催眠モノと言うには微妙な能力でがんばってみる 作:アウグスティンティン
... ヘ(;・_・)へ オトヲタテナイヨウニ
ネロとのじゃれあいは警察の人たちには聞かれていなかったようである。
内容が内容なだけに、あまり聞かせたいものではなかったし、俺自身、自分の発言を撤回するつもりもないので、面倒なことにならずにすんだと喜んでおこう。
持ち場に戻ったネロは落ち着いているように見える。剥製への嫌悪がなくなることはないだろうが、しっかりと抑えられているようだった。
コーデリアたちもネロを気にかけていて、チラチラとそちらに目を向けている。俺もネロのことは気になるが、大丈夫だと判断して事件に集中することにする。
薄れつつある原作知識によると、宝田エリカはちゃんと本人がここに来ていて、なおかつ途中でトゥエンティに入れ替わられる、というキャラクターだったはずだ。
名前も容姿もロクに覚えていなかったが、事件の大まかな流れのなかでの活躍と、あといくらかの発言は記憶にあった。
確か『正式な探偵でもない奴らはあんま信用できないから、特別展示室に入るな』みたいなことを言って、ミルキィホームズを外に追い出したはず。
なので今のうちに特別展示室を調べておかなければならない。
「つっても何調べりゃいいんだ」
侵入経路、はそもそもすでに中にいるし、逃走経路もこの部屋からは普通に出入口を通って出ていく。
あとはなんだろうか、アダムの涙を入れてるケースの強度とか、これ自体の警報やらはどうなってるのか、とかかな。
いや、でもそれは聞けばいいことか。
なんだろう。じきに追い出されるのに、追い出されても問題がない。
助けて、ご先祖様。探偵らしい行動って、どういうものなんだ。
仕方ないのでぶらぶらと、授業で習った気を付けるべきところを見て回る。そうこうしているうちに偉そうにココロちゃんがやってきた。
「ほら! あんたもさっさと出ていきなさいよ!」
「んー? なんの話?」
「あんたらのことが信用できないんだってさ。わかったらほら、早く特別展示室から出なさいよ!」
シッシッと追い払うような仕草をするココロちゃん。
「教えてくれてありがと」
「むぐぐぅ」
ナリは高校生でも、実際はその二倍くらい生きているのだ。小生意気なクソガキに煽られたくらいで過剰な反応をすることはない。
心穏やかに特別展示室を出る。
「それじゃあたしたちはアダムの涙でも見に行こうかしら~? 誰かさんたちは入れない特別展示室に~」
ムカつくなこのガキンチョ。また神津警視に怒られてしまえ。
平乃以外のみんなが特別展示室に入っていく。平乃はまだ宝田エリカをやっているのだろうか。
剥製ルームでの活動を余儀なくされたので、こちらでの調査と警備を始める。
今回の事件においてゲーム内で集めた重要なファクターは、トゥエンティの正体に迫るものばかりだ。
しかしトゥエンティはこの現場の中でまた別人に変装し直す、ということをしていない。そのため原作通りの調べ方をしても、証拠なんて見つからない。だってやってないから。
あーもう、どうすりゃいいんだか。
なんて考えていると突然──ガァーン! と大きな音が特別展示室のほうから響いてきた。
「今度は何だよっ!?」
また、またなにかよくわからない事態が起きやがった。思わず叫んでしまう。
しかし、何が起きたかはわからないが、どこで起きたかは明白だ。
うろたえる神津警視たちを見て、今なら止められずに入れるだろうと判断した俺は、特別展示室を開き、踏みいる。
「アダムの涙がたくさん……」
あとから来たシャロが呟いた。シャロの言うとおり、そこには大量の宝石もどきが転がっていた。
「でも色が違う……緑と黄色だけ……」
「怪盗の仕業?」
エリーとコーデリアが言う。
トゥエンティがこれらをばら蒔いたはずはない。トゥエンティさっきそこにいたし。それにこの状況に驚いていた。それが演技でないのは、俺のトイズからわかる。
つまりこれは怪盗帝国の仕業ではないのだろう。しかし。
「こぉーらぁー!!」
ココロちゃんの怒鳴り声で思考が中断される。
おっとまずい。ココロちゃんお怒りの理由はわかっている。追い出される前にこっそりと偽物のアダムの涙をいくつかポケットに忍ばせておく。
