"器量は当座の花"
見た目の美しさというのは、長い人生のほんの一時のものに過ぎず、外見にとらわれてはいけないということ
こんなことを意味する諺だ
二乃に拒絶された前世で知った言葉でもある。一生を添い遂げる相手を見た目だけで判断するのは、些か滑稽だと思うようになったことも最近だ
しかしなんて皮肉なんだろう。今となっては見た目を利用して二乃に近付く自分が少し憎い。滑稽なのは俺の方じゃないか?
最終的には中身を好きになってくれた彼女に、これ以上の侮辱なんて存在しないのではないか
終わったことや今更に感じることでも、罪悪感というのは時と場合を考えずに襲ってくる。なんかごめんな、二乃
「フー君!怖い顔してどうしたの?」
そんな心中での謝罪も無に帰す。どうやら長いこと物思いに耽りすぎていたらしい。勉強中だというのに気が散ってたのは俺。情けない・・・
「少し考え事だな。あとそこ、計算違うぞ」
「うそ!」
ロングヘアの二乃が楽しそうに勉強している姿がなんとも新鮮で、それでいて家庭教師としての嬉しさが込み上げてくる
「え、えーと・・・ここがこうで・・・」
事前に用意したテスト問題を渡しただけなのに、答えを見ずに自力で解き始めた時は驚いた
根は素直で可愛らしいことは重々承知している。本人が諦めるまでは、俺も答えを教えることはない。計算は解けるまでの過程が大事なのだ
「できた!」
ノートを持って見せびらかす姿を、頬杖をついて拝んでいる。間違えてる計算過程は置いといて・・・頑張りは伝わってきた
「惜しいな。ここは足すんじゃなくて引くんだ」
「うぇ〜・・・頑張ったのに・・・」
「それは伝わってきたさ、そこを踏まえて教えてやるから・・・もうひと踏ん張りだ」
「うん!」
この時間は何を思って過ごしているのか、この笑顔が作られたものなのか、そんな不安を抑えながら解説を始める
一つ文句を言うことが許されるなら、ここで"ヤツ"の登場に気付けなかったことに対して文句を言いたい
「うーえすーぎさーん!」
二乃の前だということは理解しているのか?そう問いかけたくなるほど異常なスキンシップ。まるで自分のモノだと言い張る子供に近いものを感じた
肩から顔をぴょこんと覗かせる四葉に、二乃が牽制する
「・・・四葉?今は私と勉強してるのよ?」
「えへへー、ごめんごめん」
悪気はないらしく、衝動でしたことを謝る
だがこの場から出ていこうとはしない。2人を見守ると言えば都合はいいが、どうにも監視されているという表現の方が近い
「四葉、わかったから今日は部屋に戻ってくれ」
「なぜですか?」
何とかこの場を去ってもらうために、説得に走る
「個人で進めてるんだから、お前がいたら二乃の気も散るだろ」
「むむむ・・・どうしてもですか?」
「ああ、どうしてもだ」
「むー・・・わかりました。邪魔者は消えますよ!」
やや不貞腐れて、後処理がめんどくさくなったことは言わない約束だ
一連の流れを終えて、二乃へ振り返る
すると、少し申し訳なさそうに四葉を細い目で見つめていた
さすがに何を考えているのかは知らないので、そんな目に気付かないフリをして話を戻す
「さて、続きを解説してもいいか?」
「・・・ええ、お願い」
元気がなくなったことは、誰から見ても明らかだ。ここから先を二乃に尋ねていいのかすらわからないので、黙ってその場を過ごした
☆
「・・・」
あの時、二乃も四葉も何を考えていたのか。俺は未だに答えを導き出せていない
らいはが眠っている横で、タイムスリップ後は恒例となっている一人反省会を開催していた
月明かりという明かりしかない殺風景でシンプルな部屋。深夜に行うものでもないのだが、あの時の二乃と四葉に感じた違和感だけが引っかかっていた
なんなら引っかかりすぎて、喉につっかえてる気分だ。寝ようにも寝れないのが正直なところ
幸い明日は休日だ。勉強する意欲が欠かれてしまったタイミングとしては有難い
