2日目ト51a「月来香」にて暁の情痴の同人誌を頒布します!
同人誌限定の書き下ろしとしてこころ、津美、あかりの海旅行短編があります!
ぜひよろしくお願いします!!!!
「改めて自己紹介します。私の名前はココロノヒメ。ここ、土野神社の神です」
「ココロノヒメ……」
「はい。人間に擬態するときは土野こころと名乗っています」
ココロノヒメだからこころ。
まあ確かにそのまんまだし、人間の名前としても違和感がない。
「人間の言葉を借りると、私は武蔵野国の西方の平野、つまりこの辺り一帯で信仰されていた土着神なんです。地域に根付いたものですから古事記や日本書紀には載っていないでしょう。でも、この辺りは交通の要所で宿場町も多かったですし、そこそこ篤く信仰されていたんですよ?」
明るく説明してくれるこころだったが、次第にその微笑みに暗い影が落ちる。
「でも……最近の人間はすっかり神を信じなくなりました。それどころか、私たちを存在しないものとして扱い始めました。現代人である敬一さんもきっとその一人なんだと思います。これは神界に並々ならぬ影響を与えました」
「……」
「神は人の信仰で成り立つものです。そして信仰を失った神は……消滅します。高天原の方々に比べて土着信仰は規模が小さいですから、私の周りでもどんどん知り合いが消滅して……それは私も例外ではありませんでした」
「……ごめん」
「敬一さんのせいじゃないですよ。時代の流れ、仕方がない話です」
責めることもなく首を振る。
そして社殿の横の、小さな社務所を指さした。
「数年前に長年巫女をやってくれていたおばあちゃんが亡くなったんです。彼女には子供も孫もいましたが誰も継ぐことはなくて。それから神社は管理する人がいなくなって、参拝客も減って、もはやこれまでというところだったのはあなたも知っての通りです」
「もしかして、神社が取り壊されるっていうやつか?」
「そうです」
こころと会ったばかりのとき――まだセックスもする前、確かにこころはそう言っていた。
そしてそれは事実だった。
こころの顔がどんどん悲しげに染まっていく。
「神社がなくなったらいくら信仰があっても神としては終わりです……まあその信仰もなかったわけですが。……だから私は、」
こころの口角が上がる。
「残り少ない時間で、人間に『復讐』することにしました」
「ん!?」
少しの溜めの後繰り出された言葉で、神社を取り巻く重い空気がガラリと変わった。
え? 復讐?
「どうせ消えるなら神を冒涜した人間に痛い目に遭ってもらわなきゃ、ってね。だから、最後の力で神社から目についた人間に"いたずら"を仕掛けることにしたんです」
さっきまでの淀みは一変、楽しそうに話すこころ。
ちょっと待てよ、それってつまり!
「じゃあ俺に話しかけてきたのって」
「はい。もちろん、"いたずら"のためですよ」
「やっぱり!!」
ち、ちくしょぉぉおう!! やっぱり弄ばれてたのかよ!! そんな、そんなうまい話あるわけないと思ってたけどさ!! 思ってたけど!!
こころはくすくすと邪な笑みを浮かべた。
「敬一さんがあまりにも欲深いことを考えてるものですから、本当これ以上ないターゲットでしたよね。エッチなことしたがってたから、いい感じの雰囲気に持っていって、期待だけ膨らませて消えちゃおっかなって」
……待てよ?