「言われたばかりでしょ!? あんたたちはこの部屋には入れないの!」
「そんなぁ」
「そんなもこんなもな~い! さっさと出ていきなさいよっ!」
そう言ってココロちゃんは俺たちをまたまた部屋から締め出す。
ようやく戻ってきた平乃を特別展示室に押し込むと、ココロちゃんはべーっと舌をつき出して、部屋の扉を閉めた。
「どうしましょう……」
「どうしようもない。宝田さんが入るなって言う限りは」
エリーの問にオペラが答える。
「目の前でこんなことが起きたのに? 特時捜査権限は?」
「今の時点ではあの偽物をばらまいたのが怪盗だと断定できないから無理かな」
「ちょっとちょっと! どう考えたって怪盗の仕業でしょ!」
「まあまあ落ち着いて、ネロ」
トゥエンティの仕業じゃないのはわかっているし、その場にいなかったことからもおそらく平乃がやったんだと思う。
思うが、だとしたらどういった理由があるのだろうか。
「さっきも言った通り、僕達は僕達にできることをしよう。なぜアダムの涙の偽物がばらまかれたのか、予告時間に怪盗はどう行動するつもりなのか。調べることはいくらでもあるはず」
経験値が少なく、怪盗事件で探偵がないがしろにされる事態へ戸惑っているコーデリアたちをオペラが諭す。
調べること、か。現状、事前知識が邪魔をしている。俺の知らない進み方をしているというのに、未だ当てになりそうもない記憶にすがる自分がいる。
どうしたものか。
みんなが散らばってあちらこちらで調査を始めるなか、ベンチに腰掛ける。
本来の予定であれば、宝田さんを探して、彼女がいなくなっていることを指摘し、重要なファクターとする予定だった。
しかし、宝田さんに変装しているのは平乃。これを指摘したときに、二人が同時に現れることがない、という事実のせいで、ないとは思うが推理を違え、トゥエンティに負けてしまうなんてことになりかねない。
「うぅむ」
はてさてどうしたものか。
偽の宝石を取り出して眺めてみる。チープなものだ。
とはいえ数はそれなりに用意されていた。平乃の奴、こんなものいつ用意したんだ。今気づいて、今用意したって感じじゃないが。
「それは……特別展示室にばらまかれた偽物かい?」
「ん? あぁ、オペラさん。そうそう、さっきこっそりね」
「毎度なにかしら持っていくね、君は……」
「明智ちゃんが邪魔してくるからさ。きちんと調べようとするならこうしないと」
「それもそう……なのかな?」
微妙に納得いっていないような返答だったが、少し考えてこの理由を飲み込んでくれる。
それから一言前置きをして、オペラは宝石を取り出した。赤いもので、大量に散らばっていたのとは別物のようである。
とはいえ大した輝きはない。これも偽物だ。
「本物と同じ色をした偽物があったんだ。特別展示室内は確認していないけれど、たぶんこれ一つだ」
「てことは外にあったのか」
「あぁ。扉の外に、他いくつかの偽物と一緒に散らばっていた」
急いでいて気づかなかった。
ん、いやでも扉閉まってたよな。なんで外に落ちてるんだ。
室内に赤い偽物はおそらくない、というのには同意見だ。俺もエリーも見なかった。意図してこいつだけ色違いで、部屋の外に置いたんだろう。
「それとこいつにはFAKEと彫ってある」
「フェイク?」
俺が持ってきた偽物を確認してみるものの、これらにはそんな彫り込みはない。
「偽物にフェイクと彫る理由なんてない。見分けも簡単につくしね。君はこれをどう考える」
「…………典型的なセリフになるけど……」
「聞かせてほしい」
「犯人はこの中にいる、ってありきたりすぎか」
「なるほど……根拠を聞かせてくれるかい?」
「俺らが特別展示室についたとき、扉は閉まっていた。つまりそれはわざと外に置かれたもの。でもそうする理由がない。全部室内にばらまけばいいだけなんだから」
色も本物と違う色を用意する理由なんて、目くらましとして怪盗が使うなら存在しない。
つまり一つだけある赤い偽物を目立たせるためのもの。そしてそこに文字が刻まれていたのであれば、こいつ自体に意味があると捉えるのが自然だ。
「だからまあ、探偵チームが特別展示室に入れないことを知っている誰かが、特別展示室の外にメッセージボトルとして置いた……ま、オペラさんが言うようにこれをやったのが怪盗だとは断定できないけど」