仕方ない・・・女心とやらについて、もう一度調べてみるか
☆
「お兄ちゃん?最近、家庭教師に精を出してるのはわかるけど・・・この『恋愛のいろは』って本は何?」
勉強しようとした矢先、また前世と同じミスを犯してしまった
「俺だって高校生だし・・・そろそろ焦ってるんだよ」
「危機感を持ってくれたことは嬉しいけど・・・このタイミングでこの本って・・・どう考えても自分の生徒に恋してる人にしか見えないよ?」
さすが我が妹だ。的確に痛くて刺さる箇所を突いてきやがる・・・人生3週目に突入できねえかな
「・・・元々それは、あいつらと関わる前から持っていたものだぞ。家庭教師の件とはなにも関係ない」
「ほんとにー?」
高校生が小学生の妹に怒られることなんてあるか?ある意味貴重かもしれない時間だな。二度とこんなことを起こさぬように緒を締めなそう
"二度あることは三d((殴
こんな時にそんな諺持ってくるな。適材適所って言葉を知らんのか
「お兄ちゃん、聞いてる?」
「聞いてる聞いてる。そもそも俺がお前を巻き込むような面倒臭いことを引き起こすと思うか?」
「ないって信じてるけどさ〜・・・それとこれとは話が別だもん!」
どこでませたのだろうか。近頃の小学生はここまで進んでるのかと思うと頭が痛くなる
「大丈夫だから・・・もう何も言うな」
そこから多少気まずくなったらいはから逃げるように、図書館へと駆け込んだ。先程らいはに見つかった本もここから借りたものなので、予定より早めに返す羽目になってしまった
見つかってしまっては家に長々と置くこともできない。潔く別の本を借りようと決心した
せめて表紙だけでも誤魔化せる物が好ましいのだが、そんな都合のいい本はないことを、俺は図書館に着く前から知っていた
僅かに残ってる淡い期待を胸に探すも、悲しい現実に打ちひしがれた
「ったく・・・人に見つかっても気まずくならない表紙の本は置いてないのか・・・ん?」
まだまだ悪口なら出てきそうな言葉尻に、疑問符が引っ付いてきたのにも理由がある。とある本棚の近くにたまたま目がいき、知っているシルエットが佇んでいたのだ
本を選ぶフリをして、怪しまれぬよう横目で見つめる
その人物の特徴と言えば、片目を隠す程の長さの髪型と、首にかけてあるヘッドフォン。おまけに付け足せば、歴史関連の本棚にいることが最大のヒント
もうわかったかもしれないが――――
昨日、俺に違和感を与えた二乃と四葉の間の姉妹。三女の三玖だった
まさかこんなところで初対面とはな・・・これは嬉しい誤算だ
三玖との初対面をヘマした散々な過去は一旦忘却して、俺は行動を起こした
目の前にある本を何冊か持って椅子に座ったところで、眩ませていた姿を現す
「三玖、隣いいか?」
まだ親しいとも呼べない間柄の男の登場に驚くも、秘密を知られまいと本を隠した三玖。当然機嫌は悪い
「・・・いつから見てたの」
ひた隠すように抱えた歴史本。彼女の趣味を否定することなどもうない。前世の段階では、下手したら俺より歴史を知ってた女の子だから
「ついさっきだ。休日に図書館に来るなんて、勉強熱心なんだな」
「そんなのじゃない。ただの暇つぶし」
「暇つぶしだとしてもだ。歴史についての本を読もうとしている時点で、勉強といっても過言じゃないだろ?」
しっかりとフォローしつつ、彼女の周りの氷を溶かすように話を展開する
段々顔が柔らかい表情になるのを確認しながら、慎重に言葉のチョイスを繰り返す
「・・・フータローはさ、変だと思わないの?」
「何の話だ?」
「こーゆーのを読んでても・・・って話だよ」
そう言うと、ようやく抱えて隠していた歴史本を見せてくれた
まず間違いなく言えること、それはここが三玖との1つ目のターニングポイントだということだ
このやり取りも二度目だしな。今更100点以外の言動なんか取れるか?
