催眠モノと言うには微妙な能力でがんばってみる 作:アウグスティンティン
結局この話で事件解決までいけませんでした。
「どうしてキミたちがここに?」
オペラが尋ねる。
案の定、さっき見えた人影は長谷川平乃だった。こちらに気づいた彼女たちも灯りをつけ、お互いの様子がはっきり見えるようになる。
いたのは平乃だけでなく、神津を含めたG4の面々だった。
しっかりと制服を着込んだ彼女らの姿から、肝試しではなく警察としてここに来ていることがわかる。
「それはこちらが聞きたいな」
「神津」
「とにかく下へ降りよう。話はそれからだ」
■◆■
神津の話によると、どうもここ最近行方不明者が増えているとのことだった。
付け加えて妙な噂──黄色い瞳と黒髪の亡者が屋敷を訪れたものをあの世へさらう、なんてものも流れ始めた。
まあ、そんなわけで調査に来たのだとか。
「そのリクという少年の兄もこの屋敷に入ったきり出てこないのだろう? となるとますます放ってはおけんな」
「そうよ、そうよ! これは立派な事件だわ! でも怪盗とは無関係! だからあんたたちの出番はないの! 邪魔だから帰ってちょうだい!」
煽りカスなココロちゃん。最近ではこの生意気な態度にも慣れてきて、これを見ないと始まらないという気分にすらなる。
もちろん嘘だ。あー、ムカつくなぁこのメスガキ。
「え〜そんなこと言わないでよ〜ココロちゃ〜ん」
「だからココロちゃんって言うな〜っ!」
ココロちゃんを見た途端に元気になるシャロ。
満点の笑顔ですり寄っていって、無碍にあしらわれている。
「小衣」
「はい!?」
「少し静かにしていろ」
そしてココロちゃんは神津にあしらわれる。
謎の上下関係ができていた。見ててとても楽しい。
でも好きな人にあしらわれているココロちゃんを見ていると胸が痛くなる。筋肉痛かな。
その後はというと「怪盗事件ではないから探偵の出番はない」と主張する神津に対し、オペラが「令状ないでしょ、ならいてもいいよね」と立ち位置を確保して、俺たちは合同調査をすることとなった。
まずは協力するにあたってここに至るまでの経緯をお互いに話すことになった。
先に屋敷を調べていた側としてこちらは屋敷内の状況について教え、G4からは行方不明事件について聞いた。
まあ事件とは言ったもののオペラが突っ込んだ通り立件されてはいないのだが。
それでG4がここに気づいた理由なのだが、どうも最近になってここ、ヤマテの辺りで行方不明の届け出が増えていることに次子が気づいたのだとか。
それでココロちゃんがデータを分析して、この屋敷を中心に発生していることを突き止め、ひとまず調査を始めた、という流れだった。
「うわぁ、明智ちゃんが有能だ」
「ふふん! 小衣は天才なのよ! って明智ちゃんもやめろー!」
「ところで捜査なんだけど、どうします? 一緒に回ります? それとも」
「はぁ! あんたらと一緒になんてやるわけないでしょ! 当然わかれるわよ」
「ま、ですよね〜」
で、話し合いの結果一階と二階でわかれて捜査をすることになった。
そしてジャンケンの結果、俺たちは二階、G4が一階を調べることになった。
「じゃあやります?」
と、呼びかける。
「いや。一度事務所に戻ろう。さすがにそのライト一つじゃ心もとないしね」
オペラが俺の腕時計を指して言った。
俺も頷く。持ってきたはいいものの、きちんと調べるとなればこいつは力不足だ。
「光さん!」
名前を呼ばれて振り返る。平乃がランプを持って、こちらに歩いてきていた。
「はい。これ使ってください」
そう言って微笑みながらランプを手渡してくれる平乃。
「ありがと平乃。助かるよ」
「いえいえ。小衣さんにはナイショですよ。怒られちゃいますからね」
「オーケ、こっそり返しにいくわ」
と、ペコリと会釈して調査に戻ろうとする平乃に手を振って、彼女を見送る。
スイッチを入れてみれば、なかなかに遠くまでその光は届くようだった。そういやゲームでも平乃からランプ借りるんだったけ。
「どういう目だそれは」
灯りも手に入って、事務所に帰る必要もなくなったことだし、このまま二階に上がろうかと階段の方に向き直ると、じとーっとした目でコーデリアたちに見られていた。
「いつの間にそんな仲良くなってたのよ」
いつの間にって。
ああそういや、ココロちゃんに見られないよう人目を避けてたっけ。
「何回現場で一緒になったと思ってんだ。ほら、問題は解決したんだし調査するぞ」
不服そうにするコーデリアの背を押し階段を登った。
