「デイジィ……」
二人の呼吸が落ち着いた頃、アベルは小さくあたしの名前を呼んだ。
「終わったの……?」
アベルの変わり様から考えれば、当然射精したに決まっている。でまあたしも経験が浅くて自信がなかった。
「……ああ」
アベルは小さく返事をした。機嫌の悪そうな、低い声だった。
「デイジィ……凄く、良かったよ」
「あたしも……素敵だったよ……アベル」
恥ずかしさに耐えながら、あたしも感想を伝えた。
避妊具越しとはいえ、アベルはあたしの中で射精した。二人だけの旅を始めて、最初に取った宿での夜。そこで愛を確かめ合えたことに、あたしは深い満足感を覚えていた。
目を閉じて首を垂れるアベルを引き寄せた。力ない目。真っ直ぐに顔を覗き込んでいると、アベルはそっと目を閉じて首を傾けた。今度はアベルから身を寄せ、キスをした。そっと触れるだけの軽いものだった。少し熱の下がった唇だった。
アベルは身を起こし、ゆっくりと腰を後ろに退いて陰茎を引き抜いた。まだ膨張したままの陰茎が上方に跳ね上がる。それを包む避妊具の先に液体が溜まり、膨らんでいた。アベルは無言でベッドから降り、部屋の隅まで歩いて行った。避妊具をゴミ箱に捨てて、てぬぐいで陰茎を拭った。
あたしも軽く身体を拭いてパンティだけ身につける。アベルはトランクスを履いてあたしの隣に戻って来た。すぐさまベッドの真ん中に大の字に寝転がってしまったので、あたしはその右腕を枕に横から抱きついた。
「アベル。嬉しかったよ……あたしたち、これからは毎晩こうやって一緒にいられるんだな」
思い切ってあたしから語りかけた。情事を済ませた直後だというのに、どうやって接していいかあたしにはわからなかった。
「ああ……オイラも嬉しいよ」
アベルは右腕を曲げて、そっとあたしの背中を抱いた。
「でもごめん……下手でさ……嫌なことしたりしなかったかな」
「何言ってるんだよ。気持ちよかったって……それに下手だと思うんだったら、これから毎日すればいいだろ?」
あたしが笑顔で覗き込むと、アベルも笑い返した。
「信じられないよ。これからは毎日お前とこうしていられるなんて……。初めてなんだ。こんな幸せな気持ちになるのは」
「あたしもこんなに幸せなのは初めてだ……でもいいだろ? 今までずっと寂しい想いや苦労ばかりしてきたんだ。幸せになったって罰は当たらないさ」
本当に不思議な感覚だった。自然と全身から力が抜けていく。目の前の人に全てを委ね、安心し切れる。初めて感じる安らぎだった。
「そうだな……この幸せを大切にするよ。絶対に失いたくない。お前のことは一生守り抜くよ」
その言葉にまたあたしの胸が高鳴った。
「アベル……」
剣の腕で鳴らしたあたしとしては、誰かに守ってもらうなど屈辱的なことだ。でもこの男にだけなら甘えてみたい感覚になる。
「嬉しいよ……」
あたしはアベルの胸に顔を埋め、高鳴る鼓動を治めるために大きく鼻で呼吸を続けた。
しばらく余韻に浸って抱きついていると、外が真っ暗になっていることに気付いた。時計の針は九時半を指している。そろそろ町が寝静まる時間のようだ。
「もう、寝る時間みたいだな。あたしたちも寝ようか?」
アベルは相変わらず大の字になって、天井を見つめている。疲れが抜けたのか、顔に生気が戻っていた。
「デイジィ……オイラ、またお前を抱きたいよ」
「うん……いいんだよ。また明日しような」
さっき毎日しようと話したばかりなのに、疲れて聞いていなかったのだろうか。
アベルはあたしの方に身体の向きを変え、左手を伸ばして来た。その手が乳房を掴んだ。
「つっ……!」
乱暴な触り方に怒りを覚え、文句を言おうとした。だがアベルの顔が思いのほか真剣だったので、あたしは黙ってアベルの言葉を待った。
「そうじゃなくて、今からもう一度……お前を抱きたいんだよ!」
言葉では希望を伝えているだけだが、その言い方には有無を言わせぬものがあった。
「でも……今、出したばかりじゃないか。今夜はもうできないだろ?」
男は一度出してしまうと、ぐったりとしてすぐに寝てしまうと耳に挟んだことがあったのだが……。
「別に、一日に一回しかできないわけじゃないよ……。それにお前が隣にいると、身体の底から力が湧いてきちゃってさ……何度でもできそうなんだ」
「え……でも」
会話などお構いなしに、アベルはあたしに覆い被さった。
「ごめん……我慢できないよ」
戸惑うあたしをよそに、アベルは強引にあたしを抱きすくめ、素早く唇を奪った。同時に裸の乳房を荒々しく揉み始めた。
「んっ! くっ……」
あたしは、乱暴な愛撫に身を捩らせ、唇と唇の間から声を漏らしながら応えた。すると徐々にあたしの肉体も昂り、熱を帯びてくるのがわかった。
あたしはアベルを押し返し、口を離した。
「ア、アベル……いいんだよ。あたしはあんたに抱いて欲しいんだ。でも、その……あんたがそんなすぐに欲しがるなんて考えてなくて。ちょっと待ってくれ」
「待てないよ」
「酷いよアベル……どうしてそんなに強引なんだ」
アベルの眼が、火を灯らせたように光った。
「お前が可愛過ぎるからだろ!」
アベルはあたしを抱き締め、首筋に熱い舌を走らせた。まるで強姦する勢いであたしを求め始めた。
「好きだ! デイジィ!」
さっきまでの大人しい口調から一変して、アベルの声は急に怒気を含んだものになった。以前からこういうことは多々あったので不思議には思わなかったが、あたしが欲しいがために我を失っているのかと思うと、嬉しくさえ感じた。
「嫌! ア、アベル!」
あたしは無意識に叫んで抵抗していた。もちろん本当に嫌な訳ではなかった。それを知ってか、アベルも動きを止めない。背中や尻を撫で回し、せっかく履き直したパンティも即座に剥ぎ取った。さっきと同じようにくしゃくしゃに丸められたパンティは、枕元に投げ捨てられた。
その後もアベルは当然のようにあたしの抵抗を無視し、一度目よりも激しく犯した。両脚を大きく押し広げ、力強く腰を打ちつけた。あたしの悲鳴を聞き流し、突き上げ続けた。
結局アベルはこの夜、四回あたしを抱いた。アベルの欲望を限界まで受け切り、疲れ果てたあたしは泥のように眠った。