催眠モノと言うには微妙な能力でがんばってみる 作:アウグスティンティン
多少こなし終えたので、これからまた更新を再開します。なんか変な部分あったら教えて下さい。
あと要望は活動報告で受け付けてます。一人で書いてると、ネタ切れになりそうなので。
10話
休日ということもあり、学内の食堂ではなく、外に朝ごはんを食べに行こうという話になった。
学園からしばらく歩いたところにある中華街は、ミルキィホームズでなくとも有名な場所だろう。俺たちはここに肉まんを食べに来たのだ。
「餃子肉まんってないのかな?」
「なんで光はいつも私に餃子を食べさせようとするわけ?」
「だってコーデリアだし」
「どういう理由よ」
「というか中身一緒でしょ」
と、ネロが突っ込んだ。コーデリアが文句を言うかと思ったのだが、特にそんなことはなかった。なぜだ。
ともあれ食べ歩きするべく、適当な店で肉まんを購入する。
さて、中華街に来て朝ご飯を買った。ということはたぶんそろそろ事件が起きると思うのだけれど。なんてぼんやり考えていると。
──ドォォォンッ!
うおっ、いきなり来た。ああ、びっくりした。
音の発生源は俺たちから少し離れたところにあったビルだ。ガラガラと倒壊していく音が響いていた。
非常事態であることは明らかであり、シャロが慌ててPDAを取り出してオペラに連絡をとる。
「大変です、先生!」
それから状況を説明していくのだが、現場から避難しようとする人がシャロにぶつかった。
「きゃあっ!」
その衝撃で肉まんとPDAを落として、シャロが悲鳴をあげる。
落としたショックでか通話が切れていたので、かけ直そうとするのだが、通話は繋がらない。
「三秒ルール!三秒ルール!」
「やめなさい!」
俺が急いで拾った肉まんは、コーデリアによって再び叩き落とされた。
「あ、もったいない」
「お腹壊すわよ!」
俺たちが漫才を繰り広げていると、シャロが叫んだ。
「そんなことより、先生と連絡が取れません!」
「場所は伝えられたから大丈夫だと思うけど」
焦りまくっているシャロに答える。オペラもシャロの悲鳴を聞いて慌てて部屋を出たせいで、PDAを置き忘れただけだし。
「あたしたち、どうしたらいいんでしょうか?」
「んー、とりあえず現場を見て回りながらオペラさんが来るのを待とうか。シャロは連絡を一応続けておいて」
「はい!」
という訳で、ゲーム版ストーリー最初のちゃんとした事件が始まった。
■◆■
現場近くにばらまかれていたトランプを拾い上げる。
トランプはすべて四のカードだ。マークの位置は本来あるべき場所から微妙にずれており、またくりぬかれている。
何枚か束ねてみると、それがすべて同じズレ方をしていることがわかった。
「だーかーらー! ここは小衣たちに任せて帰りなさーい!」
「いいえ、帰るわけにはいきません!」
ココロちゃんが怒鳴って、コーデリアが反発する。
俺たちが現場である六王ビルを調査しているところに、G4が到着したのだ。そして当然のように喧嘩になった。
「まあまあ、落ち着いて」
「次子は黙ってて!」
「コーデリアも冷静になりなよ」
「ネロは黙ってて!」
「おーこわ」
「だめだこりゃ」
止まらない暴走車二人に、次子とネロが即行で匙をぶん投げる。
「どうしましょう?」
「……はい」
平乃とエリーが困り顔で言っていた。
「コーデリアさーん! ココロちゃんをいじめちゃダメですよー!」
遠くに見つけたオペラのところへ駆けていっていたシャロが、からかうような声色で注意した。
そして恒例の言い合いを始める。怪盗帝国関係ない事件でもG4とは遭遇しているので、喧嘩にも慣れたものだ。
まあ言い合いと言っても、ココロちゃんがこっちを一方的に敵視して、たまにコーデリアが反発する程度なのだが。
すぐに神津警視──この人を名前で玲と呼ぶのはなんか違和感ある──も合流して、彼にオペラが問いかけた。
「率直に聞くが、このビルで起こった爆発は怪盗の仕業なのか?」
「なぜそう思う」
オペラは三つの根拠をあげた。
一つは、盛大な事件であるにも関わらず死傷者がいないこと。
二つに、警察の怪盗対策組織G4が派遣されていること。
三つに、奇妙な形をしたトランプがばらまかれていること。
これらの事情から、これが怪盗事件であるとオペラは推測していた。
G3はその推理力を称え、ココロちゃんは反発し、神津警視に黙れと怒られていた。ココロちゃん、あーかわいそ。
「ドンマイ」
「うっさいわ!」
肩を叩いた手をココロちゃんに振り払われた。
「咲、例のファイルを聞かせてやれ」
「はいは~い」
神津警視に言われて咲がパソコンみたいなPDAを開き、音声ファイルを再生する。
『オラオラオラオラァー! さっさとどっかいけよテメーら! バーンといくぜー! ドーンといくぜー! 三十分後にこのビルはバラバラだぁー! 退屈でつまんねーこの街だがなぁ、この怪盗帝国のラット様が派手に面白くしてやるぜー! はーっはっはっはっは!』
「はい、お~しまい」
言って咲がファイルを終了した。
「……なに言ってんだこいつ?」
そういやこんなんだったわ。この時のラット。
リアルで聞くとただの危険人物だ、頭おかしいんじゃないか?
