ふうま災禍さん!? 邪眼の使い方間違ってますよそれ! 作:ごきまる
お腹が重たい。
紫藤凜花がゆっくりと目を醒ました時の最初の感覚だ。頭痛もしているし、呼吸も荒い。
まだ朦朧としている意識が、大量の発汗で着ている寝間着が肌にべったりと張り付いているのを知覚する。
(うう・・・・・・き、気持ち悪い・・・・・・)
特に股間や尻のあたりは粗相をしてしまったのではないかと思うほどの濡れ具合だ。
凜花は目を開いた。
甘ったるい匂いがしていた。
それが自分の体から発散されていることに気づいてむくりと起き上がる。
掛け布団は蹴飛ばしている。寝室に暖房はついていない。寒いはずだが、体はグツグツと煮立っているように火照っていた。
「ん、うぅぅ・・・・・・」
乳房が張り詰め、その頂きが痛いほどに疼いている。
思わず下着の中に手を入れ、自分の秘所を触ってみて凜花は驚いた。
「んな!? わ、私・・・・・・どうしてこんな」
粗相ではない。凜花の
全身が気怠かった。本当に男の剛直でめちゃくちゃにされていたかのような――。
そこまで考えて凜花はふうま小太郎を想起し、そして彼に抱かれる淫らな夢を見ていたことをボンヤリ思い出して赤面した。
「ア、アイツ、夢の中にまで出てくるなんて・・・・・・ッ」
なんともいえない歯がゆい気分になるが、夢の内容ははたしてそれだけだっただろうか。
誰かと戦っていたような気もする。
何かを思い出していたような気もする。
それはとても生々しくて、リアルで――。
もう少し、夢の続きを見ていたかったような、見たくなかったような――。
紫藤凜花はかぶりを振った。
所詮はただの夢だと割り切り、凜花は着替える前にシャワーを浴びようと立ち上がるのだった。
――――
―――
――
―
一方、夢幻の世界では・・・・・・。
凜花を見送った後、身繕いをしていると扉が開いたので小太郎は振り向いた。
「あ、災禍。いまな、凛花先輩を・・・・・・!!!????」
振り向いた小太郎は唖然とした。
災禍と一緒に医務室に入ってきた男。
鏡で見たように、自分とうり二つの顔をした男を見て小太郎は硬直した。
対魔忍スーツは青を基調とした自分の物とは違った黒装束。
しかもその姿は紫藤凜花のように、陽炎のように揺らいでいた。
「だ、だれ・・・・・・だ?」
災禍は二人のふうま小太郎を交互に見ながら『若様』の側につく。
やれ男と名乗った――というよりそう呼んでくれと言ってきたのだが――方の小太郎は軽薄きわまりない言動を放つ男だ。
一体何を言い出すやら・・・・・・。
しかし、やれ男はいざ小太郎と向き合うと妙に神妙な面持ちになっていた。
「え、マスター? マスターが二人? えっと」
「違うぞシアリー。お前のマスターは『ふうま小太郎』ただ一人だ」
「え、ちょ、災禍。コイツは誰だよ!?」
「・・・・・・わかりません」
「あー・・・・・・こうして会って話すのは初めてだな・・・・・・小太郎」
「! アンタの左眼っ」
険しい表情になって身構える小太郎。自分の左眼とは違う銀色の瞳に気づいたのだ。
災禍が昨晩自分の左眼が銀色の瞳になって輝いたと言っていたというのに合致する自分そっくりの男・・・・・・。
(こいつが俺と災禍をこの世界に引きずり込んだのか?)
やれ男は苦笑した。
「さすがに目ざといな。だがそう警戒するな。俺はやれ男。お前の意識から分化してこの精神世界に顕現した影のような存在だ」
「・・・・・・どういうことだよ」
「あまり詳しく説明する時間は無い。ほれ、今までの自分の頭の働かせ方を振り返ってみろ。お前は何度も複数の矛盾した思考を巡らせてきたはずだ。そして普段は砂糖菓子のように甘い性格をしているのに、時に冷酷。時に狡猾な一面を持つ己に気づいていたはず」
「・・・・・・」
「複数の矛盾した思考を高度なレベルで深められる者は天才。複数の相反する心を持つ者は悪魔。そんな言葉をシアリーは犯罪心理学で聞いたことがあります」
「いいこと言うじゃないかシアリー。だが小太郎。お前は
小太郎の顔が青ざめる。
――女体の味を知ってから、スイッチが切り替わるように嗜虐的になったり冷酷になる自分。
――まるで、性格の異なるもう一人の自分が身の内に宿っているかのような感覚。
――『女の隙』を見いだした時、心の中で暴れる欲望・・・・・・色餓鬼。
「お前・・・・・・ッ! お前だったのか!? 二重人格か悪霊の類いなのか? お前が俺に非道いことをさせてきたッ」
「おい、責任転嫁すんな。俺はお前を一度だって操ったことはないぞ? 今まで為したことはお前が選択してきたことだ。紫藤凜花に賭けを持ちかけて手籠めにしたのも、任務の後に強引に迫って何人もの女を抱いたのも全部お前がやったこと。それとも何か? 書庫で災禍を抱いたのはお前の意思じゃないってのか?」
小太郎はグッと口を噤んだ。
「若様・・・・・・」
そっと自分に寄り添う災禍を見て、俯いてしまう。
そうだ。その通りだ。
目の前にいるこの黒装束の小太郎も自分の意識の一部なら全ては自分の意思が行ってきたこと。
それを否定することなんて――。
思い悩む小太郎に、やれ男は何を思ったのか肩をすくめる。
「まあ、頭ん中の助手席で、ナビ代わりに何度かアドバイスしたことはあったかもしれんが」
おどけた口調で直前に宣った高説をひっくり返すような事を言われ、小太郎は激昂した。
「ふざけんな!!!」
腰の忍者刀に手をかけたのを見て災禍は制止しようとした。
(は、速い!?)
