催眠モノと言うには微妙な能力でがんばってみる 作:アウグスティンティン
これはこれでなかなか面白いですね。
せっかくなので1.5のストーリー準拠にしました。
プレイ前に書いた黄金鏡も気が向いたら加筆します。あっちはそこまで変化ないのですが。
13話
いつものようにアンリに怒られる可能性に怯えながら会長室に向かい、そのままダッシュで事務所に駆け戻った。
「大変です、先生!」
と、先頭で乗り込んだシャロが叫んだ。
「シャーロック? それにみんなも……大変って?」
「事件だよ、小林」
「事件……!?」
呼び出す時に用件を伝えない、というアンリのお家芸により、今回もまた事前知識無しでいきなり知らされた事件だ。
「今日、学院に手紙がきて! それが、すごい手紙で!! だからもう大変なんです!!」
「ダメよシャロ! ちゃんと説明しないと!」
「あ、そうですね! ちゃんと説明ですね!」
「そう! まずは落ち着いて!」
「はい! あたし、落ちつきます!」
「深呼吸よ! 深呼吸がいいわ!」
「わかりました! 深呼吸ですね!」
落ち着きのない奴らである。絶賛テンパり中のコーデリアとシャロが本当に深呼吸を始めてしまったので、その隙に俺が話すことにした。
「怪盗からの予告状が届いたんだよ」
「予告状!?」
「ええ、そうですわ」
どうやら歩いてついてきていたらしいアンリが部屋に入ってくる。
「ごきげんよう、小林さん。今朝、これが学院に届けられました」
そう言ってアンリが差し出したのは、白地に赤で模様の入った封筒だ。紙が入っているにしては厚く、かくばっている。
「これは……ボイスメッセージカード」
予告状を受け取ったオペラが起動すると、電子音が鳴って、記録されたメッセージが流れ始めた。
『未熟なるあどけなきレディたちにこの予告状を届けよう……』
どうやらこいつには俺とオペラは見えていないらしい。
『僕は怪盗帝国のナイト……エレガンツにしてパーフェクツたる……怪盗トゥエンティ! 今宵零時! イン・ザ・ミッドナイト! 奇跡をお見せしよう! ステージはランドマークタワー最上階!
主演、怪盗トゥエンティ! 助演、怪盗トゥエンティ! 友情出演、怪盗トゥエンティ!』
ちょっと笑いそうになった。
オペラやコーデリアたちが、深刻な表情でこんなのを聞いているのがなおさら笑えてくる。
『そして僕に奪われる宝……その名前は……そう! かつて幾度も怪盗と探偵が奪い合ったという魔性の宝石……アダムの涙!』
アダムの涙。
その名前を聞いたオペラが顔をこわばらせる。俺も腿をつねって、顔をこわばらせる。
「アダムの涙。小林さんにとっては無視できない名前と思いますが」
「え? え?」
「……! アダムの涙って……あのアダムの涙じゃ」
「あ……!」
探偵として活動していた頃のオペラを知るコーデリアとエリーが、それの正体に気付き声をあげた。
「どういうこと? アダムの涙って一体なに?」
ネロが聞いた。神妙にアンリが解説をする。
アダムの涙はレアメタルの一種、だと推測されている宝石だ。
というのも代々の持ち主がその美しさがわずかでも損なわれることを恐れ、今日まで詳しい鑑定が行われることがなかったからである。
しかし美しい。とにかく美しい宝石だ。
多くの者がこの宝石を求めた。
例えば五年前の怪盗Lのように。
「アダムの涙を守るのと引き換えに僕は……探偵としての力をなくした」
つまるところ、怪盗Lが最後にオペラと奪い合った宝石である。
しぃん、と重たい沈黙がおりた。トイズを失うという一大事、直接の原因は爆発でも、間接的に、爆発が起きたのはアダムの涙を巡ってのことだ。
「守りましょう!」
シャロが言った。胸に手をあて、ぐいと体を前に出す。やる気とかなんとかに目が燃えていた。
「先生が守った宝石をあたしたちで守りたいです!」
コーデリアたちもシャロと同じように意思をみなぎらせる。強く決意を言葉にした。
「小林さん。予告状が学院に届いた以上、無視するわけにはいきません。彼女たちと一緒に事件を阻止してください」
オペラは黙りこむ。この一件について、思いを巡らせているようだった。