「いや参考になったよ。となると問題はこの文字にどんなメッセージが込められているか、だが……」
言葉として口に出してみると、意外と考えはまとまるもので。
なんとなくこの変化した事態のキモを掴んできた感覚がある。
「ありがとう。助かったよ」
「いやいや、協力しないとなんのためのチームなんだか」
「確かに、その通りだ。君も行き詰まったら迷わず相談してくれ」
「頼りにしてますよ〜っと」
いつもの聞き込みに戻るオペラを見送る。
んー、しかしもうオペラと話したことだし、これ俺の仕事終わったのでは。
オペラも俺の推理に驚いた様子とかないし、うーむ。
ぶっちゃけ俺達ミルキィホームズは怪盗追っかけるとき以外、休んでても問題出ない気がするなぁ。
まあいいや。ポーズも兼ねて、好奇心を満たすために平乃に話を聞きに行こう。
彼女の姿を探すと、平乃は展示室中央付近で調査をしているようだった。近寄って声をかける。
「ちょっといいか、平乃」
「はい? どうしたんですか光さん」
「えーと」
一応潜入というかひっそりやってること、だよな。トゥエンティが見えないのを確認し、ついでに声を潜めて言う。
「宝田さんに変装してたことなんだけど」
「……その話はあちらで」
平乃について展示室の外に移動する。平乃は少し警戒した様子でPDAを取り出した。
「どうかした?」
「ちょっと待っててくださいね。……え〜と」
なにか調べ物をしているようで操作しているかと思えば、唐突に。
「平家伝説事件における犯人の名前は?」
「ごめん、普通に知らない」
「……っ! まさか偽物!」
「いや本物の知識不足。二重の意味で」
どうも俺が変装であると疑っているようだった。
「あー、じゃあ俺らが連絡先を交換したのは○月☓日のラットの事件の時だ。時刻は十四時半くらい。仲の悪い奴らを置いて、情報交換をするため。あと敬語をやめたり、明智ちゃんに隠すようにも言った」
「怪盗ミストの事件は」
「○月▲日。近隣の交通状況を教えてもらった。あとで割り出した逃走ルートを教えた」
「では怪盗スニークの件は」
「それはG4到着前に終わったから絡んでないだろ」
それからいくつか事件の話をした。それでようやく俺が変装ではなく、本物の浅見光であると信じてくれたらしく、疑ったことを謝られる。
「すみません、状況が状況なものでして」
「いいって。まああそこにトゥエンティいるんだから確認いらないとは思ったけど」
「変装しているのが一人とは限らないので」
「ああ、確かにね」
俺はトゥエンティのトイズに他人の見た目を変える力はないと知っているが、そもそもトイズのことすら知らなければそうなるか。
これは盲点だった。またバカを晒してしまったわ。恥ずかし。
「こほん。さておきいくつか確認したいんだけど」
「えぇ」
「まずあの警視は偽物。本物は入れ替わられてることに気づいて、平乃に協力を求めた。って予想なんだけど、あってる?」
「はい。建物の前で呼び止められて。先程の確認手段も警視のものです」
「そっかー」
てことは同じように専門分野で質問された時に、平乃はちゃんと答えられたんだな。俺と違って。
「ところで光さんはどのように変装に気づかれたのですか。トゥエンティの変装は完璧です。私も警視本人に合うまでまったく疑っていませんでした。なにか見分けるコツがあるのでしたら、教えてくれませんか?」
「あー、それね。簡単だよ。ほら、本人より目が大きいじゃん」
「はい?」
「いや、あれ伊達メガネか、警視本人より度が低いメガネでしょ。だから本人より目が大きく見える」
「……はい?」
「平乃の変装は声かな。体格もあるけど、声かけられた時にはなんか察した」
「はぁ〜……なんというか、今後の変装の参考にはならなさそうな意見ですね」
「ははは、伊達や酔狂とはいえ探偵志望だからね」
集中力を高めるのはお手の物。間違い探しの記録保持者だ。
ミルキィのみんなとテレビでやってる間違い探しやる時、一番早く見つけられるってだけだけど。
「さて。今すぐ二人であいつに殴りかかる、ってのが最短で事件を解決できる方法だと思うが……」
「紛れ込んでいるのが一人とは限りませんからね」
「そうねぇ」
