりに胸のうちに浮かんでくるのは、深い欲望と、愛情。正面の乙女に言いたいことはもう定まっていた。

 少女のももの間からゆっくりと立ち上がり、Yシャツの袖で艶液にまみれた口周りを拭う。そして、相対する彼女の目をしっかりと見据え、

「こころ。セックスしよう」

「……ええ、喜んで!」

決意を伝えた。

 

 

 

(セックス……セックスするんだ、俺。ついになんだな)

 まだ出会ってから30分ほどしか経っていない。にも関わらず、ここまでの道のりは敬一史上最大に密度が濃い。石段の下で出会ってからのこと、神社でやりとりしたこと、キスしたこと……全部が、死んでもいないのにまるで走馬灯のように脳内を駆け巡る。

 それと一緒に、ついさっき自分が伝えたこと、そしてその返答が、何度も何度も反芻される。セックスを、する。それは非モテの敬一には想像もできなかったことで、最大の喜びであった。

 目前には頬を少し赤らめ、ベンチに浅く腰掛けたこころがいる。ブラウスもスカートも脱いではいないが、下ろした白いショーツは左足首に掛かっていて、ブラウスのボタンは全て開け放たれている。

 俯いたまま、こころが口を開く。

「私は……準備できてますよ」

「ああ……よし、やるか」

 空色のスカートをゆっくりとたくし上げ、靴を脱いだ両足を座面の上へとやる。しごいてもらったあと、そのままずっと露出させっぱなしのガチガチに硬くなった肉棒を掴む。

 ついに、一対の赤ちゃん機構が対面を果たした。

 一方は既にその溝を覆い隠す布を剥がされ、足を上げさせられて、隠すこともままならない。他方はズボンもパンツもずり下ろし、地面と水平以上にいきり立ち存在感を誇示している。

(ここに俺……今から……挿入(い)れるんだ……)

 腰から下を露出したこころの姿は妖艶だ。しかしその骨格や肌はどこか幼さを感じ取れるほどに華奢で瑞々しく、思わずドキリとする。そんな女の子を今から一思いに犯してしまうんだと思うと、背徳感にやられてくらくらしてしまう。

 掴んだ竿を顕わになった淫裂に近づける。二枚の姫襞に怒張した肉傘が触れ合った。

「……挿入れるぞ」

「はいっ……!」

 その返事に満足したように頷くと、敬一はゆっくり、腰を前に押し出した。

 みちっという水音を鳴らしながら、肉竿は少しずつ飲み込まれていく。

「んっ……あぁっ……! お兄さんのおちんちん、挿入(はい)って……!」

 いきなり太い棒が膣肉を割って入ってくるのだ。こころはじんじんとした快感をキャッチしながらも少し、顔を歪めた。

「……痛い……か?」

「ううん、そんなことない……私は大丈……んっ!」

「そうか、ならこのまま……」

 こころの言葉に安堵すると、挿入を再開する。ゆっくり、女の子が痛みを感じることのないように、労わりながら腰を進めていく。

 そして───

「……全部……」

「あっ……ああっ、挿入いっちゃったぁ……! 私の、膣内(なか)にぃ……っ!」

 ───敬一の雄棒が根元まで、しっかりと姫器によって咥え込まれた。

 温かい。女の中。人肌よりも活発な体温が、触れ合うことによって直に感じることができる。上下左右から押し潰さんとばかりの圧力が締め付けてくる上に、ぬるっとした潤滑液の感触が淫竿に絡まり、じりじりとした甘い痺れを生じさせる。

 敬一の脳はそれだけで幸せの頂上に達していた。興奮、感動、歓喜……いくつもの複雑な感情が絡まりあい、結果としてそれ全てが達成感と幸福感にすり替わるのだ。

 ふー、ふーっ、と荒い息遣いでありながら、こころも同様に幸せそうな笑みをその顔に浮かべていた。まだ動いてもいない、始まったばかりだというのに、二人にとってはこの繋がっているという感触が何よりも尊いものに思えた。

