デイジィ 女剣士
アベル 青き珠の勇者
ようやく落ち着ける。そう思っているのに心は穏やかではなかった。
バラモスとの最終決戦から二日経ち、あたしはアベルと二人でカザーブという高原の町に来ていた。最終決戦を終えたその日の深夜に、ほとんど夜逃げ同然であたしたちは駆け落ちした。疲れてはいたが、誰にも引き止めらない方法はこれしかなかった。
アリアハンを出立し、徒歩で一日半。地図は片手に北に向かう山道を登った。その先にあるカザーブという町を目指して。この町には竜伝説にまつわる秘宝はなく、バラモスに目をつけられることもなければ、あたしたちが冒険の中で訪れることもなかった。あたしたちを知っている輩はいないだろう。
そんな単純な理由で向かったわけだが、いざ到着してみるとカザーブは思いの外いいところだった。町には活気があり、標高の高い地域らしく空気もカラッとしていて涼しい。
「こんないい町がアリアハンの近くにあるなんて、オイラ知らなかったよ」
アベルが屈託のない笑顔を向けた。
「ここならゆっくりできそうだな」
長かった冒険の疲れを癒し、アベルと二人で男女の時間を過ごすにはまさにうってつけの場所だと思えた。
鎧をつけたままの格好では目立つ。とりあえず動きやすいように衣料品だけ揃え、宿を取ることにした。田舎町だからそんなに高級な宿ではないが、それなりに設備の整った大きめのホテルの二階。初めてのダブルベッドの部屋。
今夜、このベッドの上であたしはアベルに抱かれる。甘美な想いに胸が高鳴った。
一息ついて、あたしは夕食とぶどう酒の買い出しに出かけた。夜の営みのことを考えて避妊具も買ってきた。なにも言わずに食料品と一緒にテーブルの上に並べると、アベルはその存在に気づいた。何も言わなかったが、喉を鳴らし目を血走らせるのがわかった。
「オイラ、楽しみなんだ。これからはずっとデイジィと一緒にいられるなんてさ」
アベルは窓の前に立って、両手を広げてあたしを招いた。その優しい笑顔に真の愛情を読み取ったあたしは、アベルの胸に向かって駆け出していた。
「ああ、あたしも楽しみだよ。アベル!」
その分厚い胸板に思い切りぶつかると、アベルの太い腕が背中に回り、強く抱きしめられた。
しばらく無言で抱き合った後、アベルは腕の力を緩めた。腰に左手を回し、右手であたしの左手首を掴む。腰を抱き寄せながら、あたしの顔が上を向くようにした。
あたしたちは無言のまま唇を重ねた。口を閉じたまま、アベルの静かな鼻息だけを聞いていた。
唇を離すと、アベルは歯を見せて笑う。あたしもつられて笑った。
「腹減っただろ。早く、食べようぜ」
あたしがそう言ってアベルを促し、二人でダイニングテーブルを挟んで座った。買ってきたハムをパンに挟んで食べる。
「うまいな」
アベルはぶっきらぼうに言って、ガツガツと食べ続ける。農業で栄えただけあって、ここで手に入る肉美味ようだ。ぶどう酒にもよく合った。
あたしは豪快に肉を貪るアベルをぼんやりと見つめながら、ゆっくりと食事を進めた。
若い男女が二人きり。肉にかぶりつき、紅いぶどう酒を啜る。どこか官能的な雰囲気に、あたしの肉体が昂ってくるのを感じた