’’思い立ったが吉日’’
何かをしようと思ったら、即座に手をつけるのがよい。たとえ暦の上ではその日が凶であっても、実行することで吉日になるという意味だ
この諺を連想させた時、皆は誰が頭を過ぎるだろうか。姉妹の中でも行動力に長けた四葉か?はたまたこういった予期せぬ行動を連発してくる二乃か?
五姉妹で考えた場合の話だが、多くの輩はこの二人を筆頭に思い起こすことだろう
しかし、こと’’恋愛’’という概念に話が限定されるならば、二乃の右に出る者はいない。俺はそういう結論に至る
「――――私と、踊ってくれませんか?」
予想外の出来事というのは、いつだって思いがけぬタイミングで襲ってくるものだ。まぁ、だから予想’’外’’と綴るのだろうが。まさか同日に姉妹2人からダンスのお誘いを受けるとは誰が予想できただろう
あんな回りくどい誘い方に最初こそ戸惑ったが、俺はとっくに気付いている。四葉の嘘を見破れない程、伊達に人生を共にしちゃいないのだ。とは言っても、二乃のこの奇襲には対応を考えていなかった。四葉の誘いを受けるのが先決とされるのならば、二乃からの誘いを断る事もひとつの決断と言える
だが、俺には…どうしても確かめなくてはならないことがあるのだ
二乃には悪いかもしれないが、キャンプファイヤーの話をしている悠長な時間はないのだ。最悪、林間学校を棒に振ってまででも、突き止めておかねばならない事実が発覚してしまったのだから
「…すまない。二乃」
突っ撥ねた返事をしたにも関わらず、二乃は何故かわかっていたような表情で続けた
「…そう。でもなんでかしらね?不思議とこうなることが読めてた自分がいるの」
「…どういうことだ」
「簡単な話。フー君は意外と優柔不断だし?今焦ってもいいことないし?ま、それでも私と踊ってもらうことに変わりはないから。公衆の面前で踊る覚悟ができたら、今度はあなたから誘ってちょうだい」
汚れた布団のシーツを交換しながら、彼女は飄々と告げた。女心に踊らされてばかりの俺が、公衆の面前で踊りたいと思える日は来るのか。そんな疑問も無駄になるのは目に見えた事実であった
しかし、まだ返事を先送りにできるのなら好都合。その話には乗らせていただく以外に選択肢はない
「それに、こういうのは男の子から言われるのが嬉しいものなのよ?楽しみにしてるわね♡」
大きな瞳を、器用に片方だけ閉じたウインク。星かハートが飛び散ったんじゃないかと疑うくらいのあざとさ。どこまで行っても二乃は二乃で、四葉は四葉だ。インビテーションの違いが性格の違いを表している
林間学校までの生活は、その事態に備えて…俺なりに準備を進めさせてもらうとしようか
☆
「フータロー君?勉強はもういいのかな?」
帰ろうとした矢先、汚部屋の主にして姉妹の長である中野一花に絡まれてしまう。時刻は14時なので、お開きになってもおかしな時間ではない
「1人体制だとやりやすくてな。思ってたより順調だ」
「おお〜頼もしいねぇ〜、次は誰にする予定なのかな?」
そのコーヒーは、本来朝起きに飲む物であって、間違いなく昼飯前に飲むものではない。生活習慣から改善しなければ、こいつに勉強を専念させることさえ叶わない。目の前の課題が多すぎる
「成績順に行けば一花だろうな。逃げるなよ」
「失礼だなぁ…逃げるわけないじゃん!」
「…バイトも入れるんじゃねえぞ」
前世は家庭教師のある日に合わせるように入れていたバイトなのもお見通しだ。面と向かって言っておけば、この手の逃げ道は無くなるだろう
「……入れるわけないもん。せっかくまた会えたんだから」
逃げ道を潰す台詞の後は、声が小さすぎて聞こえなかった
「なにか言ったか?」
「…んーん。なんでもないよ?今日はお疲れ様!」
「お、おう…」
半ば強制的に追い出された高層マンションを背に、帰路へ着いた
その翌日、鞄に入っていたファイルと筆記用具を取り出した。それというのも、先日行った学力測定の為の小テストを採点するからだ。内容は初期のテストと全く変わらないので、これが全員併せて100になるのは目に見えている故に、採点すら煩わしくなってしまう
しかし答え合わせを進める内に、また相違点が生まれた
「…101点?」
意図せず口から出たように、何度計算しても総合点は101点だった。採点をし直しても点が変動することはない。採点ミスを疑っては手計算をして、算出し終えたら紙に筆算。最大でもたかが500点の計算を今更間違えるとは思えない。何故こうなったのか、思考を張り巡らせる
考えられる原因とすれば…家庭教師を予定より早く行えたこと…だよな。しかし原因はそこではない。何故そう断言できるのというと…五月・四葉・二乃に勉強を教えはしたが、今回の小テストの問題については、一問たりとて触れていないからだ。俺が教えたのは、飽くまでも次の中間テストの問題
つまり、小テストに関する問題に限っては、前世との知識量に差はない筈だ。仮に小テストの範囲の問題を解説していたとすれば、この点数よりは遥かに高くなる筈…低くなることなど以ての外だが、低くなる方がまだ納得できる
それも中途半端に一点…どう考えてもおかしい。知識量に差はなく、且つ一点の誤差を出しているってことは――――
5人のうち、誰か1人が点数を前世の自分に寄せにいった?
そう導き出す他なかった。その調整を間違えた結果、こんな曖昧な点数になったってのか…?
こうして、風太郎の疑念は…確信へと変わった
さて…ちょっとしたミステリーが始まりますよお