止める手は間に合わず、熟練の忍の動きで小太郎は斬撃を放った。魔性の力に目覚め、最近ではライブラリーの手ほどきを受けて剣の腕が上達しているとはいえ、その鋭さは災禍からしても目を見張るものだった。
だが、やれ男はもっと速かった。
僅かに身を引くだけで難なく攻撃を躱す。
「おい、殺気こもってたぞ今の。お前の意識の一部だと言ってるだろ・・・・・・悪かったよ。冗談だ冗談。場を和ませようと思って――」
「お前、お前はひとを不幸にする!」
思わず口をついて出た言葉だった。
“不愉快になっただけだ”とか“笑えない”といった返しではなく、気がついた時には小太郎はそう口にしていた。
やれ男の自信に満ちた不貞不貞しさが陰り、ため息混じりの笑い声が漏れた。
「・・・知ってる。時間が無いのに結局話し込んじまったな。だがこれだけは信じてくれ。俺はお前達二人を現実の世界に還す。ただそれだけのために顕現している」
「あの、黒い服を着たマスター? シアリーは?」
「お前は自由に夢幻と物質世界を行き来できるだろ」
「マスター・やれ男はクールですね。ちょっぴりヘコんじゃいます」
「言ってろ」
シアリーとやれ男のやりとりを聞きながら、しばしの逡巡の後、小太郎は刀を鞘に収めた。
やれ男はその様子を無表情で見つめた後、話し始めた。
「・・・・・・説明好きのシアリーからもう色々聞いてるんじゃないか? 災禍と小太郎よ、お前達の精神は夢幻五車町に強く固定されてしまっている。縛られているといってもいい。それはいくつかの要因が積み重なった結果だが、トドメを刺した奴がいる。ちなみに俺じゃないぞ」
小太郎は災禍と顔を見合わせた。
二人の意識をこの夢の世界に縛り付けた者?
「災禍よ。その様子だと小太郎には話してないな? 昨晩お前は小太郎に何かしようとしたよな?」
「・・・・・・ッ」
「ふうま災禍。お前は小太郎に邪眼を使おうとした――いや、実際に使ったんだ。俺は止めようとしたが、間に合わなかった」
「災禍が、邪眼を俺に?」
「そ、それは・・・・・・ッ」
「夢幻世界でお前の邪眼が使えないのは
ふうま災禍はわなわなと唇を震わせ、後ずさる。
「お、お許しを・・・・・・若様」
「許すも何も、何をしようとしたんだ?」
「・・・・・・言えません」
「い、言えないって」
「チッ、二人でよく話し合え。その問題が解決しないと下手すりゃ永遠にここから出られんぞ――シアリー、ちょっと来い」
「あ、はい」
医務室を出るとやれ男は丘の下方面を一望できる窓際に立った。
「シアリー。お前のセンサー、何かを探知してないか?」
「え?」
「ここに近づいてくる幾つもの気配を感じるが、どうだ?」
「・・・・・・マスター・やれ男も随分この夢幻世界に慣れているようですね」
「質問に答えろ」
「視認できないほどの微弱な思念はそこかしこを飛び回ってますが。たしかに一直線にここに向かっている思念の流れを感知しています・・・・・・こんなのは始めて。一人のような、何かの群れのような……」
「仕方ない。見に行ってみるか」
「はい」
興味津々といった様子でシアリーは頷いた。
――急げよ小太郎。マジで時間はもう残されてないかもしれん。
次回は非イチャラブのエロ要素があると思います。
あらすじという名の作品紹介文で「基本イチャラブです。ハードな展開あっても完堕ちはとかしないと思います」と当初から明記しているので問題ないと思いますが一応ご注意ください。
アンケートの結果を考慮して災禍さんとの絡みは若様しかないのでその辺はご安心(?)ください。
そろそろこのシリーズは一端完結します。
忌憚のない感想・意見・評価、お待ちしております。
完結までのモチベ、今後の創作の参考などにさせて欲しいのでどうかよろしくお願いします。