催眠モノと言うには微妙な能力でがんばってみる 作:アウグスティンティン
22話
視線を少し落とせば、制服の前をどーんと押し上げる霊峰富士がそびえていた。
その山を下から支えるように手に伸ばせば、手のひらいっぱいにズシッと重たい感触がある。なんとも心地のいい重さだ。
この世で最も価値のある脂肪分だろう。たぶんアダムの涙よりもグラム単価が高い。
俺の膝に対面して乗っているアンリの豊満な乳房をぐにんぐにんと力を込めて揉む。次第に興奮してきたのかアンリの股間部がジトっと湿り始めた。
「……っん、あんっ……ふふ、光は本当に胸が好きね。んんっ、そんなにいいものなのかしら?」
「問答無用に最高でしょ。今更どうしたんだ」
むにゅ、ぐにゅっと指を沈み込ませると、優しく押し返してくる。まるで崩れない特大プリンを持っているよう。
夢と希望が詰まって膨らんだ巨乳は、触れたところから溜め込んだものが流れ込んできているかのように、指先から幸せを感じている。
わたくしをモデルにヴィーナス作り直せ、と言わんばかりの自信に満ちた露出過多な怪盗衣装を身に着けているくらいにはこの極上の肉体美を自慢に思っている奴だ。
いきなりどうしたんだろうか。
「なのに最近ずーっとあの子達に付きっ切りで、わたくしに構ってくれませんでしたのね」
ああ、うん。そういう不満か。
むっすーとするアンリは可愛いが、忙しい理由の一端はお前なんだから若干の理不尽を感じる。
いやまあ、浮気してなきゃなんの問題もなく時間を作れるのだが。……うん。
「ごめんごめん。埋め合わせはするさ、必ずね」
「あら、デートにでも誘ってくれるのかしら」
「いやぁ〜」
おっぱいに顔を埋める。ボヨヨンだボヨヨ〜ン、谷間に挟まれて顔の両側から温かくてむにゅうっと包み込まれる。ぱふぱふなんて軽い擬音じゃ足りない重量感だ。
すぅーはぁー、と鼻で呼吸をする。この鼻孔をくすぐる甘い香りと、蒸れた汗の匂いが俺の脳を蕩かす。
いろんな味わい方をしてきたけれど、個人的にはこれが一番幸福になれる。
「今度打ち負かしてやるよ」
と。
言った。
「……へぇ」
圧のあるカッコいい声だった。顔を上げる。鋭く目を細め、ニィと唇を釣り上げたアンリがこちらを見つめている。
おぉ、やっぱり顔がいいな。こんな悪どい顔も似合うとは。アンリが最強だったか。
「わたくしに勝てる、とおっしゃって?」
「難聴系か? ならもう一回言うけど」
「────」
うつむきがちに黙りこくるアンリ。髪で目元は隠れてしまったが、口は見える。
俺の煽りを聞いてピタリと閉じてしまっていた口は、先程以上に激しく釣り上がる。
「クッ──フフフフ。えぇ、えぇ、必要ありませんわ。一度で十分」
「あんま凄むなよ。怖いだろう」
アンリが立ち上がる。熱が離れたのは至極残念ではあるが、それ以上にいいものが見れたことだ。良しとしよう。
「待ち焦がれたわたくしの出番。成長したあなた方と相見えること、楽しみにしていますわ」
「期待してるぜ」
「近いうちに予告状を送ります、腕を磨いて待っていなさい」
「首を洗えじゃないのか?」
「あら? 負けるおつもりで?」
「上等」
■◆■
ということがあった数日後。
俺たちはシャロの提案で聞き込み調査をやっていた。
こんなことに意味があるのかと疑問に思いはするが、みんな楽しそうに聞き込みをやっているので価値はある。
ぶっちゃけ散歩のついでに捜査をやっているぐらいの気分だ。
「どうも〜、今探偵学院の課題で聞き込み調査やってるんですけど、近頃なにか変わったことってありませんでした?」
そうやって暇そうにしている奴を見つけては話しかけて回る。
ミルキィホームズの知名度はまだそこまで高くない。最初は知られているのかも、とか思いながら声をかけていたが、実際全然だった。
なのでこうして探偵学院の生徒として聞き込みをやっている。
冷静に考えれば、普段外を出歩いている時にミルキィホームズとして注目を集めたことがないのだから当たり前ではあるのだが。
朝から始めたこの捜査は「特にないなぁ」とか「ネイルめっちゃキレイに塗れた」とか「ガチャで神引きした」とか、マジでどうでもいい情報が集まっただけで、俺の一日は虚無と消えた。
お前ら顔覚えたかんな。助けねぇぞ、ヨコハマ壊滅の危機とかに。
■◆■
「ちょっと足が……疲れました」
と、くたびれた様子のエリーが言った。
すでに日も暮れて、空はオレンジに染まっている。俺たちは聞き込みを切り上げて、学院へと戻ってきていた。
最初は賑やかにやっていた彼女らも疲れを見せている。
「そうね。収穫も無かったわけだし」
「まあなんかやってるにしても秘密裏にだろうしな」
どうせなんも出てこないだろうな、とお気楽にやっていた俺はともかくとして、真面目にやっていたコーデリアは肩を落としていた。
「街で聞き込みしようなんて言い出したの誰だっけ〜?」
「だってだって! たまには怪盗帝国に先手を打ちたいよ〜!」
「まぁまぁ、シャーロック。こういうこともあるさ」
疲れていないのはシャロとオペラくらいなものである。
プロの探偵をやっていたオペラが元気なのはともかくとして、シャロはなんだろうか、あれかな、子供が疲れ知らずに走り回るあれ。
「探偵あるあるなんだ」
と、俺は訊いた。
「そうだね、成果がないこともままあるかな」
「うわぁお。探偵辞めて怪盗やろっと」
「えぇっ!? 光さん怪盗になるんですか!」
「真に受けんなって……冗談だよ冗談」
鍵を取り出して、事務所の扉に差し込む。
あれ、開いてる?
