叶えてはいけない。
そう想うこと、幾星霜。
*58.「きょうだい」。~59.夢現。 の間の話。
その想いの名を。
「……つかれた。」
たまには、と。
そんな気分で風呂を入れ、身体を沈めている時だった。
暫くの間に色々起きたことで、多分芯の辺りに疲労が溜まっていたのだろう。
……後は、そう。
そんな思い出すのも小っ恥ずかしい事と、二人の裸体を思い出して熱が上と下に集まって。
慌てて首を振ったそんな時。
「じゃじゃーん!」
「…………は?」
だーん!と。
そんな物音を立てながら扉を思い切り開けてきた
何事だよ、と思ってしまって一瞬思考が止まった。
「ばっ、おまさっき入ったろ!?」
「洗っただけで全然温まってないよ! というわけで失礼しまーす。」
「自慢気に言うところじゃねえよ!?」
その一瞬の間を活かし。
極当たり前のように、ずっと昔のように。
覆い隠そうともせずに、浴槽へと入り込んできた。
「……おお。 やっぱりちゃんと入ると違うね。」
「良いから出ろよ!?」
元々が一人用のものだからこそ、お湯が溢れ周囲へと撒き散らされる。
しかも入り方は、俺自身に抱き着くように。
顔と顔を見合わせる形で、俺が出ようとするには無理に天を退かす必要がある入り方。
…………詰んだ。
「え~いいじゃん何か昔みたいでさ~。」
「お前の言う昔って何年前だと思ってるんですかね……。」
「え? ええっと……。」
「そこは真面目に答えるところなのか?」
「違うの?」
俺に聞くな。
顔を入口側に向け、真正面からは決して見ないように。
言い方を変えるなら、”目を合わせない”ようにしながら。
それでも、触覚と聴覚は正確に今の状況を伝えてくる。
ちゃぷん。
水滴が水面を揺らす音でさえ、今の俺には強烈にも感じた。
相手は血の繋がった妹なのに。
或いは、血の繋がった妹だからこそか。
そんな、明らかな矛盾こそが湯気で満ちた空間という事も合わさって妙な思考へと至ってしまう。
「……で、退いてくれないか?」
「なんでですかお兄たま。」
「出るからだよ……!」
「いーやーでーすー。」
そう言いながら胸を押し付けてくるのをやめろ。
更に身動きが取れなくなる。
それはまあ、生理的な反応を含んで。
「こうまでしてるんだし、少しくらいは良くない?」
「お前のその”少し”は絶大な問題があるって分かってるよな!?」
「私は問題ないし! 寧ろバッチコイだし!」
「記憶戻らないほうが良かったんじゃねえかな……。」
「そういう事言うの禁止!」
更に距離を近付けてくる。
間が空いている、と言うよりは既に密着している、という状況に近く。
傍から見れば、既に言い訳の出来ない態勢。
……視界の隅に映ったこいつの顔もまた赤く。
自分でやっていて恥ずかしいのだというのは見て取れた。
「…………ね。」
「…………なんだよ。」
少しの静寂。
「……おねがい。」
「…………何を?」
一呼吸。
「…………おにいちゃんが、いいの。」
二呼吸。
「私のぜんぶ、もらって?」
三呼吸。
どちらともなく、吐く息と。
間に伝わる粘着性の液体が、口元から伸びていた。