ふうま災禍さん!? 邪眼の使い方間違ってますよそれ! 作:ごきまる
ただ、ゲーム回想の内容を一部含みます。
「・・・・・・・・・・・・」
目を覚ました時、ふうま小太郎はテントの中で寝袋にくるまっていた。
保湿性抜群のふかふかの感触、柔らかい肌触りのナイロン製の裏地が実に心地よい。
そのまま二度寝したい気分だが、寝袋から露出している顔は冷たいし、素っ裸の全身は湿っている。
「あー・・・・・・」
昨夜、最後に災禍の体内に精を放った時。
あまりの快感に、気を失うように眠ったことを思い出してため息をつく。
「若様、お目覚めですか?」
テントのドアジッパーが開き、災禍が顔を覗かせた。
先に身支度を済ませたのだろう、対魔忍スーツを着用している。
「おはようございます」
「おはよう、災禍」
「いま朝食の準備をしていますので、汗を流してこられてはどうですか?」
そういって災禍はボディタオルやバスタオル、着替え、シャンプー等を差し出す。
「そ、そうだな・・・・・・」
小太郎はそれらを受け取ると、なんとなく気恥ずかしくなって、そそくさと温泉へと向かった。
(・・・・・・若様の左目、いつもの金色の瞳だった)
――やめておけ、災禍。
昨晩そう言って自分を見つめてきた時、小太郎の左目の瞳は銀色で、まるで邪眼の力が発動しているかのように輝いていた。
その後の記憶が災禍には無い。
目が覚めると小太郎と一緒に寝袋の中で横になっていたのだ。
もしも、小太郎が何らかの邪眼を覚醒させたのなら、これほど喜ばしいことはない。
だが当の本人は何も覚えていないようだ。
右目も今までと変わらず、閉じたままだった。
「あれは夢だったのだろうか・・・・・・」
手早く寝袋を収納し、ガソリンストーブに火を付ける準備をしながら、災禍はぽつりと呟いた。
温泉から戻った小太郎と一緒に災禍は朝食を取った。
出来たてのホットサンドを頬張る小太郎の様子を伺いながら、昨晩の出来事を言ってみようかとも思ったが、これがとても言いづらい。
今でこそ忍法が使えない境遇を受け入れて、前に進み始めた小太郎だが、辛いことに変わりはないはずだ。
それに、今朝から小太郎は口数が少なく、なにやら考え事をしているようだった。
「ふ~、美味かった。ごちそうさま」
「はい」
「・・・・・・帰る準備をするか。夕方には屋敷に戻るって時子と約束してるから、遅れたら叱られちまう」
「・・・・・・そうですね」
時子の名を聞いて、災禍は心に暗い影が差し込んできたかのように、ちくりと胸が痛んだ。
同時に、自らの邪眼を小太郎に使おうとしたことを思い出し、己の浅ましさに苦い思いを噛みしめる。
だがそれを表には出さず、小太郎と二人でテントをたたむ。キャンプ道具は対魔忍が任務で使う野営用の装備品であるため、驚くほどコンパクトに収納できた。
「また、来たいな」
荷物を積み込んだバックパックを背負いながら言う小太郎に、災禍はにこりと微笑んだ。
「ええ、本当に素敵な場所ですし。今度は、時子やご友人の相州さんや上原君とご一緒に来られてはいかがです?」
「ん、いや、その」
「? どうされました若様」
「あのな災禍・・・・・・どうだろう。隠し湯のことは他のみんなには黙っとくってのは?」
災禍はきょとんとした顔になって目をぱちくりさせた。
「・・・・・・・・・・・・はい?」
「だ、だからな? ここの温泉のことは俺と災禍だけの秘密にしとくってのはどうかなぁ、と」
四、五秒ほど固まった後、災禍はふいっと顔をそらした。そして、
「若様が、そう望まれるなら」
と、言って自分のバックパックを背負うとスタスタと下山し始める。
「お、おう」
急いで後に続く小太郎。
「ちょ、ちょっと災禍。速すぎないか? もう少しペースを――」
「だめですよ若様。これも修練です」
「ぐ、ぬうう・・・・・・」
現在の小太郎は魔性の力が宿り、以前よりは身体能力が向上して体力も付いたとはいえ、ふうま災禍は凄腕の対魔忍。しかも、脚はサイボーグレッグである。
重いバックパックを背負い、険しい山中であってもその移動速度は推して知るべしだ。
だが災禍は速度を落とさない。