 ……しっかり結合してからいったい何秒、いや、何分経っただろうか。二人は互いに微笑みを交し合うと、唇を近づけた。

 舌を入れるわけではない。しかし、激しく、想いを共有するかのように繊細に、接吻をする。

「……動くよ」

「……はい」

 一言伝えてから、再度腰を動かし始める。前戯のおかげか、それとも今の幸せによるものか。こころの膣壁からは際限なくラブジュースが湧き出て、スムーズに抽送は行うことができた。

 ぢゅぷっ、にゅずっ、と、ゆっくり出し入れする度に水音が奏でられる。まだ敏感な部分が擦れあうごとに強烈な快波に襲われ、思うように早くは動かせない。

「ああっ……あああ……! こころッ……!」

「お兄さんっ……!」

 快感に脳を慣らすようにゆっくりと腰を引き、またゆっくりと押し進める。自分の倅を、相手の秘部を労わるように。しかしそれは、いつの間にかねっとりとしたスローセックスへと姿を変えていく。

 じらすが如くの静かな出し挿れは甘い囁きとなって中枢を刺激する。それはこころの手技なんかに比べると断然微弱なものであったが、代わりに断続的な侵攻となって襲い掛かり、思わず自然と笑みがこぼれていく。

「はっ……ふぅん……きゃっ……! すごい……私、今、繋がって……! 挿入っちゃって……!」

 度々襲い掛かる甘美な波に時折、喘ぎ声と苦悶とも愉悦とも取れぬ顔をする。それを見た敬一の胸中に「俺今、犯してるんだ……女の子に挿入れちゃってるんだ……!」という思いがムクムクと湧き上がり、既にパンパンに膨れ上がったはずの勃起を更に張らんとさせる。

 しかし当の女の子は、快感を享受しながらも複雑な表情を浮かべたままだった。悶々とした気持ちが男の手を取らせる。

 十本の指を絡ませ、頬を赤く染めながら敬一を見つめる。

「……あ……の……、もっと……その、激しく……してもいいんですよ…………?」

 恥じらいを隠せず、けれども自分の望みをそれとなく伝える少女にくらくらする。

 際限なく増し続けていく愛おしさで、その細い指を、手を、握り返す。

「……ああ、わかった」

 徐々に、スピードを引き上げていく。何事も速ければいいというわけでもなく、二人の間にとって適切なのを、より速く、より激しく。

「うぁ……ぁあっ…………」

「ふぅッ……、んっ……んんっ……!」

 取り囲む木々に隔てられた神域に嬌声だけがこだまする。静かな空間は互いの想いをよりしたたかなものへと結ばせる。取り合った手に入る力が増していく。

 肌を打ち付けあう鋭い音と、結合部で奏でられる淫靡な水音は次第に激しさを増し、二人だけの空間をより鮮明に切り取っていく。

「こころっ……こころぉっ……!」

「お兄さんっ……! んうっ、敬一……さん……!」

 互いの名を呼びあう。それは半ば無意識に、自分の気持ちを伝えていくように。具体的な言葉はなくとも、身体も、心も、一つになっていく悦びが全身を駆け巡っていく。もはや彼自身は満身創痍に近かった。労働で酷使された身体に、擦り減った精神。本来ならいつ事切れてもおかしくないものを、彼女が支えるように補っていくのだ。

 一心不乱に少女の瑞肌に打ち付ける相手の背中にこころが手を回す。柔らかな抱擁を受けながら、蕩けていく脳の片隅でふと何かに気づいた。

「ハァ……ハァ……、こころ、その体勢……痛くねえか……?」

 神社のベンチに腰掛けたこころと対面するように敬一がいる構図は、こころにとってはやりにくい姿勢かもしれない。どうせなら、何も気にならない最高の体勢を取らせてあげたいと思わずにはいられなかった。

「え……あ、大丈夫ですよ? このくらい……」

「こうすればいいだろ?」

 こころを回転させ、座面に寝かせる。自分はベンチの端に立ち、仰向けの少女を押し倒すように覆いかぶさる。

「こうすりゃ、二人とも自然な体勢取れるだろ、な?」

 座面についた手を、背面に回す。こころもそれに応ずるように手を伸ばし、互いに抱きしめ合った。

 抽送を再開する。密着した姿勢は姫壁に雄棒をより深くまで咥えさせ、触れ合う肌がより確かな肌熱を伝える。互いの荒い吐息が耳のすぐそばで感じられ、脳髄をダイレクトに刺激する。

