ユニークスキルのせいでモテない俺は、酔っ払った勢いで奴隷を買いました。 作:☆あきつしま☆
「ここに置いているのがウチが選んだこの店で出せる一番の武器っす!」
俺の予想通り、キャロラインとシエナはトレーニング室に着く頃にはいつもの調子に戻っていた。
部屋の中に入ると……入口近くの机の上に筆ペンみたいなものと短剣が置いてあった。
ちなみにトレーニング室と言っても試し切りをしたり出来る場所ということで、言葉通りのトレーニングをする場所ではない。
「……短剣は見て分かったが……この筆ペンみたいなやつは何だ? 見たことがないんだが……」
「エリックの旦那、シエナさん。まずは見ていてくださいっす」
キャロラインが筆ペンみたいなものを右手に持って『アクティベートっす!』と叫ぶと……ガチャンガチャンという音を立てながら目ではっきりと追えない速度で変形していき……あっという間に大きな杖へと変形した。
「どうっすか? これこそエリックの旦那の注文通りの『この店で出せる一番良い装備』っす! 機構が複雑すぎるのと必要となる材料が滅多に手に入らないため大量生産は不可能、それに一般に出回って悪用されたらとんでもないことになる極秘技術をこれでもかと詰め込んでいるっす! この武器をミラさんに見せて自慢したら『武器の能力が凄すぎるのと、希少性を考えてS級ランクの冒険者以外には売らないように』と販売制限を掛けられてしまったっす!」
ミラさんもキャロラインのお店の武器を使っているから二人の関係は良好らしい。まあ、キャロラインがミラさんに完成した最新の武器を自慢しに行くくらいだからな。
『見てくださいっす! すごいやつが出来たっす!』とか言って仕事中のミラさんに無理やり武器を見せているところが想像できるわ。
「凄い武器だということは分かったが……この武器の特徴はどういったものだ?」
ミラさんが『武器の能力が凄すぎる』と言うくらいだ。とんでもないんだろう。
「この携帯型の杖は、魔術を使ったときに必要となる魔力が通常の半分になるっす。それでいて魔術の効果は三倍になるっす! 回復魔術を使うのならたぶん瀕死状態の人が元通り元気一杯になるっす!」
とんでもない杖だった。
使う魔術の階級によるだろうが、その話だと低級魔術で禁忌レベルの魔術の威力や効果が見込めそうだぞ……
……ニーニャといいカイルといいキャロラインといい……今まで不可能と言われてきたことをポンポンと実現してきくな……
この杖は本当に凄い武器だ。凄いんだが……
「キャロライン。それ『S級ランクの冒険者』にしか売ったら駄目なんだろ? シエナはS級ランクじゃないぞ?」
俺はS級ランクではあるが、シエナはそもそも現時点では冒険者ですら無い。
しかし、キャロラインは『ふふん』という顔をする。
「この武器はウチがエリックの旦那に売った、ということにすればいいだけっす! 確かにミラさんには『S級ランクの冒険者以外には売らないように』と言われたっす。でも、この武器の本当の使用者が『S級ランク』でないといけないなんて一言も言われていないっす! つまり、S級ランクのエリックの旦那がこれを買って、シエナさんに渡すということは禁止されていないっす!」
……俺は絶句する。
キャロライン……お前……実は賢かったのか……!?
いつもいつも『っす!』とか語尾につけているからおバカキャラなのかとてっきり思っていたのに……
いや、武器づくりに関しては天才だとは思っていたが……
「……確かにその通りだな。じゃあ、そういうことにしてありがたく買わせてもらおう。っと、会計の前に。シエナ、この携帯型の杖をーー」
「――キャロっす!」
後ろで俺たちの話を聞いていたシエナに試しに握ってみてくれ、と言おうとしたんだが……どうやら杖にはキャロラインが付けた名前があるらしい。
彼女、自分が作った武器でも傑作と思ったものには名前というか愛称を付ける癖があるんだよな……
「まあ、うん。キャロを持ってみてくれないか?」
キャロラインがシエナにキャロ(杖)を大事そうに渡す。
出来ればシエナが自分でキャロを携帯状態から杖に変形して、実際に回復魔術を使って使用感を確かめるのが良いんだが……彼女は冒険者でないために回復魔術を使えない。
まあ、俺の経験上、あまり杖に関しては相性とかそういうものはなかったので大丈夫だろう。
「どうだ? 重たいとか握りにくいとかないか?」
シエナが上下左右にキャロを動かして確かめる。
「……はい。非常に軽いですし、手にもしっかり馴染んで持ちやすいです」
「当然っす! ウチが作った武器っすから。シエナさん、大事に使ってくださいっすね?」
「はい! 大事に使わせていただきます!」
まあ、シエナのことだ。俺みたいにすぐにぶっ壊したりとかそういうことはないだろう。
いや、前も言ったが俺の場合はモンスターと戦って壊れるのが大半だけどな!