追いつかれないくらいのスピードで先導していれば、今自分がどんな顔をしているか、小太郎に見られずに済むからだ。
「――温泉の近くにコテージでも建てましょうか」
後方にいる小太郎の息遣いを聞きながら、ふとした思いつきを口にしているような軽い口調で言ってみる。
「へ!? い、いやでもふうま家の金は時子が管理してるし・・・・・・」
未だにお小遣い制の若きふうま当主はぜぇぜぇと息を喘がせながら返答する。
「ご心配なく。私にだって、それなりの蓄えがございますから」
そう言ってクスクスと笑った。
ふと、小太郎の瞳が銀色に輝いた出来事を思い返すが――。
(・・・・・・多分、私も快感の波に飲まれて寝てしまっていたんだ。夢に違いない。)
そう結論づける災禍だった。
――――
―――
――
―
下山中の二人が異変に気づいたのは、視界を数十メートルまで狭めていた濃い朝霧が薄れ始めてからだった。
「・・・災禍、気づいたか?」
「はい。若様」
先ほどまでの甘やかな気持ちは吹き飛んでいた。
災禍は警戒心を強めながら周囲を見渡した。
ふうまの隠し湯は五車山中にあるふうま別邸のさらに山奥に存在している。
行きも帰りも同じルートを通っているはずなのに、地形や木々の生えている位置が異なっているのだ。
だが全く違うというわけではない。
「道に迷ったわけじゃないよな」
「ええ・・・・・・すごく妙な感じです。とにかく別邸へ急ぎましょう」
慎重かつ確固とした足取りで山を下る災禍と小太郎。
やがて、地面の雪は無くなり見慣れているがやはり何かが違う山道が現れ、別邸へとたどり着いたのだが・・・・・・。
「嘘だろ・・・・・・」
山中にひっそりと建っているはずの屋敷は、跡形も無くなっていた。
「一体・・・・・・どうなっているのでしょう・・・・・・?」
「これを見ろ災禍。建物の基礎部分は残ってる。地下の書庫に続く階段の跡もあるが・・・・・・」
そこは徹底的に破壊された後に埋められたような痕跡しかなかった。
「まるで、何年も前に焼き討ちされたみたいですね」
小太郎はうなりながら開かない右目を隠している前髪を指でいじる。
「もしかしたら魔術かなにかで、幻覚を見せられているのかもしれない」
「以前、幽霊城や新しい魔界のゲート調査の時に経験されたというあれですか」
「ああ。異次元に迷い込んだという事だってあり得るが、そうではあって欲しくないな。しかし術にかかったとしたらいつだ? 温泉にいた時か」
「・・・・・・・・・・・・若様、夢だと思って黙っていたのですが、実は昨夜不思議なことがありました。」
「なに?」
「若様は、昨夜のこと、どこまで覚えていらっしゃいますか?」
「え、ええっと・・・・・・」
顔を赤らめながら小太郎は思い出す。
「テントの中でずっとシてただろ? そして終わった後に、すぐ寝たと思う」
「そのあと、一度お目覚めになられたことを覚えていますか? 私に笑みを浮かべて――」
自分が邪眼を使おうとしたのを『別人のような口調になった小太郎』に止められたことは、伏せておくことにした。
「いや、全く覚えが無い」
「そうですか・・・・・・その時に、若様の左目の瞳が銀色になって、あの・・・・・・光ったのです。まるで、邪眼が発動したかのように」
小太郎が息を詰まらせるのを災禍は見逃さなかった。
しばし呆然としたまま佇む彼を災禍は見つめ続けた。
やがて、唇を湿らせながら小太郎は口を開いた。
「俺の左目は、今はその、どうなってる?」
「今は金色の瞳に戻っています。光ってもいません」
「そうか・・・・・・とりあえず町に出てみよう。五車町がどうなっているか確認しなければ」
「御意」
――――
―――
――
―
(今更・・・・・・この歳になって邪眼が覚醒した? そんなことがあり得るのか)
“一族の恥さらし”
“脆弱な若様”
“無能当主”
“目抜け”
幼い頃は一門皆に期待されていた自分がいつの頃からか蔑まれ、ごく一部を除き、大半の人間を失望させた。
無力感に打たれ、自己嫌悪に駆られ、耐えられなくなり、心を麻痺させてどこ吹く風を装った。
それが今になって邪眼覚醒? 何故だ?
