ふうま災禍さん!? 邪眼の使い方間違ってますよそれ! 作:ごきまる
「・・・・・・・・・・・・ぅあ?」
災禍は浴室でうつぶせになっていた。
まるで何かに敗北した印のように腰を浮かし、尻を高く掲げたまま失神していたのだ。
いやらしくヒクつく陰唇からは止めどなく愛液が流れ、股ぐらと内腿をしとどに濡らしていた。
バスタイル床にも液が飛び散っていた。ほのかに湯気が立ち上っている。
どうやら、幻覚世界での出来事と同じように、定期的に失禁もしていたようだ。
「ハァ・・・ハァ・・・」
邪眼発動中は一切身動きはできない。
しかし、精神を極限まで集中するため、その疲弊感は身体にも大きく影響を及ぼす。
体の芯が抜けたように全身に力が入らない。
今は夕暮れ時。
数時間もの間、幻覚の世界で淫らな夢に耽っていたことになる。
災禍はなんとか体を起こした。
シャワーで床を流した後、浴槽に湯を溜めつつ念入りに全身を洗う。
髪をまとめ上げてから湯船に浸かった。
「・・・・・・・・・・・・やってしまった」
ぽつり、と呟く。
自ら邪眼によって創りあげた幻覚の中に身を投じ、自慰に興じる。
それは手や道具を使って、手っ取り早く済ませるものとはまるで次元が違う。
“ああしてほしい”
“こうしてみたい”
“この人にこう言って欲しい”
想像しうる限りの妄想。
無意識下の願望。
それらが具現化し、設定・シナリオが織りなされた世界で、望むままの情欲を満たす。
その最中、全てを現実のものとして意識は誤認識するのだ。
究極のVRセックスといえるだろう。
そして、仕上げは邪眼の効力をオフにし、覚醒を促すトリガーの設置。
災禍はそれを『ある時点で機械化されていない生身の素足に気づく』としていた。
こうすることで、精神の限界が来る前に覚醒することができるのだった。
「・・・・・・ん」
下腹に手をあてる。
たしかに、自分は幻覚世界の中で淫らに狂った。
己の内にある淫蕩な牝の本性をさらけ出した。
充分に満たされていた。
――だが、今はもうない。
幻夢の世界で悪辣なまでに自分の
その虚脱感は普通のオナニーとは比べものにならいほど大きく、深い。
寂しい。
泣きそうになっている自分に気づき、災禍は自虐の笑みを浮かべた。
こうなることが分かっていたから、自分自身に邪眼の力を使って自己催眠オナニーをするなどという事は禁じていたのだ。
自業自得である。
だが、分かっていても止められない時がある。
それほどまでに、地下の書庫で小太郎に抱かれてから数週間、災禍は悶々とした日々を送ってきたのだ。
――ふうま小太郎はふうま宗家当主。
――自分はふうまの元秘書として、従者としてお守りし、付き従うのみ。
あくまでその関係を貫こうと思っていた。
ただ『ふうま一族の女』として・・・・・・万が一にも求められた時の心構えはあった。
だから、小太郎が自分のことを“女”として見てくれたことに、最初は戸惑いつつも、無上の喜びを感じたのだ。
結果、押し殺していた自分の気持ちとも向き合わざるを得なくなった。
媚薬を塗られ、緊縛セックスをしたあの日以来、小太郎とは会っていない。
小太郎は現在、学園生活と対魔忍・独立遊撃部隊の隊長としての活動で、忙しい毎日を送っている。
災禍は災禍で書庫の管理に加え、二車骸佐の反乱以降、とある内偵任務にもついているため、用が無ければふうま屋敷へと赴くことは無かった。
数週間ぐらい顔を合わせないことなど、これまでも普通にあったことだ。
それなのに・・・・・・。
今この時にも、小太郎は部隊を率いて命の危険に及ぶ任務についているかもしれない。
もしそうなら、そんな時に自分は小太郎を相手に見立てて、邪眼を使ってまで自慰をしていたことになる。
そう考えてみると、己の浅ましさにぞっとする。
仮に、このことを時子が知ったら間違いなく軽蔑されるだろう。
従者の中でも特に苛烈な性格をしているふうま天音には殺意すら向けられるかもしれない。
でも、それでも・・・・・・。
(若様、災禍は若様に抱かれてから・・・・・・おかしくなってしまいました・・・・・・忍ぶことが、できなくなってしまいました)
肩まで湯に浸かり、天井を仰ぐ。
(会いたい・・・・・・会って抱かれたい・・・・・・)
想いを反芻しながら災禍は長い間、湯に浸かっていた。
その時、家の呼び鈴が鳴った。
ビクリと肩を震わせる災禍。
「え・・・」
再び鳴る呼び鈴。
ややあって、がらりと玄関の戸が開く音がする。
「おーい・・・・・・災禍ー、いないのか?」
小太郎の声だ。いつもののんびりした調子。
だが少しばかりおずおずとした、神妙な声音だった。
「若様っ・・・」
「勝手にあがるぞー?」
災禍は急いで立ち上がり、浴室から出た。