催眠モノと言うには微妙な能力でがんばってみる 作:アウグスティンティン
書き始めてから二年ちょっとでしょうか。まさか自分の作品をランキングで見ることになるとは思いませんでした。それもR18で。
嬉しすぎて、ちょくちょく作品情報を見てお気に入り登録数を確認しています。そして初めての重い期待に震えています。
ミルキィの作品もっと増えろ!
ところで一人称で主人公の名前出すの難しいですよね。
最初に「俺は高校生探偵の~」とかやらせればよかったんですが。
主人公の名前は浅見光(あさみひかる)です。どこかに同じ名前のミルキィのオリ主がいたら変えます。
がんばり屋さんのトイズ。
通称、秀才のトイズ。
史上最悪のトイズと恐れられた相手をダメ人間にするダメダメのトイズの対極に位置する、がんばり屋さんになる俺のトイズだ。
とはいえこのトイズは、いきなり知識がついたり、いきなり運動性能が上がったりはしない。
ただ努力することが苦痛ではなくなり、むしろ高いモチベーションを持って行えるようになるというだけの能力だ。
学園の入学試験の時も『それただそういう気質なだけなんじゃないの?』と言われたりした。
ちゃんとトイズ計測器を使って、俺のこれがトイズであることを証明したことで、なんとか探偵学園にいる。
このトイズへの周りからの評価は極端に二つにわかれる。
なにそれすごい、と、なにそれ意味あんの、だ。
たぶん自力で努力できる人とできない人で分かれてるんだろう。
ということにしている。
しかしてその実態は、感情の強弱を調整するトイズだ。
努力できるようになる、はこのトイズの一部でしかない。
めんどくさいという気持ちを限界まで抑え、あーやらなくちゃなー、というショボいやる気を限界まで引き上げることができる。
エロ方面に使うのだとすれば、一ミリでも俺を異性として認識しているだけでいい。
なくはない、その程度の好意さえあれば、俺はそれを狂気的なまでに引き上げることができる。
俺に対する警戒を下げればナンパだって格段にうまくいく。
ああなんて素晴らしいんだ! この力があれば生理的に無理と思われていない限り、誰だって落とせる!
とはもちろんいかなかった。
だってトイズだから。万能じゃあない。
アンリとの初セックスの時、俺は俺の興奮をトイズによって下げたが、それはすぐに元通りになった。
そう、俺のこのトイズ、強制力がないんだ。
強制的にベタ惚れにさせることはできるが、なんかの拍子に戻ってしまう。
なぜなら感情の理由がないから。
感情にはその理由が必要なんだと思う。
人を好きになる理由なんて様々だが、なにもない、なんてことはないだろう。なんとなく、だってきちんとした理由だ。意識していないだけで、細やかな理由の積み重ねである。一目惚れはまあ、顔かな。
興奮が戻ったのもそうだ。
女体があるから、とか、原作キャラとヤってるから、とかそういう根拠がまだ目の前、というか体の下にあったから、感情は戻った。
俺のトイズではこの理由を作り出せないし、また消してしまうこともできない。
恋愛感情を強化しても『なぜ好きなのか』という疑問を持たれてしまえば、すぐ元通りだ。
で、おまけにこのトイズ、持ってない感情を作ることや、逆になくしてしまうことはできない。
だから知らない誰かを俺に惚れさせることはできないし、一度嫌われたら悪感情を消すこともできない。
やるならトイズなしでやらなくちゃいけない。
このクソ仕様のせいで、一度俺が人を操ってるんじゃないかと疑われたらもうその疑心を解けないわけである。
焦ってトイズで疑心を抑えたりなんかしたら目も当てられない。
いやほんと、これらの仕様を人に使う前に気づけてよかったよ。
俺がオムツのなかに漏らして、オムツを替えてもらうという作業に興奮する人間だったら危なかった。
あの時、不快感を取り除こうとして失敗したから、人に使う前に検証しようと考えられたのだ。
検証してなかったら今ごろ前科一犯だ。
トイズで性犯罪なんて、ラスボス兼ヒロインの怪盗アルセーヌからすれば、無条件に軽蔑対象だろう。いや誰でもか。
で、俺はそれを消せない、と。
今のところ、このトイズに対しての俺の評価は微妙にプラスといったところだ。
もちろん俺のトイズを使えばプラスにカンストさせることもできるが、絶対にやらない。意味が薄くてもやらない。
まずトイズというだけでオッケーだ。おかげで探偵学園に来ることができた。