「消えちゃおっかなって、いやでも」
「消えちゃおっかなって思ってたんですよ! ……さ、最初は」
あれだけ楽しそうに話していたのにどんどん尻すぼみになっていく。
そりゃそうだ。うまい話なんてあるわけないと思っても、それがいたずらだとは思えなかった。だって、実際はがっつり最後までやってしまったのだから。
そんなこころを見ると、目は泳ぎ、指の先同士をいじいじとしている。
読心の下手な俺ですらわかるほどの焦りっぷりだった。
「じゃあ、なんでセックスしてくれたんだよ」
「それは……お、女の子に言わせるつもりなんですか!? もう、デリカシーがない人ですねあなたは! そんなんだからモテないんですよーだっ!!」
「なっ、なんだよっ!!」
純粋な質問をぶつけたら唐突な罵倒が返ってきた。
そ、そんな! 確かに空気を読むのは下手かもしれないが、そんなこと言わなくたっていいじゃねえか! ……じゃなくって。
そんなにこころが恥ずかしがる理由。復讐すべき人間にエロいいたずらをするはずが思わず最後までしてしまった理由……。
あ。
「……もしかして、思いの外気持ちよかった……とかか?」
こくりっ。
顔を手で覆って、恥ずかしそうに頷いた。
……あぁ、確かにそりゃ言いにくいよな。あわや復讐間近だったことに驚いて思考が止まっていたが、冷静に考えればあんな状況でセックスしてしまう理由なんてそのくらいしかないだろう。
夜明けの街が沈黙に支配される。
「あー……その、なんだ。あ、ありがとう」
「別に、感謝なんていいんですよ……私だってエッチがあんなに気持ちいいなんて知らなかったんですから」
「え」
知らなかったって……もしかしてこころは……?
いや、やめておこう。今度こそデリカシーがないって言われかねないからな。
そう飲み込んだものの、じろりと冷たいまなざしが向けられる。
「今失礼なこと考えてませんでしたか?」
「いんや、なんでもないよ」
「んもう……まあ、それは神のみぞ知るってところです」
……言い留まったのに文句を言われてしまった。
っと、急にぴんっと伸びた指が眼前に突き付けられた。
「と・も・か・く! 敬一さんとエッチしちゃって、もう復讐するのも面倒になって、自分が消えるのを今か今かと待っていたんです。でも、なかなか消えない。それどころかむしろ力が湧いてきたんですよ! なんでだと思いますか?」
「なんでって……わ、わかんねえ」
「敬一さんが約束を破ったからですよ!」
約束を破る……つまり、あの夜のことを忘れられなかったってことか?
意味を考える俺には目もくれず、こころはまくしたてる。
「敬一さんがずーっと、ずーーーっと私のことを考えてるから! あなたはそんなつもりなかったと思いますが、それって信仰と同じなんですよ。だって神のことをいの一番に考えてるってことですから」
「お、おう……って、おい、それじゃ俺がずっとこころのこと考えてたの」
「ごめんなさい、知ってました♡」
今にもてへっ、なんて擬音が飛んできそうな顔で、衝撃の告白がされる。
さっきあれほど隠そうとして失敗したここ十日間の話はどうやら筒抜けだったらしい。
そ、そんなのって……恥ずかしいったらありゃしねえぜ……。
なんて打ちのめされる俺とは裏腹に、こころはしゃんと姿勢を正し改まった口調で問いかける。
「そんなわけで、信仰と同じくらい強い想いをもらったのでこのまま消えるわけにはいかないと思ったんです。……ねえ、敬一さん。この神社、なにかおかしいとは思いませんか?」
「おかしいって、そんなこと言われても……いや、ちょっと待てよ」
急に与えられた質問に、神社をよく見渡してみる。すると確かに不可解な点があったのだ。
こころに再開できた嬉しさで気がつかなかったが、そうだ。さっきから話題にも上がっていること。ここ数日何度もここに来て、わかっていたこと。だけど、なくなっているものがあった。
「工事が中止されている?」
「ご名答です」
最後に神社に来たときには、社殿を工事用の柵が覆っていたんだ。幸いまだ取り壊しは始まっていなかったが……もうダメなんだと痛感した。
そのはずなのに、柵がなくなっている。