事務所を出る時に締め忘れてたか。と思い返しつつ扉を引いた。
「おかえりなさいませ」
「あれ? 舘さん?」
待ち構えるようにして舘さんが立っていた。
勢いよくシャロが頭を下げる。
「わわ、ごめんなさい! 部屋を間違えました!」
「はい、ストップストップ。僕たち全員で部屋を間違えるわけないでしょ」
と、ネロが言った。まあそりゃそうだ。六人もいて、わりと離れたところにある生徒会長室と間違えるとか間抜けがすぎる。
「ほっほっほ、大変に申し訳ございません。鍵が開いていたので中で待たせて頂きました」
「シャ〜ロォ〜?」
「えー! あたしじゃないよ!」
からかうようなネロに対して、シャロは本気で抗議する。
「大切なことは絶対に忘れちゃダメっていつも思ってるもん! 絶対に!! 絶対だよ!!」
心の中地雷原か。
……全員そうだったわ。
よく友達やってるなぁ、俺。
「落ち着きなって。大丈夫、なんにも忘れちゃいないさ。部屋最後に出たのネロだしな」
ポンポンとシャロの頭を撫でる。事務所の合鍵は全員持っているので、部屋に誰も居なくなる時は最後の一人が戸締まりをするようルールとして決めていた。
「あれ? そうだっけ?」
「もう、人のせいにしないでよ〜!」
「へっへ〜ごめん、ごめん」
「ぷ〜」
冗談めかして怒ったように頬を膨らませるシャロ。
シャロも疲れていたんだろうか。普段ならこのくらいのことを気にしたりはしないし。
「それで舘さん、何かご用件でも?」
「ええ、みなさまにお渡ししたい物がございます」
そう言って舘さんが手渡してきたのは装飾された白い封筒だ。オペラが開けると、中身はどうやら招待状だったようである。
ああ、とうとうここまで来たか。
最終章一歩手前、アルセーヌ戦の狼煙となる探偵と警察の交流会への招待状だ。
探偵と警察がいつまでもいがみ合ってはいられない、という上層部の思惑に反し、現場は、まあココロちゃんを筆頭にあんな感じなわけで。
そんな中で俺たちとG4が協力して怪盗事件解決にあたっていることをだしにして、交流を図ろうということだ。
「協力……? してたかなぁ……?」
ネロが不思議そうにするが、してたぞ。俺は。
ともあれG4の面々も、探偵に隔意があるのはココロちゃんくらいなものである。
他の三人と神津さんはどうでもいいと思ってそうだし、あれが一般的な警察の形になれば事件解決がスムーズになることは間違いないだろう。
「明日だって!?」
招待状を読んでいたオペラが驚愕の声をあげる。
「な、何? どうしたの?」
「いや、この招待状に……開催は明日の夜って書いてある」
いやぁ原作でもそうだったけど、急だな。
明日パーティーです、参加してください。なんていきなり言われても普通困る。
「ほっほっほ。善は急げと申しますから」
「思いつきが吉日ってスケジュールだ」
詳細はゲームでも出てこなかったが、アンリが絡んでいたりするのだろうか。
「でもすばらしいです! あたしたちとココロちゃんたちがもっと仲良くなれちゃう! これってすごいよね! ねっ!?」
「はいはい」
「シャロったら」
「パーティー……なんて」
シャロをけしかけるか。俺たちが仲いいこと前提の懇親だからな。向こうも無下にはできないだろう。
「ではみなさま、ご参加ということで。もちろん、小林様も……ですよね?」
「え!? あ、いや! 僕は……!」
途端に狼狽えるオペラ。
「ダメなんですか?」
「ダメというか……その」
「え〜、つきあい悪くな〜い?」
「そんなこと言われても」
「寂しいです……」
口々にコーデリアたちが出席するように促す。
確か探偵としての自分を知っている人が大勢いる場に出たくないとかだったか。
無理強いするようなことでもないし、助け船を出すとしよう。どうせ最後には参加することになるんだし。
「オペラさんは、やっぱこういうの苦手?」
「あぁ〜……うん、正直あまり顔を出したくはない、かな。僕は留守番してるからみんなで行っておいでよ」