「ふあっ……あっ、ああああっっ!! そっ、それっ……! だめっ……!! 敬一さんのっ……おっ……おちんちんがあっ……! おく……当たってぇぇえ!!」

 突如、こころが嬌声を上げる。さっきよりもしっかり突き刺さった肉槍が秘襞の先のポイントを刺激して、その度にこころの脳裏に焼け切れるほど膨大な快楽が流れ込む。

 電流が身体を走るのは相手も一緒だった。より濃密な肉圧が倅を襲い、耳元で強烈な喘ぎ声を聴き、その度に興奮と幸福のバロメーターが限界突破する。触覚で、聴覚で、五感を通してこころの感情の昂ぶりが分かっていく。

「ひぁあっ!! それっ! それすごいのっ! 奥突かれてぇっ! はあぁっ……ぁんんんーっ!」

 快楽に悶えるこころの口を口で蓋する。今度はさっきの想いを伝え合うキスじゃない。

 敬一のいたずらに対抗するように、唇が割られ、熱々のものが侵入してくる。負けじと自分のを絡める。二回目だ。もう勝手は分かっている。

 指一本分もないすぐ近くに愛おしい女の子の顔がある。長いまつげにぱちりと開いた大きな目、黒髪は乱れて情欲をそそり、お人形さんのような整った、可愛らしい顔つき。密着してみれば、シャンプーか、フローラルないい香りがする。口を塞がれながらも時折漏れる、んぅ、はっという快感の吐息が聴覚を擽ってやまない。

 ねぶるようにまとわりついてくるものを抱き締めるようになぶり、絡め合う舌と舌の上で唾液がぐちゅっ、にちゃっ、くちゅちゅ、ねぢゃっと音を立てる。

 こころとお口で繋がりながらも、下のお口も手を緩めはしない。彼女の細く、しなやかな下肢に一定のリズムで打ちつけ続ける。叩き合う肌と肌が奏でる下品な音色がかえって心地よい。奥へ突く度に彼女の淫息が喉へと流れ込んできて、抱きつく細腕にかすかに力がかかる。

「ぷはっ! ……はあぁ、あぁ……敬一さんの、いじわる」

「ごめんごめん、あんまり気持ちよさそうだったから、つい、な?」

「もうっ……」

 涙を浮かべ、ちょっぴり頬を膨らませながら怒ってくる。顔は不満気ながらも、その言い方はどことなく嬉しそうだったが。

 お互いに息を整え、再度動き出す。初挿入時を彷彿とさせるスローさから一気に加速し、安定速までいっきに躍り出る。

 敬一は心なしか、さっきよりも肉欲から送り込まれてくる快楽が強いように感じた。姫壁の締め付けが一層強くなり、それに伴って肉襞が雄肉をよりねっとりと刺激する。

「ぁぁ……んっ、ふぐっぅうっ! ……はぁ……、んあっ!! あああっ!! ひあっ、……んむあっ!! ふぁあ……んんんんっっ!!! やっ…………ぱり、ひぃいっ!!!」

 こころの喘ぎもまた、心なしか大きく、激しくなっている。

「んふぅっ……すっ、すごくっ……これ……ひゅあっ!? へっ、ちょおっ、んんっっ! あっ、あっ、あっ、あっ、あっ、あっっ!! だめぇ! そんなっ……はげしっいっ……!!」

 やはり気のせいではなかったらしい。試しに抽送のスピードをさらに上げて、小刻みに動かしてみれば、一突きするたびに短い嬌声が迸る。快感を感じるたびに無意識に込められていた腕の力はもう緩むことなく、加減することなく全力で敬一を抱き締める。押し寄せる快感の波に必死に耐えようと目をつぶり、その目尻には涙の粒が滲んでいた。

 その可憐な姿に敬一の官能は揺さぶられてばかりだった。目前の小さな少女への愛らしさがとめどなく溢れて、体の内を満たしていく。愛おしさで鷲掴みにされていた心が握りつぶされんばかりになり、ドクンッドクンッと激しく脈打つ。