「・・・逆に聞くが、変なことなんてあるのか?」
「え?」
驚く三玖に構わず、話を進めた
「俺も歴史は好きだし、その知識活かして仕事をしている人だっている。男も女も、女子高生も大人も関係ないさ。人に言えなくても趣味は趣味だ。無理に他人と合わせる方がどうにかしてる」
「・・・」
熱く説かれ、抱えていた本と向き合う三玖
悲しそうなその目は、哀愁さえ漂う程のものだった
「"いつの時代も変わり者が世の中を変える。異端者を受け入れる器量が武将には必要である"」
「!」
急に発した偉人の言葉に、三玖は目をこちらに向けた。
「こんな言葉、知ってるか?」
「うん。織田信長の名言・・・だよね?」
知らなかったら知らなかったで、解説が必要かと思っていたが、やはりそんな必要はなかった。なぜ俺がこの台詞を口にしたのか、それについて三玖に話し始めた
「この理論でいくと、確かにお前は変わり者かもしれない」
「・・・もしかして、ここで口説いてちゃっかり家庭教師の勉強を受けさせようとしてる?」
鋭すぎる質問に足を掬われるも、なんとか説得を続ける。こじつけだと言われても仕方がないのはわかっている
「まあ聞いてくれ・・・今回の話を、変わり者と武将に置き換えるとだな・・・俺は変わり者5人を抱える武将なわけだ」
「・・・まだ認めてはないけど」
ジト目で見られてる気がするが気にしない。図を書きつつ無理やり納得に走る
「お前がある程度の知識を身につければ、いつか武将である俺に代わって、姉妹のあいつらに歴史を教えられるんだぞ?」
「そうすれば、"変わり者"はいつしか"武将"として見られるようになる。輝ける時だって必ず来る・・・どうだ?俺と一緒に、勉強してみないか?」
セールスマンばりの情報の多さ、取ってつけたような理由。深く理解されなくてもいい、家庭教師について前向きな検討をしてくれるだけでいいんだ。形だけでも家庭教師として認めてほしい
「・・・1つ質問」
「ああ」
「フータローは、私よりも歴史に詳しいって事?」
その質問で忘れかけていたことを思い出す。三玖の性格上、簡単に引き下がろうとしないことを
前世はこの質問に対する返答を間違えた結果、説得までの時間を浪費してしまったのだ
さすがにここまできて返答を間違えるわけにはいかない
「・・・そんなわけないだろ」
返ってきた答えが予想外だったのか。三玖は目を丸くする一方だ
「ど、どういうこと?」
「どういうことも何も・・・一概に俺の方が詳しいって明言して、生徒を下に見る方が問題じゃないのか?」
「た、確かにそうかもしれないけど・・・家庭教師なんだから、私よりも知ってないとおかしいんじゃないの?」
前世との初対面と、三玖の心情が同様と考えるならば、「俺の方が詳しいから教えてやる」なんて上からものを言われるとでも思っていたんだろうな
「さっき、俺はなんて言ったか覚えてないのか?」
「・・・さっき?」
「俺は一度も、教えてやるなんて言ってないぞ?」
「――――あっ」
気付いたと同時に、その言葉をもう一度言った
『俺と一緒に、勉強してみないか?』
あくまでもそういっただけだ。強要でもなんでもない。ただの勧誘だ
「家庭教師以前に、俺だって人間だぞ?知らないことは知らないし、教わることだってある。例えそれが自分の教え子だとしてもだ。教わって初めて視野が広がるんだ。なにも恥じることではないさ」
「だからこそ・・・一緒に勉強しないか?って聞いたんだ。これでわかったか?」
自分でもひくくらい上手く纏まったのではないか。これ以上の言い分はもう出てこない。会心の一撃とも呼べる説得に、俺は全ての神経を集中させて、三玖の答えに耳を傾けた
答えを待って逸る心臓を、早くいつも通りの鼓動に戻してやってくれよ。この時間が心臓に悪すぎる
「もう少し・・・」