■◆■
手近にあった机を大部屋の真ん中まで引きずってきて、そこにランプを置く。
さすがに端まで届きはしないが、これでマネキン部屋も薄暗くはあるが視界が通るようになった。おまけに手も空いた。
さて。
この事件はストーンリバーによるものだ。
俺の記憶では、確か今回の重要なファクターは鞄の中に飲みかけの飲み物、ちゃんと身につけられた下着、すり減ったハイヒール、仮ピアス。
今までに比べて楽そうだな。俺のぶんの重要なファクターは、なにかしら適当な所持品を挙げ連ねればいいだろう。
そんなわけで俺はコーデリアに付いていくことにした。
調査のためにバラけて、近くに誰もいなくなったところで呼びかける。
「なあコーデリア」
「どうしたの? なにか気になるものでも見つけた?」
「そうそう。すごく気になってる。なにがあったんだ、ってね」
「……」
コーデリアが目をそらす。
困った。すごく、辛そうだ。
苦しめたい、とかそんなつもりはないのに。
このまま聞いたほうがいいのか。話したら楽になるような話題なんだろうか。
「言い辛いなら──」
「いえ大丈夫。大丈夫よ。それに、もう何度か話したことある話題だもの」
「? なにかあったっけ?」
「私の、妹のことよ」
「……ああ」
確かにそれは聞いたことのある内容だった。
詳しくは知らないけれど、病死した、と。そう聞いている。
そして数秒、話し出す覚悟を決めるように間を開けて、悲痛な声でコーデリアが続けた。
「マリー……マリアも、あの子も、黒髪に……黄色い目をしていて……っ」
うつむきがちにコーデリアが、自分を抱きしめる。自らを掴むその手はかすかに震えていた。
ああ、なるほど。そういうことだったか。
心中に去来した最初のそれは、納得だった。
コーデリアの事情や過去に対するものではない。
「あの子のお墓近くの屋敷で、こんな噂が流れて。そんなのっ! 冷静でいられるわけないじゃないの!」
コーデリアが思い詰めていた理由を俺がわからなかったことに対する納得だ。
俺は一度、本当に死んでいる。
ある意味、この世界でもっとも死に対して造詣が深いと言えよう。
だがそれは、あくまでも自分が死ぬことへの知識だ。
身近な誰かが死んでしまう、そういった経験を俺はしたことがない。
前世の俺はまだ若いうちにさっさと死んでしまった人間であるし、今もそうだ。学生をやっている。
二つ分の人生を合わせればまぁまぁ長い時間にはなるものの、結局のところ学生時代を二周しただけなのだ。
長いだけで、大した経験は積んでいない。
かける言葉がなかった。
「お前アホか」
自分の精神状態を整えてから言った。
コーデリアは一瞬呆けて、みるみる真っ赤になっていく。
引っ叩かれそうになったから腕を掴んで止めた。
「っ、離して!」
「あのなぁ、会ったことない俺が言うのもなんだけど、マリアちゃんってコーデリアがそれだけお姉ちゃんやるような子だったんだろ。じゃあ別人……別霊? でしょ」
実体の伴わない聞きかじりの慰めくらいは思いつく。オタクだから。
だが、どうでもいい相手ならともかく、コーデリアを相手にその類の言葉はかけたくなかった。
仕方がないので人生経験の浅い俺にもわかる分野で話を進めよう。
「それともなにか。噂の幽霊みたいなことする子だったのか」
「そんなわけ、ないでしょう。マリーはとても優しい、自慢の妹だったんだから」
「しっかりしてくれよな。髪と目の色が同じってだけで疑われてちゃ世話ないよ、ホント」
クク、と笑う。それから帽子越しにコーデリアの頭を強めに撫でた。
「もう大丈夫か?」
「えぇ。おかげさまで気分も晴れたわ」
「それはよかった。俺もスッキリしたよ。じゃあ調査に戻るな」
「そうね。私も──あぁ、ちょっと待って」
「ん」
後回しにしていた問題も解決されたことだし、マネキンを調べに戻ろうとしたところ、肩に手を置かれる。
振り向くとコーデリアが顔を近づけてきて、ちゅ、と一瞬唇が合わさった。
「ありがとう、ね。また助けられたわ。それと叩こうとしてごめんなさい。光がそんな人じゃないってわかってるはずなのに」
俺の胸に手を添え、熱っぽい瞳で見上げる。
「あなたでよかった。友人として、仲間として……こ、恋人……として。ここにいてくれたのがあなたでよかった」
それだけ言ってコーデリアは走り去っていく。
しばらく固まった後、俺はようやく再起動して悶えた。
「うわぁ、ずる」
もう少しだけ、トイズは使わないでおこう。