怪盗側は警察に興味ないから、もし俺がトイズを持っていなくて、原作に関わるために警察になっていた場合、攻略難易度が鬼のように上がっていたことだろう。
そして実のところ、感情を操っても必ずしも元通りになるわけではない。というところだ。
その手段は大きく分けて二つ。一つは吊り上げた感情に見合う理由を作ることだ。
俺に惚れさせたのなら、その感情に釣り合う理由を作ってやればいい。解ける前に理由になりうるだけの思い出を作れれば、自然に消えるまでは続くだろう。
ちなみにナンパで何度か試したが、今のところ成功例はない。
二つ目、主にこっちで使うのだが、少しずつ変えるというものだ。
自身の感情そのものであると誤認するような小さい変化なら元通りになってしまわない。たぶん。
つまり好感度の上がり幅を少しだけ引き上げているわけだ。
塵も積もればというが、この少しずつずらしていくというのが案外有効だったりする。
一つの感情そのものを動かすだけなら、大したことはない。
だが人付き合いはそんな単純な感情でできていない。信頼や信用、警戒、好き、嫌い、興味関心、その他もろもろの俺に向けられた感情を、ちょっとずつ都合のいい方向に向けていけば、それで解けない洗脳の完成だ。
怪盗Lは洗脳のトイズを持っていたが、あれは愛のパワーで解けてしまう。
なぜなら自分の意思じゃないから。
強制力の薄さがゆえに、俺のトイズによる変化は心に馴染む。
そして最後の利点。
トイズには副作用がある。一番わかりやすいのが譲崎ネロのダイレクトハックだろう。ハッキングのトイズを持つネロは、電気信号を介して生き物の心が読める。あとネロの近くだとバリ3立つ。
このようにトイズに関連した力を発揮することができる。俺のトイズの副作用はもちろん、感情を読むことだ。
心を読む、というほど正確ではないが、今どんな気分なのかくらいはトイズを発動させていなくても簡単にわかる。
これがかなり女の子を口説くのに便利だったりする。それに探偵としても役に立つ能力だ。
まあ全部引っくるめても、結論としては微妙にプラス程度なんだが。
好感度の上方修正だってさ、俺がもっとイケメンだったり、すごいトイズ持ってたら勝手にそれくらい上がるでしょ。
それに努力できる人間になるトイズ、ということにしているせいで俺は研鑽=トイズになっている。ゆえに、俺に妥協は許されない。通常科目の点が下がれば、同時にトイズの評価も下がってしまうから。
そしてバレた時のリスクだ。なんやかんや言っても精神を操るトイズだ。悪用していなかったとしても、信用されなくなるだろう。
いや悪用してるんだけれども。どこかのヒーローを目指している少年と違って。
せめてさ、せめて感度も上げられるとかそういう仕様があればよかったのに。
感度は感情じゃなくて感覚だから操れないんだよな。
そんなこんなで二年目、俺にも後輩ができた。
年齢的には高校二年生。同じ学校内で先輩も後輩もいる、なんとなく主人公はだいたいここってイメージのある美味しい学年だ。
会ったことないけど、ミルキィホームズの一人、エルキュール・バートンも新入生として入学しているはずである。
会いたいなぁ。一年のクラスに行く口実があればいいんだけど。
いきなり図書館に通うようになるのも不自然だし。
笑顔を作ってすれ違った人に挨拶しながら登校する。愛想は振り撒いておいて損はない。
知り合ってさえいればトイズの対象に入るからな。
はっはっはっ、もっと俺に好感を抱くがいい。
門をくぐって学園の敷地に入る。
さあて、今日も夢のためにがんばるぞー。たぶん生徒の中で一番不純な夢だけどね。
──ガコン
なんか聞こえた。なんだろう、硬いなにかが壊れる音みたいな。
探偵学園なんて場所でそんなあからさまにヤバいことやる生徒なんて、時系列がアニメになるまで出ないと思うけど。
じゃあ侵入者とか。なくはないだろう。ゲームでも言ってたけど、探偵学園なんてところ悪党からすれば邪魔だし。
音は遠かったからか聞き取れたのは周りで俺だけのようだった。日頃から集中力を引き上げてきたおかげだろう。
とりあえず音のほうに向かってみることにした。
なにもないならそれでよし。ほんとに侵入者だったら、一人で解決を試みてみよう。成功したらめっちゃかっこいい。
校舎の裏に回り、音の発生源を探してみる。
すると案外そこはすぐに見つかった。校舎の一部が壊れていて、その近くに女の子がうずくまっている。うっ、ぐすっ、と彼女がすすり泣いていることに気づいた。
恐怖、苦しみ……自己嫌悪、か?
