ユニークスキルのせいでモテない俺は、酔っ払った勢いで奴隷を買いました。 作:☆あきつしま☆
「エリック! いつもいつも十分前にはここに来なさいって言ってるわよね! 今日は集合時間ピッタシとはどういう了見なの!」
足でゲシゲシと体を蹴られる。が、彼女はこういう行為をする時はいつも靴は脱いでくれるので、優しい。
……優しい……のか……?
シエナが『大丈夫ですか!?』、とアワアワしながら心配しているので、『大丈夫だ。問題ない』と言って起き上がり、ドアをぶち壊したギルド長と対峙する。
「……ギルド長、時間通りなら良いと思うんですけど。それに、いつもソフィアが足止めしてくるから十分前集合なんて無理ですよ」
「エリック! 私のことはミラと呼びなさいって何度言ったら分かるの! あと、ソフィアはあとからお仕置きね。はい決定」
ソフィア、なんか飛び火しちゃった。ごめん!
彼女がこのアルメルドのギルド長をしているミラギルド長だ。
見た目はちっちゃくて可愛いのだが……言動と行動がとんでもない人である。
色々彼女には恩があるし、彼女自身のことも尊敬しているのだが……やっぱり言動と行動がなぁ……
「……ミラギルド長。流石に一介の冒険者である俺が『ミラ』と呼び捨てにするのは、反感を買って周りの人に殺されてしまいます。今でも視線がやばいのに……」
街で出会った女性冒険者の目を思い出す。やばい、寒気がしてきた。
「じゃあ、妥協して『ミラさん』と呼ぶこと。いいわね? あと、エリックがそこら辺の奴らに殺されるわけ無いでしょ。自分のランクをもう一度確認したらどう?」
……冒険者なら誰でも持っている冒険者カードを取り出し、見る。
そこには『S級ランク』と書かれていた。
そう、俺はそこそこ実力があって、そこそこ地位がある冒険者だ。
まあ、本当の実力で言えば『A級ランク』なのだが……ミラさんに気に入られているので、コネで『S級』になったっていう感じだ。
「エリック様。そのカードにはS級ランクと書いていますが、これはどういう意味ですか……?」
シエナがカードを覗き込んで、気になったのであろうことを質問してくる。
そういえば、シエナは冒険者について知らなかったみたいだし、ここらへんのことも分からないよな。
「それはーー」
「エリック。あんた、奴隷を買ったのね」
ギロリ、とミラさんの俺を見る目が鋭くなる。
え? 今? 今そのことについて触れるの? 普通は、出会った瞬間に聞くことじゃない?
「……まあ、そうですね。昨日、買いました」
「どういう目的で買ったの?」
鋭い目のまま俺に次の質問を投げかけてくる。
……目的……か……
彼女には嘘が通用しない。人の感情の機微を目線や表情で敏感に察知する特技がある人なのだ。というか、嘘を言ったら殺される。
……ここは……正直に言うしかないか……
「その……昨日、酔っ払った状態のときに奴隷として売られていたシエナを買ったらしくて……曖昧なのは記憶がないからなんですけど……特に目的はないです。でも! 慰み者にするとか、そういうことは絶対にしないので! シエナが嫌がることは絶対にしないので!」
本当のことは言うが、必死でアフターケアをする。つまりは言い訳なのだが。
俺の言葉を聞いてシエナが『ご主人様……』と感動している声を出してくれる。
「……あんた、とんでもない男ね。酔っ払って買いましたって頭がイかれている奴が言うことよ? まあ、でも……確かにエリックはそういう事をする男じゃないし、シエナさん、安心してね」
ミラさんがシエナの目を見て、俺が安全な人物であると太鼓判を押してくれる。
よし、いい流れだ! このままーー
「で、エリック。あんた、『女性を戦場で発情させる』という特技についてはシエナさんに話したのかしら?」
「…………」
黙りこくる。
ミラさんの目つきが再び鋭くなる。シエナは……驚いた顔をしているが……女性冒険者たちと違って、頬を赤らめて恥じらうだけだ。めっさ可愛い!
話がずれた。戻そう。
これに関しては俺が悪いんだけど……一つ訂正させて欲しい。
『女性を発情させる』ということについては、俺の『特技』ではない。これだけは訂正しておく。
「……はぁ。まあ、いいわ。クエストを受注するための書類をエリックに書いてもらっている間に、シエナさん。あなたに彼のユニークスキルと、さっきの『S級ランク』について説明してあげるわ。さあ、中に入ってきて。ほら、エリックも早く中に入りなさい!」
シエナに接するときみたいに、俺にも優しくしてください……ミラさん……
ぶっ壊れた扉の残骸を踏みながらギルド長の部屋の中に入ると……うわ眩しッ!
「少しカーテン閉めますよ」
眩しすぎて何も見えないので、窓際まで行って遮光カーテンを半分だけ閉める。
「ちょっと! 今から椅子に座って私の神々しさをあんたたちにアピールするところだったのに!」
「あーはいはい、今でも十分神々しいのでそんなことはしないで大丈夫ですよー」
ミラさんの文句を軽くあしらい、来客用のソファーに腰をかける。
……シエナが俺の背後に立ったまま座ろうとしないな。奴隷だということで気を使っているのか。
ちょくちょく知識が抜けているところがあるが、こういうところでの身のわきまえ方は知っているのか……
「シエナ。そこに立たれると中々に気まずいから俺の隣に座ってくれ」
「そうよ、シエナさん。エリックに気を使わなくていいから座りさない」
シエナは俺とミラさんの言葉を聞いて、『ありがとうございます』と丁寧にお辞儀をしてから優しく俺の隣に腰を掛けた。
……いや、マジでどっかのお嬢様だろ。仕草がいちいち優雅だぞ?
というか、顔もスタイルもいいのに仕草まで完璧とか……惚れるわ。いや、すでに一目惚れはしているんだっけ。
「じゃあ、はい。これ書いておいてね」
クエスト用紙をミラさんに渡されて強制的に思考がその紙に引き寄せられる。
……ん? この前ミラさんから聞いていたモンスターの情報と大分違って、めちゃくちゃ弱い割に高報酬だな、これ。
「ミラさん。今日のクエスト、本当にこれで合っているんですか?」
間違ったものを渡されたのかと思って彼女に聞き直すが……ミラさんは『はぁ……』とため息をつきつつ呆れ顔をしてきた。
「エリック。あんた、どうせシエナさんと一緒にクエストを受けるつもりなんでしょ? なら万が一のことがあったら大変じゃない。いちいち聞かずにそこら辺は察して欲しいわね」
おぉー! まじか! いつもいつも報酬は良いが危険なクエストばっかり押し付けられていたのに……こんな簡単なものを俺に斡旋してくれるなんて……!
「お気遣い感謝します! ミラ様!」
「……その呼び方、悪くないわね。今後、そう呼ぶように」
良きに計らえ、みたいなポーズを取りながらミラさんは上機嫌になる。
チョロいなー。っといかんかん。こんなこと考えてるってバレたら殺される。
というわけで、俺は渡された紙に色々と記入を始めた。耳は彼女たちの方に傾けたままだが。
「じゃあ、シエナさん。まずは……そうね。冒険者のランクについて話すわね?」
「はい! 宜しくおねがいします!」
シエナは興味津々といった声音だ。好奇心旺盛だな。良いことだぞ、うん!