これは警察にかかってきた犯行予告の電話で、これを受けた警察は避難誘導を行ったそうだ。
そういや飯の前にやたらと警察の姿を見たな。
怪盗帝国を名乗っているのだし、当然これは怪盗事件だ。つまり探偵が強権を発揮できる場ということである。
俺たちも正式に捜査に加わることになった。ラットがサイコすぎてちょっとやりたくないが。
というわけで六王ビルを調べていたのだが、早速ネロが見つけてきた。なんだか、普通に優秀だよなネロって。
「これ、そこに落ちてたんだけど」
「これは……昔の鏡?」
受け取ったオペラが鏡に付着していたホコリを吹き飛ばす。
下から出てきたのは青緑色した銅の鏡だ。
「ちょっとぉー!」
「ん?」
「それこの現場で見つけたんでしょ!」
「あ、ああ」
「証拠物品として警察があずかるわ。寄越しなさい!」
横から現れたココロちゃんがオペラから銅鏡をひったくる。
アニメ版とはまた別の意味でヤベー奴しかいない世界観だ。
「ココロちゃんひどーい!」
「ココロちゃんって言うなー!」
そしてココロちゃんは走り去っていった。その姿にコーデリアが怒りを露にする。
「なんて子なの!」
「それよりみんな、箱を探してくれないか?」
「箱……ですか?」
エリーがオペラに聞き返した。目的の箱についてオペラは、さらに詳細な条件を付け加える。
金属製、サイズは五十センチ四方くらい、厚さはそこまでない。
「あの……ひょっとしてそれじゃないですか?」
コーデリアが言った。
「それ?」
「教官が踏んでます」
「え! わわ、本当だ!?」
慌ててそこからどき、金属の箱を持ち上げるオペラ。見たところ損壊はしていなさそうだ。
「オペラってホントに名探偵だったんだよね?」
「このタイミングで聞くのはやめてくれ……」
「で、なんなのそれ?」
ネロが話を本筋に戻す。オペラが言うにはその箱は定礎箱と言うらしい。
建物を建てる際に、それがいつ建てられたのかを残す定礎板の裏側に埋め込むもので、記念になるものを入れておくとのことだ。
「へー、タイムカプセルみたいだね」
「爆発で掘り起こされるとは、不本意だったろうね」
ネロの例えに茶化すように返す。
そんなところに神津警視の焦った声が届いた。「来るな、と言ってもどうせついてくるんだろう」そう言ってから神津警視は王子ビルだ、と言葉を残し、G4とともに車で移動した。
俺たちもオペラの車に乗って王子ビルに向かう。
到着した時にはすでにビルは倒壊していた。調査を進めていると、シャロがビルの管理人から予告があったという情報を入手してくる。その内容は咲が見せてくれたものとほとんど同じだった。
つまりここも怪盗ラットによって爆破解体されていたということだ。
「ちょっとあんたたち! また邪魔しに来たの!」
「あ。明智ちゃん」
「明智ちゃんもやめろぉ!」
怒られた。これならオーケーだと思ったのに。冗談だけど。
「あんたらがチョロチョロしてたら、あたしたちの足を引っ張るのよ!」
「引っ張るにしても、そんな短い足じゃ……」
ネロが悲しげに言った。俺は吹き出すのを我慢した。