原作知識は当てにならないが、トイズによる読心で他は本物だと確信できる。
もちろんこんなのは話せない根拠であるし、ゴリ押しするほどこだわりもない。
平乃が言うには神津警視も裏で動いているらしく、いいタイミングが来るまで待機したほうがいいとのことだった。
それらの策はオペラが謎を解き明かすこと前提だった。つまり何も問題はないということだ。
意味があるのか知らんが、一応別々に展示室に戻ることに決め、先に平乃に行ってもらった。
壁にもたれて、一、二分待機する。
変わった案件だったけれど、なんとか無事に終わりそうだ。と、ため息をつく。
「あら、光。一人でどうしたの?」
「ん? あれ、アンリ?」
なんかアンリがいた。
いつものにこやかな笑顔で、いつの間にかいた。
「ごきげんよう」
「おー、ごきげんよう。どうしたんだ?」
「少し近くまで立ち寄ったので挨拶を、と」
「そっか。謎はだいたい解けて、あと一歩ってとこだよ」
「そうですか。それは大したものです」
しぃん、とアンリは押し黙る。
真っ直ぐにこちらを見つめたまま静止して、それから言った。
「長谷川さんの変装を簡単に見破ったとか」
「あぁ、聞いてたんだ。そうだけど」
「例えば……私が変装をしたとして、光はそれを見破れますか?」
「言ったほうがいい?」
ほとんど答えたようなものだ。
アンリはうつむく。
「ふぅ……ままならないものですね」
「そう?」
「どうしますか?」「俺がどうするかってこと?」「はい」「特になにも」「私を見逃すというのですか」「最初に犯行予告見てからどんだけ経ってると思ってんの? なんかやるならもうやってるって」「……」
正直、アンリと会うより前から知ってた原作の話だし、当たり前として受け入れていた。
些細なことだと思っていたし、まあ気づいてない振りをずっと続けていれば問題ないだろう、ぐらいに考えていた。
「逆にどうして欲しいんだ?」
「私は……どうして欲しいのでしょう」
「罵倒しようか?」
「悲しくなるので嫌です」
「うん。俺もやりたくないわ。もう今まで通り、知らない振りするでいいんじゃない? 指摘したって誰も得しやしないだろ」
「いえ、探偵学院の生徒としてそれでよいのですか?」
「逆に聞くけど俺が正義とか善とかこだわる人間に見えんの?」
自分で言うのもなんだが、俺はかなり社会正義とかその辺りには適当な人間じゃないか。
「ふふっ、確かに……私が好きになったのはそういう人でしたね」
「まったくだ。お互い面倒な相手に惚れたもんだよ」
どちらからともなく軽く笑い合う。
問題を後回しにしているだけとも言えるが、まあいいだろう。
なんかあったら、えー、そうだったんだー、知らなかったー、びっくりー、とかやればいいかな。
なんともならなくなるまで、だらだらと仲良くしていたいものだ。
なんにも解決してないが、笑えばなんとなく状況が改善したような気がするもので、気分はちょっとすっきりした。
「ありがとう。少し楽になりました」
「こっちこそ。そうだ、声かけに来たんだろ。いってやってくれ、いろいろあって大変だろうから」
「そうですね。では……あっ」
扉に手をかけたところで、アンリがこちらを振り返る。
「どした?」
と、アンリに聞いてみると、彼女は不満げな顔をして、俺の頬を軽くつねった。
「また他の女の子と話してました」
「聞いてたんだろ、事件の話してたじゃん」
「む〜」
なんかいつもより甘えてくるな。わざとらしく頬を膨らませて、これみよがしに私怒ってます、みたいにするアンリ。
かわいい、脳が溶ける。はぁ〜、もうかわいい。これは正義だね。やっぱ正義にこだわる人間だったわ俺。
頭を撫でていると、俺の頬から手が離れる。アンリを抱き寄せて軽くキスをする。
「俺の大変さは消えましたわ」
「くす、それはよかった。……んー……はい、私の大変さも消えました」
ぎゅむーと俺の胸に顔を押し付けていたアンリが離れる。名残惜しい。
「んじゃま、引き続きがんばりますよっと」
「えぇ。私もこのあと用があるので、皆さんと話したらすぐに戻りますね」
「そっか。ファイト」
「そちらもがんばってくださいね」
応援するのね、とかいうツッコミは今まで通りに心にしまって展示室に戻った。
またゆっくりと更新していきます。
もう人いないかな?