もう少し幼ければ、邪眼が覚醒したかもと聞かされれば飛び上がって喜んだかも知れないが、今の自分は懐疑的だ。むしろ、謎めいた魔性の力が宿った件もあるし、不安しかない小太郎だった。
五車町にやってきた二人は想像以上に深刻な事態に直面していることに気づき始めていた。
やはりよく似ているが、普段から目にしている五車の町並みとは違う。
元々、井河の里の丘陵地を急遽造成して建設されたニュータウンだが、今視界に映る五車町はそれよりも古めかしい。
さらには町の住人の気配が皆無だ。
目抜き通りにも人影一つない。
「幻術にしては範囲が大きすぎませんか?」
「ああ、こりゃいよいよ別世界に迷い込んだかな」
実際、ふうま屋敷には異次元の世界からやってきた若い井河さくらが居候しているのだ。荒唐無稽な話では無かった。
これほどの大規模な異変が起これば学園や校舎裏の森の地下に存在する対魔忍の本部が、緊急避難場所になる。
今目に見えているもの触れているもの全てが幻覚だとしたら、意味が無いがそれでも二人は五車学園へ行くことにした。
――――
―――
――
―
「若様、誰かいます」
「あいつは・・・・・・」
学園校舎は鉄筋コンクリート造りのはずだが木造の四階建てに変化していた。
そこからこちらに向かって歩いてくる一人の少女。
「お待ちしていました、マスター」
「シアリーじゃないか」
「若様、彼女は?」
シアリー。
米連が開発した女性型のアンドロイド。
人間や魔族の精神を電気的に観測、解析する機能を有し、さらには相手の精神に干渉する力を持つ多用途支援アンドロイドだ。
ある任務で遭遇した時、小太郎が仕掛けた策で強奪に成功。
シアリーが小太郎のことを
組織の技術班がなんとか彼女の精神をモニタリングするシステムを解析しようとやっきになっているが成果は芳しくないとも聞いていた。
一通りシアリーのことを災禍に説明する小太郎。
(若様が任務中に強奪したアンドロイド? そんな話は聞いていないが)
小太郎のこなした任務等は時子を通じてほぼ情報共有している災禍だったが、すべては初耳のことで内心戸惑った。
「そうだ、シアリー。精神を観測できるお前なら今のこの状況を把握しているんじゃ無いか? 何が起こっているんだ。これは幻覚なのか?」
シアリーはボブヘアの髪を揺らしながら小首をかしげて考える仕草をした。
猫耳カチューシャ付きのヘッドセットのライト部分が色鮮やかに発光した。
「幻覚・・・・・・ではありません。意識が仮想空間にいる類のものでもありません。ここは、普段マスターがいる世界ではないのです」
「・・・・・・じゃあマジで異次元に迷い込んだのか」
「それも少し違います・・・・・・立ち話もなんですから、校舎の中に入りましょう。そこで詳しい説明をします」
「どうされますか若様」
「行くしか、ないだろ」
「それでは中をご案内いたします。マスターと、ふうま災禍さん。ようこそ『夢幻五車町』へ」
そう言ってシアリーは二人に向かってぺこりとお辞儀をした。