「こっ! 小衣の足は短くないもん! すぐにスタイル抜群になっちゃうんだから!」
「よしっ! がんばれ小衣、ナイスバディ目指してな」
「うるさい! 次子に言われると腹が立つの!」
ちょっと我慢するのは無理だった。顔を真っ赤にしたココロちゃんの将来性キックが、俺のすねに刺さった。そんなに痛くはないけど、痛がるふりをしておく。
ココロちゃんで遊んでいると、平乃が先ほど俺たちが見つけたものと同じ金属の箱を見つけてきた。発見した場所を聞くと、それはビルの東南のほうだった。
オペラの指示で銅鏡を探しに行く。そして今度はエリーが銅鏡を探り当てた。
それはやはり前の一枚と同じように綺麗な状態で、定礎箱に入っていたことをうかがわせた。
事件はまだまだ続く。銅鏡の検分をしている間に、三件目の爆発があった。
咲が特定すると、それは科捜研、つまり警察署のそばだった。
名は五王ビル。あっちこっちとたらい回しにされて、若干疲れぎみだったが、もうビルの爆破解体は終わりだと思うと少しだけ気が楽になった。
今回はG4に遅れて到着したので、すでに彼女たちが銅鏡と定礎箱を見つけていた。神津警視が持ってきて、見せてくれる。
「うーん、狙いはこれかな?」
車の中で調べていた画面を、オペラたちに見えるように差し出す。
王偉という人物が保有しているとされる黄金鏡のイメージ画像だ。今朝のニュース番組で放送されたもののコピーである。
それについてシャロが聞いてきた。
「なんですかこれ?」
「六王ビルと王子ビルってさ、オーナーは違うんだけど、元を正すと王偉さんって株主がいるんだよね。で、これはその人が持ってるらしい宝物」
五王ビルのデータも検索し、その元締めが王偉であることを伝える。
「あちこち爆破してるのは、単純にどこにあるのかわかってないんじゃないかな」
と、軽く原作知識をもとに情報を提供しておく。爆弾魔なんて危険人物を相手にするんだ、スムーズに解決できるに越したことはない。
簡単な情報の共有を行って、俺たちは散開し、今までに爆破されたビルの調査をすることにした。
で、ゲームなら今回の事件もミルキィの四人から話を聞きつつ重要なファクターを集めていくわけだ。
シャロからは定礎に刻まれた年号がどれも古いものであることを。
ネロからは爆破現場付近に保険金業者の男がいることを。
エリーからは全部のビルに王という文字が入っていることを。
コーデリアからはどのビルにもあまりテナントが入っていないことを。
つまりこれは怪盗を利用した保険金詐欺というわけだ。
古くて人気のないビルを怪盗の標的とすることで破壊させ、保険金を騙しとろうとしているわけである。
問題は件の怪盗ラットがそれに気づいていることだ。
ばらまかれていたトランプ、あれも実は予告状であり、4を方位記号に合わせて、店売りの横浜の地図に照らし合わせると、くりぬかれたマークがそれぞれ爆破現場と一致する。
ラット、あのトランプ作るのめちゃ大変だったんじゃないかな。トゥエンティに手伝ってもらったのかな?