「こころ……その、なんだ……気持ちいいか……?」

「はあっあぁ……うむぅっ! もの……すごくぅ……! ものすごくきもち……いいよぉおっ! だめなのぉ、おく……おくすんごく突かれてぇ! すごい、身体中びりびりってっ……きもちよくってぇっ……! ふぁあああ、らめぇぇえっ!!」

 その返答を聞くまでもなく、敬一には答えが分かっていた。はあっはあっと聞こえてくる呼吸音はより大きくなり、触れている肌から伝わるこころの脈拍は明らかにさっきより加速している。顔はほのかに紅潮していて、背を抱きしめている腕が彼女の汗でほんのり濡れる。

 そして───

「あぁぁあ!! らめっ、きちゃうっ!! そんなに……刺激……された……らああぁっ!! イっちゃ───んきゅぅぅぅううううううんんんんん!!!!!」

 敬一の肉柱を包み込む姫襞がいっきに縮み上がり肉塊を圧迫する。細腕にこれ以上はないってくらい力がこもり抱き締められる。こころの乱れ狂う嬌声と一緒に鋭い水音が響き渡り下腹部がほんのり熱せられる。

(イった……のか?)

 状況についていけないで呆然としていると、ふっと腕から力が抜けた。身体を起こしてみると、こころはぐったりとして胸を大きく上下させながら、はあーっ、はあーっと深い呼吸をしていた。

 さっき何か当たった感触のあった下腹部に触れてみると、濡れているのに気付いた。見渡してみれば、敬一のだけでなくこころの脚にも水滴がかかり、ベンチや土の上に小さな水溜りが形作られている。それを見た途端すぐにピンと来た。

(これ……潮なのか! つまり、やっぱりこころは感じてくれて……!)

 胸がきゅんと弾む。悦ばせられたことの喜びと達成感が体を包み、棒立ちじゃいられるはずもなく。感情の任せるままに未だに悦楽の中に浸っている少女を抱きしめ、ねぎらってあげようとしたその時。

「……ぐっ!?」

「きゃっ!?」

 ガタンッ! と倒れこんだベンチが音を立てながら軋む。血が引いていく感覚と急な視界のブラックアウトに襲われる。いとしい少女の恍惚顔が見えなくなり、身体も思った通りに動かない。心拍数が急上昇し、吐き気がこみあげてくる。

「……へっ? 敬一……さん……?」

「い……いや、大丈夫……だ。ちょっとくらっとしただけでな」

 数秒立てば激しく動く心臓が再度脳まで血液を行き渡らせ、何事もなかったように光を取り戻した。そこには、心配ながらこちらを見つめてくれている姿があった。

(立ちくらみ……? といっても、立ちっぱなしではあったのだが……なんというか、不吉だな)

 敬一の返答を聞いて、こころはにこりと微笑む。そして覆い被さるように倒れている敬一の肩を持ち上げる。

「それならよかったです。私はもう大丈夫ですから……続き、やりましょう?」

「……おう、すまねえな」

 未だわずかにズキズキする頭を気にしつつ、立ち上がる。途中でやめた抽送を今か今かと待ち望む倅は変わらずビンビンにいきり立ったままで、少し安心する。

「さあて、じゃあ……ん?」

 敬一が少し目を離すと、こころが背をこちらに向けていた。

 背中越しに、恥ずかしそうな声がする。

「えと……その、向き合ってもいいんですが、こんな体位もしてみたいなって……」

「成程、もちろん」

 ベンチの高さも相まって、ちょうど肉柱のあたりに臀部がある。隔てるように垂れる空色スカートをはね除け、二つの大きな果実の下、割れ目の中にあるワレメに男根をあてがう。そして、ぬめる秘裂の間を滑らすように繰り出す。

「……やぁあっ……、さっき……より……?」

「どうかしたか?」

「あ、いえ……なんとなく、さっきよりも気(・)持(・)ち(・)よ(・)く(・)感じるんですっ。敬一さんの……が入ってきてるのが、よりダイレクトに……ひぁっ!」

「そうか……こころが愉しくなってくれてるのなら、嬉しいよ」

 そう言いながらも、敬一も肉茎を挟む媚肉の圧力を感じていた。さっきよりも気持ち激しい吸い付きが己が分身のツボを満遍なく刺激する。それはこころがイったからか、それとも体位を変えたからか──どちらでもよかったが。