ぐちゃぐちゃとした自分でも整理できていない負の感情は、ひどく読みづらい。けれど、とても辛いことだけはわかった。
だから放っておけなくて、思わず駆け寄り、彼女に呼び掛けた。
「君、大丈夫!?」
彼女の近くで膝を折り、彼女と高さを合わせる。
そして彼女の肩に手を置いた。別に下心があったわけじゃない。ただ彼女の中で渦巻く負の感情を少しでも抑えられれば、そのくらいの考えだった。
でも今回ばかりは、それでも失敗だった。
「……あ……」
彼女がのどの奥から声を漏らした。爆発するように彼女の感情が膨れるのが見てとれた。
彼女に対してこれは悪手だった。それに気づいて手を離そうとしたのだが、彼女のほうが速かった。
「い……やぁ……っ」
振り向き様に俺の手が彼女に振り払われる。
とてつもない力だった。そのちょっとした挙動で俺の体ははね飛ばされ、宙を舞い、四、五メートルくらい後ろに落ちた。
「あっ……う、ああっ……そん、な……わ、たし……」
嗚咽混じりの声だった。視界に入ってなければ俺は人の感情を読めないけれど、そんな必要がないくらいにわかりやすく、深い後悔と絶望の染み込んだ悲鳴だった。
ダッと走り去る足音があった。耐えきれずに逃げたんだろうか、それとも人を呼びに。
どちらにせよ俺は、最悪でも彼女がそうするまでに立ち上がらなければならなかった。
そうして、自分は平気だと伝えなければならなかった。
あー失敗したなぁ。なにやってんだか俺は。鍛えてる意味ないじゃん。
陰鬱な気分になる。はぁ。
忘れないために、これは抑えずおいておこう。そうするべきだ。
「ちょ、ちょっと光! 大丈夫なの!」
まだ起き上がれないので顔だけ上げた。
声から予想はついていたが、そこにいたのはコーデリアだった。あ、スカートの中見えそう。
コーデリア・グラウカ。
ミルキィホームズの最年長。透き通るような金髪にピンクの花飾りをふんだんにまぶし、ツインテールにしてたり、そのまま流したりしている俺のクラスメートだ。
「なんでこんなとこいんの?」
「それはこっちのセリフよ! いきなりふら~っと校舎裏に行ったかと思ったら、なんだか倒れてるし!」
「ストーキングしてたの?」
「……び、尾行よ……うん。探偵を目指しているのだもの……」
目、そらすなおい。
いいけどさ、ようするに俺は興味を持たれているってことなんだし。
「とりあえずコーデリア、肩貸してくれないか」
「ええ! はやく保健室に行かないと!」
「そうだね」
一回見に行ったほうがよさそうだ。さっきの娘が人を呼びに行ったとしたら、行き先はまあ保健室だろうから。
「それにしてもなにがあったらそんなことになるのよ。一体誰にやられたの!?」
「たぶん一年の可愛い女の子。ちょっかいかけたら反撃された」
コーデリアに投げ捨てられた。冷たい目で見下ろされる。
ご褒美かな。
「バカじゃないの? アンリエットさんに言いつけるわよ、まったく」
「ははは、やめてください」
まだ浮気を許してもらえる確信がないのに。
「はぁ……ふざけてないでいくわよ」
「はーい」
この世界の女性は、ゲームやアニメのキャラみたいに可愛いし、美しい。あと野郎もだいたいイケメン。
だがゲームやアニメそのものな顔をしているわけじゃない。
アンリを例にするなら、水色髪の美少女という特徴を持った生徒は他にもいる。だから外見だけで見分けるのは難しいのだが、まあさっきの娘はエリーだろう。
長い紫の髪、振り向いた時に見えた髪は赤と白の髪紐で十字にくくられていた。眉尻の下がった赤い目、座ってたから誤差はあるだろうが百六十ないくらいの身長。
人一人を軽く吹っ飛ばす力、俺に触れた彼女の手の甲の異常な強度、おまけに彼女がいた地面がわずかにへこんでいたことから、ただの怪力のトイズではないことがわかる。
というわけで推定エルキュール・バートンとの接触に成功したわけだ。
会いたいとは思ったけど、もっとマシな……。
コーデリアの支えを受けて保健室にたどり着いた。
保険の先生は入ってきた俺の様子を見て、驚いているようだった。
この様子じゃ、まず推定エリーはここに来ていないだろうけど、一応さっき見たエリーの特徴を伝えて聞いてみる。
「そうですか。ありがとうございました」
知らないとの答えだったので、教室に行くために保健室を出ようとした。のだけど女医に呼び止められて、結局診察されることになった。