それはさておき、数字が四であることからもわかるように、もう一ヶ所ラットは爆破する気だ。
それは王偉が経営する会社の本社だ。もちろん止められなければ大惨事である。
しっかりばっちり止めないとな。
ミルキィホームズで人死にとかね、あんまりよくない。
■◆■
俺はオペラと違って車を持ってないので、全ビルを回りながら調査、ということができない。厳密にはできるが時間がない。
なのでどこか一ヶ所にとどまって、そこだけを調査するのが妥当だろう。
となるとどこを選ぶのか、だが……ここ五王ビルでいいか。原作的にも一番重要なのはこのビルだ。
というわけで現場に踏みいる。
ここを調査しているのは、コーデリアと平乃だ。まずはコーデリアのところに赴いた。
「コーデリア~、なんか見つけた?」
「見つけた、というほどじゃないけど……あれがなんだか気になって」
コーデリアが示す場所は瓦礫の山だ。そこには看板が転がっている。
「ビルのテナント一覧表だよな」
「ええ。結構空欄が多いけど」
「人気なかったんだな、このビル。不謹慎かもだけど、被害は最小限にすんだって感じかな」
「本当に不謹慎ね。でも確かにその通りね。不幸中の幸いといったところかしら」
自主的に他二つのビルのことも調べてくんないかな、無理かな、無理だよな。
原作関係ない事件で頼られたくないんだけど、これくらいなら大丈夫か。とりあえずネットで調べるのは俺の常套手段だからな。
「他二つってどうだったんだろ?」
「え? うーん、ちょっと調べてみるわね」
PDAを開いてコーデリアが六王ビルと王子ビルを検索する。調べを進めていくごとに、コーデリアは真剣な様子になっていった。
結果はもちろん、ここと同じくガラガラ。奇妙な共通点だった。
「全部が全部、経営不振。これは重要なファクター枠に入れとかないとな」
「ええ、教官に報告しないと!」
オペラに連絡を取って、発見を伝える。
それからコーデリアと別れて、隣接する警察署のほうに行った。
俺に見つけられるようなものはなにもないと思うが、一応調べておいて損はないだろう。
「光さん、どうかしましたか?」
「ん? ああ、長谷川さん」
振り向くと平乃が立っていた。警察官な彼女としては、俺が警察署を調べているのが気になったのだろう。
「偶然かもですが、警察署のすぐそばで爆発があったじゃないですか。なので何かあるかもしれないと思いまして?」
「警察もそれを考慮して検査をしましたが、被害は壁面がすすけたくらいのものだったそうです」
「そうなんですか?」
「はい。署内部は現在調査中だそうですけど、今のところは機器やデータの破損もないそうです」
「そうですか、ありがとうございます長谷川さん」
まあそんな簡単にボロださないよなぁ。いや出されても困るけど。
ラスボスに思いを馳せながら、署の壁をコンコンと叩いてみる。硬質なコンクリートの感触が返ってきた。爆発それ自体の被害は確かになさそうな、どっしりとした強度を感じさせる。
「じゃ、これは警察に任すとして」
「ええ、お任せください」
「こっちが得た情報なんだけど……」
ここに来るまでに気づいた事実や、俺が言ってもおかしくない範囲の情報を教える。
「って感じですね」
「あの……光さん?」
「なんですか?」
「それ私たちに言ってもよかったのですか?」
そう平乃が問うてきた。
探偵と警察はなんやかや対立、というかライバル視し合っている。ココロちゃんがその筆頭だろう。
それがいきなりこうして情報の共有なんて始めたら、不審に思われても仕方ない。
「手早く事件を解決して、市民の不安を取り除く。それ以外ってあんまり重要なことじゃないでしょう? なんて明智ちゃんに怒られそうですが」
「いえ、素晴らしい考えだと思います」
「ですかね?」
「はい」
平乃は微笑みながら首肯した。和風美人な彼女の微笑は、お堅い警察服を着ていることを差し引いてもかなりの破壊力があった。
「それでは私は調査に戻りますので」
「あっ、ちょっと待って長谷川さん!」
「なんでしょうか?」
「三つばかし、頼みがあるんですが」
平乃はうなずき、俺に先を促す。
「一つはかなり個人的なことなんですが、敬語やめていいですか?」
「ええ。構いませんよ」
「ありがと。で二つ目なんだけど、連絡先交換しよう。PDA持ってる?」
「持っていますよ」
平乃がPDAを取り出す。俺もPDAをポケットから出して、互いに連絡先を登録した。
「よしよし、じゃあ何かあったらこれで伝えるから」
「こちらからも情報の提供をいたします。それで三つ目はなんですか?」
「ああうん、この辺の全部だけど、知られたら怒られそうだから明智ちゃんには内緒にしててくれない?」
ふふっ、と小さく平乃が吹き出した。それから平乃は人差し指を立てて口に持っていく。
「わかりました。小衣さんには内緒、ですね」
「よろしく。じゃあ調査がんばって」
「ええ、そちらも」
立ち去る平乃に手を振って見送った。