 相手の腰に手を置き、自分の腰をぶつける。その腰の先のブラウスをまくり上げると、艶気のある柔肌が外灯を反射し艶めかしい肌色が浮かぶ。凹んだ背筋は弓なりに反り、扇情的なくびれの陰から形のいい乳果が抽送に合わせて前後するのが見える。

(おっぱい……その時も真っ暗になって……)

 全身を局部に集中させている今、そんな考え事ができるほど頭は回らない。おっぱいのことを考えればおのずとおっぱいに手が伸びる。

「ひゅえっ!?」

 腰上の手はいつの間にか少女の小山を包んでいた。

「ふえっ、あっ、そっ、そんなっ……いま、びんかっ……んにっ……っ!? うあぁっ……ぴゃああっ!」

 時には卵を持つように優しく、時には嵐のような攻め立てで、時には桜色の蕾を押さえつけてみる。その度に違った反応がこだまして、媚薬のようなボイスが脳をガンガンに揺さぶる。

 ぐわんぐわんな脳髄は快感の証を漏らし、奔流に攫われ中枢へと押し留められる。こすれ合う淫棹も送る快楽を放物線的に増しカウントダウンの針が急ピッチで動き始めるのがひしひしと感じられた。

「だめっ……だめですっ……! イったばっかのに……ふわあんっ! きもちよくてぇ……っ! あたま……おかしくなっちゃ……うぅんんっ!!」

「俺も……うゔっ! そろそろ、限界が近い……かもっ!」

 突然ガクンッとこころの腕が折れ、うつぶせに寝そべったようになる。かろうじて立ったままの脚もかすかに震えている。迫りくる快楽に耐え切れず、甘い響きで喘ぐ呼吸がはぁーっ、はぁーっと荒くなっている。

 その官能的な姿は先の脳髄とは違う箇所を攻め立てる。脳の奥深くからドバドバ湧き出てくる感情を抑えることなど、もうできるはずがなかった。いや、抑える必要すらなかった。

 数時間前に会ったばかりの少女と多少親しくなったところでこんな想いはまず湧かない。けれど、これは多少の域を優に超えている。それが会った時間が短くても、互いのことを知らなくても、それら全てを埋め尽くしていくる。

「ああっ……ハァ、こころ…………こころぉッ! 好きだ、好きだ、愛してる!! お前が世界で一番愛おしい! あぁ……こころぉ……うゔぅ……!」

 ずっとずっと、積もり積もってきた愛おしさが爆発する。うわごとのような呼びかけもだらしない喘ぎ声ももう耐える知性などなく、ただ感情の流れのままにそこにいる少女の名を連呼する。

 そこにいる少女は純粋な笑みを浮かべてそれを受け止める。

「私もっ……うんっ……! 私も敬一さんの……こと……! ひあぁっ! ……はぁ、はぁ、…………だい……すきっ、ですっ……!! 敬一さんっ……! 敬一さん……っ!!」

「!! こころッ……! こころッ! こころぉッ!! 大好きだッ!!」

「ふあぁっ、敬一さんっ……! 敬一さん! 敬一さんっっ!!」

 伝え合った想いにもう言葉はいらない。名前を呼び合う、たったそれだけで互いに気持ちが繋がり合う。それは何よりも大きな起爆剤となった。どんな体位も、どんな攻め方も、どんな触れ合いも、どんな言葉も越えて二人をフィニッシュへと駆り立てる。

 雄竿が姫裂の中でびくびくと震えるのが分かる。摩擦が生み出す魔力が足の裏から頭のてっぺんまで全身を痺れさせる。腹の下から熱いものがこみあげてくるのを感じる。尻に力を入れ、この繋がっている欲望のひとときをもっともっと満足いくまで味わおうと無意識に足掻く。

