ユニークスキルのせいでモテない俺は、酔っ払った勢いで奴隷を買いました。 作:☆あきつしま☆
俺が起きた頃には朝になっていた。翌日の朝ではなく、翌々日の朝だったが。
起きてすぐに隣を見てみると……シエナが幸せそうな顔で俺をじっと見つめてきていた。
「……おはよう……でいいのか?」
「おはようございます。かなり長い間寝ていたようですね。私もさっき起きたばっかりなのですが……エリック様の寝顔を見ているとそんなことがどうでも良くなるくらい幸せな気持ちになります」
ニッコリと微笑むシエナ。
俺も笑顔になる。
体を起こし、ベッドから起きると……俺は寝間着を着ていた。
……確か俺は全裸で寝ていたはずなんだが……
はて? と思っていると、シエナが
「スッポンポンでエリック様が寝てしまったので、私がパジャマを……」
と言ってきた。
ナイス!
「ありがとうな。流石の俺も昨日、というか一昨日は寝落ちするくらい疲れてしまっていたらしい。そういえばシエナ。体は大丈夫か? どこか調子が悪いとか、そういうのはないか? もしアレだったら今からでも診療所へーー」
「――もう……エリック様は心配性すぎです。まあ、そういうエリック様も大好きですが。大丈夫です! どこもおかしなところはありません。……しいて言えば……アソコの形がエリック様のものになって戻らなくなってしまったことでしょうか」
シエナが照れながら太ももをモジモジとする。
一昨日はしおれてもう立たないと言っていた息子が息を吹きかえし、ピクリと反応する。
……なんというか、俺とシエナの関係が変わってから彼女が積極的にアプローチをしてくるようになったかも知れない。
雰囲気に流されて盛った猿みたいにならないように気を引き締めなければ。
俺は『冗談を言っていると次はもっとハードなことをするからな?』と脅しを掛けてシエナと共に部屋を出て、朝食の準備を始めた。
料理を作っている途中、俺はシエナが奴隷になった経緯について何時彼女に聞こうかと悩んでいた。
シエナがめでたく俺の奥さんになったのだから、奴隷になった経緯をもうそろそろ聞いたほうが良いと思ったのだが……前に言ったとおり彼女が自分の口から話してくれるまでは俺からはアクションを取らないと決めている。
ただ、夫と妻という関係に段飛ばしではあるがなった以上、これはそろそろ知っておかなければいけない事だろうとも思うのだ。
どうしようか、どうしようかと考えていると朝食ができてしまった。
……こういうことをズバッと聞けない俺は度胸が無いんだろうな、と考えながらテーブルに料理を運ぶ。
『いただきます』
できたてほやほやの朝食をシエナとともに頂く。
今日はベーコンと卵焼き、それとコメという珍しい食材を朝食に選んだ。
コメは中々手に入らないのだが……こういうおめでたい時にはぴったりだと思ったのだ。
『ごちそうさまでした』
俺とシエナがおいしい朝食をほぼ同時に食べ終え、お茶を飲んで一服していると……シエナが
「エリック様。少し……聞いてもらいたいことがあるのですが……」
真剣な顔で俺に話を振ってきた。
お茶を飲むのを一旦止めて、椅子に深く座り直す。
このタイミング、シエナの表情から察するに……おそらくは……
「いいぞ。なんの話だ?」
「……エリック様に……私の過去をお話しようと思いまして。エリック様の『妻』となったのであれば、これは伝えておくべきかと」
……いよいよ来たか。
といってもシエナと出会って一週間経ってないから『いよいよ』とはならないかも知れないが、彼女と一緒に過ごした時間の濃さは『いよいよ』と言いたくなるものなのだ。
「……いいのか? まだ、話すのが辛いとかそういう感じだったら無理にーー」
「あ、いえ! そこまで深刻というか、暗くなる話ではないんです。ただ……話を切り出すタイミングが無くてズブズブとここまで言うのに時間がかかってしまったと言いますか……」
シエナが『ご心配をおかけして申し訳ありません!』というような顔をする。
……その気持ちめっちゃ分かるわ。大したことがないから後回しにしちゃって、かえって深刻そうな話だと相手がとらえてしまう、みたいなそんな感じだよな。何度もそういう経験あるから痛いほど分かる。
それからしばらくして。シエナは自分のタイミングで話し始めた。
「私はミルデンという小さな村で生まれ育ちました。食料も資源も乏しく、決して裕福とは言えませんでいしたが、父と母と共に幸せに暮らしていました」
昔に思いを馳せるようにシエナが遠い目をする。