返答を待つこと数十秒。ようやく口は開かれた。しかし、俺がほっと安堵できる回答ではなかった
「もう少しだけ・・・考える時間がほしい」
告白して答えをはぐらかされた〜みたいなこんな気持ち、誰かわかるか?勉強に対する気持ちの整理に時間がかかりすぎだろ・・・
だがもちろんそれも口にしない。余裕のある雰囲気だけは醸し出して今日は引き上げよう。欲張っていいことはこの世にない
「おう。勉強のモチベーションだってお前の気持ち次第だ、いつでもいいからまた連絡をくれ」
「・・・わかった」
結局、それが三玖との初の会話だった。初対面での感触も中々に手応えを感じられた。だから家へと帰る足が軽やかだったのか?珍しく嬉しい誤算にあやかれたことに感謝していた
これが棚からぼたもちなのか?青天の霹靂というべきなのか?いや、とにかく三玖との再会を少しでも早くできたことに喜ぶべきだ
二乃との関係も順調に進む中、俺は久しぶりに深い眠りについた
☆
’’愛多ければ憎しみに至る’’
ある人から特別に愛されすぎると、別の人から憎まれて身を滅ぼすことになるということ
この諺には、少しだけ思い入れがある
身をもって経験したわけではないが、共感できる部分がいくつか見受けられる
誰かを好きになるということは、自分を好いてくれている他の誰かを裏切るということ。極論だが突き詰めれば恋愛なんてそんなものだ
この現場だって、その’’誰か’’に目撃されれば、裏切りの行為とさえ取られてしまうのだから
「次は・・・これなんてどうかしら?」
上品な洋楽と、お洒落な服装をした店員が印象的な服屋に連れてこられていた
普段からこんなところで買い物をしていれば、確かに金銭感覚はズレてくるよな・・・この値札を見るだけで目眩がしてきそうだ
「さすがに買えないぞ?前にも言ったが、俺の財布事情は知ってるだろ?」
「ウインドウショッピングってやつよ。今日は見て回るだけ」
「それの何が楽しいんだ?」
一瞬むっとした顔になったと思うと、今度はエジソンが発明したであろう古典的な電球が頭に浮かんで見えた気がした
「・・・何が楽しいんだと思う?当ててみて」
このたった数秒の間に、ふくれっ面と考え込む顔とニヤつき顔の3点セットを拝む事って中々ないよな
「買いたくても買えない貧乏人を見下して楽しむとかか?」
「違うわよ!」
「じゃあどういうつもりで回ってるんだよ」
世間一般からしたら理解し難い価値観を押し付けられ、問いかけ直す
「そんなのいっぱいあるじゃない。物色して楽しめるのも、ひとつのステータスみたいなものよ?」
「そのステータスとやらには、どんなメリットが生まれるんだ?」
得意げに語る二乃の答えを聞くも、結局理解するまでには至らない
「うーん・・・その人の人となりがわかるって言ったら理解できるかしら?」
「・・・それで人となりが理解出来る程の観察眼があるなら、少しでも勉強に向けることは出来ないのか?」
「ああ言えばこう言うって、フー君のことを指してるのかしら?」
「知ったことか・・・俺からすれば減らず口を叩かれてる気分だ」
「お生憎様。それはお互いそう思ってるわよ」
水掛け論が展開される中、とあることを思い出して二乃に告げた
「って、そんなことはどうでもいい。俺は今日は早めに帰らなきゃならないんだ」
「何か用事があるの?」
「用事というか・・・妹の体調が優れないらしい。親父が夜勤で帰らないから、俺が看病することになってる」
そう言った瞬間に、二乃の目が見開かれる。慌てた様子が見受けられたのと同時に肩を掴まれてゆらされた
「なんでそれを早く言わないの!?」
言ったら言ったで、こうなることが予想できてしまっていたせいか、居た堪れない空気が流れていく。重たく開かれた口は、その空気の重さを表していた