 しかし、それをまとう媚肉が拒む。最後の瞬間を導こうとする圧力が雄竿の管をほぐしていく。

「ハァッ……ハァッ……! あぁっ! 射精(で)るッ……射精(で)る!! 射精(だ)すぞぉッ!!!」

「あんっ! やんんぅっ! おねがいっ! きてっ!! だしてえっ!!!」

「こころッ!」

「敬一さんっ!」

「こころッ!!」

「敬一さんっ!!」

「こころッ!!!」

 一際重い一撃がズシンと中枢に響き、カウントダウンの針が勢いよくゼロに向かって触れた。

「射精(で)っ…………るゥッ!!!!!!!!!!」

「~~~~~~~~~~~~~~~っ!!!!!!!!!!」

 ──どぷっ!! どぷびゅっ!! びゅぷぷるるるるっっっっ!!!!!

 絶叫と声にならない絶頂が境内に響き渡り、雄砲の中を子種汁が駆け上がる。後から後から無限に噴き続ける絶頂の証をきゅうんとすぼんだ姫壁が余すことなく吸いこむ。

 こころの脚はガクガク震え、さっきから支えられなかった上半身は完全に力が抜けきっている。敬一も孕ませんとばかりに腰をガクガク打ち付けながら、身体を支える余裕などなく、崩れたこころの上にしなだれかかる。

 とうとう蓄えきれなくなったスペルマが肉棒の脇から流れ出て、白い川を作りベンチに白濁湖を形成する。それでも脈打つ雄柱は愛の印を注ぎ込むことをやめない。

 二人とも声を発することもできず、ただ静かに快楽を貪る。無心に出す様を、無心に受け止める様を感じ、空っぽの体力を賄うようにただ吸って吐いてを繰り返す。

(あっ……ああ……出てる。出しちゃってるんだ。俺……本当にセックスした……あれ?)

 快楽に包まれながら、湧き出てくる幸福を噛みしめる。頑張ってくれた最愛の少女を労おうとするが、身体が動かない。それどころか、意識が段々朦朧としてくる。

(また意識が……まあ、いいか。このまま、もう少しだけこのままで)

 

 ……どのくらい経っただろうか。精液を枯らし、受け止める一寸の隙間もなくなり、肩でするほどの呼吸が段々落ち着きを見せた頃。

「……敬一……さん……」

「……なんだ……ここ……ろ……」

 愛する相手に覆い被さられた少女は幸せそうに微笑んだ。

「最期に…………ありがとう……ございました……」

 愛する相手に覆い被さった男も笑みを浮かべ──

「こちら……こそ…………ありが………………と……う…………………………」

 ──度重なる疲労の限界の限界の末に、意識を手放した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ん……あ……?」

 まぶた越しに差し込む光が眩しい。光の先、東の空を見てみれば、遠くに連なる山々の山際から太陽が頭の先を見せている。

「俺は……えっと……」

 視線を周りに移すとどうやらここは神社のようだ。見慣れない神社のベンチの上で横になっている。

 朝を告げる鳥のさえずりがどこからともなく聞こえてくる。きっと神社を囲む木々のどこかにいるのだろう。

「確か昨日は……残業して、家に帰ろうとして……それから……この神社に着いて。疲れに勝てなくて眠っちまったのかな……?」

 寝起きだからか、記憶に靄がかかったようにぼんやりして、昨晩のことも思い出せない。けれど。

「何か……何か大切なことを……忘れているような気がする……んだけど…………なん……だっ……け…………」

 雲一つない暁の青空が思い出そうと必死な思考力を奪っていく。身体は動かない。疲れが抜けきっていないのだろう。

 重くなったまぶたが自然に閉じる。なにがなんでも思い出さねば、という脳の警告も虚しく、満身創痍の男はまた眠りに落ちた。

 

 これはある夏始めの暁に訪れた、ひとときの情痴の物語である。




 中々に長い話をここまでお読みくださりありがとうございました!
 時間が出来次第AfterStory書きたいと思います。諸事情につき1年くらいかかってしまうかもしれませんが……wだから、気に入ったならお気に入り登録していただけると泣いて喜びます!
 あと感想頂けるとこれも泣いて喜びますwよければ、ぜひ!
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