催眠モノと言うには微妙な能力でがんばってみる 作:アウグスティンティン
シャロの話は、なんというか光が関われる部分が少なくて、どうしてももともとの話そのままに近くなるんですよね。
なのでだいぶ駆け足ぎみに終わらせました。
(まあ今手元に小説もマンガもなくて、詳しい部分がわからなかったってのもあるんですが)
今年も無事に進級し、とうとう三年生になった。
これまでの二年間も濃ゆい時間ではあったのだが、これからはそれ以上になるだろう。なぜならミルキィホームズが全員そろうからだ。
今日の入学式で一年生組の二人、シャーロック・シェリンフォードと譲崎ネロがホームズ探偵学園の一員となった。
ネロが探偵学園に入ったのはエリーがきっかけだ。二人で事件を解決したことで仲良くなって、ネロがエリーに着いてここに来た。
と、まあだいたいそんな経緯だ。なんというかミルキィホームズが集まった要因って七割くらいエリーだと思う。
ともかくネロとはエリーを介して、以前から知り合いだった。
同じく限定的な読心能力を持つ彼女にたいしては、自身のおよそ悪意と呼べる感情を抑えることで接してきた。危うく光堕ちしかけたが、おかげで好印象を与えていると思う。
で、シャーロックことシャロだが、彼女とは本日すでに二回関わっている。
そして放課後、寮に帰ろうとしていた俺のもとに、シャロが駆け寄ってきた。これで三回だ。
「あの!」
「やあ、昼間ぶり。怪我はなかった?」
「はい、おかげさまで」
彼女との接触、その一回目は入学式の直前だ。
コーデリアとネロがいつものように喧嘩を始めて、それを仲裁しようとエリーが柱をへし折って構えた。
そんなところに「喧嘩はやめてください!」とシャロが乱入してきたのだ。
当然のようにエリーは暴走し、シャロめがけて柱を投げた。
二回目は昼休みだ。
食堂で昼食を摂っていたところ、またコーデリアとネロが喧嘩を開始。シャロがそれを諌めようと駆け寄り、机を巻き込んですっ転んだ。
「あたし、シャーロック・シェリンフォードって言います」
シャロが自己紹介をした。俺もなるべく優しげな笑みを作って返す。
「俺は浅見光。よろしく」
「よろしくお願いします」
今朝から思ってたけど、シャロすごい髪型だな。
ピンク髪くらいならそこらにいるけど、どうなってるんだろう、あの∞。
「それであの、光さんに聞きたいことがあって来たんです」
「うん、どうぞ」
「ネロと、ええともう一人」
「喧嘩の相手ならコーデリアだよ」
「あ、はい。そのコーデリアさんはどうして喧嘩してたんですか?」
と、シャロが真剣な様子で聞いてきた。俺は完全にアホなことを考えていたが。
「喧嘩の理由、ねぇ」
シャロからの問いに俺が口ごもっていると、シャロが慌てた様子で言い訳を始める。
「あ、いえ! 冷やかしじゃないんです、ただあたし……ほっとけなくて」
「あーいや。ごめん、そういうつもりじゃないんだ。ただ、あいつらしょっちゅうやりあってるから、今日の理由がどれだったか、ごっちゃになってるだけで」
なんだったかなぁ。原因。
しばらく考えてみるものの、キャットファイトを可愛いなぁって見守っていた記憶しかない。
「んー、たぶん食べ物関連だと思うけど」
「食べ物、ですか?」
「うん。マナーがなってないとか、勝手に自分のを食われたとか、だいたい喧嘩の原因は食べ物の恨みだから」
全員食い意地張ってるから仕方ない。
「そうだったんですね。だから食堂でも喧嘩を」
「なんか、迷惑かけてごめんね」
「いえ、お話ありがとうございます」
ぺこんとシャロは頭を下げた。
それから何言か言葉を交わして、シャロはまた走り去っていく。たぶん次の行き先はコーデリアのところだろう。それで確か、この後は。
「コーデリアに一晩中拘束されて愚痴を聞くんだよな」
手を合わせて苦労人の後ろ姿に祈りを送った。
がんばれ~、シャロ~。
■◆■
次の日、俺の机の中に手紙が入っていた。ラブレターかな?