「・・・お前に余計な心配をかけたくなかったのと、どの道ここで買い物をある程度して行かないといけないからだ」
「それでももっと早く言うべきよ!さっさと買い物してそっちに向かうわよ!」
そっちに向かう、という単語に違和感を感じて尋ねた
「・・・え、お前も来るのか?」
「当然じゃない!連れ回した責任もあるし、フー君1人で看病なんて心配だもの!」
よっぽど俺の事を見くびっているのか、看病さえまともにできない男と認識されていたらしい。謎に悔しさが込み上げてきたので、多少の反論はさせてもらう
「・・・看病くらいできるぞ。昔から体調を崩しやすいあいつの面倒を見るのも、生活の一部みたいなものだからな」
「だったら尚更ね。フー君より看病に慣れてる私がいけば、妹ちゃんも心底安心するはずだもの」
僅かな抵抗を見せるものの、言いくるめられてしまうのがお決まりの流れ。諦めてその言葉に甘えることにした
「・・・じゃあ、看病を頼んでもいいか?」
「任せなさい!」
最低限の買い出しを終えて、2人は上杉家へ走っていった
☆
「ただいま」
「お、お邪魔します」
中野家の部屋とは比べ物にならない、狭くて質素な部屋。生活する上で、最低限必要なキッチンや机や布団以外は、教材しか見当たらない
見渡せば数秒で把握出来る面積に戸惑いながらも、二乃は持ってきた荷物を置いた
だというのに、いつものように元気で明るく出迎えてくれる声はない。その姿を見れば、体調が優れていないというのは一目瞭然だった
布団に包まるらいはに膝を着いて頭を撫でた
「あ、お兄ちゃん・・・おかえりなさい」
「遅くなってごめんな。これ、飲めるか?」
「うん・・・ありがと・・・あ、あと・・・その人はだれ?」
水分補給用のドリンクを渡したところで、二乃の存在に気付いたらいは。体調に気遣うように優しい声音で自己紹介を済ませる
「中野二乃よ。よろしくね?」
ニコッと向けられた笑顔のおかげか、らいはの表情にも笑顔が伝染した。やはり頼れる年上のお姉さんというのは偉大だと知る
「せっかく来てくれたのに・・・こんな状態でごめんなさい・・・」
自分の体調が悪い時でも、客人の心配をするらいはに、二乃はこう返した
「それなら安心して?この人に無理言って私が妹ちゃんを看病しに来たの。早く治して元気になってね?」
その事が嬉しかったのか、らいははまたしても笑顔になった。普段は見せない弱さを吐露するかのように、二乃へ甘え始める
「えへへ〜・・・じゃあ、今日はお姉ちゃんがいるって思っていいですか?」
トドメとなったその台詞は、二乃のやる気を俄然と勢い付けた。張り切って腕まくりをしている姿が印象的だ
「ふふ、もちろんよ!」
短時間でこんなにも打解ける能力はさすがの一言。口を挟むことなく会話は繋がっていく。しかし今度は、俺に向かって話を振った
「お粥なら食べられると思うから・・・フー君、台所を借りてもいい?」
「ああ。好きに使ってくれ」
「ありがと、晩御飯もまとめて作っちゃうから・・・妹ちゃんのこと見ててあげてちょうだい」
「言われなくとも」
お互いにやるべきことを確認しつつ、それぞれの作業へ移った
☆
「はい、あ〜ん」
「あ〜ん・・・」
やや気だるげに口を開けて、二乃のお粥を咀嚼するらいは。味加減を伺うように二乃が恐る恐る尋ねる
「どうかしら・・・?」
だがそんな心配も杞憂で、聞くまでもなく美味しいと言い、満足そうな表情だった
「美味しい〜・・・二乃さん好きぃ〜!」
愛しの妹を取られた気分はなんとも言えないもので、諦めと同時に、不思議と安心感を覚えた。母の温もりというものを断片的に感じているのかもしれない
「らいはちゃん!?」
「もっと食べたい〜・・・」
「・・・もう、そんなに慌てなくても大丈夫よ。はい、口開けて?」