ミルデン、という名前は聞いたことがなかった。ただ、この世界には人知れずひっそりと存在している町や村はごまんとあるので、俺が知らなくても珍しくないことだ。
「私が物心をついて少しした頃でした。村で原因不明の病気が流行りました。小さな村にはお医者様がいらっしゃらなかったので、有効な治療が出来ずに村の人々は次々と亡くなっていき……両親も命を落としました」
……辛そうな顔をする。
時が経ったとはいえ、親しい人が亡くなるということは辛いものだろう。俺も父親を小さい頃に亡くしているから気持ちはよく分かる。
シエナはなおも話を続ける。
「結局、最後まで生き残ったのは私だけでした。仲間がいなくなり、非常に心細かったのですが、私は生きるために必死になって村の外にある森の中に食料を取りに行ったり、水を川から汲んで生きてきました。村の外に出て違う所へ行こうかとも考えましたが……そもそもどこにどんな村や街があるのか分からなかったので……諦めました」
……ミルデンという村の周辺のことは分からないが、通常、街や村を一歩でも出るとそこからはモンスターに遭遇する危険性があると考えて行動しなくてはならない。彼女は中々危ないことをしていたらしい。
いくら出現率が低くても、『絶対に出てこない』というのはありえないのだ。必ずイレギュラーが存在し、思いも寄らない時にモンスターというものは俺達の命を刈り取ってくる。
え? じゃあ秘湯はどうなんだって?
あそこは……例外だ。試しにモンスターを引き連れながら秘湯に逃げ込んだことがあるのだが、俺を追いかけてきたモンスターは秘湯の周辺に近づくなり散り散りになって逃げてしまったのだ。その後何回やってみてもモンスターは近寄らなかった。だから、『安全だ』と言ったのだ。
まあ、もしものときのことは常に考えているので安心して欲しい。
脱線した俺の頭を引き戻すかのようにシエナが再度口を開く。
「そんなある日。私がいつものごとく森へ赴き食料を採取していると……当時は分かりませんでしたが、今となってはモンスターだと思われる化け物が私を襲ってきたのです」
……そんなことがあったのによく生き延びていたな……普通、そん事態になったら一般人だったら死んでいるぞ。
「そんなとき。突然現れた誰かがモンスターを一瞬で倒して私を救ってくださったのです」
……そりゃ……ヒーローみたいな出来事だな。俺だったら惚れてるわ。
「でも……お礼を言おうとした私の口をいきなりその方は押さえつけてきて……そのまま私は意識を失ってしまいました。それで、目が覚めると……奴隷市場にいた、というわけです。奴隷に関する悪い噂を少しだけ聞いていたりしたので……あの時は怖くて泣いてしまったのですが……」
シエナが『話は以上です』と言ってきた。
なる……ほど……。
話を聞き終わった俺は、どのような言葉をかけようかと迷う。
確かに、シエナの言う通りそこまで深刻ではないのかも知れない。
少なくとも両親が殺されて……とかそういう重い話ではなかった。まあ、病気で亡くなってはいるが。
ただし、それは俺の感じ方であり、シエナにとっては違うとらえ方をしているかもしれない。
安易に言葉をかけるのはシエナを傷つけてしまうかも知れないのだ。
お茶の入ったコップを持ちながら熟考していると……シエナが口を開く。
「……エリック様。無理に言葉を私にかけようとしていただかなくていいのです。過去には両親や村の人が病気で亡くなって凄く悲しい気持ちになったり、最近だといきなり襲われて訳も分からず奴隷になっていたりと怖い思いもしましたが……そんな出来事を経験してきたからこそエリック様と出会えたのだと思っているのです。だから、何も言わず、今まで通り接してくれる、それだけでいいんです」
シエナの顔を見ると、これまた天使のような笑顔をしていた。
……そう……だな。
無理に過去に関して気を遣うことは、シエナが望んでいないのだ。
ただ、一つだけ言っておこう。これだけは言っておかないと。
「……教えてくれてありがとう。シエナがそう望むのであれば俺も何か言葉をかけるのは止めることにする。ただ、これからは、というかこれからもシエナに悲しい思いとか、怖い思いはさせない。まあ、今まで通りではあるが……それだけは約束する」
……キザなセリフを言っているなぁ……とは思ったが、まあ俺とシエナの今の関係であれば大丈夫だろう。
顔を若干赤くしながらシエナの方を見てみると……シエナも同じように赤くしながらも『ありがとうございます』と頭を下げてお礼を言ってきた。