おそらく違うだろうと思いつつも、すこし期待しながら封を切る。当然中身は恋文ではなく、シャロからの招待状だった。
招待状にあった通りに、放課後、食堂に向かった。
それからすこしして、招待状を送られたであろう、全員が集まる。
つまり、俺とコーデリアとエリーとネロ。喧嘩の場にいた俺たち全員だ。
「客側は全員集合かな?」
手紙を取り出してひらひらとコーデリアたちに見せる。
「光も貰ってたのね」
「まあ、関係者だし。で、その招待した本人の姿が見えないんだけど、エリー知らない?」
俺より先に来ていたエリーに聞く。
というかさっさと話を進めないと。俺のせいでここで時間を食われるなんてことになっては、大惨事になりかねない。
しかしエリーは首を横に振った。
「まったく、呼び出しておいて自分はいないなんて、それはないんじゃないの」
ネロが文句を言った。気持ちはわからんでもないが。
「でも、あの子……真剣だった」
「それは、そうだったけど」
エリーの指摘に、同じように不満そうにしていたコーデリアが困る。ならイタズラではない、と。
そうこうしていると、食堂のおばちゃんが話しかけてきた。おばちゃんの話によると、シャロはここに来て、厨房を貸してもらえるよう頼み、それから材料を取りに行ったらしい。
で、どこに取りに行ったのかと聞くと、海に行ったらしい。
そして本日、めっちゃ天候悪い。俺たちは全力で港に向かった。
■◆■
漁師さんからの聞き込み調査の結果、シャロらしき人物はここに来たとのこと。
そして海が荒れているから船は出せないと、答えたらしい。ちなみに貸しボートが一隻帰って来ていなかった。
「うん、ヤバイなこれ。コーデリア、トイズで探して」
「え、ええ!」
トイズで視覚を強化したコーデリアが、水平線を見渡す。
俺には白く泡立つほどに暴れる海面くらいしか見えないが、コーデリアならやってくれるだろう。信じて任す。
「い、いたわ! あっちに……ああ、船が揺れて!」
「助け……ないと……!」
「そうだけど、でもどうやって」
コーデリアとエリーが言い合っていると、ブルン! とエンジンのかかる音がした。
近くにあった船からネロが顔を出す。
「あなた、勝手にトイズを使って!」
「緊急事態だよ、コーデリアは来ないの?」
「う……で、でもこんな太い綱があったら──」
船は頑丈なもやい綱で岸に停められていた。素人にはほどけそうになさそうだった。漁師の人たちに言っても、この天候ではほどいてもらえないだろう。
エリーが覚悟を決めるようにきゅっと歯を食い縛ると、その綱を引きちぎった。
「よーし、よくやったエリー!」
「はい……っ」
エリーの手を引き、俺も船に乗る。それからコーデリアに呼び掛けた。
「コーデリアも早く来い! 俺たちじゃ見えないんだから!」
「ああもう!」
乗船したコーデリアの先導をもとに、ネロが船を動かす。
荒波を割って進む船は、そう経たないうちにシャロが目視できるところまでたどり着いた。小さなボートにはオールがない。どこかで流されたのだろう。
大声をあげて呼び掛けると、縁にしがみついていたシャロが顔をあげ、こっちを向いた。
「皆さん!?」
「縄投げるから取れ!」
船に積んであった救命用の縄を投げる。しかし投げた縄は風にさらわれ、あらぬ方向へと進路を変えた。
そして縄は不自然な軌道を描いてシャロの元に届く。
シャロが縄をしっかりつかんだのを確認すると、エリーがあっという間にこっちの船に引き上げた。
その後、船は波風にさらわれながらも、なんとか浜辺に流れ着いた。