ここで俺も行かないっていったら、この後どうなるんだろう。
「残念なことですね。会場にはIDOの方々もいらっしゃいますのに」
「IDO? ……それは、どの程度のクラスの?」
「詳細は存じ上げておりませんが、幹部の方々が何人かと聞いております」
「幹部クラスが……?」
最後に謎とチケットを残して、舘さんが部屋を立ち去った。
■◆■
「せっかくのパーティーなのに小林が来ないなんて、つまんな〜い」
頭の後ろで腕を組みながら、ネロが愚痴る。
「ごめん」
「まあまあ、そう言うなって。俺もあんま行きたくはないしな」
「え〜」
「お偉いさんが出てくるような場だぞ。面倒すぎるって」
「あー……それは確かに。やなこと言うなぁ」
うへぇ、って顔をするネロ。
想像するだに気疲れしそうだ。とりわけネロはこういうお堅いの苦手っぽい。
「うえぇ、始まる前だってのに気分落ちちゃったよ」
「許せネロ助」
「許してもいいけど、じゃあ代わりに気分を盛り上げてよね」
「どういう『じゃあ』なんだ、それは?んで、俺は何しろって?」
「パーティー用のドレス選んでよ」
「ドレス?」
そんな格好で参戦してたっけか。制服か探偵服で行ってなかったっけ。
「そうだな。せっかくだし綺麗におめかしして行こうか。もうちょい休んだら見に行く?明日のほうがいいかな」
「ゆっくり見て回りたいし、明日がいいなぁ」
「おー」
なんだっていいか。いいもん見れそうだ。
って、事件あるんだったわ。あんましゴチャゴチャした動きづらい格好すると後が大変なのか。
「光さん……私のもお願い、します」
「あ。じゃああたしのも!」
そう言ってエリーとシャロも立候補してくる。
「いいけど、俺のセンスにはあんま期待すんなよ」
「普段着とか結構センスあると思うのだけど」
「ああ。雑誌のコピペコーデだからな」
擁護してくれるコーデリアにそう返した。
ラード君みたいな壊滅的な生活をしない限り、最低限の外見レベルが保証された素晴らしき二次元世界の賜物である。
おかげさまでこんな雑なファッションでも様になる。
と、呑気におしゃべりしていると電話がかかってきた。
一言断りを入れて、コーデリアたちから離れながらPDAを開く。非通知設定の相手からだった。
出るかどうか悩みながらも、とりあえず画面をタップして通話を繋ぐ。
「もしもし」
『テレビをご覧になってください』
「おっと」
これは出て正解だった。アルセーヌの声である。
危ない危ない、切らなくてよかったよ。
それだけ言われて通話は終了した。言われた通りにテレビをつけると、いつぞや怪盗帝国が名乗りを上げた動画と同じ場所に立つアルセーヌが映った。
「怪盗帝国!!」
『ごきげんよう。突然ですが本日はこの場をお借りして……ミルキィホームズのみなさまへ「謎」をプレゼントいたします。これはあなた方がわたくしたちから守り抜いた三つの至宝』
そう言ってアルセーヌが取り出したのは鏡と宝石と刀。
俺たちが怪盗帝国のスリーカードを撃退し、守り抜いた宝物たちである。
『わたくしの名誉にかけて誓いますがすべて本物です。ミルキィホームズのみなさまへわたくしからお贈りする今回の「謎」』
『それはこの三つの至宝がある場所……すなわち怪盗帝国の本拠地。これを見事見つけ出し、至宝を取り返して下さい』
『できればみなさまの勝ち』
『できなければわたくしたちの勝ち』
『シンプルな勝負ゆえに謎そのものも引き立つというもの。うふふふふふ……では、ごきげんよう』
画面が一瞬、砂嵐へと変わり、それから通常の映像が流れ始めた。
「先生、本当なんでしょうか……。本当に宝は怪盗帝国に?」
「あ、いや、わからない」
シャロの疑問に対して、オペラが曖昧な答えを返す。
「だったら早く確かめようよ。ここで考えてるよりさ」
「あの三つの至宝は……警察が直接警備していたはず……」
「なら市警本部に行きましょう!」
ノータイムでG4のところへ突貫することを決定した俺たちは、部室を飛び出した。