43.瞠目。~44.理想。の間の話。
「……うん。」
彼女を初めて「九條都」と認識したのは。
ナインボールで出会った、可愛い店員さんを知ったずっと後だった。
彼女に声を掛けられて初めて認識し。
けれど、その程度の付き合い方で終わるはずだったのに。
俺が、彼女を意識しなかったのは何故だろう。
そう考えれば考えるほどに、思い付く答えはマイナス方面。
身の程に合わない。
彼女は高嶺の花で。
俺は、何処にでもいる人付き合いが苦手な一学生。
そんな。
同じ学校に通うクラスメイト、程度の繋がりしか無かったのに。
メビウスフェスから始まった、アーティファクト騒動から一月も経たない間に。
俺達は結ばれ。
そして、運命の悪戯として。
別の可能性を幾つも経て。
今、こうして腕の中にいる。
とくん、とくんと心臓が落ち着いて鳴っているのを感じた。
緊張しているのは俺だけなのか。
それとも、彼女もなのだろうか。
彼女特有の、何処か花を思わせる香りが漂った。
特に以前は匂いになんて注意を払っていなかったのに。
誰かがこうしてやってくるようになって。
何度も、手の中で。
何度も、目の前で。
失う度に残る、鉄錆にも似た特有の匂いを思い出す度に。
忘れないようにと、それぞれの香りを無意識に憶えていた。
「……翔、くん?」
「あ。 ……悪い、変だったか?」
「ううん。 ……私こそ、変じゃない?」
そうおずおずと問い掛ける彼女の目は潤み。
思い出すのは、ゲームセンター帰りのあの光景。
互いに、気持ちを吐露して。
「何でだ?」
「汗臭いの……どうかな、って。」
「だから汗流してからにしようって言ったんだが……。」
「私は――――嫌いじゃ、ないよ?」
そう呟いている少女。
度重なる行為。
互いが互いを求め続けた日々。
蜜月と言うべきか、或いは肉欲に溺れていたと言うべきか。
私服姿で、制服姿で、喫茶店の服装で。
彼女は妙に勉強家で。
それに負けじと、ネット上で調べた行為で返すような。
対外的には、唯の彼氏と彼女。
本質的には、籍を入れていない夫婦のような関係。
そして、今。
もう一度結ばれようとしている俺達。
なら、返す答えは。
「……あのな。」
「ふぇ?」
「俺が、嫌だと思うか?」
顎を上に持ち上げて、眼と眼を合わせるように呟けば。
ちょっとの放心。
そして、漏れる答えと花のような笑顔。
「……ううん。」
「だったら、答えは要らないだろ。」
「……でも、翔くんの口から聞きたいな。」
この、我儘なお嬢様。
けれど、今は俺が
そんな幸福を込めて。
「……都だったら、どんなのだって好きだよ。」
「……うん。」
唇を、自然に重ねた。
感じた匂いは――――ああ、そうだ。
薔薇の。