俺たちは静かにオペラを見守る。数秒して、ゆっくりとオペラが口を開いた。
「わかりました。僕たちにできることがあるなら」
「よろしくお願いします、小林さん」
軽く頭を下げて、アンリが部屋を出ていく。
「がんばりましょう、先生!」
「それじゃとりあえず、ランドマークタワーに行く?」
「そうね、現場の視察をしなきゃ」
「はい……」
意気揚々と事務所をたつ彼女らを、オペラは心配そうに見つめていた。
ほんと、この事件がトゥエンティ担当でよかったよ。
これがもっとシリアスな奴だったら、雰囲気に耐えられないところだった。シリアスな奴って誰だか思い当たらないけど。
■◆■
偵都ヨコハマが誇る超高層ビル、ランドマークタワー。
その周りには大勢の人が集まっていた。彼らの中には大きなカメラを構えている人もいて、マスコミ関係であることがうかがえる。
「なんつーかさ、ザ・自己主張! って感じだよね」
「え? なにがだい」
「いや、あれよあれ」
タワー屋上を指差す。そこからはアドバルーンが飛ばされていて、電子掲示板のように光る文字でこう記されていた。
『今宵零時、怪盗トゥエンティ参上!』
俺が探偵じゃなくて怪盗になってたら、あんなのもやってたのかな。いや、やらねぇだろうな。
「ここにも怪盗からの予告が……」
「どうりで賑やかなわけだ」
それを見たシャロとネロが、やはり真面目な顔で言う。
こっちは一人で笑ってはいけないをやっているというのに。
タワーの正面入り口は完全に人で埋まっていたので、オペラの提案で裏口に回ることにする。その最中にどこからか猫の鳴き声が聞こえた。
「あそこにいる! ちょっと待ってて!」
たちまちネロが猫の居場所を突き止め、駆け寄った。
その子猫はネロが近寄っても逃げることはなく、ネロに撫でられていた。少ししてネロが戻ってくる。
「小林、あの子どうもはぐれたみたいなんだ」
「え? そんなことがわかるのかい?」
「うん、動物も微弱な電気を出すからね。トイズでなんとなく読み取れる」
「それじゃキミは動物と会話できるってこと?」
「そこまでは無理無理。でも波長がそういうパターンっぽい」
動物の感情を読み取るのは、人間に対してそうするよりも簡単だ。シンプルでわかりやすい。
なので不安がっているのが、俺にもわかった。それが迷子かどうかを判断できているのは、ネロの経験の賜物だろう。
「お母さんが近くにいるかもしれないから、ちょっと探してくるよ」
「え?」
「みんな先に行ってて、すぐ追い付くから」
「手伝おうかー」
「大丈夫ー」
ターっと子猫を抱えてネロが走っていく。
マスコミや野次馬は時間とともにどんどん増えていっていた。混雑を避けるため、ひとまずネロを置いて裏口に向かう。
エレベーターを使って上階へと登り、一般展示室に入った。
「動物がたくさん」
「剥製……?」
「うん、そうみたいだ」
シャロとエリーが言うように、そこは多くの剥製が飾られていた。
入って正面に大きな虎、左右には鷹や鹿やらが置いてある。そういやこんな場所だった。
「あ~っ! あんたたち!」
恒例行事とばかりにココロちゃんが金切り声をあげながら迫ってきた。
「何しに来たのよ!?」
「ココロちゃん!」
「ココロちゃんって言うな!」
このやり取りをみると、ここが怪盗事件の現場なんだなぁ、って感じられるよ。
後から続いてG4の残りのメンバーが合流する。
あれ、平乃がいない。俺の記憶違いかな、この場面にはちゃんといたと思うんだけど。
影が薄くて見落としてるってわけじゃなさそうだし。動向は……聞かなくていいか。女性が席外してる理由なんだし、そのほうがいいだろう。
俺が平乃を探している間にオペラと神津警視が軽く情報を交換していた。
それから先に来ていた警察組案内のもと奥の特別展示室に入る。
「わぁ、すごい……」
シャロが感嘆の声をあげた。実際、実物のアダムの涙はそれくらいに美しい物だった。
パーティションで区切られた台座の上に、ガラスケースを被せられた宝石が備えられている。それは燦々と赤く輝いていた。
題名不要の美しさだ。俺も欲しいな、これ。