しかし……なんか俺も同じような武器が欲しくなってきたな……
「なあキャロライン。剣士用にキャロと同じようなものはないのか?」
「今はないっすね。一番武器自体の耐久が必要なさそうなヒーラー専用の杖を試作して調節したのがそのキャロっすから。剣となると……ちょっと今は技術的に難しいっす。それよりも、今剣士用の新しい武器を作っているっすから、そっちのほうが気に入ると思うっす。最初はエリックの旦那に試してもらおうと思っているっすから、もうちょっと待っててくださいっす!」
……まあ、剣は耐久性が高くないと使い物にならないからな……
キャロと同じようなものがなくて少しがっかりしたが……新しい武器を作っているとキャロラインが教えてくれたのですぐにテンションが上がる。
「まあ、無いものをねだっても仕方ないからな。その新しい武器、楽しみにしているぞ!」
「はいっす!」
その後。短剣についても説明してもらったが、これに関しては従来より切れ味が増した、というもので、キャロのような画期的な進化を遂げたものではなかったため説明はすぐに終わった。
話も一段落し、特にシエナも気になるところがなかったみたいなのでお会計に進むことにする。
「じゃあ、キャロライン。会計を頼む。全部でいくらになった?」
「全部合わせて……金貨八百枚っすね」
「ふえっ!」
シエナが少しバリエーションを変えた声を上げる。
俺も似たような声を心の中で上げたが……もしかして、キャロラインの言い間違い、もしくは聞き間違いかもしれない。もう一度、ワンチャンあるかも知れないから聞こう。
「……すまん。もう一回言ってくれるか?」
「金貨八百枚っす!」
キャロラインの顔を見る。キャロラインも俺の顔を見る。
シエナの顔を見る。シエナは『あわわわ』というような顔で俺を見る。
俺は、本当に? とキャロラインに目で訴える。キャロラインはマジっす! と目で訴えてくる。
シエナの方を見ると……以下略。
……八百枚……ねぇ……
いや、キャロがそれだけ価値があるものだということは理解している。あれは本当に手に入れようとしても手に入らないレベルの代物だ。というか、この八百枚というのも大分まけてくれている感じがする。
だから、さっきのは様式美でやっただけだ。そう、様式美で……
俺は背負っていた荷物をゆっくりと下ろし、中から金貨の入った袋をゆっくりと取りだす。
キャロラインはたわわに実ったメロン2つを上下に揺らしながら俺が袋を渡すのを今か今かと待っている。
深呼吸一つ。
「……どうぞ」
「ありがたく数えさせていただくっす!」
バッと俺の手元から袋を取って店のカウンターへ消えていった。
この店は金貨の枚数を自動的に数えてくれる機械があり、彼女はその機械に金貨を投入しにいったのだろう。
ニーニャのお店では『今日は予算として金貨二千枚持ってきたから大丈夫だろ。それにこういうときのために今まで貯めてきたんだからな!あはははは!』とか言っていたが……
シエナのためにと俺が望んでやったこととはいえ……一日でシラフの状態でここまでの金貨が消し飛んでいくと……流石に心に若干のダメージが……
そう言えば今の総資産はいくらだっけ? えーっと……残り金貨約四千枚か。
あれ……? 案外あるんじゃね……?
「エリック様。その……お金とか大丈夫ですか……?」
意外と資産があるのでは? と思っているとシエナが懐事情を心配してきてくれた。
「大丈夫だ。シエナが心配するようなことにはなっていないよ。それに、今回の出費は全て必要経費だ。シエナがやる気を出して俺の支えとなるために冒険者になってくれるのであれば、俺もそれに答える義務があるからな。だから、気にせず思う存分今日買った服、防具、武器を使ってくれ!」
俺は安心させるように身振り手振りを交えながら笑顔でシエナに話す。
彼女も『はい!』とお金なんてどうでもよくなる笑顔を俺に向けてきた。
……本当に与えれば与えるだけ俺に幸せをくれる、いい子だ……涙が出そうですよ……
心で嬉し涙を流していると、キャロラインが最初のパンパンだったころの見る影がない袋を俺に渡してきた。
「ちょうど八百枚いただきましたっす! お買い上げありがとうっす!」
ペコリと彼女が頭を下げる。それに従い彼女の実もバルンバルンと上下運動をする。
……これはサービスですかな? ではこちらもありがたく見させてーー
人類の神秘の動きをしていたキャロラインの胸をまじまじと見ようとしたら、シエナが俺に向けて視線を向けてきていることに気がついた。
まずいと思った俺は即座に視線を明後日の方角に向けて緊急回避をする。
……なぜ俺の方を見てきていたのかは謎だが、このままアレを見ていたら色々とまずいと思ったのだ。
少し時間を置いて、再度キャロラインの方に目を向けると……すでにあの神秘の現象は鳴りを潜めてしまっていた。
……せっかくのチャンスだったのに……
シエナなら温泉とかこのお店での発言から『エリック様が見たいなら見せて上げます』とか言ってくれそうだが……そうじゃないのだ。『はいどうぞ』と言われて差しだされる『デザート』も良いものだとは思うが……隠れて見る『デザート』がのほうが今は欲しいのだ。
しばらく後。頭が落ち着いた俺は、荷物を背負ってキャロラインの店を後にし、二人で帰路につく。
キャロラインはニーニャ、カイルと同様に俺たちの姿が見えなくなるまで手を振っていた。
……嬉しい行為なのだが……みんなお金マークが目に付いているんだよなぁ……