ある暇を持て余したオフの日。夏波結の携帯に同期のVtuberである黒猫燦から一通のメッセージが届いた。内容は「ピンチ」の一言。どうしたの?と返信しても反応が返ってこないのが今日に限ってひどく不審に思え、車を出す。
10分か、15分か、やっと到着した燦の家のインターホンを押すが、こちらも反応が無い。......もしかして尋常でない事態が起こっているのでは、危惧した結は合鍵で扉を開けて突入。
「燦! どこ!?」
「ひぐっ、ぐす......ゅい?」
家の中に入り、名前を呼びながら探しているとふとか細い声が耳に届く。方向は2階の廊下の奥、これは......燦の部屋?
「燦!」
階段を駆け上がって部屋のドアを叩く。ドアノブを捻ってもガチャガチャと音がするだけでまるで開く様子がないことに首を傾げると、扉越しにゆい、ゆいと泣きじゃくりながらも私の名前を呼ぶ声。逡巡は一瞬だった。
「燦、いい? ドアから離れててね」
「ぇぅ......ひくっ、わかった......にゃ」
扉越しに足音。こういう強硬手段に出るのはあまり好ましくないし普段なら絶対にやらない。けれど緊急事態だと言うのなら仕方はあるまい。お母様には後で謝ろう。
「修理費は出すから許してね」
「.......ぁ、結待ってちょっとまっ」
「ふっっ!!」
体を思い切り捻り、全身のバネを最大限使った回し蹴りを扉に叩き込む。そうして、轟音を立てて吹き飛んだドアの向こうにはなぜか全裸の燦がしりもちを着いてこちらを見上げている。
「えっ、あっ、やっ」
「......燦?」
「み、見ないで! 見ないでぇ......」
どういう状況なんだろう、と考えているとちょろちょろと音。......裸の燦の下腹部から、黄金の液体が流れ出ていた。顔を真っ赤に染めて止まってと泣きながら、羞恥と排出の快感の間で揺れている。
「やぁぁ.......」
「あー.......」
いっそ芸術的なまでの肢体をくねらせ、どうにか粗相を隠そうとする燦。無意識にごくりと喉が鳴る。目尻に涙を浮かべ、恥じらいと絶望に満ち満ちた表情が私の嗜虐心をひどく刺激する。同性ですらこうなのだからここに居るのが異性でなくて本当に良かった、少なくとも私が男ならすぐさま襲いかかっているだろう。それぐらい身悶える燦には色香というか、危険な魅力があった。
そんなことを考える間にも放出はどんどん続き、扇情的なその光景は部屋の4分の1を水没させるまで止まることはなく、零れた涙と混ざりあって床は大変なことになっていた。
「えっと......とりあえず、おいで?」
「うぇぇ......」
やがてようやく思考が現実に追いつく。水たまりにへたり込む燦と目線を合わせて迎え入れる。汗で冷えきった体が痛々しい。
......推測だが、恐らくは部屋に閉じ込められて尿意を抑えきれなかったのだろう。だからこそ私を呼んだのだろうし、きっと何時間も我慢していたはずだ。なのにその私が突入し、扉を破壊したせいで燦は驚き、一緒に堤防も決壊させてしまったと思われる。ごめんね、ごめんねと何度も燦に謝りながらせめて後処理だけは手伝おうと決める。これは責任を取るべき事態だ、間違いない。
「ほら、燦。まずはお風呂いっておいで? 体、もう冷えきってるじゃん」
「......」
「燦?」
しかし燦は離れようとしない。涙と鼻水に塗れた泣き顔を私のお腹に押し付けてぎゅうっと抱きついてくる。どうしたんだろう。普段よりさらに白くみえる肌を震わせて、子供のように。普段なら絶対にお風呂に駆け込んでいるはずなのに......。
「......ゎぃ」
「どしたの、燦。私に言ってごらん」
「.......ひとりは......また閉じ込められそうで、こわい.......」
......そうだった。この子は、今の今までたった一人で部屋から出られず何時間も耐えてきたのだ。健気に、私が来るのを信じて。そんな子にまた孤独を与えるとか、私は馬鹿か!
「ん、わかった。一緒にお風呂入ろっか」
「ん.......」
肩を震わせて、こくりと頷く。頭を撫でながらその小さな体躯を抱き上げると、震えながらもぎゅっとしがみついてくる。濡れた体、庇護欲をそそるその姿に沈めたはずのイケナイ気持ちがまた湧き上がってきて......。
「んっ......」
「むぅっ!?」
気づけば唇を重ねていた。腕の中の体をきつく抱きしめ、後頭部に手を添え、燦の抵抗を奪い尽くすように。震えも、怯えも、全てを塗りつぶしてしまえと。必死に息継ぎをする燦が可愛くて、ぺろりと唇を舐めると恐る恐る舌を出してきて、それを吸い上げるとまた目尻に涙の雫を浮かべる。
「ゅい.....あぇ......」
「燦......」
......どうしてこの子はこんなにも私を煽るのか。弱っているはずの子を襲うなんて最低、とどこかが警告してくる。ああ、でも......。
「ねえ、燦。拒まないの?」
「......なんで......?」
「なんでって......だって、もう私、止まれない」
正直に言おう。理性なんかとっくに焼き切れている。だから今のうちに突き飛ばすなりなんなりしてくれないと、私は堕ちるところまで堕ちてしまうだろう。そこはきっと私にとって楽園で、罪と快楽に満ちた地獄のような場所。そこにこの無垢な女の子を付き合わせるわけにはいけない。だからお願い、私を拒絶して───。
「いい、にゃ......」
だというのに、私の内心を知らずか体の力を抜いて受け入れようとしてくる。その瞳に浮かぶのは絶対的な信頼。今にも自分を汚そうとする相手に向けていい感情ではない。
「......馬鹿」
そして、ゆっくりと手を伸ばして、なだらかな膨らみに触れる瞬間ーーー
ガチャリ
「「ッ!?」」
玄関の扉が開く音。まさか、燦のお母様!?
「やややややばいにゃママ帰ってきちゃったにゃ!?!?」
「えっやばいこれ片付けないと.......あ」
そうやって素に戻った私たちの目の前に広がるのは床一面のもう冷たい水たまり。ついでに私達ははだけた服に真っ赤な顔。
「......ん。燦? 部屋にいるのか?」
どうやらお母様はこちらに向かってくるらしい。この惨状は今からではもう隠せないだろう。
「......どうする?」
苦笑いしながら燦に問いかけると、諦めるにゃと首を振る。そうして、ほんの少しの背徳の時間は終わりを告げた。
もちろんこのあとお母様には徹底的に絞られたのは語るまでもない。