「へ~、これがアダムの涙なんだ」
「ネロ!」
「ただいま、小林」
ニュッと背後からネロが現れた。
「猫ちゃんのお母さん、見つかった?」
「うん、すぐそばにいたよ」
「よかった」
シャロが子猫の安否を聞いて、ネロが答える。
「それよりすごいよね、この宝石。これを小林が守ったわけでしょ?」
「あ……あぁ」
「いったい、いくらぐらいするんだろ?」
「何十億つまれても売る気にはならないわ」
「んへ?」
変な声が出た。ちょっと、もといとんでもなく予想外の声とセリフだった。
いやセリフは合っているんだけど。
「また人が増えたの?」
「あなたは?」
「名前をたずねるときは、まず名乗るのが礼儀でしょう?」
よく聞くけど、実際教わったことはないことを言いながら現れたのは、長い金髪にカチューシャをつけた、化粧の厚い女性。
「あ、すみません。僕は小林オペラ。そしてこの子たちはホームズ探偵学院の生徒です」
「あら、探偵さんなの? ずいぶんかわいらしいのね。私は宝田エリカ。このアダムの涙の所有者よ」
の変装をした平乃だった。
なるほど見ないと思ったら奥で変装してたのかぁ~。なるほどねぇ~。ゴスロリ趣味の中にコスプレも入ってたのかな?
じゃなくて。
え、なにしてんのこいつ。
ミルキィのみんなが予告状のことを話して、警備に参加させてもらえるよう交渉していたのだが、そっちに加われないくらいに衝撃だった。
後で平乃に話聞こう。今回は相手的に、まだツッコまないほうがよさそうだ。
「やった~っ! 一緒にがんばろうね!」
サクッと許可を得ることに成功し、シャロが喜びを全面に押し出しながらココロちゃんに飛び付き、そして避けられていた。
「誰があんたなんかと! 指でもくわえて見てればいいのよ!」
「え~くわえるならカニカマがいいなぁ」
「なんでもいいわ!」
「ココロちゃんも食べる?」
「いらな~い!! それにココロちゃんって言うなぁ~っ!!」
シャロ、お前カマボコだけじゃなくて、カニカマも持ち歩いてんのか。
「小衣……押されてない?」
「そう? 楽しそうじゃん」
「はぁ……元気のいい子たちね」
いつも以上にツッコミ所だらけな状況。俺はもう放置することにした。
「どちらが怪盗を捕まえるか……このゲーム、楽しくなりそうだな」
とか神津警視がオペラに言っていた。
こっちはちゃんと正常なのな。
■◆■
いろいろありつつも警備を始めることになる。
のだが、俺の集中力は途切れ途切れだった。勉強中に他事が頭をよぎるように、宝田平乃が脳内で荒れ狂っていた。
平乃のことが頭から離れない、つまりこれは、恋。
でもその理屈だと、トゥエンティの予告状が頭の中でリフレインしている間、俺はトゥエンティに恋していることになってしまうので、これは勘違いだろう。
「それにしてもすごい数の剥製ね」
「んー、そうだな」
博物館と言っても遜色ないくらいの数だ。本物の宝田さんの相当なこだわりが見える。
「本物みたい……動き出しそう」
「シャロ、やめて……怖い……」
「あ、ごめんなさい、えへへ」
思い思いに剥製を見ているなか、ネロは厳しい視線でそれらを見つめていた。
「でも、あんまり感心しないな。こういう趣味は」
「そう思う!?」
オペラのセリフにネロが食い付く。
「小林もそう思うの!? ねぇ!?」
「あ、ああ、思うけど……どうしたんだい、急に?」
「酷いでしょ!? こんなの残酷だよね!?」
「うん……そうだね」
「でしょ!? 人のやることじゃない!」
人しかやらないことなら、むしろ人間らしいのでは。
キレられそうな屁理屈を口には出さずにこねる。
人嫌いで動物と暮らしてきたネロにとっては、見るに堪えないものだったのだろう。
俺も人の剥製で作られた博物館なんてものがあったら、直視することはできない。
激情に駆られているネロの心に、目が焼かれるような気分だった。
そして金属のヘラを取り出したネロが、近くにあったコンソールに駆けよって、それにヘラを突き刺す。
「は?」
「おいおい、トイズなんて使っていったい」
──ピー
コンソールから、警報のような音が発された。
あの、ネロさん?
