ふうま災禍さん!? 邪眼の使い方間違ってますよそれ! 作:ごきまる
「私からの報告は以上になります」
そう言って災禍はアサギの反応をうかがった。
対魔忍は魔と対峙する組織である。
その力を表社会で行使することは好ましくない。
調教師といえども内舘は魔界の者と通じているわけではなかった。
女衒、レイプ魔、性犯罪者ではあるわけだが・・・・・・。
「話には聞いていたけど貴女の邪眼・・・恐ろしい能力ね、ふうま災禍」
「恐れ入ります総隊長。それで、私の処遇はどうなりますでしょうか? 一般の犯罪者相手に邪眼を使い、精神を壊すほどの制裁を加えたわけですが」
「そうねぇ・・・・・・」
アサギはいったん言葉を切って、
「むしろそんな、まだるっこしいやり方せずに――やっぱり殺してしまえばよかったのに」
と、凄絶な笑みを浮かべた。
自分が菫に口にしたのと全く同じ事をいうアサギに災禍は思わず苦笑しそうになる。
少しだけ井河アサギという人物が好きになった。
「それに、魔の者と全くの無関係というわけではないでしょう? オークの体液になる薬物を使っていたという時点でアウトだわ」
「そういうものですか」
「原田菫さんにはアフターケアの医師の手配をしましょう。魔族由来の媚薬で淫乱の気質を開花させられた女が普通に戻るのは大変でしょうからね」
優しげではあったが憂いのある表情だった。
彼女は引退して表の世界で家庭を築いている女達に、自分がかつて手にすることができなかった幸せを重ね合わせているのかもしれない。
そんなふうに思った災禍は素直に礼を言った。
「ありがとうございます」
「いえ、当然のことよ。過去にも似たようなことがあったのよね。元対魔忍の女が淫魔に拐かされて苗床にされる事件が。今回は救うことができて良かった・・・・・・」
アサギはそう言って両手を上げて「うーんっ」と背伸びした。
「ねえ災禍さん、今日暇?」
「え? ええ、特に予定はありませんが」
「菫さんの話を聞いてたらなんだか飲みたい気分になっちゃったの。どう、今晩つきあわない?」
「はあ・・・」
「あなたも、まだ話したいことがあるんじゃないかしら」
「鋭いですね総隊長」
「アサギでいいわよ」
一瞬考えあぐねた災禍だが、了承することにした。
良くも悪くも井河アサギは裏表の無い性格のようだ。
何の忍法も持っていない、対魔忍としての技量を発揮できないふうま小太郎を実働部隊の隊長に任じたこと。
骸佐一党の誅殺では無く捕縛という命を下したこと。
その真意。
酒の席で腹を割って話した方がいいと考えたのだ。
今はまだ夕刻前。アサギには学校での仕事が残っている。
午後八時頃に五車唯一の居酒屋『おふくろの味・さな』に集合する約束をして災禍は学園を後にした。
用事を済ませると、災禍は無性に小太郎に会いたくなった。
普段は用が無い時は行かないことにしているが、災禍はふうま屋敷へと向かった。
災禍が屋敷の玄関を上がると居間の方からなにやら言い争う声が聞こえる。
「若様、時子」
「災禍!」
パッと明るい表情になった小太郎が駆け寄ってくる。
「ただいま戻りました」
「おかえり! 災禍ぁ、聞いてくれよ。最近、時子が無理をしすぎなんだってッ」
「も、もう! お、お館様ったら――」
「? 一体何があったのです?」
「・・・・・・なるほど、時子が過労で倒れるとは、なかなか深刻ですね」
「だろ? それなのに最近、任務だの学校の仕事だの、家を留守にすることが前にも増して多いんだよ。災禍からもなんか言ってやってくれよ」
「わ、私はもう大丈夫なんですっ。お館様が大げさすぎるんですよ」
「でも時子、疲労管理も重要ですよ。いざという時に若様をお守りできなかったらどうするのです」
「そ、そんなことは分かっています!」
そう言い返しながら、時子は顔を赤らめる。
「いや、分かってないから無理をしてるんだろ。災禍もそう思うよな?」
(ん? なんだか・・・・・・)
小太郎の訴えに耳を傾けながら災禍は時子をこっそり観察した。
ふうまの若き当主の視界に自分が映っていない時に、時子がちらり、ちらり、と彼を見つめるそのありさま。
妙に神妙な感じで少し瞳が潤んでいる。
ごくわずかな変化だが災禍は見逃さなかった。
目が違う。これまでと、若様を見る目が。
「・・・・・・時子、つらいのなら書庫や土地の管理の他にも、もっと私を頼ってくれてもいいのですよ? 療養休養も時には必要なことです」
「それ! それなんだよ! ぶっ倒れた後、五車の医療施設にも行ってないんだよ? だから俺が結局――あれ? なんだっけ、俺が介抱したんだっけ」
「どうされました若様」
「いや、そういえばその時の記憶が妙に曖昧なんだよな。確か俺の部屋に運んで・・・・・・」
「ぬあああああああああ! わ、わかりましたぁ! 今後仕事の量は減らすし災禍にお家の仕事ももっと手伝ってもらいますからッッ」
目を泳がせ、わなわなと唇を震わせながら時子は小太郎の思考を中断させる。
(これは時子、若様となにかあったわね)
女の直感で災禍は確信した。
「え、なんだよ急に」
「と、とにかくこの話はまた後日っ。今から本当に任務ですから! 任務といっても五車内施設の見回りと宿直ですからご心配なく! お館様、今日のお夕飯はご自分で用意してくださいね! くれぐれもジャンクフードなど栄養バランスの悪いもので済まされないように!」
「わ、わかったよ」
ズンズンと玄関の方へ歩いていく時子を尻目に、災禍は「そうだ」とぽんと手を叩いた。
「それなら今晩の夕食は私がお作りしましょう」
「お、いいのか?」
「はい♪」
ぐるりと時子が振り返る。
「そこぉッ!? あまりお館様を甘やかしてはダメです! ダメですからね災禍!」
「な、なんだよご飯作ってもらうぐらい、いいじゃん・・・・・・」
「分かっていますよ時子。今晩私も約束があるので屋敷に長居することはありませんから」
「え、そうなんだ・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・なんだかとっても残念そうですね、お館様」
時子のジト目が小太郎と災禍、交互に向けられる。
ふうまの執事も、当主と元秘書の関係をなにやら勘づいているような風であった。
「い、いや、もうわかったから仕事に行ってきなよ時子」
フン、と鼻息荒く時子は居間を出て行った。
「なんなんだ一体・・・・・・」
「さて、若様、何か食べたいもののリクエストはございますか?」
「ん? ああ、そうだなぁ」
ガチャリとドアが開いて時子が戻ってくる。
「今日は祝い事でも特別な日でも何でも無いんですから、あんまり豪勢な料理はダメですからね!」
「分かったからはよ行けっての! コントかよ!」
今度こそ本当に退出する時子。
(これは時子とも一回、じっくりと話し合う必要があるかも)
そう考える災禍であった。
なんだこのラブコメの出来損ないみたいな感じは。
次から新章になる感じです。ストーリーまとまってきたら更新する予定です。
ここまで読んでくださった方、本当にありがとうございます。
正直、感想とかもいただけるとは当初思っていませんでした。