「そうだ……こころに会えない悲しみですっかり気づかなかったけど、よくよく考えると参拝できる時点でおかしかったんだ」
「その通りです。さて、ではどうしてでしょうか」
「……」
矢継ぎ早に出される第二問。でも今度はもう正解の糸口を掴んでいた。
スマホを取り出し、あるワードで検索をかける。
この神社が取り壊されるというのはこころから聞いた話だ。そして、その後にこころが続けた言葉も、なぜだか鮮明に覚えていた。
――この神様は祟り神だっていうのに。
「土野神社 工事 中止」の検索結果をスクロールすると……ある一件の地方新聞がヒットした。
糸は繋がっていた。
「こころ」
「はい」
簡潔な、だけど心を込めた呼びかけに凛とした声が返ってくる。
大好きな神様に向き直ってサムズアップする。
「やってやったんだな、お上に」
「やってやりましたよ、お上に」
決めゼリフのように言葉が交差して、互いに笑いあった。
その新聞記事には『作業員全員が体調不良 集団食中毒か』なんて見出しが躍っている。
俺は祟りがどんなものかは知らない。だけどこれがただの食中毒なんかじゃなく、こころによる「復讐」だってことはすぐにわかった。
すっかり山の端から顔を出した太陽が赤々とした日射しで二人を照らす。
あの日、お互いに「お上」の横暴さを語らった者たちは、その呪縛から解放されたんだ。
けらけらと、今日一番の笑みを湛えながらこころが第三の質問をする。
「改めてお聞きしましょう。敬一さん、私が本当にここの神だってこと、信じていただけましたか?」
俺も、十日分の感情をもって返答する。
「ああ、信じるさ。むしろ信じさせてほしいよ。健気な神様の復讐譚をね」
一日の始まりを告げる青空を東の太陽が晴れやかに彩っている。
もうじき人が活動しだす時間だ。
「こころはこれからどうするんだ?」
ベンチの上でお互いの手を重ねた、全てを捧げた少女に聞く。
「どうする……っていうのはあんまり考えてないですね。とにかく生きるか死ぬかの瀬戸際でしたから」
「また会えるか?」
「それはもう、絶対に。敬一さんが愛してくれる限り、お上なんかには負けませんよ。いつでもここに来てください」
「それが聞けて一安心だ」
お返しとばかりに少女も問う。
「敬一さんはどうするんですか?」
「俺、この地域の歴史とか風土の研究をしようと思ってるんだ。ココロノヒメについてもっと知りたいし、あと、上京してきたばっかでこの辺について何も知らないからさ」
「んー、過去のことを知られるとなると、なんともこそばゆいですね……変な記録が残ってなければいいんですけど。でもでも、そうやって私のことを知ろうとしてくれるのは嬉しいです」
「そりゃよかった。まあ、まずは職探しだけどな」
結局退職したことはこころに告げた。一夜限りの少女を追って職を失ったというと後ろめたく聞こえるが、こころのおかげであのクソな職場から足を洗えたと思えば途端にいいように思える。たかが新人が一人抜けた程度でどれだけ影響があるかは知らないが、あの人手不足のプロジェクトに小さくないダメージは入っただろう。図らずもこれが俺のお上への復讐になったわけだ。
「じゃあ、今日は帰るよ」
「はい。気をつけて帰ってくださいね。それと、おやすみなさい」
「もう十分明るいけどな。……こちらこそ、おやすみなさい」
ベンチを立ち、鳥居をくぐって一礼し、長い石段を下る。疲労困憊な脚はいつしか癒えていた。
失意のままに帰ったあのときとは違い、清々しい気持ちに誘われるままに帰路を踏み出す。
山並みの向こうの太陽が木々を、畑を、家々を生彩に照らしている。
雲一つない快晴。
今日は暑い日になりそうだ。
エピローグのこころ、津美、あかりの3人のシーンでもちょろっと言及されていましたが、これにてこころのちゃんとした設定が公開されたことになります。そんな重要回にしては更新の感覚が長すぎて本当申し訳ないです……次はもっと早く更新できるといいね、ハム太郎!
そうなのだっ!!!!!!!!!へけっ!!!!!!!!!!!!!!
…………がんばります、ハイ。
コミケもよろしくお願いしますっ!