「なんだ、けっこうカタいな」
「カタいって、なにをしてるんだキミは!?」
「見ればわかるでしょ。セキュリティにハッキングしてるんだ。剥製なんて、ずぶ濡れにしてやる」
脇から腕を差し込みネロの身体を持ち上げて、コンソールから引き剥がした。
「なにするんだよ!?」
「落ち着けって、ネロ。それは悪いことだろ」
「動物の剥製を、あんなものを作るのは悪いことじゃないって言うの!」
「それはそれ、これはこれだ。相手が悪いからって、自分も悪いことをしていい理由にはならない。いいかネロ」
諭すように、ゆっくりと、はっきりとネロに語った。
「悪いことは人目につかないようやるもんだろ。剥製をダメにしたいんなら、後でこっそりやろう」
「……うん、わかった」
「わからないでくれ! というかキミも! こっそりならやっていいってことにはならないからね!!」
「あーもう、オペラさんうるさい」
「ええっ!?」
ネロをおろして、こっちを向かせる。それから彼女の肩に手を置いた。
「いいか、ネロ。とりあえず事実だけあげるから怒らず聞けよ」
「うん。なに?」
「剥製を濡らしてダメにしたら、何罪かは詳しくないけど、たぶん器物損壊とかだ。剥製はけっこう高いから、賠償するならかなりの金額になる」
器物損壊に分類される、って部分が気にくわないようだが、おとなしく聞いてくれるようだ。
「で、バレなきゃこれがチャラになる」
「チャラにはならないから」
「それは冗談にしても、だ。復讐……それとも、敵討ちと呼ぶのが正しいかな。なんでもいいけど……たぶん後で買い直されるだけで、一時的な嫌がらせにしかならないこれを、トイズで悪事を働いた人ってレッテル貼られて、これから先を台無しにしてもやりたいっていうなら────まあ、手伝うよ」
「光……」
「どうしても許せないんなら、一緒に手を汚してやるよ」
「…………いや、もう大丈夫だよ」
「そう?」
「うん。気にくわないけど、我慢する」
「そっか。あ、警備の場所、剥製が見えないとこのほうがいいかな?」
「気使いすぎだってば。もう大丈夫って言ってるでしょ」
スパンとネロに背中を叩かれる。
「ありがと」
「どういたしまして」
足早に離れていくネロ。小さく手を振って見送る。
「一時はどうなることかと思ったよ。特に犯罪を助長するようなことを、光さんが言い出した辺りは」
「ははは、本気でやるとでも思った?」
咎めるような様子のオペラに、笑って返す。
「俺は自己中だからね。あいつらのためにしてやれることなんて、一緒に地獄に落ちてやるくらいのものだよ」
「……やっぱり、わりと本気だっただろう、キミ?」
「さぁ、どうだろ。ネロはやらなかったわけだし、わかんないや」
たぶん手伝ったと思う。
それだけだ。実際起こらなかったことなんだから、想像するしかない。
「でも止めはしないってのは確信してる」
拳をぐっと握りしめてかざし、オペラに宣言した。するとオペラはげんなりする。
「止めてくれよ」
「俺が納得できないことならね」
これはオペラとは絶対に相容れない部分だろうから、会話を切り上げて警備に戻ることにした。
原作どこいったんだ、てくらいの状況だけど、きちんと解決されるのかな。
皆さんも剥製って嫌いだったり、怖かったりしますか?
私は平気でしたね。むしろ動物園や水族館の生きているやつらのほうが怖かったです。