抱きつかれて驚く二乃、それでも甘え続けるらいは。見ていてほっこりする光景もそこそこに、時計を確認して二乃に話しかける
「二乃、そろそろ帰った方がいいんじゃないか?これ以上はさすがに申し訳ないからな」
「・・・それもそうね。この分だけ食べさせたら帰るわ」
だが1人、この話に納得できない人物がいた
「えぇー!ダメだよ!今日は二乃さんにお泊まりしてもらうもん!」
風邪だというのが嘘だと言われても信じるくらい張った声に、頭を抱えざるを得なかった
「らいはちゃん・・・泊まるのはまた今度にしましょ?いきなり上がり込ませてもらった上にお泊まりするのは、いくらなんでも気が引けちゃうもの」
説得しようと試みるも、今日は風邪のせいでわがままを自制することはできなかったみたいだ。らいはの必殺が二乃を襲った
「どうしても・・・ダメ、ですか?」
☆
「・・・で、結局それに押し切られちまったんだな」
「あれは無理よ。可愛すぎ」
「わかる」
二乃の作った夕食を食べ終え、風呂も全員済ませた。二乃の着替えはどうしようもないので、俺の余っているシャツとズボンを渡すことにした
もちろん着てから数分は顔を真っ赤にしていたことは内緒だ
そんなこんなで、先に寝静まったらいはと同じように床につこうとしていた。前世での五月と同様に川の字で布団を敷く
「川の字でしか寝れないが・・・それでも大丈夫か?」
「もちろんよ。泊まらせてもらってるんだから文句なんて言えないわ」
同意も得られたところで、らいはを挟んで布団を敷く
電気を消して、風太郎・らいは・二乃の順に並んで横になる
真っ暗な夜空に神々しく輝く満月を見つめながら、前世の台詞が頭を過ぎった
――――上杉君。少し外を歩きせんか?
――――月が綺麗ですよ
戻れぬ過去に手を伸ばすように、輝く月に向かって右手を掲げる。哀愁という名の月明かりが身に染みて、眠気が削がれていく
そんな月明かりから目を背けるように、隣に眠る最愛の妹へ視線を向ける。穏やかな寝息を立てている寝顔を眺めながら、布団へ潜ると――――
「フー君、起きてる?」
らいはの向こう側から、前世の出来事を彷彿させる台詞が聞こえた
さすが姉妹と言うべきなのか、既視感のあるフレーズを聞き流して、起きているというサインを静かに送った
「・・・そりゃあな。なんなら寝付けなくて困ってたところだ」
短い対応を見せ、二乃の返事を待つ
「・・・じゃあ、少しだけ話さない?」
二乃も寝付けないのか、そんな話題を振ってきた
「・・・それなら、俺から先に話してもいいか?」
「あら、珍しいわね」
らいはを起こさぬよう細心の注意を払いながら、この機会にしか言えないことを伝えようと決めた
「この際だしな。お礼を言わせてくれ・・・今日は本当に助かった」
「当然のことをしただけよ。そんな改まって言うことじゃないわ」
「だとしてもだ。俺の気持ちだから、受け取ってくれ」
「・・・わかったわよ。どういたしまして」
素直な気持ちだけ伝えて、ふと仰向けに体制を変える。見慣れた天井を眺めていると、今度は二乃が話を始めた
「ねえ、フー君」
「・・・なんだよ」
決してぶっきらぼうに返したつもりはなかったが、妙にこの状況を意識させられてしまったことが祟ったのか・・・そんな口調になっていた
「あの、ね・・・その・・・」
切り出されたのはいいものの、煮え切らない態度の二乃に違和感を抱いた。問いかけを催促するようにして、詰まっているであろう言葉を吐かせる
「らしくないな。どうしたんだ?」
仰向けのままで、目だけ二乃側へ向けて問いかけると――――
「・・・隣、行ってもいい?」
予期しない台詞が、耳を通り過ぎた
次回はR18回ですが、その後は多少の考察要素も加わってきます。よければ考えてみてくださいね。アンケートも置くと思います