ボロボロになったまま船から這い出て、砂浜に倒れこむ。
あぁ、死ぬほど疲れた。肉体的にも精神的にも。
俺がいることでストーリーが変わっているのは知っていたから、ひょっとあのままシャロを探しに行かなかったらなんて考えると、背筋が凍るようだ。
なんにせようまく解決できたようで、何よりだ。
「最後のあれ、サイコキネシスだよね。あんなのあるんなら自分で飛んで帰ってこれたんじゃないの?」
俺と同じように突っ伏すネロが、シャロに聞いた。
「あたしのトイズはあまり重い物を動かせないから」
「ああ、そうなんだ」
ぐだーっと体力が回復するまでそのまま寝転がる。
しばらくしてコーデリアが体を起こし、シャロを叱った。
「で、どうしてあんなことしたの」
「それは……皆さんに喧嘩をやめてほしくて」
「はい?」
「お腹が空いてると嫌な考えばっかり出て来て、イライラしちゃうんです。だからお腹いっぱいになったら仲良くしてくれるかなって」
コーデリアはお腹が空くと、四足獣にフォームチェンジして、食べ物をかっさらっていくという性質があるので、あながち間違いではない。
「じゃあ海に出たのって」
「カマボコを作るためのお魚を獲るためです」
「なんでカマボコ?」
ネロが聞いた。俺にとっては知っている内容だったが、それでも本人の口から直接聞くのとはまったく受ける印象が違うものだった。
曰く、祖母がよく作ってくれたらしい。
それでカマボコが大好きだったのだけど、カマボコが何でできているのか、どう作られているのかを知らなかったそうだ。だからカマボコについて調べた、それがシャロが初めて解いた謎なのだという。
本編では最後の最後にギャグみたいに明かすまでまったく出てこなかった話なのだが、シャロは記憶喪失だ。
覚えている数少ない記憶がそれなのだと思うと、なんだか切なくなる。
「そもそも私は喧嘩なんて」
「してなかったんですか!」
言い訳しようとするコーデリアにシャロが詰め寄る。
「喧嘩、してなかったんですか!」
「えと」
「どーする、コーデリア。まだやる?」
「うう……はあ。してないわ、仲良しよ仲良し」
その答えに、子供のようにシャロははしゃぎ出した。それを見てコーデリアが苦笑する。
「あ、じゃあ記念に写真撮りましょう!」
「なんの!?」
ていうかどっからカメラ出した!
というみんなの疑問をよそに、シャロは楽しそうに笑っていた。
しょうがないとばかりに立ち上がったコーデリアが、俺の肩を叩く。
「ほら、光もいつまでも寝てないでいくわよ」
「コーデリア」
「なに?」
「あんたはいいよなぁ」
「なにがよ」
アニメやマンガの世界に行く転生者って、前から思ってたけどやっぱいらないんだよな。
だっていなくても事件は解決するんだから。今回俺の仕事、縄投げただけよ。
「ふっ……笑えよ」
「いや、意味わからないんだけど」
まあボケるのもこの辺にして写真撮るかぁ。
のそのそと立ち上がり、シャロについて写真を撮るためのポジションに移動する。そして防波堤の前に並んだ。
「はーい、皆さん笑ってくださーい」
カメラのタイマーを合わせたシャロが、走ってこっちに戻ってくる。
「ははっ」
ま、意味はなくても、悪くはないか。
誰かと一緒に臨んだ初めての事件は、無事に解決した。
「ところでシェリンフォードさん、カメラどっからだしたの?」
「え? ポケットですよ」
便利だな制服のポケット。
俺も今度から特殊警棒はポケットにしまおう。
ていうかよく見たら今、ゲームも手元にない。
まさかPSPの中身がアイルー村だったとは……。