軽い打撲と内出血。意識もはっきりしているから、今のところ問題なし、という結果だった。
不調が出たらまた来るよう言い含められて、俺は解放された。
「コーデリアー、遅刻する前に教室戻るぞー」
「え、ああ、うん」
コーデリアはなにか考え事でもしていたのか、遅れて返事をした。
「どした?」
「その……さっき光が言った人に心当たりがあって」
「へえ、そうなんだ」
じゃあほぼ確定だな。
この状況には覚えがある。これあれだ、原作前のコーデリアとエリーが仲良くなるストーリーのところだ。
なんやかんやあって、俺みたいにエリーにぶっ飛ばされたコーデリアが、エリーを許して友達になる、みたいなストーリー。
あれ、これ良くない状態なんじゃないか。
短期間に二度もエリーが暴走するだろうか、というか二度も暴走してエリーの精神は無事なのか。
ちゃんとミルキィホームズ揃うよな。
不安になってきたぞ。
■◆■
エリーを探し始めたのは昼休みからだ。十分休みでは時間が足りなかった。
二人を引き合わせるためにコーデリアも連れていく。一応知り合いという名目があるので、簡単に巻き込めた。
一年の教室を回って聞き込みをする。得られた情報はそう多くなかったが、重要なことはわかった。
彼女はエルキュール・バートンであることと、授業が終わると即行でどこかへ行ったことだ。
どこかはクラスの誰も知らなかったが、おそらく保健室だろう。
当てをつけて向かえば、やはりそこに一人の女生徒がいた。保健室の戸の前で、取っ手に指を伸ばしてはひっこめ、また伸ばす。という行動を死にそうな顔で繰り返していた。
「エルキュール・バートンさん?」
びくっ、と彼女は震えた。ぎこちない動きで俺のほうを向く。目を引く赤い瞳は、恐怖で濁っていた。
「ええと、俺のことわかりますか」
「は、い……今朝、わたしが……傷つけてしまった人、ですよね」
「じゃああなたが────」
詰め寄ろうとするコーデリアを引き留める。
「ステイステイ。落ち着け暴走機関車」
「誰が暴走機関車よ誰が!」
「怖がってるから、ね」
思い込んだら一直線、てのはコーデリアの良いところでもあり、悪いところでもある。
俺のために怒ってくれてる、ということもあって悪い気はしないが。
怯えるエリーに気づいたのかようやくコーデリアは気炎を抑えてくれる。
「さて、バートンさん」
「……っ」
名前を呼ぶとエリーを拳をぎゅっと握ってうつむいた。
「今朝はごめんなさい。俺の配慮が足りませんでした。怖がらせてしまってごめんなさい」
「え?」
腰を折り、深々と頭を下げる。
「でも……あれは、わたしが……その……ぅぅ」
そこでエリーは言葉を詰まらせた。そのままの姿勢で続きを待つ。
「あの……その……ぁぅ」
「待ちますよ、いくらでも。昼休みが終わったら、また休み時間か放課後に聞きに行きます。だから、落ち着いて話してください」
そう告げた。それから、何度かエリーが大きく呼吸をする音が聞こえて、いくぶん落ち着いた声で話し始めた。
「……頭を、上げて……ください」
「うん」
姿勢を戻す。状況が掴めずコーデリアはうろたえていたが、もうしばらく黙っていてもらおう。悪いね。
「わたし、の……ほうこそ、ごめんなさい」
ぺこりと今度はエリーが頭を下げた。
「かまいません。俺ならたいした怪我じゃないから。じゃあまあお互い様ってことで」
「はい……」
緊張が解けて、ふぅ、と深く肺の中身を全部吐き出した。
許されたぁー。はい勝訴ー。紙に書いて走り回りたいくらいだ。
心の中ではしゃいでいると、横から服をくいくいと引っ張られた。
「ねえ光。そもそもなにがどうなってこうなってるの?」
「あれ? 最初に言わなかったっけ」
「あんな適当な内容、信じるわけないでしょう」
「信じてないのに俺投げ捨てられたの」
「光が変なこと言うからよ」
ため息をついて、エリーのほうを見る。それから二人で今朝のことを話すことにした。
ちなみに女医には、保健室の前で騒ぐなって後で怒られた。
エロ無し。はいいんですかね。
どういう部分に需要があるんでしょうか。感想か活動報告のどれかに書き込んでいただけるとありがたいです。
もともとこれ全年齢で書こうとしていたんですよね。今とは別の名前、別のトイズなんですが。
だからもっとヤれというのであれば随所に入れることはできる、はず。